TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「西一族と巧」13

2020年02月28日 | T.B.1997年


「耀、見つからなかったって?」
「そうなのよ」

 狩りが終わり、西一族の村での作業中。

「もう1年近いんだっけ? いなくなってから」

 その言葉に、京子は頷く。

「どこに行っちゃったのかなぁ」

 いつからか、耀の姿は西一族から消えた。
 もともと、村の外に出ることが多い耀だったが。

 妹である京子は、暇さえあれば耀を探していると云う。
 つい先日も、北一族の村まで出向いていた、と。

「でも、まあ。思ったよりは落ち込んでないわよ」
「無理はしないで」

 華が云う。

「京子まで倒れたら、大変」
「気を付けるわ」

 はい、と、研ぎ終えた小刀を、華は受け取る。
 華はそれを拭き上げる。
 京子は、次の道具に取りかかる。

「それ重いだろ。代わるよ」
「ありがと、巧。じゃあお言葉に甘えて」

 巧は、受け取った道具の整備をする。

 華と京子は獲物を捌くのを手伝う。

「今日は獲物が多かったから急げよ!」

 向が云う。

「ほら、巧も」
「手分けして」
「広司は捌き終わったみたい」
「もう終わったの!? 早いわね、どれどれ」

 まだ、狩りの班では年下である広司の動きに、皆驚く。

「広司は、狩りの感覚も、捌くのも上手いんだな」

 うんうん、と、向が頷く。

「上手に出来てるわ。手際がいいのよ」

 京子は、嫌がる広司の頭をなで回す。

「京子、あまり広司をからかうな」
「からかってません! これはそう、先輩からの助言よ」

 巧は息を吐く。
 あきれる。

「それがからかっていると云うんだ」

 その後も、わいわいと作業を続け、
 日が暮れるころ、やっと終わりとなる。

「お疲れー」
「巧、このあと飲むか?」
「そうだな」
「あれ? 京子と広司は?」
「とっくに帰ったぞ。気付かなかったのか、華」
「えぇえ? いつの間に?」

 華は首を傾げる。

「まあ、いいじゃないか」
 向は頷く。
「いるやつだけで、飲みに行こう」

 向の手には、今日捌いたばかりの肉が握られている。
 これを屋台で焼いてもらうのだ。

 向は、広場に残っている者に声を掛ける。

「ねえ?」

 華が云う。

「どうかした? 巧」
「え?」
「何か考えごとかと?」
「いや、別に……、何でも」
「ふーん?」

 向が屋台の方へ行こうと、手を振っている。
 華が走り出す。

 巧はその様子を見る。

 これまで通り

 きっと

 ……たぶん。




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「東一族と裏一族」17

2018年10月12日 | T.B.1997年

「裏一族は?」

「飛ばしました」
「どこへ?」
「北一族の方向へ」

 東一族式紋章術。

 転送術。

 かなりの力を使うが、人を別の場所へと転送することが出来る。

「ついでに印も」

 安樹が云う。

「東一族の村に近付けば、感知が出来るようにしてあります」
「そうか」
「まあ、解除されれば、意味はありませんが」

「期待は出来ないな」

「裏一族ですから」

 おそらく
 いろんな魔法に精通した者たちが集まっている。
 解除はたやすいだろう。

 気休めにしかならない。

「蒼子」

 安樹は、蒼子に近付く。

「大丈夫か」
「ええ……」

 蒼子は立ち上がる。

「無理はするな」

 安樹が云う。

「裏一族は、これからも入り込んでくるでしょう」
「だろうね」

 光院が云う。

「とりあえずは、満樹を狙っているんだろう」
「満樹にも印を」
「そんなことを……」

 蒼子はうなだれる。

「満樹を守るためにね」

 光院が云う。

「満樹は、おそらくまた村を出るはずだ」
「でしょうね」
「自身が村で劣っていると思っているから」

 云いながら光院は首を傾げる。

「そんなことはないんだけどね」
「恐縮です」

 安樹が頭を下げる。

 光院は笑う。

 安樹は、再度頭を下げる。
 歩き出す。

 蒼子も振り返り、それに続く。

 光院はその背中を見る。

 そして足下を見る。

 先ほどの魔法痕が、まだ残っている。

 その一部が、黒く光る。

「困ったな」

 光院は横にいる狼をなでる。

「裏一族も、とんでもない印を残してくれたようだ」

 黒く光る部分は

 東一族が使う術式ではない。

 光院は手をかざす。

 そこに、新たな陣が現れる。

 その陣が、黒い光を飲み込む。

 淡い光。

 黒い煙が立ち上る。

 やがて、その光ごと

 光院の手に戻される。

「さあ、行こうか」

 光院は狼と歩き出す。

 この黒い光は、やがて。



T.B.1997年 東一族と裏一族

「東一族と裏一族」16

2018年10月05日 | T.B.1997年

 裏一族が見る方向を、蒼子は見る。

 風が吹く。

 そこに、

 光院。

「早いな。大将さんにでも云われたか」

「どうかな?」

「ああ、嫌だなぁ」

 そう云いながらも、おもしろそうに。
 その笑いは、愉快と云わんばかりに。

「光栄なんだけどねぇ」

 裏一族は蒼子の腕を掴んだまま、云う。

「俺らみたいな裏もんが、一族の重役に会えると云うこと」
「それはよかった」
「あんたの弟さんにも会ったぞ」
「そう」
「怖いな、あいつ。裏に勧誘したいぐらいだ」
「伝えておくよ」

 裏一族は、一歩出す。

 その動きに光院は首を振る。

「ここまでって意味か?」

 裏一族は、地面を指さす。
 そのまま指を横に動かし、線を表す。

 境界線、の意味で。

「中には入れてくれないんだな」
「それはどうかな」
「試していいのか」
「それもありだ」
「ふーん」

 裏一族は、光院の横にいる狼を見る。

「でも獣がいるからなぁ」
「この子は、怖くない」
「いや、獣は友だちじゃないから。俺は」
「そうか。西一族は動物が怖いのか」
「…………」

「さあ、東一族を放してくれないか」

「…………」

「どうした、裏一族?」

 瞬間

 裏一族は、蒼子を突き倒す。

 取り出した剣を、振り下ろす。

「やめろ!」

「きゃ、」

 蒼子は顔を伏せる。

 が

「!!?」

 足下が光る。

「これはっ」

 裏一族の足下が光る。

「何」

 東一族式紋章術。

「くっ!」

 あまりのまぶしさに、裏一族は目がくらむ。

 蒼子も目を閉じる。

「!?」

「これはっ」

 …………。

 …………。

 風。

 何も

 聞こえない。

 蒼子は、顔を上げる。
 目を開く。

 横に、

 裏一族はいない。

「これは……?」

 光院を見る。
 光院は頷き、指を差す。

 その方向に

「安樹」



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「東一族と裏一族」15

2018年09月28日 | T.B.1997年


 蒼子は歩く。

 市場を抜け
 やがて、人通りがなくなる。

 蒼子は立ち止まる。

 風の音。

 蒼子は空を見る。

 何かの気配。

「やあ、」

 声。

「やっぱり来てくれたんだ」

 蒼子はあたりを見る。

「えーっと、名まえは、」
「どこにいるの?」

 風がやむ。

 人が姿を現す。

 先日の、裏一族。

 同じ者。

 けれども、今日は前回とは違う。
 別の一族の格好をしている。

「改めて、久しぶり」
「…………」
「子どもは元気かな」

 蒼子が云う。

「いったい、何の用?」

「何の用って」

 裏一族は笑う。

「会いに来たんだよ、君に。えーっと、」
 裏一族は首を傾げる。
「名まえは何だったかな?」

 蒼子は首を振る。

 この者に、名まえを教えた記憶はない。

「東に来るのはやめて」
「なぜだ?」

 裏一族が云う。

「俺がどこへ行こうと勝手だ」
「なら、何用で東に?」
「ふふ」

 裏一族は再度笑う。

「厳しい女だ」
「答えて」
「知りたいのか?」
「…………」
「前も教えただろう」

 裏一族はあたりを見る。

 何かの気配を感じているのか。

「俺には血が必要なんだよ」
「血……」
「それは昔も今も変わらない」
「まさか」
「だから、とにかく俺の血を残さなきゃならない」

「なら」

 蒼子は息をのむ。

「今も、いろんな一族の、……女の人を」

「そう!」

 裏一族は蒼子に近付く。
 蒼子はそこに立ち尽くしたまま。

「物判りがいいなぁ!」

 そう、蒼子をなでる。

「お願い」

 蒼子が云う。

「子どもを連れて行くのはやめて」
「何?」
「満樹を連れていくのはやめて」

「ははっ」

 蒼子の肩を叩く。

「そうか。満樹、か」

 裏一族は頷く。

「あの次男もそう云っていたな」
「…………」
「偽の父親が付けた名まえか」

「偽?」

 蒼子は裏一族を振り払う。

「何を!」
「おっ!」

 裏一族は、蒼子の腕を掴む。

「同時にな、俺の子を産んでくれた母親たちも集めてる」
「何、」
「感謝してるからさ」
「人を呼ぶわ!」

「呼んでなくても来ているだろう」



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「東一族と裏一族」14

2018年09月21日 | T.B.1997年

 満樹は、光院の横に坐る。

 川では、集まった者たちが戯れている。
 その様子を見ながら、光院が云う。

「満樹、また村外に行くんだって?」
「え?」

 光院の言葉に満樹は驚く。

「うん、まあ。その予定だけど」
「しばらく、やめた方がよくないか?」
「何が?」
「村外に行くことを、だよ」

 光院が云う。

「とにかく、今は外の動きがおかしい」
「…………」
「やっぱり、仲間に何かあるのは心配だからさ」
「光院?」

 満樹は首を傾げる。

 光院は、満樹を見る。

 満樹は、
 この状況を、そんなに深刻だと思っていないのか。

 いや

 でも、狙われているのは自分であると

 満樹も判っているはずだ。

 判っていて

 東一族に危害を及ぼさないために、村外へ出ようとしているのか。

 光院は考える。

 昨日、自身の弟が接触した裏一族。
 が
 まだ、東に入り込む機会を窺っているはずだ。

 満樹を連れて行くために。

 それは、無理にでも裏へと連れて行くのか
 それとも
 何かしら、説得をするのか。

「満樹」
「何?」

 光院が云う。

「満樹が村外に行けない理由はもうひとつあって」
「え?」
「今夜も務めが入っている、だろ?」
「お!」

 満樹は驚く。

「2夜連続?」
「そんな云い方?」

 川縁では、火を起こしはじめている。
 その横で、野菜を串に刺す者。

 昼に食べるものを、焼くつもりなのだろう。

「何々、どうした?」
 戒院がやってきて、満樹の横に坐る。
「俺、今夜も務めなんだけど……」
「すごい、連続!」
 戒院が云う。
「何かしでかしたのか?」
「何も心当たりは……」

 その様子に、光院は笑う。

「あいにく、俺は予定があって代わってやれない!」
「判っているよ……」
「悪い!」

 戒院は、大きな声で兄を呼ぶ。

「おい成院! 満樹の務めを代わってやれよ!」
「何を云う!」

 成院は、薪を集めながら云う。

「代わるも何も、俺も務めだ!」
「えっ、成院もか」
「俺と満樹が一緒に務めに出るんだよ」
「意味ないな」

「仕方ないよ」

 はあ、と、満樹はうなだれる。

「満樹の兄さん」

 光院が云う。

「村外へ行く前に、もっと東でゆっくりして行きなよ」

「ゆっくりと云うか」

 満樹は顔を上げる。

「延々と、務めをさせられそうな気がする」



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