――人の命を使い、何かを成し遂げる魔法。
山一族と海一族は、それぞれに顔を見合わせる。
「この世に存在してはならない、」
「禁止された魔法……ではないか」
どちらともない、呟き。
「この魔法、誰がやったと思う?」
若い海一族が、ちらりとヒロノを見る。
ヒロノは首を振り、訊き返す。
「紋章術を使う山一族を、疑っているのかと」
「それは、違うのだろう?」
「もちろんだ」
ヒロノは云う。
「こんな巨大なもの」
山一族が扱うには、あまりにも大きすぎる紋章術。
若い海一族は、後ろを振り返る。
「海の異変がなければ、こちらも山の仕業だと思ったが」
その言葉を継ぎ、海一族の長が云う。
「我が村に、裏一族が現れた」
「そちらにも!?」
「やはり、山にも、か」
「確証はないが、おそらく」
両一族の村に、同時に裏一族が現れたと云うこと。
「裏一族の目的は判らない。ただ、事を急いでいるようだ」
普段は人の目に触れずに動く裏一族。
が、
こんなに大きな騒ぎを起こしている。
しかも、この魔法陣。
ヒロノは、メグミを見る。
「おい、どうする?」
「この魔法陣はどうなのよ」
メグミは腕を組む。
儀式の場所に、カオリがいるかもしれない。
生け贄のことが解決するかもしれない、と、この場所に来たのだ。
簡単に引き下がるわけにはいかない。
ナオトが云う。
「この陣の中に入らなければ、安全だろう」
その言葉にヒロノは頷く。
「術は、陣の中で発動するからな」
その外にいれば、当然問題はない。
けれども、この先に進みたいのだ。
と、
「この中にトーマがいる! 彼が危ない!」
また別の海一族が声を上げる。
「トーマって?」
メグミは目を細める。
「この陣の中に、海一族の誰かがいると云うの?」
「ああ」
海一族が頷く。
「連れ去られた者と、あとを追った者がふたり」
全部で3人。
「ほかにも、いるかもしれない」
「それはまずいな」
「連れ去られた者、とは?」
声を上げた海一族が云う。
「海一族の村に、山一族がいたんだ」
「うちの一族が!?」
「なぜ!?」
それは判らない、と、首を振り、海一族が云う。
「その山一族が、裏一族に連れ去られたんだ」
この先、
儀式の場所へ。
「生け贄だと、裏一族は云っていた……」
「まさか、カオリが、」
「海一族の村に?」
「その後を追ったひとりも、また、山一族だ」
ヒロノとメグミは顔を見合わせる。
「アキラのこと、か」
何と云うこと
そう思いながらも、
やっぱりそうだったのか、と、確信する。
「そちらの村に入ったことは、後に詫びを入れよう」
ヒロノは息を吐く。
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