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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「タロウとマジダとジロウ」おまけ

2017年04月25日 | T.B.2001年

「君は、ここの春は初めてだろう」

南一族の医師が言う。
いや、とタロウは答える。

「去年も居ましたけれど」
「ほぼ病室で過ごしていたじゃないか、
 あれは、カウントしません」
「……カウント」

「楽しんだら良いよ。
 昼間っから堂々と、飲めるの、なんて
 花見ぐらいなんだから」

イエーイ、と医師が花見の集団に駆けていく、
と、思いきや
一回戻ってきてタロウに耳打ちする。

「いつか、事情を話せるときが来たら
 あの子達に聞かせてあげたらよい」

「えぇ、いつか」

そうだね、と医師が言う。

「僕にとっては
 君が抱えている問題は
 そう大きな事では無いと思う」

きっと二人もそう言うだろう、と。
そして、
ゴホン、と僅かに咳払いして続ける。

「早いほうが良いかも。
 どこかの村で罪を犯したアサシンぐらいに思ってるから」
「……ええぇ!!」
「今回は君が悪い。
 大げさな言い方するから」

「ちょま、ちょっと、待って。
 マジダ。ジロウ。
 あのね~」

あわてたタロウが
二人の元へ駆けていく。



「タロウとマジダとジロウ」10

2017年04月18日 | T.B.2001年

「タロウ」

「出て行くの?」
「いや、俺は」
「ちゃんと、答えて」

マジダの言葉に、タロウはしばらく逡巡して答える。

「うん」

「なんで?」
「なんで、って」

「みんなに迷惑がかかるから」
「かかってないわ」
「これから、きっとそうなるから」
「だから?」
「もっと遠くに行かなくちゃ、て」

不思議だ、とタロウは思う。
マジダを前にすると
黙っておこうと思っていた言葉が
自然と口から出てくる。

「私、毎日遊びに来ていたわよね」
「ああ」
「年上のタロウ相手に
 生意気な言い方もしたわよね」
「そうだね」

「迷惑だった?」

タロウは首を振る。

「いや、楽しかったよ」

毎日、お茶とお菓子を準備して
待つくらいに。

「行きたい所があるなら
 帰りたい所があるならいいけれど」

ねぇ。と
マジダが言う。

「でも、そうじゃないなら
 居なくならないで」

服の裾をぎゅっと握り、
マジダが震える。

「……マジダ?」
「タロウがタロウじゃなくても
 迷惑かけても
 みんな、がっかり、しないから」

うわぁあ、とマジダが泣き出す。
ジロウが言っていた、
女を泣かすな、と。

「あ、わ、わ。
 マジダ、ちょっと、泣かないで」

「あぁあ、泣かせちゃった、
 知らないんだ~」
「マジちゃんを泣かせやがって」

遠くから様子を見ていたのか、
南一族の医師とユウジが歩み寄る。

「え」

「マジダがね、自分で止められなかったらって
 呼んで置いたんだよ」

ジロウの言葉に応えるように
医師が言う。

「まぁ、必要無かったみたいだけど」
「医師様」

南一族の医師はタロウを制する。

「タロウ、違うだろ。【先生】だ」
「あ」

タロウは口元を押さえる。
ユウジもその様子を見て告げる。

「どうだ、キナリより
 もっと前の名前に戻りたいなら
 俺は止めないが」

かろうじてタロウの事情を知っている二人。

「みんな、お前のこと結構気に入ってるんだ。
 お前が思っている以上にな。
 困っているなら皆が協力する」

タロウは、ユウジに頭を下げる。

「ありがとうございます。村長」
「いつも通り、ユウジさんで構わねぇよ」

「俺も」

タロウは辺りを見回す。

最期にマジダの方を見つめ、
こぼれるように口にする。

「俺も、タロウが、いいです」

「タロウ!!」

ごめんね、と
マジダを抱えながら
タロウはジロウに目配せする。

少し震えている。

それはそうだ、
怒る大人を一人で相手にしたのだから。
でも、意地でもタロウを引っ張り出した。

「ジロウ、君
 格好良かったんだな」
「当たり前だ、
 ―――じゃあ、行くか」

「そうだな」
「みんな待たせてますからね」

え、何に?と一人タロウは混乱する。
ユウジも医師も、みんなでどこに?
マジダが涙を拭き、降りる、と言うので
そっと下ろしてあげる。

「みんなに声かけていたの。
 もうすぐ満開だから、そうなったら行こうって」
「ずっと計画してたんだからな、
 おれん家のぼたもちも沢山持ってきたぞ」

マジダがタロウの手を引く。
ジロウは仕方ないと言うそぶりで
二人の後を追う。

「桜が満開なの。
 今日はね、お花見よ」

タロウは歩く。
それは、行こうとしていた村の出口ではなく、
村の中心の広場。

明日もまた、遊ぼうと約束しながら。


南一族の村にて
T.B.2001タロウとマジダとジロウ



「タロウとマジダとジロウ」9

2017年04月11日 | T.B.2001年

ジロウはタロウの事をよく知らない。

子どもにとっては、
一回り歳が離れている人なんて
そんな物。

大人に聞いて知っているのは
どこか遠くの村で暮らしていた、
病院のタカシ先生の親戚だという。
それなら南一族……だと思う。
南一族の証である頬の入れ墨もある。

ここ1年の間で南一族に戻ってきた。

暮らしていたと言う遠くの村で
何かあった、かもしれない。

気がつけば居た。

気になっている子が
毎日のように通い詰めていると聞いて
様子を見に行った。

単純に遊びに行っているだけだが
何とも頼りなさそうな
へらへらした男だ、と思った。

マジダ、こいつのどこが良いの?

と、それが未だに疑問。


「タロウ!!」

小屋へ入る第一歩は
いつもより少し勇気が要る。

それでも怒りの方が勝っているジロウは
ずかずかとタロウの小屋に入る。

「おい、危ないから」
「仕事なんてしてないくせに」
「何言ってるんだ、
 今は忙しいから、しばらくは」
「知るか、出かけるんだよ」

引っ張ろうとするジロウの手を
タロウは簡単にふりほどく。

「昨日も言っただろう俺は」
「俺に構うな、
 居なくなるからって?」
「……カイセイ」

タロウが低めの声でジロウを呼ぶ。
ここに来て本名で。

ジロウだって知っている。
頼りない様に見えて、
タロウはきちんと【大人】だ。

怒っている。
でも、それはジロウも同じ。

ジロウがタロウのすねを蹴る、が
自然に避けられる。

「こら、何やって」

分かってる、
最初に会ったときだって、
避けられたのを避けなかった。

だから、ジロウは悔しかった。

けど、

「もっと周り見てみろよ!!」

最初っから避けられるつもりで
ジロウは逆の脛を
思いっきり蹴り上げる。

「いっつ!!」

思ってもいなかった動きに
タロウは思わず屈み込む。
ジロウは背後に回り、背中を思いっきり押す。

ただ、それだけ、
タロウはふらついて前に2.3歩よろめく。
入り口付近で揉めていたせいで
タロウは小屋から出る形になる。

「女、泣かすな、バカ!!」

そんなジロウの怒鳴り声に
タロウは思わず前を見る。

「………」

マジダがそこにいる。


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「タロウとマジダとジロウ」8

2017年04月04日 | T.B.2001年

「おはよう、タロウ」
「来てやったぞ」

作業小屋の入り口で
マジダとジロウがタロウを呼ぶ。

小屋の中にはタロウが仕事で使う物が多い。
危ない物もあるので
タロウが良いよ、と言ってから入るのが決まり。

「おはよう2人とも」

す、とタロウが顔を出す。

「今日は何して遊ぶ?」
「……申し訳ないけれど、
 今は作業が立て込んでいるから」
「そうしたら、明日はどう?
 あのね」
「しばらくは無理かな」

すまない、とタロウは言う。

「マジダ?」

返事を返さないマジダに
タロウがうん?と顔を覗き込む。

「………わかった」

「仕方ないじゃん。行こうぜ、マジダ」

渋々付き添って来たジロウは
ほら、とマジダの手を引く。

「じゃあな」
「ああ」

タロウは手を振って2人を見送る。

ジロウはマジダと歩く。
村の広場が近づいて、何して遊ぶ?俺ん家くる?と
問いかけるも、マジダは神妙な顔つきのまま。

「なぁ、マジダってば」

「ねぇ
 タロウ、怒ってた?」

マジダの問いかけに
は?とジロウは言葉を漏らす。

「仕事が忙しいだけだろ。
 あいつ、ニコニコしてたじゃんか」
「うん、笑ってた」
「だろう?」

「でも、何かやだ。
 ピリピリしてる」
「う……ん」

笑顔だったけれど、少し違う。

それに、タロウは2人にはすまない、とは言わない。
ごめんね、と言う人。

「何かあったんじゃないのか。
 別に、マジダに怒っている訳じゃないと思うぞ」
「わかってる」
「そのうち落ち着くって」

放っておけばいいと、ジロウは言う。

「あれ、最初と同じ」
「最初?」
「村に来たばかりの時も
 あんなだったの」

と、マジダに言われるも
村に来たばかりの頃のタロウを
ジロウはよく知らない。

「タロウ、またねって言わなかった」

マジダがジロウに言う。

「どうしよう。
 タロウが……どこかに行っちゃう!!」
「どこに?」
「わかんない、でも
 居なくなっちゃう」

「………」

ジロウは、
もう遠くに見える
タロウの作業小屋を睨み付ける。

振り返ると、マジダに言う。


「マジダ。
 明日は予定通りだ!!」


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「タロウとマジダとジロウ」7

2017年03月28日 | T.B.2001年
「タロウ」
「なんだ、先生まで俺の事タロウですか」
「いいじゃないか、
 キナリより似合っている」

そうだけれども、と
タロウは苦笑する。

南一族の村。
医師の定期健診を終えて
タロウは立ち上がる。

「うんうん。異常なし。
 元気が一番だな」

「それで、何か」

尋ねるタロウに、
南一族の医師は言う。

「大した事じゃないんだけどね、
 ちょっとお知らせ」

「今、西一族のお医者さんが来ているよ。
 研修旅行?
 なんかそんな感じ」
「へぇ」
「興味があるなら君も会ってみる?」
「いいえ。
 特に用事は無いです」
「だよねぇ」

会うわけ無いか。
そっか、そっか、と
医師は面白そうに呟く。

「じゃあ、会わないように
 気をつけて」

「先生」
「うん?」
「俺、先生達に助けてもらった事。
 本当に感謝しています」

診察室には医師とタロウ。
2人しか居ない。

「それじゃあ、
 助かった命は大事にしないと」

飄々とした医師は、
その調子のまま言う。

「もう、キナリは棄てろ、タロウ」


「棄てろ、か」

棄てるも何も、とタロウは思う。
タロウはこの
南一族の医師にはとても世話になった。

それだけじゃない、
ユウジや村人達。
ジロウやーーーマジダ。

今のタロウを作っている人達。

キナリという人は
もう、どこかに置いてきたような気もする。

「ねぇ、君、
 ……南一族の人かな?」

そう考えている途中、
タロウはふと呼び止められる。

「見れば分かるでしょう」

タロウは頬の入れ墨を指さす。
南一族の証。

「それじゃあ良かった。
 少し道を聞きたいのだけど」

白色系の髪。
この世界には白色の一族の方が多いが
格好で、西一族だろうか、と
タロウは判断する。

西一族の医師。

あんな話をした直後に
ばったり出会うとは
自分もタイミングが悪い。

「馬車乗り場に行きたいんだ」

狩りの一族と言う割には
目の前の人物から
そういう雰囲気は見られない。

医師だからだろうか。

「それは、曲がり角を間違えてます。
 戻って2つ先で左に」

「医師様は」
「あぁ、違うよ。
 俺は見習いなんだ。
 先生は足が悪くて、
 替わりに俺が来ている」

「見習い」

「そう、まだ半人前さ」

「まぁ、それはさておき
 道が分かったのは助かった」

見習いだと言う医師は
手を差し出す。

「俺はミノリ、君は?」

タロウは答えず相手の様子を見る。
中々答えないタロウに
あれ?こういうの嫌なタイプ?と
尋ねてくる。

いつか、どこかで、
彼を見たことがあるような気がする。

そう思うが、
それをはっきりと思い出せない。

分からないまま、タロウは答える。
タロウではない、彼の名を。

「キナリ」

「キナリ、…・・・キナリねぇ、
 ふうん」

西一族の医師は、
首を捻りながら言う。


「樹成、かな、それとも」



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