TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「タロウとマジダ」3

2015年03月31日 | T.B.2001年

「はい、できあがり」

タロウは研ぎ上がった小刀をマジダに渡す。

彼らの一族、南一族は農民の一族。
マジダほどの歳になると、
自分用の小刀は持っているものだ。

「ありがとう」

マジダは出来上がった小刀を見る。

「なんだ、もっと早く言えば
 それぐらいなら研いであげたのに」

今日は農具整備の仕事があり、
マジダはそれを横でじっと眺めていた。
しばらくして、仕事がひと段落ついた所で
これも、出来る?とおずおずと聞いてきたのだ。

ずっと使っているせいで
刃先の切れ具合が悪くなっているだけだったので
簡単な研ぎ作業で終わるものだった。

「だって、その」
「う、うん!!」

珍しく言い淀んでいるな、と
タロウはマジダの次の言葉を待つ。

「お金あんまり無いもの」

「あぁあ、そっち!!?」

それすらへたくそだもの、とか
言われたらどうしようかと、
タロウは内心ドキドキだった。

「だって、これは正式な仕事のイライよ。
 きちんとお金を支払わなきゃ!!」
「簡単な作業だから、
 お金を取るほどのものじゃないよ」
「いいから、これ
 受け取りなさいよ!!!」

マジダは自分のポケットに入っていたであろう小銭を取り出すと
いいって、いいからいらないよ
というタロウのポケットに無理やりねじ込む。

「でや!!!」
「あいたたた、マジダ、ちょ!!
 力、強いって君!!
 あいたたた、ちょっと、髪の毛引っ張らないで!!」

はあはあ、と
なぜだかタロウがぼろぼろになりながら
ポケットに入った小銭を確認する。

小さな果物が一つ買えるだろうかという金額だ。
でも、マジダほどの子供にとっては
わずかなお小遣いから出した物だろう。

なんだかおかしな話だ。とタロウは思う。

年の割にはしっかりとした物言いをするし、
尊大な態度をとるけれど、
かと思えば妙な所で遠慮してしまっている。

そういう所は歳相応なのかもな、と
タロウはハートフルになる。
恋とかじゃないです。犯罪じゃないです。誤解しないで。

「じゃあ、サービス。
 さっきの小刀もう一回貸して」

タロウはマジダから小刀を受け取ると
木材で出来ていた柄の部分を薄く削る。

長く使い込むことでどうしても変色してしまう。
その表面だけを削いでやると
少しだけ、新品の様な色合いに戻る。

「どうぞ」

やすりで仕上げてから、
タロウはそれを返す。

「ありがとう。
 ―――あれ?これ?」

マジダの手元に戻った小刀の柄には
小さく模様が刻んである。

「ほら、女の子だから、
かわいくアクセントとして入れてみました」
「いい仕事するじゃない」
「どういたしまして」

よく気がついたな、と
タロウは内心嬉しくなる。

「ふーん、見た事ない模様ね」
「それはね、俺のマーク」
「なにそれタロウ印ってこと」

「まぁ、そんなものだよ。
 マジダはウチの常連さんだから特別お祈りを込めてね。
 怪我しませんように。長く良く使えますように、って」

「ふむふむ。
 いいわね、使い込むと封印とか解けそう」
「……封印?」
「ありがとー、それじゃ今日は帰るね」

「え?なに?
 ねぇ、マジダ、封印て、なに?」

1人残されたタロウは戸惑いが止まらない。
多分、そんな壮大な力とか籠もってないけど
後から嘘つきとか言われないだろうか。と。

あと、どちらかというとお守りになる、とかが良かった。


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「天院と小夜子」12

2015年03月27日 | T.B.2017年

 焼け跡から、誰かが運び出される。

 片付けをしている村人に混じって、彼はその様子を見る。
 運び出された者は、ふたり。

 布にくるまれ
 もはや、誰、なのか、判らないが

 おそらく

 昨夜、

 彼が、手をかけた者なのだ。

 火は消えているが、あたりには焦げた臭いが続く。

 ここに、
 もともと何もなかったかのように、すべて片付けられてしまうのだろう。

 誰かが話し出す。

「いったい、何があったのかしら」
「流行病だよ」

 村人たちが、云う。

「ああ。また出たの」
「それで、家ごと燃やすなんて」
「宗主様のご命令だよ」
「そんなに危険な病だったのかしら」
「危険に決まってる」

「治療薬はないし、」
「これが、今の、最善の策なのさ」

「でも、」

「気の毒だわね……」

「いい夫婦だったのよ」
「知ってる」
「それなのに、流行病になるなんて」
「それを、広げるわけにはいかないだろ」

「本当に、気の毒だわ……」

「そうね……」

 村人たちは、手を動かしながら、話し続ける。

 彼は、この場を去ろうと、歩き出す。

 が

 ふと、足を止める。

 彼の視線の先。
 布にくるまれたものに、誰かがすがりついている。

 誰だろう。
 顔は見えない。

 けれども

 誰かは、涙を流していることは、判った。

 村人は、その様子を気にもとめない。
 片付けを急いでいる。

 誰かは泣き続ける。

 彼は、誰かに近付く。
 手を伸ばす。
 その背中に、声をかけようとする。

 ……どう声をかけたらいいのか、判りもしないのに。

 彼は首を振り、伸ばした手を、戻す。

 ただ、誰かを見つめる。

「……じゃ、ない」

 誰かは呟く。

 泣く。

「流行病なんかじゃ、ない……」



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FOR「小夜子と天院」15

「タロウとマジダ」2

2015年03月24日 | T.B.2001年

「ねぇ、マジダ」

今日も遊びに来た同じ村の子供に
タロウは言う。

「いつも遊びに来ているけれど
 ちゃんとお父さん達に話してから来ている?」

タロウとは彼の本名ではない。
マジダがつけたあだ名だ。

「来ているけど、なんで?」
「なんでってね。
 あのさ、あんまり知らない人の家に
 遊びに来ていたら危ないよ」

なんせ、世間ではそんな恐ろしい事件も数多い。
あと自分が変態だわ~とか、疑われるのも、
ちょっと、いや、かなり困る。

「だって、タロウは知らない人じゃないもの」

言い切るマジダに、彼は少し嬉しくなる。
この子にとってここが
気の休まる所になっているのだろうか。

「だってあなたの素性は知れているもの」

「うん?」

「病院のタカシ先生の親戚にあたる人、よね」
「あぁ、お父さんから聞いたのかな?」
「一家で北一族の村に移民していたものの
 1人、そこの華やかな生活が性に合わず」
「……ん、んん?」
「恋は破れ、想いは届かず。
 かと思えば、思わぬ病にかかり、長い闘病生活。
 病は克服したものの、抱いていた夢も叶わず」
「盛ってる、盛ってる!!?」
「ここに自分の居場所はない、と
 故郷であるこの南一族の村に帰ってきた
 ―――と!!」

「……」
「……」

「すごく、詳しいね、マジダ」
「近所のうわさ好きのおばさんが言っていたわ!!」
「……ほう」
「ちなみに、さらに3割増しの盛り具合だった」
「えぇ……まじで?」
「マジよ!!」

それは、それは。

「マジダがそれを知っているという事は
 もう、村中に広まっているなぁ、その話」

「かもね。
 まぁ、噂好きではあるけど
 私にとってはやさしいおばさんよ」

でも、とマジダは楽しそうにタロウを見る。

「タロウは気を付けておかないと、
 今度会った時には今の年収と生活水準と、彼女が居るのか、とか
 聞かれると思う」

「ありがとう、気を付けます」


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