TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「海一族と山一族」18

2017年01月31日 | T.B.1998年

「兄、お前が?」
「そうだ」

山一族は言う。

「山一族の状況が変わった。
 少なくともその事はカオリに伝えたい」
「それは代わりの犠牲を立てたと言う事か」
「……よく知っているな」

やはり、とトーマは頷く。
以前山一族が問題はないと言ったのは
そういう事。

「それで、カオリはどこだ」

何度目かの山一族の問いかけに、
トーマは背を向ける。

「ついて来い、こっちだ」

もう、日が昇る。
足早に進むトーマの後を
無言で山一族が付いてくる。

「カオリは俺の家に居る」

背を向けたまま
トーマは説明する。

「怪我をしていたので
 状態が落ち着くまで、と匿っていた
 事情はその時に聞いている」

ふと、後ろの気配が止まったので
トーマは振り返る。
山一族の青年はトーマに頭を下げる。

「妹が世話になった」

思ってもいなかった彼の行動に
トーマは驚く。

どこまで、気を許したものか。

少し考えるが、トーマは言う。

「俺はトーマ」

それに返すように彼が答える。

「アキラ」

「アキラ、そうか。
 それじゃあ、急ごう」

それから2人は無言で進む。
これ以上日が昇ると
村人に目撃されてしまう。

家に辿り着いた所で
トーマはアキラを止める。

「カオリは帰らなくては、と
 何度も言っていた。
 引き留めたのは俺だ」
「分かっている」

日は昇り始めている
もう、カオリも目を覚まして居るだろう。
トーマは寝室の扉を叩く。

「カオリ」

扉の向こうで人が動く気配がして
扉に近寄ってくる。

「トーマ?
 今日は出かけると?」
「カオリにお客さんだ」
「お客?」

扉が内側から開かれる。
カオリがトーマを見る。
そして、その背後にいる人に気がつく。

「兄様!!」

カオリは驚いているが
その表情は恐怖では無い。

「カオリ、こんな所に居たのか、
 ケガをしたと聞いたが」

アキラの問いかけに
カオリは首を横に振る。

「えぇ、でももう大丈夫よ」

カオリの安心しきった表情を見て
彼が本当の兄なのだと実感する。

「よかった、
 本当に兄妹なんだな」

もしかしたら、
兄と偽っている事もありえた。

アキラがトーマに振り向く。

「何と礼を言ったらいいか」

トーマは首を振りそれを制する。

確かにカオリは無事だ。
だが、トーマは一時的に助けたに過ぎない。
問題はもっと根本的な所にある。

「とりあえずは、ここにいれば安全だ。
 ……適当に座ってくれ。お茶でも入れる」

そうトーマは席を外す。

お茶、と言ったが暫く戻るつもりはない。
2人で話す事もあるだろう。

「………」

寝室を出て、
少し離れた居間の椅子に腰を下ろす。

「どうしたものかな」

ひとり、そう呟く。



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「山一族と海一族」21

2017年01月27日 | T.B.1998年

「確認なんだが」

 海一族の彼が云う。

「カオリが今、どう云う立場にあるのか、お前は知っているのか」

 その言葉に、アキラは彼を見る。

 おそらく、生け贄の存在は
 海一族も一部の者しか知らされていないのだろう。

 山一族と海一族の生け贄であることをお前は知っているのか。

 そう、彼は云っているのだ。

 アキラは答えない。
 云う。

「カオリはどこだ」

 彼は首を振る。

「居場所は教えない」

 その言葉にアキラは目を細める。

「カオリは返してもらう」
「なぜだ」
「山一族だからだ」
「なぜ、カオリが両一族の犠牲にならなければならない」

 ああ、そう云うことか。

 アキラは息を吐く。

「生け贄にするために、連れに来たわけじゃない」
「何?」

 彼はアキラを見る。
 再度、確認するかのように。

「お前は、カオリとどう云う関係だ?」

「俺は、兄だ」

「……兄?」

 彼は驚きの表情を見せる。

「お前が?」
「そうだ」

 アキラは云う。

「山一族の状況が変わった。少なくとも、そのことはカオリに伝えたい」
「それは、……代わりの犠牲を立てたと云うことか」
「よく知っているな」

 この海一族はどう云う立場なのだろうか。
 生け贄と云う儀式についての情報を、思ったよりも知っている。

 アキラは再度問う。

「カオリはどこだ」

「ついて来い、こっちだ」

 彼は背を向け、歩き出す。

 アキラは彼に続く。

 あたりを見る。
 人気がないところを、彼は進む。

 アキラは空を見る。
 日が昇ってきている。

 急がねば。

「カオリは俺の家にいる」

 歩きながら、彼は云う。

「怪我をしていたので状態が落ち着くまで、と」

 アキラははっとする。

 そうだ。
 カオリは川に落ち、海一族の村まで流されたのだ。
 怪我をしていても不思議ではない。

 アキラは立ち止まる。

「事情はそのときに聞いている」

 と、海一族の彼が振り返る。

 アキラは云う。

「妹が世話になった」

 頭を下げる。

「あ、……ああ」

 彼は驚きつつも、云う。

「お前、名は?」
「名?」

「俺は、トーマ」

 彼が名乗る。

 アキラは彼を見る。

「アキラ」



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「海一族と山一族」17

2017年01月24日 | T.B.1998年

トーマは山一族の青年に振り返る。

「お前、カオリと言ったな」

覚悟を決めなくては。
カオリの事を匿うと決めた以上
これはトーマに責任がある。

「俺は、山一族のカオリを知っている」

山一族の青年はトーマの言葉に
一瞬目を見開いた後、そうか、と呟く。

彼が立ち上がったので
トーマは少し距離を取る。

「おい、武器は無しだぞ」

なぎ倒して置いて、納得してくれるだろうか、と
トーマは両手を挙げる。
武器には手を付けず、攻撃の意図が無いと示すため。

それに、この状況では
カオリの手がかりを持つトーマの方が
優位に立っているはずだ。

「………」
「………」

しばらくの沈黙の後、
山一族も同じ様に手を広げてみせる。

「カオリはどこだ」

トーマは彼に問いかける

「確認なんだが、お前は」

問題は彼がどんな目的で
カオリを連れ戻しに来たのかという事。

「カオリが今
 どう言う立場にいるのか
 知っているのか?」

その言葉に、山一族はトーマを見る。

トーマは悟る。

彼は知っている。
カオリが生け贄になるという事を。
そして、そのための迎え。

「カオリは、どこだ?」

山一族はトーマの質問には答えず
カオリの居場所を問いかける。

トーマは首を振る。

「居場所は教えない」

教える訳にはいかない。

山一族の目が細められる。

「カオリは返してもらう」
「なぜだ」
「山一族だからだ」

当然だ、と言わんばかりに
山一族が答える。

「なぜ、カオリが両一族の犠牲にならなければならない」

言葉の応酬で思わず出た言葉に
トーマは自分で驚く。

「…………」

今までは納得していたつもりの犠牲も
知っている人になったらこの有様。
情けないと思わず口に手を当てる。

「生け贄にするために
 連れに来た訳じゃない」
「……なに?」

トーマが山一族を見つめる。

彼もまた複雑そうな表情を浮かべている。

「お前は、カオリと
 どう言う関係なんだ?」

山一族は答える。


「兄だ」


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「山一族と海一族」20

2017年01月20日 | T.B.1998年

「生け贄の日を早めると云うのはどうだ?」

 ヒロノとメグミは村の中を歩く。
 族長フタミの屋敷へと向かって。

 あたりには誰もいない。

「そんなこと出来るわけないでしょう」

 メグミは大きく息を吐く。

 ヒロノは云う。

「この生け贄は、本来選ばれた者ではない」
 だから
「早く殺してしまえば、何ごとも丸く収まる」

「あんた、本気で云ってる?」

 メグミは目を細める。

 誰が生け贄であろうと、命を失うことには変わりない。
 簡単に執り行うことではないはずだ。

「このまま、災難が続いてみろ」
「あんたがいる限り、私は災難だらけよ」
「おい。口が減らない女だ」

 ヒロノは持っている杖を鳴らす。

「海一族から、儀式の不手際を問われることになりかねない」
「どうかしらね」

「何だ」

 ヒロノは再度、杖を鳴らす。
 苛ついている。

「どう、とは、どう云うことだ」

「アキラが云っていたのよ」
「何を?」

「これは人災じゃないかって」

「人災?」

「動物たちの異変も、一族に広がる病も、毒のせいだって」
「毒?」

 ヒロノは笑う。

「毒って、いったい誰が!」
「知らないわよ」
「そうだな。確かに毒なら、……」
「なら?」

「いや、まてよ」

 ヒロノは考える。

「水辺のはるか遠くの地に、毒を使う一族がいるな」
「……ああ。知ってる」
「でも、遠くだぞ」

 ヒロノが云う。

「俺たちと接点のないその一族が、なぜ俺たちに毒を使う必要がある?」

「そうね」

 メグミが云う。

「もうひとつ、可能性があるとすれば?」

「…………」
「…………」

「裏、か」

 ヒロノは再度考える。

「お前の弟が云うなら、仕方ない」

 ヒロノは、冷笑する。

「村内の結界を外にまで広げて、侵入者でも探ってみるか」

「あら」

 メグミは鼻で笑い返す。

「やれば出来るんじゃない」



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「海一族と山一族」16

2017年01月17日 | T.B.1998年
トーマの呼びかけに、
彼は、こちらへ向き直る。

山一族の金色の目が
灯りに照らされている。

歳は若い。
自分とそう変わらない年頃だろう。
そして、背には弓矢。

トーマは、腰のナイフに手をかける。

「なぜ、海一族の村に」

そんなトーマの様子に気付いたのか、
彼も、その場で構えを取る。

そもそも、
海一族と山一族には
お互いの領土には立ち入らないという
暗黙の了解が出来ている。

「………」

他に人の気配はない。

今はトーマだけだが
ミナト達がすぐに引き返して来るだろう。

いくら実力があっても
一人で数人を相手には出来ないはず。

そうまでして、
決まりを破ってまで海一族に来る理由。

トーマには1つしか思い浮かばない。

「探しに、来たのか」

思わず呟いた言葉に
山一族は反応する。

「カオリを、知っているのか」

確信する。
山一族の村から消えたカオリを
探しに来た。

予想はしていたはずだ。

カオリが生け贄であるのならば、
いつか、誰かが迎えに来る事。


どうしよう


トーマにそんな思いがよぎる。

カオリは山一族の村へ返さなくてはいけない。
迎えが来たのならば、ちょうど良い。

今、ならば
誰にも知られないうちに、
何も起こらなかったように、
カオリを返すことが出来る。

それでも、
トーマの中では何も結論が出ていない。
カオリとも何も話せていない。

「おーい、トーマ?」

遠くから灯りが近づいてくる。
ミナト達が戻ってきた。
トーマの不在に気付いたのだろう。

山一族は矢に手を掛けようとする。

「……っ!!」

トーマは山一族の手を引き、
草むらに押し倒す。

「お前っ!!」
「静かに!!」

トーマは一人、道に戻る。

「トーマ、どうした」

ミナトが駆け寄る。

「大丈夫、なんでもない」

背を草むらに向けた状態。
無防備にも程があるなと
そう思いながら、トーマは話を続ける。

「忘れ物をしたようだ。
 すぐに追いつくから
 先に行っていてくれないか」
「そうか?」

首を捻りながらもミナトはその場を後にする。

「分かった。
 早く戻れよ」

彼らの姿は遠ざかっていく。

これで、良かったのだろうか。

「どう言うつもりだ」

そこには、山一族の青年とトーマが残される。


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