TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「東一族と裏一族」11

2018年08月31日 | T.B.1997年


 日が昇り出すころ。

 東一族の村。

 一族唯一の病院。

「おい」
「何だよー」

 呼ばれて、戒院(かいいん)は眠そうな声を返す。

「熱でも出たか?」
「違う」
「なら、もうすぐ務めが明けるからそれからにしてくれよ」

 云いながら、戒院は、部屋へと向く。

「務めだ」
「だから、今、夜通し務め中なんだって」
「外に、だよ」
「…………」
「外に」
「……ん?」
「外に行け」
「外に!?」

 今から!? と、戒院の頭がさえる。
 もう一度、顔を出す。

 病院の入り口に、大樹(だいき)が立っている。

「何? どう云うこと!?」

「務めに失敗した」
「務め?」
「砂漠だ」

 大樹は持っている杖を鳴らす。
 彼は占術師。
 まだ若いながらも、その力で、外での務めを見守っている。

 対して、戒院は医術師。
 見習いとは云え、多くを学び終わっている。

「砂漠でって、砂一族かよ」
「内容までは判らん」
 大樹が云う。
「でも失敗したようだ」

 占術で、すべての情報が入るわけではない。
 何か、そう云うものを感じ取る、と云う。

「砂一族だったら、行きたくな、」
「戒院」
「……誰だよ、その務め」
「佳院だ」
「いや、佳院なら大丈夫だろうが!」
「戒院!」
「……はい」

 戒院は、渋々云う。

「大医師(おおせんせい)に云ってくる……」
「俺が伝えておくから」

 その目は急げと云っている。

 戒院は息を吐く。

「明けの、転送術か……」
「急げ」
「判ったって!」

「戦術師を連れて行くか?」

「いや、本当に、ふたり飛ばすとか無理です」
「大丈夫か?」
「俺ひとりで行ってくるよ」

 戒院は必要な道具を持つ。
 足下を見る。

「ところで相手は?」
「裏一族だろう」
「裏?」
「ほら」

 大樹は、飾りを取り出す。

 ここ最近、北の商人が、東の女性に配っていると云う、飾り。

「北の商人?」
「おそらく裏一族と云うことだ」

 大樹が云う。

「これと同じ痕跡」
「ふーん」
「つまり、これを配っていた者」
「が、砂漠に、ねぇ」

 戒院は首を傾げる。
 その足下が光る。

 瞬間。

 その姿が消える。

 東一族式転送紋章術。

 砂漠へ



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「稔と十和子」10

2018年08月28日 | T.B.2003年

「………」

起き上がり、窓から差す陽が
随分と明るいことに気がつく。

は、と気が抜けた声が出る。

「あ~、今、何時?」

ベットを抜け出し、
寝室を出る。

「………」

椅子に腰掛け
本を読んでいた彼女が顔を上げる。

『おはよう。
 もう、お昼だから、
 おひるよう?』

そう言って、十和子が笑う。

彼女の言葉は、手話だったり、
口元を読むことだったり。

声を出すことも出来るけど
上手く話せているか分からないから、と
恥ずかしがって
言葉を出す事は少ない。

『ご飯食べるでしょう。
 温めるわ』

音は全く聞こえない、と聞いていたが、
不思議と稔の方に顔を上げる。

なんとなく、
雰囲気が変わるのだと言っていた。

「ごめん。寝過ごした」
『疲れているのよ』

昨日は、深夜近くまでの勤務を終え
十和子の家を訪れた。

結局、疲れが溜まっていたのか
気がつけばこの時間。

「今からじゃ、
 どこにも出かけられないな」
『家でゆっくりするのも
 ありだと思う』
「ん~~………」

折角の休みなのに、とは
思わないだろうか。

元々稔の仕事が立て込んでいるため
時間を合わせる事が難しい。

「いや、
 時間を理由にするのは
 言い訳だとか、なんとか」

そんな事を誰かが言っていたような。

『こうして
 会えるだけでも、充分』
「そう?」
『そう!!』

とは言っても、
それぞれの生活もあるし。

「………うーん」
『気にしないで』
「いっそ、一緒に暮らすか」

『………えっと?』
『結婚する?って意味』

稔も手話で返す。

十和子は驚いて立ち上がる。

『驚くわ!!
 急にそういうこと!!』

「あ~、物事には順序ってやつ?
 狩りに行く所からか」

西一族の風習。
結納品として1人で狩りに行き、
獲物を1匹仕留め、相手の家に納める。

「狩り、あんまり得意じゃなくて」
『違う違う!!
 そうじゃなくて』

十和子は問いかける。

『私なんか、が』

ダメダメ、と首を横に振る。

『ダメよ結婚なんて。
 他にもっと良い人が』

私、なんか、と
そこで彼女は言葉を止める。

『…………』

多分、十和子が気にかけている事なんて、
稔にとっては何てないこと。

「言っておくけど
 俺も言えない事沢山あるし、
 多分、そのまま言うつもりは無い」

『………なにそれ』
「言えない宣言」

ふふっ、と十和子が吹き出す。

「俺の事が嫌な訳では」
『それは、無いわ、大丈夫』

「なら、いいんじゃないか」

まぁ、返事は今度会うときで良いから、と
そう告げて稔は後ろを指差す。

「それに、そろそろ鍋が火を噴く」
『っ!!?』

慌てて火を止めに行く十和子を見ながら考える。

何となく、自分は
そういう相手を作らないまま過ごすのだと思っていた。

想像しながら少し笑う。
皆、驚くだろうか。

でも。

「うん、自分が一番驚いた」


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「東一族と裏一族」10

2018年08月24日 | T.B.1997年

「俺の、」

 舞い上がる砂に、佳院は目を細める。

「……俺の、何だ?」

「俺の、家族のようなもんだ」

「……何?」

「家族に会いに来て、何が悪い!」

「――――っっ!」
「放せ!」

 裏一族は、佳院を弾く。
 走る。

 佳院は、足を踏み張る。
 裏から放れたその手で、陣を張る。

 東一族式紋章術。

「行かせない!」
「魔法は苦手なんだよ!」

 裏一族は声を上げる。

「特に、東一族式はな!」

 裏一族の足下の砂が盛り上がる。
 だんだんと、その高さが高くなる。
 裏一族は、それを見上げる。

「壁?」
「砂でも強力だ」
「捕らえる気なんだろ!?」

 裏一族は走る。

「逃がさない」

 その言葉に、裏一族は笑う。

 紋章術で壁となった砂は、形を変え、裏を包もうとする。

 裏一族はそのまま、その壁に走り込む。
 手を差し出す。

「何を!」
「別に」

 目の前を塞ぐ、砂の高い壁。

 が

 突然

 力なく、崩れ落ちる。
 舞い上がる砂。

「紋章術が、」

 もはや、ただの、砂。

「無効化、だよ」

 崩れ落ちた砂が、大きく舞い上がっている。
 視界が奪われる。

「じゃあな」
「待て!」
「東の中に入れてもらおう」

 裏一族は、その姿を砂埃の中へ。

「…………!?」

 と、

 裏一族は、足下の違和感に気付く。

「何だ」
 そこに、
「何だ、これは!!」

 足に絡まる。無数の蛇。

「くっ!」

 振り返り、佳院を見る。

「東の飼い慣らしか」
「飼い慣らしじゃない」
「よく云うことを聞かせている」
「それ以上動くな」

「くそが」

 鼻で笑う。
 が、
 裏一族のその目は笑っていない。

「ここで東宗主の次男とは、外れだったな」
「…………」
「東を守るための道具みたいなもんだって」
「…………」
「そう、聞いたことがある」

 裏一族は、佳院の様子を窺っている。

「一族に相手にされずに」
 佳院は目を細める。
「さぞかし、ほかの東一族が羨ましかろう」
「…………」

「いや、……待て」

「何、」

 裏一族は手を広げてみせる。

「……ちょっと思い出した」
「…………?」

「昔、お前みたいに自分の一族に相手にされなかったやつ」

 お互い構えたまま。

 どちらが先に動くか。

「仕方ない、……出直しだ」
「何を云う」
「お前も動くな!」

 風が動く。

 ――――!!

「っっ!!?」

 佳院は驚く。

 その肩に、矢が刺さっている。

「よしよし。宗主直系でも攻略は出来るな」

 佳院は、立ったまま動かない。
 刺さった矢を見る。

「ほら、放れろ」

 裏一族は、蛇を振り払う。



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「稔と十和子」9

2018年08月21日 | T.B.2003年

診断を終え、稔は前を向く。

「もしかしたら、走る事に
 少し不自由がでるかもしれません」
「そうね」
「普段の生活には問題無いと思いますが、
 狩りは……訓練次第かと」
「こういうのも遺伝するのね」

自分も、自分の母親もそうだったから、と。

「西一族とは言え、狩りが全てでは無いですよ。
 他の仕事を身につければ
 充分暮らしていけます」

例えば、医師とかどうですかね、と言い、
稔はカルテを閉じ、面談を終える。

「…………」
「…………」
「緊張したかしら?」

高子が尋ねる。

「するに決まっているじゃないですか」
「大きな声を出さない。
 ―――あぁ、琴葉。大丈夫よ」

我が子をあやす姿を見ながら
稔はため息をつく。

「先生、自分で診断できるでしょう」

もちろん、と言いながら
高子は答える。

「でも、私はお休み中だし。
 家族はどうしてもひいき目に見てしまうから
 冷静に診断できる他人が良いのよ」
「そんなものですか?」
「そんなものよ」

ふーむ、と納得が出来かねると言う稔。

「随分さまになってきているわよ。
 近々私も復帰するから
 もう少し頑張って」
「まだお休みください、と言いたいですけど
 助かります」

ええ、と高子は立ち上がり
診察室を後にする。

「次の方」

普段ならば入り口から顔を出し、
そう呼ぶのだが、
稔が何も言わずに出てきたので
高子もおや、と振り返る。

休憩だろうか、と思っていると
待合室の腰掛けに近寄っていく。

あぁ、確か
耳の聞こえない患者だった。

高子が思い出していると
稔は彼女に声をかける。

彼女の言葉である手話で。

「………」

稔に関して高子が感じている事。

患者との会話は基本笑顔で物腰も柔らかい。
だが、どこか一線を引いて冷静な所がある。

医師と患者という関係なので
そうあるのが良いのだろうが、
それとは少し違う何かがある様な気もする。

「あら」

ああいう風にも笑うのね、と
見ていて少し驚く。

「これは、もしかすると
 もしかするのかしら」

 
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「東一族と裏一族」9

2018年08月17日 | T.B.1997年


 砂漠地帯。

 あたりは暗闇。
 急激に気温が下がりだす。

 佳院は耳を澄ます。

 風。

 そして

 何かが近付いてくる、音。

 誰か、人。

「んんん?」

 その誰かが声を出す。

「こんなところに人か?」

「……北の商人」

「ああ、そうだ」

 月明かりの中、その姿が現れる。
 云う通り、北の商人、の格好。

「東一族が砂漠に?」
「この先は東一族の村だ」
「判っているよ」
 北の商人は薄く笑う。
「東一族の村に、商品を売りに来たのだから」

「本当は?」

 佳院が云う。

「東に何をしに?」

「おいおい」

 北の商人は手を上げる。

「商品を売りに来たと云っただろう。それが北一族だ」
「売りに来たと云うか」

 佳院は首を傾げる。

「飾りを配っているんだろう」
「…………」
「そして、……探しているな」
「…………はは、」
「誰を、探している?」

「ぜーんぶ、ばれているんだな」

 その言葉に、佳院は目を細める。

「お前は誰だ?」
「北の商人だよ」
「いや、」
「お前こそ誰だ?」

 北の商人は、一歩前に出る。

「あー……、宗主の直系か」

「…………」

「長男、ではなさそうだな」

「…………」

「なら、」
「動くな、裏一族」

 佳院は云う。

「これ以上は駄目だ」
「何が?」
 裏一族と呼ばれた北の商人が笑う。
「何が駄目なんだ?」
「東一族を連れて行くことは許さない」

「ばかなことを」

 裏一族は、さらに佳院に近付く。

「さあ」

 裏一族は手を差し出す。

「渡してもらおうか」

「…………っっ!!」

 発光。

 衝撃。

 大量の砂。

 何も、

 見えない。

「裏一族っ!!」
「面倒くさいな、東一族は!!」

 裏一族が動く。

 が

 佳院は、その腕を掴む。

「何がいけない!」
「動くな、裏!!」

「あいつは俺の、」



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