TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

2015年末

2015年12月29日 | イラスト
今年のTOBA別館の更新は
これが最期になります。

また新しい年にお会いしましょう~



「タロウとマジダ」より

マジダ:「ハクナマタァアアアタァアアアア!!」

タロウ:(これはどういった遊びなんだろう)


作中のキャラに現代の服を着せるのがブームな
ばしょ、でした。


では、よいお年を!!

TOBA by ともえ&ばしょ

「山一族と海一族」8

2015年12月25日 | T.B.1998年

「どうした?」

 マユリの助けを呼ぶ声に気付き、ナオトがやって来る。

「ナオト様!」

 マユリは、ナオトに駆け寄る。

「村の外に何かが!」
「何か?」
 ナオトは村の外を見る。
「何かって、何だよ?」
「判らないんです!」
「落ち着けって」

 ナオトが云う。

「息を整えるんだ」

 マユリは目をつむる。
 胸に手を当てる。
 息を吸い込む。

「……アキラ様が、何者かに怪我を負わされて」
「アキラが?」
「それが、海一族ではないかと」
「海が?」
 マユリは頷く。
「そんなばかな」
「でも、絶対に身内ではありません」

 ナオトは再度、村の外を見る。

「アキラはそれを追っていったのか?」
「おそらく……」

 マユリはうなだれる。

「海一族か……」

 ナオトは呟き、手を上げる。

 一羽の鳥がそれに答える。

 ナオトの鳥。

「マユリ」
「はい」
「俺の名を使っていいから、とにかく、上に報告しろ」
「判りました」
「俺は、アキラを追う」
「お願いします」

 ふたりは、同時に走り出す。


 雨が降り続いている。


 この雨はやがて山を下り、海へと向かう。

 山を下りる形のナオトは、雨と併走していることになる。

「どこまで行ったんだ。あいつ!」

 森は暗い。
 ナオキは山の斜面を利用し、山を下る。
 先を飛ぶ鳥を追う。

「このままじゃ、海にたどり着くぞ」

 夜の雨で、視界はいっそう悪い。

「っ!」

 思わず、ナオトは立ち止まる。
 そこに

「まじかよ」

 大きな、動物の死体。

 あたりに、死臭。

「いったい誰が」

 山一族であれば、無用な殺生はしない。
 もし
 獲ったのであれば、必ず、村へ持ち帰る。

 それが、山一族の掟。

 ナオトは、獲物に近付く。
 その身体を見る。

 致命傷となる傷は見受けられない。

「どう云うことだ?」

 何カ所かの、小さな傷。

「……まさか、毒で?」

 ナオトは首を傾げる。

 と

 鳥の鳴き声に気付き、顔を上げる。

「アキラはいたか?」
 ナオトは、鳥に呼びかける。

 鳥は、ナオトの頭上で旋回し、合図を送る。

 ナオトは、あたりを見る。
 目をこらす。



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「悟と諜報員」8

2015年12月22日 | T.B.2000年

「はい、特に変化はありませんね」

西一族の医師である高子が
村長の診察を終える。

村を支える長ともなれば、
肉体的な疲労や心労がかさむ。

そのため村長は定期的に病院で検査を受ける。

「それは良かった。
 だが、最近疲れが取れなくてね」
「異常は無いようですが、点滴でも?」
「もう歳だからな、お願いしよう」

高子は後ろで控えていた
見習いに声を掛ける。

「じゃあ、村長に点滴を」
「はい、
 それでは隣の部屋へどうぞ」

医師見習いは村長を隣室へ通すと
控え室に居た次の患者を高子の元へ案内する。

「患者さんのカルテです」
「ありがとう
 あなたはあちらをよろしくね」
「分かりました」

高子が次の患者に
問診を行っているのを確認して
医師見習いは隣の部屋に入る。

「少しお待ち下さい」

薬品庫から点滴を持ってきて
準備を始める。

「最近はどうだ」

「最近、ですか?」

医師見習いの稔が
呆れたように呟く。

「悟は俺まで辿り着きましたよ。
 どうしてくれるんです
 これからあいつの前では行動しづらいな」

針を刺しながら稔が言う。

「村長
 わざと口を滑らせたでしょう?」

直子が諜報の帰り道に
予定していないルートを通ったこと。

「うん、やはりあいつは有望だ」
「跡継ぎを捜すのはまだ早いですよ
 村長にはまだ現役でいてもらわないと」

はい、しばらく安静にお待ち下さい、と
稔は点滴の措置を終える。

ぽつり、ぽつり、と
落ちる点滴の雫を眺めながら
村長は言う。

「お前のような役割の諜報員を育てるには
 時間がかかるからな」

実力がある事を隠しながら、
数年、数十年と過ごさなくてはいけない。
村人に弱い、力のない者という認識が浸透するまで。

もし、悟がいずれ村長になるつもりならば
その目当てを見付ける所から
始めないといけない。

「そうですね、
 いつまでもかけもちという訳にはいきませんから
 医師の助手も大変なんですよ」
「おいおい、
 どちらを辞める気だ」
「どっちでしょうね」

稔はどちらともとれる返事を
笑顔で返す。

「すまんがもう少し頑張ってくれ。
 お前の情報には、
 驚かされることも多い」

ところで、と
村長が言う。

「なにか目新しい事はあるか?」

「そうですね、新しいとなると」

ああ、そうそう、と
稔は言う。


「南に派遣している諜報員なんですが、―――」



T.B.2000
西一族の誰にも知られていない
諜報員の話。


「悟と諜報員」7

2015年12月15日 | T.B.2000年

「あ、悟さん」

病院を出た所で
悟は透と出くわす。
医師見習い稔の弟だ。

「ちょうど良かった。
 この前の話なんですけど」
「この前?」
「稔に俺の事聞いていたんでしょう?」

悟は一瞬身構える。
彼もまた、諜報員かもしれないのだった。

「北一族のおすすめのお土産は」
「あぁ、」

内心安堵の息を吐く。
そう言えば、そんな話で誤魔化したのだった。

一通り話した後、
でも、意外だったな、と
透が呟く。

「悟さんもそんな事で
 悩んだりするんだ」
「そういうお前はどうなんだ、
 もうすぐ結婚するんだろ」

まぁ、おめでとうな、と言うと
透は慌て始める。

「うわぁ、誰から聞いたんですか
 あ、稔か」

うーん、と唸る透に悟は笑う。

「なんだ、秘密だったのか?」
「そうじゃないですけど、
 あいつ、すぐ喋るから」
「いいじゃないか
 弟の結婚が嬉しいんだろ」

確か、この兄弟の父親は
彼らが幼い頃に狩りで命を落としているらしい。
稔は、透の兄であり父親でもあるのだろう。

「文句なら口の軽い稔に言っておけ」
「出来たら良いけど、
 俺、稔には敵わないんですよね」

頭が上がらないという事か。

「ケンカだって、多分勝てないし」
「そうなのか」

それこそ意外だな、と悟は笑う。

「この歳になって本気のケンカとかしないですけど
 小さい頃は絶対敵わなかったですよ」
「ふぅん」

狩りの腕とケンカの腕は
また違うのだろうか。

あれ?と
そこで悟は思い立つ。

「稔って狩りに出たことがあったか?」
「あんまり無いんじゃないかな」

その分、俺が頑張っています、と
透は胸を張る。

「狩りに出ない、って
 何でだったっけ?」

ええ?と
心底不思議そうに透が答える。

「だって、稔は
 医師見習いでしょう?」

悟は背筋に冷たい物を感じる。

ちがう、逆だ。

いつしか西一族には
運動の得意な物は狩りで功績を挙げ
そうでない者は医師などの専門職になる
という事が常識になって居た。

だから、

医師になる者は
狩りが出来ない、腕前が無い者と
勝手に思い込んでいただけ

おそらく、村人の全てが。

悟の考えはきっと途中まで合っていた。
一番の情報が集まる所は病院に間違い無い。

順番を待つ患者と話しながら
待合室で問診をしていたのは誰だ。
そして、足が悪い高子の代わりに
村中を往診するのは誰だ。

そして、彼は
本当に、狩りの、戦いの腕が無いのだろうか。
それとも。

「あ、稔」

透が声を上げる。
往診に出ていた稔が病院へと戻ってくる。

「透。なんだ、俺はまだ時間がかかるぞ」
「へーい、先に帰っとくよ。
 じゃあ、悟さん、俺はこれで」

「ああ、俺ももう帰るよ」

すれ違いざま、
悟は言う。

「そう言う、事、か」

「……何が?」

おや、と稔が首をかしげるが
なんでもない、と
悟もその場を立ち去る。

「高子先生、戻りました」

医務室に戻った稔に
随分時間がかかったわね、と
高子がため息をつく。

「もう、夕方の薬の時間なんだから
 少し急ぐわよ。
 準備をよろしく」
「はいはい、すみません」

高子が部屋を出ると
稔は1人、薬の準備を続けながら
窓の外を見る。

あぁあ、と
薄く笑いながらため息をつく。

「ばれちゃったかな?」



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