TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「東一族と裏一族」15

2018年09月28日 | T.B.1997年


 蒼子は歩く。

 市場を抜け
 やがて、人通りがなくなる。

 蒼子は立ち止まる。

 風の音。

 蒼子は空を見る。

 何かの気配。

「やあ、」

 声。

「やっぱり来てくれたんだ」

 蒼子はあたりを見る。

「えーっと、名まえは、」
「どこにいるの?」

 風がやむ。

 人が姿を現す。

 先日の、裏一族。

 同じ者。

 けれども、今日は前回とは違う。
 別の一族の格好をしている。

「改めて、久しぶり」
「…………」
「子どもは元気かな」

 蒼子が云う。

「いったい、何の用?」

「何の用って」

 裏一族は笑う。

「会いに来たんだよ、君に。えーっと、」
 裏一族は首を傾げる。
「名まえは何だったかな?」

 蒼子は首を振る。

 この者に、名まえを教えた記憶はない。

「東に来るのはやめて」
「なぜだ?」

 裏一族が云う。

「俺がどこへ行こうと勝手だ」
「なら、何用で東に?」
「ふふ」

 裏一族は再度笑う。

「厳しい女だ」
「答えて」
「知りたいのか?」
「…………」
「前も教えただろう」

 裏一族はあたりを見る。

 何かの気配を感じているのか。

「俺には血が必要なんだよ」
「血……」
「それは昔も今も変わらない」
「まさか」
「だから、とにかく俺の血を残さなきゃならない」

「なら」

 蒼子は息をのむ。

「今も、いろんな一族の、……女の人を」

「そう!」

 裏一族は蒼子に近付く。
 蒼子はそこに立ち尽くしたまま。

「物判りがいいなぁ!」

 そう、蒼子をなでる。

「お願い」

 蒼子が云う。

「子どもを連れて行くのはやめて」
「何?」
「満樹を連れていくのはやめて」

「ははっ」

 蒼子の肩を叩く。

「そうか。満樹、か」

 裏一族は頷く。

「あの次男もそう云っていたな」
「…………」
「偽の父親が付けた名まえか」

「偽?」

 蒼子は裏一族を振り払う。

「何を!」
「おっ!」

 裏一族は、蒼子の腕を掴む。

「同時にな、俺の子を産んでくれた母親たちも集めてる」
「何、」
「感謝してるからさ」
「人を呼ぶわ!」

「呼んでなくても来ているだろう」



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「律葉と秋葉と潤と響」3

2018年09月25日 | T.B.2024年

「行ったよ!!」
「了解!!」

秋葉の声に応えて
響が駆ける。

「はい、ごめんね」

とす、と
その一撃で獲物が倒れる。

まだ暴れる獲物を
駆け寄った律葉と取り押さえ、
潤がとどめを刺す。

食料を得るための狩り。
無駄に苦しませることはしない。

「………これで、2匹目」

初日の成果としては
まずまずでは無いだろうか。

「もうちょっと奥に行ってみる?」
「いや今日はあくまで
 このメンバーでの狩りに慣れるのが目的だ」

無理はしない、と
潤が言う。

「潤、班長みたいだな」
「班長だよ」

秋葉も追いついてきて
やったね、という。

「今日はなんだか
 とっても調子が良い感じ」
「今日は、って
 このメンバーでの狩りは初めてだろ」
「うーん。そうだけど。
 前から班を組んでいたみたいな」

確かに、と律葉は思う。
半日狩りを行ったが、
とても動きやすかった。

飛び抜けて腕前がある者も居ないが
下手な者も居ない。
なにより、皆、とっさの判断が上手い。

動くべき所をそれぞれが分かっている。

この班、当たりだったかも、と
律葉は思う。

「少し早いが切り上げるぞ。
 獲物を運ぼう」
「はーーい。
 待って、縄を準備するから」

私も、と律葉も荷を整える。

「命に感謝します」

そう、小さく声が聞こえて振り返る。

「………?」

帰りの道、
潤、秋葉、律葉、響と
並んで山を下っていく。

「ねぇ、響」
「ん?」

なになに?と
響が顔を寄せてくる。

なんというか、
彼は人との距離感が近い。

「もしかして、
 狩りは苦手だったりする?」
「えぇ?
 俺の弓矢、もしかしてイマイチだった?」
「違うよ。
 その、腕前がとかじゃなくて」
「なくて?」
「………生き物、殺すのが嫌、とか」
「あ!!
 もしかして、さっき聞こえてた!?」

先程、響は
狩ったばかりの獲物に祈っていた。

「俺達は狩りの一族だし、
 俺も肉は大好き。
 調理法はガーリック炒めが一番好き!!」
「……はあ」
「だけど、
 命には感謝しなきゃ、って
 小さい頃からお祈りは欠かして無くて」

ごめんごめんと謝る。

「癖なんだよ。
 やっぱり狩りの後に
 あんな事されると嫌だよね」

気をつけるよ、と。

「いえ、良い事だと思うわ」
「でも狩った本人ならともかく、
 自分が狩ったのに他人に祈られると嫌じゃない?」
「状況によるかも」
「でしょ」

ふふ、と笑いが漏れる。

「もしかして、狩りの訓練でも?」
「一回やっちゃってさぁ」

響の狩りは
良くも悪くも
行儀の良い狩りだ。

武器の扱いは癖が無く、
教師から教わった姿勢の良い使い方をしている。
性格も少しおっとりした所はあるが
村長の息子という事を鼻にかけるような事は無い。

育ちが良いのだろうな、と律葉は思う。

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「東一族と裏一族」14

2018年09月21日 | T.B.1997年

 満樹は、光院の横に坐る。

 川では、集まった者たちが戯れている。
 その様子を見ながら、光院が云う。

「満樹、また村外に行くんだって?」
「え?」

 光院の言葉に満樹は驚く。

「うん、まあ。その予定だけど」
「しばらく、やめた方がよくないか?」
「何が?」
「村外に行くことを、だよ」

 光院が云う。

「とにかく、今は外の動きがおかしい」
「…………」
「やっぱり、仲間に何かあるのは心配だからさ」
「光院?」

 満樹は首を傾げる。

 光院は、満樹を見る。

 満樹は、
 この状況を、そんなに深刻だと思っていないのか。

 いや

 でも、狙われているのは自分であると

 満樹も判っているはずだ。

 判っていて

 東一族に危害を及ぼさないために、村外へ出ようとしているのか。

 光院は考える。

 昨日、自身の弟が接触した裏一族。
 が
 まだ、東に入り込む機会を窺っているはずだ。

 満樹を連れて行くために。

 それは、無理にでも裏へと連れて行くのか
 それとも
 何かしら、説得をするのか。

「満樹」
「何?」

 光院が云う。

「満樹が村外に行けない理由はもうひとつあって」
「え?」
「今夜も務めが入っている、だろ?」
「お!」

 満樹は驚く。

「2夜連続?」
「そんな云い方?」

 川縁では、火を起こしはじめている。
 その横で、野菜を串に刺す者。

 昼に食べるものを、焼くつもりなのだろう。

「何々、どうした?」
 戒院がやってきて、満樹の横に坐る。
「俺、今夜も務めなんだけど……」
「すごい、連続!」
 戒院が云う。
「何かしでかしたのか?」
「何も心当たりは……」

 その様子に、光院は笑う。

「あいにく、俺は予定があって代わってやれない!」
「判っているよ……」
「悪い!」

 戒院は、大きな声で兄を呼ぶ。

「おい成院! 満樹の務めを代わってやれよ!」
「何を云う!」

 成院は、薪を集めながら云う。

「代わるも何も、俺も務めだ!」
「えっ、成院もか」
「俺と満樹が一緒に務めに出るんだよ」
「意味ないな」

「仕方ないよ」

 はあ、と、満樹はうなだれる。

「満樹の兄さん」

 光院が云う。

「村外へ行く前に、もっと東でゆっくりして行きなよ」

「ゆっくりと云うか」

 満樹は顔を上げる。

「延々と、務めをさせられそうな気がする」



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「律葉と秋葉と潤と響」2

2018年09月18日 | T.B.2024年

「この班で動くのは初めてだから
 まずは近場で狩りをしようと思う」

班長の潤(じゅん)が
先頭に立って歩き出す。

「いいね。
 よし、確実に攻めていこう!!」

うんうん、と
答えているのは響(ひびき)。

この二人は、
同い年で、律葉の二つ年上。

二人とも村の中では
有名なので
律葉もよく知っている。

医師先生の息子と
村長の息子。

「ちょっと、響。
 歩くの早い!!
 みんなに合わせて」

もーう、と声を上げているのが秋葉(あきは)。

この四人の班で一番年下。
十三歳と、律葉の頭一つ分背が小さい。

選ばれたのだから
狩りに行く腕はあるのだろうが、
大丈夫だろうか、と思ってしまう。

「………」

潤に響に秋葉。
このメンバーできちんと狩りが出来るのか
律葉はじわじわと不安になる。

「ゆっくり歩くよ。
 秋葉早く背が伸びると良いね」
「むーーー!!」
「響、秋葉をからかうと
 後で知らないぞ」
「待って!!
 潤&秋葉VS俺!?」

「………」

あれ?と
律葉は首を捻る。

なんだか、
三人共、班になったばかりにしては
打ち解けて話している。

「そうか、確か」

彼らは親戚同士だった。
すこし、やりにくいな、と
律葉は三人の後を着いていく。

「律葉!!」
「わ。な、なに?」

急に響が顔を覗き込む。

「律葉はどっちの味方。
 俺だよね?」
「違います。
 律葉はこっちですーー!!」

秋葉が律葉の腕を引く。

「そもそも、
 響が秋葉をからかったのだから、
 味方も何も無いだろう」

潤が呆れて響の耳をひっぱる。

「俺、からかってないよ~。
 そう言う意図はないです」
「反省してる?」
「してるしてる!!」

うーん、と
律葉は苦笑いしながら忠告する。

「ねぇ、一応狩り場に入ったのだから。
 静かにしないと
 獲物が逃げていくわよ」

「ほらーー!!」
「そうだぞ、響」
「悪いの俺なの?」

自分の横を歩く秋葉に
律葉は問いかける。

「ねぇ、私の事知っていたの?」

そう言えば、
先程同じ班で嬉しいと言っていた。

「うん」

ニコニコと秋葉は答える。

潤や響の様に
親が有名な訳でも無い。
目立つ存在じゃ無いと律葉は自覚している。

「そう?」

なんだろうな、と
思う律葉に
えっとね、と恥ずかしそうに秋葉は答える。

「あのね、
 律葉、雰囲気が、
 おとうさんに似ていて」
「うん?」
「前から気になってたの」

秋葉の父親は確か。

いや、それよりも。

「……父親に似ている」

それってどうなのか。
男らしいって事なのか。

「う、うーーん?」
「ん?」
「なんでもない。
 秋葉、お父さんの事好き?」
「うん、大好き!!」
「ならよし」

少なくとも
好意は抱かれているという事だろう。


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「東一族と裏一族」13

2018年09月14日 | T.B.1997年

 佳院を病院に送り届けたあと、

 戒院は外へと出る。
 大きく息を吐く。

 日はずいぶんと高くなっている。
 この時期は、気温も高い。

「川に行くんだった」

 戒院は歩き出す。

 一族の市場を抜け
 田畑を通り

 畦道を歩く。

「戒院」

 すれ違いざまの、声。

 戒院は立ち止まる。
 その方向を見る。

「どこへ?」
「俺?」
「お前以外に誰がいる」

 戒院は一応、辺りを見る。

 自身しかいない。

「俺はいつもの、」
「いつもの?」
「あっちの、」

 戒院は川の方を指差す。

 云い辛い。

 どの一族もそうだろうが、
 真面目に生きる者と、ちょっとふざけて楽しむ者がいる。

 戒院は、どちらかと云うと

 後者で、

「満樹のお父さんはどちらへ?」

 安樹は前者。

「務めだ」
「……ですよね」

「満樹も来るのか?」

「え? 満樹?」

 戒院は首を傾げる。

「まあ、俊樹が連れてくるかと」
「そうか」

 安樹は頷く。

 歩き出す。

 その背中を見て、戒院は再度首を傾げる。
 反対の方向へ、進む。

 畦道を抜け、
 背丈より高く伸びる草をかき分け

「いや、そこ通らなくても、あちらに道があるだろう!」
「近道だったからさ」
「相変わらず戒院はおもしろいな!」

 川に、先に集まっていた者たちが笑う。

 もちろん、見知った顔。

「しかし、ずいぶん暑いな」
「そりゃな」
「そう云う時期だろう」
「残暑?」
「残暑??」
「ちょっとずれていないか?」

 たわいもない会話に、互いに笑う。

 そうしているうちに、また、人が集まる。

「よう、満樹!」
「ああ、うん。……お前は絶対いると思った」

 云われて戒院は満樹の肩を叩く。

「疲れてるな」
「そりゃあ……」
「大丈夫か、川遊び?」

 満樹と俊樹は、夜、砂漠の務めに出ていたのだ。
 砂一族が仕掛けた地点を解除するために。

「砂漠の務め、お疲れな」
「どうも」

 満樹は日陰に坐る。

「どうだった地点?」
「まあ、いつも通り」
「そうか、大変だったな!」

 戒院は再度、満樹の肩を叩く。



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