TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

2014年

2014年12月30日 | イラスト


今年も大変お世話になりました。
ありがとうございます。

来年もTOBA本館と併せてこちら別館もお楽しみ下さい。

TOBA(ともえ&ばしょ)


お正月は雪かな・・・・・・。
風邪などひかれませんように。

「高子と湶」2

2014年12月26日 | T.B.1999年

「そう云えば」

 仕事の途中。
 彼女は、薬品庫の前で立ち止まる。

「この前、薬品の数が合わなかったじゃない」
「あれ?」

 彼女の隣にいる、医者の見習いは首を傾げる。

「そうでしたっけ?」
「忘れないで」
 彼女の声が低くなる。
「薬品の数が合わないのは、大問題。調査はどうなったの」

「ああ、えっと」

 見習いは、自分の髪を触る。

「獣由来の病の、治療薬、ですよね?」
「そうよ」
「えーっと、あれは」

 彼女は、見習いを見る目を、細める。
 見習いは目をそらす。

「いつだったか、……狩りに出た者が怪我を負って、その病の疑いがあったので」
「投与したってこと?」
「……確か。それで、ひとつ足りなかったんだと思います」
「なら、診療簿に未記載だわ!」
「すいません……」

 彼女が云う。

「その者は、予防薬の接種から期間が空いていたの?」
「たぶん……」
 彼女は息を吐く。
「ちゃんと、やることやって!」
「……はい」

 彼女は薬品庫の鍵を取り出す。

「人手が足りないのよ」
「判っています」
「あなたに、やってもらわないと」
「……早く、役に立てるよう頑張ります」

 彼女は、見習いに鍵と診療簿を渡す。

「病棟の患者に、薬を投与するから準備してもらえる?」
「はい」
 彼女が差し出した薬の内容を、見習いは確認する。
「今日は、週に一度の薬を一斉投与するから、時間かかるわよ」
「はい」

 見習いが薬品庫に入ったのを見て、彼女は歩き出す。
 調剤室へ。
 ゆっくりとした足どりで。

 と

 廊下の角を曲がったところで、誰かにぶつかりそうになる。

「わ!」

 彼女は驚いて、声を出す。

「ああ、ごめんごめん」

 見ると、彼がいる。
「……驚いた」
 彼女は胸に手をやる。
「今日もお見舞いに?」
「そう」

 彼が頷く。

「あなたのおばあさま、容態は安定しているから、いろいろお話ししてあげて」
「判ってる」
「じゃあ」

 彼女は歩き出す。

「ねえ」
 彼が彼女を呼ぶ。
「何?」
「今、時間ある?」
「……ごめんなさい。忙しいの」
「それは、悪い」

 彼が云う。

「やっぱり、病院の仕事は忙しいんだ」
「ええ」
「なら、待つよ」
「え?」

 彼の言葉に、彼女は驚く。

「今日は遅くなるわ」
「そう?」
「……ごめんなさい」

 彼女は彼に背を向け、歩き出す。

 その後。

 調剤室で、彼女と見習いは、黙々と薬を作る。

 日が暮れる頃、

 診察をしながら、薬の投与に回り

 すべての仕事が終わったのは、日が変わってからだった。

 彼女は、書類をすべて整理する。

 外を見る。
 村の明かりも、ほとんど消えている。

 どうしようか。
 このまま、病院に泊まろうか。

 迷ったが、彼女は家の本を取りに戻ることを思い出す。

 ……仕方ない。

 荷物を持ち、彼女は病院を出る。

「あ、……終わった?」

「え?」

「大変だったね」

「……え!?」

 彼女は、そこにいる彼を見る。

「約束通り」
「約束なんかしてないけれど、」

 彼女は、彼を見る。

 不思議な人だな。

 そう思った。



NEXT

「湶と高子」2

2014年12月23日 | T.B.1999年

祖母との面会を終えて、彼は病室を後にする。

長い廊下には夕日が差し込んでいる。

「あぁ、もうこんな時間か」

さて、帰ろうと顔を上げ、
廊下の先の人影に彼は気がつく。
白衣を着て佇む人。確か、彼女は。

「あ」

彼の声に彼女がこちらを向く。

「それ、俺の」

彼女の手元には鳥の羽から作った装飾品がある。
「……あなたの?」
彼は彼女の視線を感じながらも笑顔を返す。

「ここに落ちていたのよ」
「そっか、ありがとう」

彼はそれを受け取る。
そう。確か彼女はここの医師だ。
彼の祖母を受け持っていて、そして、

厳しい先生。

ふと、医師見習いの友人の言葉を思い出す。
厳しい人なのか、と
彼は表情には出さず、少し身構える。

「……」

彼女の視線がまだ自分に向けられていると気づき
彼は言う。

「これ、はじめての狩りの思い出の品というか」

いや、他に言うこともあっただろう、と
彼は自分の言葉に内心呆れる。
でも、それは祖母に見せようと持ってきた物だ。
はじめての狩りの思い出の品。
見つかって良かった。

「そうだったの……ごめんなさい」

「え?」
彼は改めて彼女に向き直る。
「何。ごめんなさいって」
「いえ」
彼女は躊躇いながらも言う。
「―――鳥の羽だったから」

あぁ、と彼女の言わんとしていた事が分かり
彼は思わず笑う。

「鳥の羽なんか自慢して。とか、思った?」
それはそうだよな、と彼は笑いを止められない。
「確かに、鳥の羽なんか、たいしたことないよな」

鳥を獲って喜ぶのは、狩りを始めたばかりの
子ども達ぐらいだろうか。
少なくともこの村ではそうだ。

「謝ったわよ!」

なんだ、と彼は彼女を見る。
そんな事、正直に言わずに黙っていればいいのに。

「いいっていいって
 今度拾ってくれたお礼をするよ」
「いいわよ」

「確か、君はここのお医者さんだったかな」

彼は自分の記憶を確かめる様に言う。

「えぇ」

「じゃあ。
 この病院に来れば、間違えなく会えるな」
「お礼なんていいのよ!!」

彼女の声を背に聞きながら
いいよ、と彼は手をあげる。

そうそう。
最初に祖母を訪ねてきた時に
彼女には一度会っていたのだった。

その時もっと話していれば良かったな。

そう思いながら彼は家路に就く。


NEXT


「高子と湶」1

2014年12月19日 | T.B.1999年

「…………?」

 彼女は、病棟の廊下で立ち止まる。

 彼女の足下に、何かが落ちている。

「これは……、」
 彼女はそれを拾い上げ、見る。
「何かの羽?」

 よく見ると、
 飾りが付けられ、装飾品に仕立て上げられている。

 西一族独特の、狩りの証だ。

 西一族は、狩りを行う一族。
 仕留めた獲物の羽や骨を装飾品にし、お守りにすることがある。
 そして、それが、ステータスとなる。

「……でも、羽って」

 どうなのかしら。

 そう、彼女は首を傾げる。

 羽。
 つまり、鳥。

 装飾品にしても、自慢になるものではないような気もするが。

「あ。それ、俺の」

 突然の声に、彼女は横を見る。

 そこに、ひとりの青年がいる。

「……あなたの?」

 彼女は、彼をまじまじと見る。

 西一族でありながら、まだ、この村では新しい顔の彼。
 幼い頃、南一族に移住し、ここ最近、西一族の村に戻ってきたと云う。

 詳しくは知らないが。

「ここに落ちてたのよ」
「そっか」

 彼が頷く。

「ありがとう」

 彼女は、装飾品を渡す。
 受け取った彼を見る。

 彼が云う。
「……これ。はじめての狩りの、思い出の品というか」
「思い出?」
「そう。俺、南にいたからさ。狩りの経験が浅くて」

「そうだったの……。ごめんなさい」

「何。ごめんなさいって」
「いえ」
 彼女は、口元に手をやる。
「鳥の羽だったから」
「これが?」

 ああ。と、彼は、彼女を見る。

「鳥の羽なんか自慢して。とか、思った?」

 彼は笑う。

「確かに、鳥の羽なんか、たいしたことないよな」
「謝ったわよ!」
「いいって、いいって」

 彼は笑い続ける。

「今度、拾ってくれたお礼をするよ」
「そんなの、いいわよ」
「確か、君は、ここのお医者さんだったかな」
「ええ」
 彼女が云う。
「あなたは、おばあさまが入院してるのよね」
「そう」

 彼が云う。

「じゃあ。この病院に来れば、間違えなく会えるな」
「だから、お礼なんて」
「どうせ、見舞いでまた来るんだから」

 彼は歩き出す。

「お礼なんていいのよ!」

 彼女は、慌てて、その背中に声をかける。

 彼は、振り返らず、手を上げる。



NEXT

「湶と高子」1

2014年12月16日 | T.B.1999年

彼は病院を訪れる。

「こんにちは、お見舞いなんですけど」

はいどうぞ、と
受付の青年は用紙を差し出す。
「ではこちらにお名前を」
彼は言われるがまま必要事項を書いていく。

「……あれ?」

その様子を見ていた青年が小さく声を上げる。
視線は彼が書いた名前と顔を交互に追う。
「久しぶり、帰って来たんだ!?」
急に親しげになった青年に彼は目を凝らす。
「―――あぁ!!お前か!!」
「そう、今はこの病院で医師見習い兼雑用」
へぇ、と彼は驚きの声を上げる。
「昔はそんなタイプじゃなかっただろう。
 お前が医師見習いとは意外だな」
「そうか?」
「十数年ぶりだからかな。
 色々変わってるものな」

幼なじみの彼らは、すぐに打ち解けて話し出す。

「お前は小さい頃のままって感じだな。
 どうだ、久しぶりのこの村は」
医師見習いの青年が彼に尋ねる。
「意外と覚えていたよ。
 でも初めて見る所も結構あった」
「そうか、じゃあ今度案内―――って言いたいけど
 俺も休みが不定期だし」
「医師見習いなら仕方ないな、
 勉強することも多いんだろう」
「先生が厳しくってさ」

やれやれ、と医師見習いの青年が言う。

「また今度って事か。
 引き留めて悪かったな、どうぞ、部屋は分かるか」
「この前一度来ているから大丈夫だ。ありがとう。
 まぁ、無理せずにな」

彼は手を振り、目的の部屋を目指す。

廊下の突き当たり。
彼は扉を小さく叩く。

「ばあちゃん。入るよ」

病室には彼の祖母が居る。
幼い頃から長く村を離れていた彼が
村に戻ってきた理由。

彼はベットのそばに腰掛け
祖母を気遣いながら、たわいもない話を続ける。

今まで居た村での話。
この村に帰ってきてからの事。
昨日の家での出来事。

「あぁ、そう。
 俺この前初めて狩りに出たんだよ」

彼ら西一族は狩りの一族。
だが、村を離れていた彼は狩りの経験が浅かった。

「初めての狩りだから緊張したよ。
 でも、楽しかった。周りも皆フォローしてくれたし」
「お前は筋が良いから大丈夫だろう。
 すぐに慣れるよ」

それでさ、と言いかけて、
彼はあれ?と首をひねる。

「どうしたね」
「あぁ。いや」

彼は自分のポケットや上着を探る。

「持ってきてたと思ったのだけど、
 ちょっと忘れ物……かなぁ」
「大丈夫かい?」
「うん、大した物じゃないんだ。
 それよりばあちゃんは大丈夫?
 俺、話しすぎたかな」

「大丈夫だよ。お前と話が出来るのが嬉しいんだ。
 それに、先生が良くしてくれるからね」
「先生……」

そう言えば初めて病院を訪れたときに
少し話したな、と彼は思い出す。
と同時に先程の医師見習いの青年の言葉を思い出す。

厳しい先生。

「そうは見えなかったけど」

「……なんの話だい?」
ふと漏れた言葉に祖母が答える。
彼は苦笑しながら首を振る。

「なんでもないよ」


NEXT