TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「『成院』と『戒院』」19

2020年10月27日 | T.B.2017年

「大先生」

『成院』は麻樹を見る。

戒院が『成院』になる事に
関わっている唯一の人。

「俺は成院の死を見ていない」

病から回復して、
ベッドから起き上がれる様になった頃には
全ては終わっていた。

病人は2人。薬は一つ。
その薬は戒院に使われた。

もう、成院はいない。

そう聞かされた。
遺体も見ていない。
流行病の患者の埋葬には家族ですら立ち会えない。
そういう決まりだったから、
全て終わった後の墓の前で
死んだと言われた兄弟の死を実感した。

「教えてくれ、
 あの墓石の下には誰がいる?」

大医師は知っている。
戒院が眠り続けていた時の事も。
成院の死も。
全て。

「成院は本当に、
 あそこに眠っているのか?」

おかしい。

そうでなければ話の筋が通らない。
この村で、
当事者である『成院』と大医師、
全てを話した妻の晴子、そしてその兄大樹。

それ以外に、
『成院』は本当は戒院だと知る者は居ない。

なのに

なぜ南一族の村に
未央子が戒院の娘だと知る者が居るのか。

大医師は答える。

「教えられない」
「はぐらかさないでくれ」

「それが、私と成院との約束だから、だ」

「大先生!!」

大医師は、
落ち着けと一呼吸置き答える。


「教えられない、
 それが答えだ『成院』」


南一族の村に向かう馬車の中。
長い道のりを
『成院』は目を閉じて過ごす。

次期医術大師が
無断で村外に出掛けたと知れたら
何かしらのお咎めはあるだろう。

けれど、
そこには『成院』1人で向かわなくてはいけない。

「………」

賑やかな会話が聞こえ始め、
村の中心に辿り着いたことを知る。
馬車が止まった事を確認して
『成院』は瞼を開ける。


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「『成院』と『戒院』」18

2020年10月20日 | T.B.2017年
その日『成院』の娘は
やや高揚しながら帰って来た。

「先視の司祭様とお話ししてきたわ」

ああ、と『成院』は頷く。

「満樹兄さんの客が
 海一族から来るんだったな」
「そう、明院がご挨拶をするからって
 私達も着いて行っちゃった」

海一族の先視。
東一族の占術とはまた少し種類が違う未来視の力。
宗主の屋敷に奉公に行っている未央子は
そういう来客とすれ違う事も多いのだろう。

「未央子はなにか視て頂いたのか?」

いいえ、と未央子は首を横に振る。

「司祭様はみんなウエルカムとか言ってたけれど、
 恐れ多くって」

あと、ほいほい先視を使うな、と
満樹が呆れて止めていた、とか。

「でも、明院は視てもらっていたの」
「………それは」

それは迂闊だ、と『成院』は慌てる。
今、宗主の跡継ぎがややこしい事になっている時に
本家の血筋である明院の将来、とは。

「明院の子供は
 きっと双子だろう、って」
「あ」

そっち。
そういう方向。

「ふうん、そう、そうか。
 なら、よかった」

何が良かったのかよく分からないが
ふう、と『成院』は肩を落とす。

「すごくない、双子だって。
 私見たこと無いなぁ」

「あら、未央子」

食事の準備をしていた晴子が
娘に声をかける。

「あなたのお父さんは双子よ」

え、と一瞬動きを止めたあと
未央子はええ、と声を上げる。

「ええ!?
 だって死んだ叔父さんは
 弟っていつも言っていたじゃない」
「弟は、弟なんだけれど、あら」
「言って………なかったか?」

驚く未央子に、
そうだったか、と『成院』は
苦笑する。

そう言えば、自分も妻である晴子も
成院と弟の戒院は双子だと言う事が当たり前過ぎて
特別に話す認識では無かった。

「しかも、一卵性双生児」
「それって」
「顔も声も全く同じ」
「パッと見はね、
 中身は全然違うのよ」

ふふふ、と晴子がからかうが
未央子の表情は優れない。

そこで、あれ?と
『成院』と晴子は顔を見合わせる。

「どうした、未央子?」
「隠していた訳じゃあ無いのよ」

ねぇ、と未央子は
父親である『成院』を見る。

「お父さん、本当は
 三つ子だったり、する??」

思いがけない問いかけに
『成院』は、んん?と声が漏れる。

どこからそんな発想が。

「いや、そんな話は聞いた事ない、な」
「どうしたの、未央子?」

晴子は娘の様子を伺う。

「お父さんとそっくりな人を見たの」

「俺、と?」

一瞬、『成院』に緊張が走る。
そんな訳が無い。

「それは、どこで」

「南一族の村」

あぁ、とそれを聞いて
肩の力が抜ける。

なんだ、赤の他人か。

「同じ顔の人は3人居るって言うものね」
「本当に、本当にそっくりだったんだから」
「それは俺も会いたいものだ」

その人に会ったら
成院を重ねて見てしまうのだろうか?
それとも、
改めてもう成院は居ないのだと
思い知らされるのだろうか。

「案外、
 南一族に移住した遠い親戚だったりしてな」

そうかな、そうかしら?と
みんなそう言うのよね、と。
納得できかねる様子で
未央子はいぶかしがっている。

「うーーん、そうね。
 でも、親戚なら私の事知ってるのかしら
 少し間違えていたけど」

「間違える?」

「その人ね、
 私の事、戒院の娘か、って
 言ったのよ」


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「『成院』と『戒院』」17

2020年10月13日 | T.B.2017年

宗主の屋敷に、戦術・占術・医術の大師が集う。

『成院』は次期医術大師として
麻樹に付き添う形で参加する。

医術と占術は
当代が高齢なので
次代候補が付いている。

戦術大師は前代が死亡した為
一時的な代理として任を任せられたばかりの者。

「………」

なぜ、歴代の猛者感で
座っているのか。

水樹ってああいう所ある。

戦いの腕も立つ、が
指導側となると少し不安。

不安だけど、
もう家庭も子供も居るし
そろそろ落ち着いて来た、よ、ね。

と皆も自分に言い聞かせる形で
無理矢理納得している。

次代戦術大師で水樹の兄、大樹が
ずっと胃のあたりを押さえているが
仕方ないよな、と
なんとも言えない目線を『成院』は送る。

そう、仕方がない。

まさか、前代の戦術大使が
数年で座を退く事になるとは
誰も予想していなかった。

砂一族の来襲。

大医師である麻樹に代わり
宗主の家系の患者を看ることが多い『成院』は
必要以上に物事を知ることになる。

そのせいだろう
がらり、と
周りの状況が変わったと感じる。

ふと、宗主の方を見る。

同年代で弟のように見ていた彼も
本来であれば宗主になる予定ではなかった。

宗主はこちらを見たように見えたが
『成院』の視線には気づかず、
そのまま村の守りの話しを進める。

「では、そのように」

話しは終わり
皆がぱらぱらと帰路につく。

大師と言われてはいるが
こういう場の話し合いに
あまり医術師が口を出す場面など少ない。

ただの頭数を揃えたような物だ。

「成院」

声をかけられ振り返る。

「宗主様」

共に歩いていた大医師は
それでは先に、と
一礼の後、場を離れる。

「で、宗主様、用件はなんだ?」
「………いや」

それはこちらのセリフだ、と
宗主は逆に問いかける。

「何かあるのか?
 もの言いたげだったが」

どうやら先ほどの『成院』の視線には
気がついていたらしい。

「大した事では……」

いや、と『成院』は
問いかける。

「これからどうしていくつもりだ?」
「どう、とは?」
「一族の事、それに、」

跡継ぎの事。

言葉にせずとも伝わったのか
宗主は眼を細める。

「いち医術師が口を出すことではないな」

そう答えるだろうと思った、と
『成院』はため息をつく。

そんな『成院』の様子を見て
宗主は言葉を返す。

「人の事を気にかけている場合か?」


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「『成院』と『戒院』」16

2020年10月06日 | T.B.2017年

「まだ間に合う」

南一族の村。
そこで、その男は言う。

「やり直すべきだ。
 全て話して、なにもかも」

いや、
いいや、と成院は首を振る。

「許されるわけがない」

「それでも、だ」

「分かってくれというのか?
 今までの十数年は
 全部、欺いた物だったと
 皆にそう言えというのか?」

そうだ、とその男は頷く。

待ってくれ、と成院は答える。

「無理だ」

今さらどの面を下げて、と
懇願する。

罰を受けるだろう。
その覚悟はある。
いつかは、と思っている。

でも、それは
今ではない。

「放っておいてくれ。
 いいじゃないか、このままで」

「駄目だ。
 それは許されない」

成院の苦しみなど知るわけもなく。
その男は言う。

「罰を受けたとしても、
 お前は全てを明らかにして
 帰らないといけない」

あまりにも横暴だ、と
成院は首を振る。

「お前に俺の何が分かると言うんだ」

「わかるさ」

男は答える。

「俺はお前だからな」


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