TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「海一族と山一族」36

2018年02月27日 | T.B.1998年

「マユリ!?」

なぜ、ここに、と
そんな声をアキラが上げる。

「あの子は、山一族なのか?」

トーマの問いかけに
アキラは頷く。

手前のなにかとは違い、
彼女は生きている。

ただ、先程のカオリと同じ様に、
こちらから声を掛けても、
全く反応が無い。

「司祭様」

「もう一人の生け贄はどうした?」

トーマは首を振る。

「すべての元凶は裏一族だったんです。
 もう生け贄は必要無い」

「大丈夫だ」

司祭は微笑んでいる。

「娘に掛かった術を解除するだけだ
 悪いようにはしない」

「………しかし」
「トーマ」

アキラが言わんとしている事は分かる。
頷き、
腰の短刀に手を伸ばす。

「司祭様。
 騒ぎを聞いて駆けつけたにしては
 あなたは早すぎる」
「だから、なんだと言うんだ」

あの、マユリと言う少女。
カオリをもう一人の生け贄と言ったこと。

知られざる秘密として
この儀式について聴いていたのは
差し出される生け贄は一人。

つじつまが合わない。

司祭の言葉は
先程まで戦っていた彼らと同じ。

「まさかとは思うが、
あなたも、一族に紛れ込んだ、裏一族なのか」

司祭は笑い出す。

「紛れ込んだ?
 何を言う」
「…………」
「私はれっきとした海一族だ」
「なら」

「自分の一族に嫌気がさして、
 裏へと渡ったがね!」

武器を構えているが、
トーマは未だに信じられない。

「さぁ、生け贄を差し出すのだ」
「それは出来ない」

アキラが言う。

「生け贄をどうするつもりだ」
「山一族よ、何も言うな。
 年長者に従うのが、お前達の一族だろう」
「断る」

アキラが矢をつがえる。
トーマも短剣を鞘から抜く。

「やめておいた方がよい」

武器を構える二人に
司祭は余裕の表情を浮かべる。

「ここは、我々の魔方陣の中だ」

「司祭様、なぜあなたほどの人が」

足元の魔方陣が強く光り出す。
トーマは司祭を見る。

長と共に、一族の皆に慕われ、
村のために尽くしてきた。
後続のミツナの親代わりでもあった。

そんな人が。

「感謝するがよい。
 お前達の命は、彼女のために使われるのだ」


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「山一族と海一族」39

2018年02月23日 | T.B.1998年

 ふたりは滝へと近付く。

 激しく落ちる、水の音。

 滝の裏側へと入る。

「ここは、」
「このようになっていたとは」

 滝の裏側は、洞窟になっている。

「まるで隠し道だな」
「実際そうなんだろう」

 ふたりは、辺りを見る。

 道は、まだ、そこから先へと続いている。
 足元の魔法陣も、まだ伸びている。

「灯りを、」
「いや、待て」

 木の枝を拾い、松明にしようとしたトーマを
 アキラは止める。

 指を差す。

「奥に灯りが」
「何」

 トーマもその先を見る。

 ほのかな、灯り。

「…………」
「いるな」
「ああ」

 何かの、気配。
 誰かが、いる。

 アキラは再度、辺りを見る。

 どこか、カオリを隠せる場所を探す。
 この状態のカオリを連れたままでは、こちらの身が危うい。

 この先に、誰が
 何人いるのか、見当もつかない。

「カオリを置いていく」
「大丈夫か?」

 もちろん、意識のないカオリは、何ひとつ身を守れない。
 けれども、
 それしか方法はない。

 アキラは、木の陰に、カオリを坐らせる。
 ちょうど、身体が隠れる。

「大丈夫か……」

 再度呟いたトーマに、アキラは云う。

「ここに、紋章術をかけていく」
「魔法を?」
「音やにおい、気配を隠す紋章術だ」
「そんなものが」
「ああ」

 アキラは頷き、紋章術を描く。

「そんなに複雑なものではないんだが……」
「とりあえずは安心だな」

 アキラの紋章術を見て、トーマが歩き出す。

 アキラは、カオリを見る。

 そう。
 とりあえずは、大丈夫なはず。
 ただ、問題があるとすれば
 あくまでもこの地は、相手の紋章術の中であると云うこと。

 カオリが見つからないことに、かけるしかない。

 アキラも、トーマに続く。

 ふたりは歩く。

 やがて、洞窟の突き当りにたどり着く。

 そこに、大きな石がある。
 それは先ほど、カオリが横たわっていたものと、同じもの。

 その両脇の壁にかすかな松明が燃えている。

 わずかな灯りの中に、

「……司祭、様?」

 トーマが声を出す。
 アキラはトーマを見る。

「司祭様が、なぜここに?」

 海一族が、そこにいる。



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「海一族と山一族」35

2018年02月20日 | T.B.1998年

灯りが見える。
つまり、誰かが居る。

「………」

考え込んで、アキラが言う。

「カオリを置いていく」
「大丈夫か?」
「この先に、連れて行くよりは」

木の影になるよう、
カオリを座らせる。

「ここに、紋章術をしていく」
「魔法を?」
「音やにおい、気配を隠す紋章術だ」
「そんなものが」
「複雑なものではないんだが」

そんな術があるのか、とトーマは感心する。
今回は、アキラの術に随分と助けられている。

この一件が片付いたら
魔法を習ってみるのも良い。

すべてが、片付いたら。

術が発動する。

「とりあえずは安心だな」

二人はカオリを残し、
先に進む。

洞窟の突き当たりには、
大きな石が鎮座している。

先程カオリが横たわっていた物と全く同じに見える。

その両脇の壁に
かすかな松明が燃えている。

洞窟の中はその灯りと
石の台を中心に巡らされている魔方陣の光で
仄かに照らされている。

「司祭様!?」

トーマはそこにいる人物に声を掛ける。

「知り合いか?」
「ああ」

トーマ自身も理解が追いつかないまま
答える。

「海一族の司祭様だ」

「トーマか、
 大変なことになったな」
「なぜ、ここに」
「騒ぎを聞いて駆けつけた。
 儀式を守るのが私の役目だ」

「そう、ですよね」

洞窟の中は、松明の灯りがあるとは言え
薄暗い。

トーマは目を凝らす。
おそらく、アキラも。

「表に居た裏一族は倒しました。
 でも、術が」
「あぁ、発動してしまっている」

暗い、そのなかに、
何かがある。

石の台座の上。

「それは」

何年、何十年という長い時間、ここにあったのだろう。
性別も、年齢も、それすら分からない。
恐らく、人であったもの。

司祭が手を伸ばす。

台座のさらに、その奥。

もう一つ、同じ様に台座がある。

そこにいるのは。



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「山一族と海一族」38

2018年02月16日 | T.B.1998年

「鳥は何だと?」

「案内を」

「……まさか、」

 ヒロノは目を細める。

「山を下りるのか」
「そう」

 メグミが云う。

「さあ、人を集めてちょうだい」
「人を?」
「当たり前じゃない」
「危険だ」
「だから、人を集めてと云っているの」
「お前の暴走が危険だと云っている」
「あなたも来るでしょ、ヒロノ」

 その言葉に、ヒロノは杖を鳴らす。

「これ限りだぞ」

 ヒロノの後ろに控える者に、ヒロノは合図をする。
 すぐに、その者は動く。

「フタミ様にどう説明するんだ」

 イライラしながら、ヒロノが訊く。

「いったいどこへ行くと」
「決まっているでしょう」

 メグミは鳥を見る。

「儀式の場所」
「儀式の?」
「そう」

「まさか、カオリが?」

 ヒロノはメグミを見る。

 メグミは首を振る。

「それは判らない」
「だろうな」

 ヒロノは息を吐く。

「失踪したやつだ」

「でも、大丈夫」

「大丈夫? 何が?」

「きっと、生け贄のことが解決するんだわ」

 集まった者をメグミは見る。

「火事のあとだ」
 ヒロノが云う。
「力のあるやつを皆は連れていけない」

 メグミも頷く。

 その顔触れに、ナオト=イ=ミヤもいる。

 ナオトが云う。

「うちの一族に裏が潜んでいたと云うのは本当か」
「ええ」
「その者が、この火事を起こしたと?」
「はっきりとは判らないわ」
「なら、」
「おいおい」

 ヒロノが口を挟む。

「考えるだけ無駄だ」
 云う。
「そいつらに直接聞くのが早かろう」

「そうね」

 メグミは鳥を放つ。

「さあ、行きましょう」



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「海一族と山一族」34

2018年02月13日 | T.B.1998年

海一族の長が、
名だたる者を引き連れて現れる。

「長!!」

ここだ、と
ミナトが手を振る。

「正体不明の者はこの奥に、
 トーマと山一族の者も後を追って」

森の奥へと続く道。

「恐れていた事が」

「あいつらは一体?」
「今の時点では何とも言えないが」
「浜辺で捉えた者は
 口を開いたんですか?」

彼らを追って先に場を離れた
ミナトは知らない。

「詳細を聞き出す前に
 隠し持っていた毒で自害した」
「な」

それが、事態の大きさを物語っている。

「トーマは、奴らの事を裏一族だと。
 それに、なぜ山一族が俺達の村に」

分からないことだらけで
ミナトは焦っている。

裏一族が、村に潜んでいた。
しかも自一族の者が裏に寝返り。

「本当に裏かどうかを調べるのは後だ」

「……無事でいてくれよ。トーマ」

行くぞ、と
長は引き連れた者達に目配せをする。

「………」
「ミツナ」

長の護衛であるミツグが
問いかける。

司祭候補の青年。

「大丈夫か?」
「うーん、
 相変わらず自分に関わる事は
 視えないな」

いや、と
ミツグは訂正する。

「おまえは大丈夫か。
 相手は裏一族かもしれない」

まぁ、そうだよね。と
少し青い顔をしながらミツナは言う。

「大丈夫だよ、ミツグ兄さん。
 急ごう。
 トーマの身が心配だ」


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