TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「成院と晴子」5

2016年06月28日 | T.B.2003年

成院は東一族の墓地を訪れる。

沢山の墓石が並ぶ中
彼はただ一つを目指す。

もう、四年前の事。

彼の兄弟が眠る場所。

「生まれたよ。
 女の子だ」

今までもそうだった。
何かあれば必ずここに報告に来ていた。

同じ病で倒れた2人。
助かったのは1人だけ。

もしかしたら、
ここに立っていたのは
自分ではなかったかもしれないと思いながら。

「俺に似ているって
 晴子が言うんだ」

自分に似ていると言うことは
死んだ兄弟にも似ているという事だろうか。

「俺達双子だったからな」

彼は、持ってきた花を捧げる。
柄じゃないと笑われるだろう。

「お前を辿りながら
 生きているって言ったら大げさだけど」

死んだ兄弟の
代わりに。

替わりに。

どちらか分からない、と
言われるぐらいに。

「でもなぁ、
 そんなヒマも無くなるだろうから」

結婚して、子供が生まれて
家族が増えた。

自分ばかりが幸せになって
恨むだろうか、と
彼は墓石を見つめる。

「それでも俺は、少しだけ
 自分を許していこうと思う」

兄弟に恨み言を向けるようなやつじゃないと
ずっと分かってはいたけれど。

「今度は2人を連れてくるよ」

彼は静かに墓地を離れる。


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「涼と誠治」6

2016年06月24日 | T.B.2019年

「だから、お前は何の心配もせず、」

 涼は立ち上がる。

「涼?」

 涼は、ふたりを見下ろす。

「俺には出来ない」
「……涼」
「もう、何度も云わない」

 涼は、部屋を出ようとする。

「ちなみに、だ」

 村長は、涼の後ろ姿に声をかける。

「相手の子、ちょっと足が悪くてな」
 村長が云う。
「狩りに行けない、役立たず扱いだ」

 涼は、振り返らない。

「ほかに取り柄もなくてな。……立場がない」
「…………」
「お前が、助けてやってくれ」

 涼は、答えない。

 そのまま、部屋を出る。

「…………」
「……ふーん」

 村長の妻は、料理をつまむ。

「あなた、涼を想うなら、もっといい子を用意したら?」
 村長の妻が云う。
「何で、役立たずの子なのよ」

「村長命令でも、あいつは黒髪だ。どの親も喜ばない」

「なら、その、役立たずの子の親は?」
「まあ、いろいろ条件付けて、頷かせてる」
「へえ」
「親も訳ありだからな」
「弱みをついたのね」
「云い方を考えろ」
「それは、ごめんなさい」

 村長の妻は、別の料理をつまむ。

 云う。

「ひどいわね」
「何が?」

「あの子は、これまで、いろんなものを抱えてきたのよ」
「……だろうな」
「なのに、まだ、抱えさせようとするのね」

 村長は何も云わない。

「口数は少ない子だけど、……あの子も判ってるわ」
 村長の妻が云う。
「相手の子が、自分に対しての人質になるってこと」

 村長は、小さく頷く。

「あいつを、逃がすわけにはいかない」
「はーん。」
 村長の妻は、村長を見る。
「そんなに、あの子を好きなのね。私の子より?」
「比べるな」

 村長が云う。

「響(ひびき)と涼は、比べられない」
「いいのよ。別に妬まないし」

「……あいつは、西の多くを知ってる」
「ええ」
「だからこそ、あの髪色を持って、東に裏切られたら……」

「あの子が、東と手を組むと?」

「ありえない話、じゃない」

「そうね」

 村長の妻が云う。

「恋愛婚じゃないんだもの。いつだって、置いて出て行っちゃうわ」

「そこか?」
「そうよ」
「男が嫁を置いていくか?」

 村長の妻は、ため息をつく。

「だったら、もっと、いい子を用意してあげたら?」



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「成院と晴子」4

2016年06月21日 | T.B.2003年


別室で待たされていた水樹は
はっ、と目を覚ます。

外はもう明らみ始めている。

「あぁ。寝てたわ。
 姉ちゃん生まれた?」

水樹は兄の大樹に声を掛ける。

「まだだ、
 ちょっと辰樹を持ってろ」

大樹は自分の子供を水樹に渡す。
春先に生まれたばかりで
晴子の子が無事に生まれたら
同い年になるだろう。

水樹は甥っ子になる辰樹を抱え
あくびを噛み殺す。

「あぁ、俺も
 甥っ子が2人の叔父さんになるのか」
「姪っ子かもしれないぞ」

姪っ子、と繰り返して
水樹はうーん、と呟く。

「成先生、
 すっかりお医者さんだよなー」

「なんだ、まだ、先生って
 言ってるのか」

水樹が言う先生は
医師を意味する言葉ではない。

成院は今はでこそ医師見習いだが
武術の腕があり、水樹に武術を教えていた。

「成先生なら大将にだってなれたのに」

今ではすっかり
武術を止めてしまったことに
水樹は不満を漏らす。

「成院が選んだ道なんだから
 仕方ないだろう」

大樹にしてみれば
選んだというより
選ばざるをえなかったようにも思える。

成院の死んだ兄弟は
医師見習いだったから。

「ま、どっちでも良いけど」

実際、大樹にしてみれば
大切な妹を不安にさせなければ
どちらでも構わない。

「あ?父ちゃんは?」

水樹が辺りを見回すので
大樹は外を眺めながら答える。

「居ても立っても居られないから
 とりあえず、外をうろちょろしている」
「まじか」
「お前は、朝食を食べてこい。
 篤子が作ってるから」

へーい、と水樹は立ち上がり
甥っ子の辰樹を大樹に戻す。
ぐっすり寝ていて、全く起きない。

台所に向かおうとした水樹は
あれ、と
立ち止まり、兄と顔を見合わせる。

奥の部屋が騒がしい。

「お、」
「これって」

部屋から出てきた篤子に
大樹が問いかける。

「生まれた、のか」
「ええ、
 ちょっとお湯を汲みに行くから
 どいてちょうだい」

急いでるの、と
通り抜ける篤子に水樹が問いかける。

「義姉さん、どっち?」


「晴子、女の子だ」


部屋の中で、子供を抱えながら
成院が言う。

「そうね、元気な子だわ」

ふふ、と
晴子は笑う。

「成院、これからあなた父親なんだから
 泣いていないでしっかりしてね」


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「涼と誠治」5

2016年06月17日 | T.B.2019年

「戻ったの?」

 村長の自宅に着くと、村長の妻が出迎える。

「狩りはどうだった?」

 村長の妻の問いに、涼は首を振る。

「そうよねぇ。上手くいかないわよねぇ」
 息を吐き、村長の妻は手招きをする。
「ほら、入って」

 涼は、ここで暮らしている。
 もちろん、出入りは自由だ。

 涼は、村長を見る。

「入れ。話は中でだ」

「ところで、食事はしたの?」
「まだだ」
 村長が云う。
「お前もまだだろ?」
「まだ、だけど……。いらない」
「何を云うの!」
 村長の妻は、眉をひそめる。
「小柄なんだから、食べなさい!」

 村長の妻は、食事を運びはじめる。

 村長は、席に着く。
 涼も坐る。

「それで、お前への話なんだが、」

 村長は、咳払いをする。

「突然だが、お前には、この家を出てもらう」
「そうする」
「いや。そう云うことじゃない」

 涼の即答に、村長が焦る。

「東に行け、と云う話じゃない」
「なら?」
「結婚すると云う意味だ」

 そこで、涼は驚きの表情を見せる。

「結、」
「そう。結婚だ」
 村長が訊く。
「お前いくつだ?」
 涼は、首を振る。
「もう、適齢だろう」
 村長が云う。
「村の若者も、もう時期に入ってる」

「いや。俺はしない」

「だめだ」

「しない」

「村長命令だ」

「悟(さとる)!」

 涼は、村長を見る。

「俺の髪色を見ろ。そんなこと絶対に出来ない」
「何だ。相手が可哀相とか、思ってるのか」
「あんたは、俺の素性を知っているのに!」

「素性とかやめろ」

 村長が云う。

「お前は、何であろうと俺の息子だ」

 涼は、目を細める。

「親が、子の仕合わせを願って悪いのか?」
「その話は、聞きたくない」

 そこで、村長の妻が、最後の料理を運んでくる。

 村長の妻は、村長の横に坐る。

「何、あの話?」
 村長の妻が云う。
「断る理由なんかないでしょ、涼」
 さらに
「西は、恋愛婚か命令婚。どちらかなのよ。……ほら、食べなさい」

 村長の妻は、涼に皿を差し出す。

 涼は、受け取らない。

「必要なものは、うちで準備してやる」
「そうね」
 村長の妻が云う。
「お旧なら、私のを出してあげるわ」

 西一族には、
 嫁に、その家で使われていた装飾品を渡す風習がある。

「それ以外の結納品も出すでしょ?」
「もちろんだ」
「楽しみねぇ」

 村長の妻は、そう、笑う。



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「成院と晴子」3

2016年06月14日 | T.B.2003年

呼びかけられた気がして
成院は、す、と
目を覚ます。

室内は暗く
まだ、夜明けには早い。

「成院」

晴子の声だと分かり
成院は起き上がる。

「どうした?」

「……夜中に、ごめんなさい」

成院は枕もとの灯りをともす。

「良いから、どうした?」

僅かな灯りに目が慣れてくると
晴子の様子も分かってくる。

「……子供、か?」

晴子はお腹を押さえている。

「生まれるのかも」

絞り出すように言う晴子に
成院は冷静に、と
自分に言い聞かせる。

予定日よりは早いが
早すぎるということは無い。
いつ生まれてもおかしくない時期だ。

「夜にごめんね」
「気にしなくていいから。
 産婆さんを呼んでくる」

晴子を楽に座らせて
成院は家を飛び出す。

「それで」

夜中にたたき起こされた
東一族の医師は
緊急時になれているのか
寝ぼけることもなく対応する。

「産婆さんは?」

東一族では
女性の出産は産婆が立ち会う事が多い。

それが、と成院は言う。

「他に産気づいている人が居て
 そちらがもう生まれるから
 とりあえずは、先生に診てもらっていてくれ、と」

ふぅん。
と、医師は頷く。

「そういうのって重なるみたいだよね。
 月の満ち欠けが関係あるとか、ないとか」

了解、と
医師は家を出て、成院の自宅に向かう。

帰ると声を掛けていた
晴子の家族が
晴子に付き添っている。

はいはい、ちょっと、と
医師は晴子の様子を見る。

「晴子、随分我慢していたね」
「ごめんなさい。
 夜だったから」
「そうじゃないよ、陣痛は
 もっと早く来ていたでしょう」
「そうなのか?」

成院は驚いて声を上げる。

「初産は陣痛が来ても
 時間がかかると聞いていたので
 様子を見ていようと思って」

申し訳なさそうな晴子に
そうじゃない、と
成院は焦る。

「気にするな。
 俺が気付くべきだった」

うーん、と
医師は辺りを見回すと
晴子の母と兄嫁に声を掛ける。

「亜子さんと篤子さんは
 晴子に付き添って。
 いざというときは立ち会いをお願いします」

そして、晴子の父と
兄、弟、を部屋から出す。

「男性陣はしばらく違う部屋で待機」

それに続こうとした成院の
首根っこを捕まえる。

「あ、そっか
 俺は着いていないと」

これから大変なのは
晴子なのだから
側で支えないと、と意気込む成院に

いやいや、と医師は言う。

「成院、
 君、医師見習いだよね」

何を?と
成院は医師の意図が上手く読み取れない。
この医師に付従い
医学を学んでいるのは事実。
だけど、それが
今、何の関係があるのか。

「大丈夫、
 私が指示をするし、フォローもするから」
「なにを」

成院、だから、と
医師は言う。


「もし産婆さんが間に合わなければ
 君が子供を取り上げるんだよ」


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