TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「タロウとマジダとジロウ」3

2017年02月28日 | T.B.2001年

タロウが村になじんできたのか
はたまた村人が
タロウを受け入れてくれたのか
最近は仕事の依頼以外でも
尋ねてきてくれる人が増えた。

野菜のおすそ分けを貰ったり、
飲み会に誘って貰ったり。

いいのかな、と
思うけれどそれ以上に嬉しかったり。

「タロウ、おやつーーー!!」

大人達もだが
マジダと一緒に
子供達がやって来ることも増えた。

もちろん農具整備の小屋は
色々な道具が置いてあるから危ないので
外に椅子を並べて
みんなでおやつを食べたりする。

「今日は私がおやつを持ってきたのよ」

どうぞ、と
マジダは袋を差し出す。

「ありがとう。
 じゃあ今日はこれを頂こうかな」
「どうぞどうぞ」

ふふふ、と
マジダは慣れた手つきでお茶をつぎ始める。
座るのもいつもと同じ
マジダの指定席だ。

「ああ、ぼたもち」

タロウにとっては
昨日から同じ物が続いてしまったけど
美味しいから、もちろん
毎日続いても大歓迎だ。

一つずつ、小皿に移して
タロウはテーブルに運ぶ。

「はい、どうぞ」

同じ様に席に座る子供達に
一人ずつ渡していく。

「はいど……う」

おや、と
タロウは思わず笑顔になる。

「昨日はありがとう。
 今日も来てくれたんだね」

昨日、タロウにおまけのぼたもちを届けてくれた
和菓子屋の息子だ。

そうか、マジダの友達だったのか。

「……」

ふん、とその子はそっぽを向く。

うーん、何だかやっぱり
まだ慣れてはくれないかな、と
でも今日は帰らずに居てくれるのか、と
タロウはあまり構い過ぎないようにする。

「あら、タロウ。
 ジロウと知り合いだったの?」

お茶を運びながらマジダが言う。

「ウチまでおつかいしてくれたんだ。
 ……ジロウ?」

そうか、この子、ジロウというのか。

タロウとジロウ。
何だか親近感が湧いてきて
仲良くなれそうな予感がする。

「よろしくね、ジロウ」

ぶほっと、さっきよりさらに
ジロウの頬が膨れる。

「俺はお前には負けない」

「????」

小さな声でジロウはタロウを睨み付ける。

「それに、俺の事ジロウって言っていいのは
 マジダだけだからな!!」

ごーん、と
思いっきりすねを蹴り上げられて
タロウはんんんんっと座り込む。

「なによ。
 ジロウがあだ名欲しいって言ったんじゃない」
「だから、それは、
 マジダがタロウタロウばっかりだから」
「だからジロウって呼んでるじゃない」
「そうじゃなくて」
「意味分かんない」

マジダとジロウのやりとりを
すねの痛みで悶絶しながら
タロウは上の空で聞く。

分かった。
これ、ジロウがマジダに惚れている。

つまり、ジロウの誤解だが
タロウはマジダを奪い合うライバル
……と思われているらしい。


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「医師と名札」

2017年02月24日 | T.B.2017年

 村はずれの建物。

 そこから出てきた医師は、目の前に立つ者を見る。
 彼は、そこで、医師を待っていたかのように。

「こんなところで、……どうした?」

 医師の甥が、そこにいる。

「それ、名札?」

 彼は、医師が持つ木の札を指差す。

「そうだ」
「どうするんだ、それ?」
「宗主様に持って行く」
「外したのか?」

 歩き出そうとした医師に、彼は問う。

「天樹(あまき)の名札を外したのか」

 医師は彼を見る。

「それを知ってどうする」
「その名札を見せてくれ」

 医師は首を振る。

 云う。

「あの建物に納められている名札は、東一族の者だ」
「知ってる」
「正確には、〈東一族〉に属する者」
「…………?」
「亡くなった者だけではなく、離族した者も外すことになる」

「…………」

「名札を外すことは、宗主様の指示だ」

 彼は、目を細める。
 医師が持つ名札を見る。

 誰の名まえが書かれているのか、彼には見えない。

「天樹は死んだわけじゃない」
「それはどうかな」
「行方が判らないだけだ」
「それを、宗主様は離族と判断された」
「状況からして、離族じゃないだろ」
「判っている」

「おかしいよ……」

 彼はうなだれる。

「天樹の名札は外されたのか……」
「…………」
「なぜ、宗主様は、……天樹を、」

「その、お前が云う天樹という子は」

 医師は、彼を見る。

「東一族一の力を持っていたと思う」

 彼は顔を上げる。

「医師様もそう思うか!」
 彼が云う。
「そう! 天樹は、東一族への貢献が高いはずだ!」

 彼は思い出す。
 これまで、天樹がしてきたこと、を。

 医師は頷く。

「つまり……、お前も判るだろう?」
「え?」
「力を持つ者が消えることは、」
「…………」
「東一族自体に脅威になると云うことを」

「何?」

 彼の顔が曇る。

「天樹が、脅威?」

 医師は再度頷く。

「そんなわけないだろう!」

 彼は声を上げる。

「天樹は怪我をした状態でいなくなったんだぞ!」
「そうだな」
「なのに、」
「まあ、聞け」

 医師は手を広げてみせる。

「宗主様は見棄てたわけじゃないと、云うことだ」
「…………?」
「何かしら手を打つ」
「それは、」
「どう云う形であれ、天樹を探し出すはず」
「天樹を……」
「そう」
「探して、くれる」

 医師は、彼の肩に手を置く。

「見つかるのは、そんなに先ではないと思うんだが」

 医師は彼を見る。

「だよな!」

 彼の顔に笑顔が戻る。

 それを見て、医師は息を吐く。

「あまり暗い顔をするな」
「おう!」

「その前に」

「何の前?」

「お前、近々、頼みごとをされると思うぞ」
「頼みごと? 誰に?」
「宗主様に」

「えっ、宗主様に!」

 彼は慌てる。

「俺、何かした!?」

「いや、だから、頼みごと」

「ちょっ、補佐に聞いてみよう!!」

「おいおい、辰樹(たつき)!」

 医師が云う前に、彼は走り出す。

「あいつ、早いな……」

 後ろ姿を見送って、医師も歩き出す。
 宗主の屋敷へと向かって。





2017年 東一族の村にて

「タロウとマジダとジロウ」2

2017年02月21日 | T.B.2001年

南一族の名産品は豆。
となると、
銘菓だって豆を使った物になる。

豆を砂糖で煮込んで餡にして
その餡で餅米を包む。
お茶に合う、まったりおやつ。

ぼたもち、と言う。

家でも出来るが
村の中心にある和菓子屋さんのぼたもちは
最高に美味しいので
タロウは時々、お店に立ち寄る。

「こんにちは」

少しずつ機械整備の仕事も増えて
忙しいやら、嬉しいやら、
今日は自分へのご褒美のつもりだ。

マジダも遊びに来るだろうから
少し多めに買っていこう。

「10個詰め合わせを一袋ください」

自宅に戻り、袋を広げる。
出来たての柔らかい状態。

お茶セットを準備して
まったりと過ごす。

「………」

1時間ほど、まったりと。

「今日はマジダ来ないのか」

まぁ、良いんですけど。
タロウは結構色々な事に関して
タイミングが悪い。

「ユウジさんにおすそ分けしようかな」

うーん、と
農具整備の師匠?の名を
呟きながら立ち上がったその時。

「……っ!!?」

びくっと、タロウは
思わずぼたもちを落としそうになる。

タロウ宅の農具整備小屋の
開け放った扉。
仁王立ちで、少年が立っている。

「ええ?いつから??」

しかも、めっちゃ睨み付けてくる。

最近だんだん増えてきた
農具整備の仕事を
親に頼まれて伝えに来たのかもしれない。

タロウがまったりし過ぎて
中々声を掛けられなかったのかもしれない。
そりゃあ怒るな、とタロウは近寄る。

「ごめんね、気付くのが遅くて」

「おまけぇ」

「え?おま?」

「おまけだごらぁ」

……南一族の方言だろうか。
一瞬思考停止したタロウは
少年が差し出した袋に気がつく。

「今日は10個以上買ったら
 一つおまけだったのに母ちゃんが渡し忘れて」

あ、と
タロウは気がつく。

この子は、和菓子屋の一人息子だ。

「そうか、わざわざありがとう」

しかも受け取った袋には
おまけの一つと
おまけ付け忘れのお詫びでもう一つ。

「ねぇ、少しお茶していかない。
 食べ慣れているかもしれないけど
 君のお家のぼたもち、
 とてもお茶に合うんだよ」

沢山あるからね。
と、タロウはその子をお茶に誘う。

が。

「敵に情けは受けねぇ」

……敵とは。

何か気に障ること言ったかな、と
不安になりつつあるタロウに背を向け
少年は立ち去りながら言う。

「だけど、
 うちの菓子への褒め言葉は
 ありがたく頂戴するぜ!!」

ざっ、ざっ、と
地面を強く踏みしめながら
少年は去り、
タロウは一人残される。

「……ええええ」

さらに増えたぼたもちは
ユウジさん宅におすそ分けしました。



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「辰樹と天樹」30

2017年02月17日 | T.B.2017年

 辰樹は走る。
 水辺へ。

 走りながら、宗主の先ほどの言葉を思い出す。

 何しろ、秘密が多い天樹だった。
 倒れているにしても、誰にでも頼めるわけではないのかもしれない。

 だから、

 宗主は、わざわざ自分に云いに来たのだ。

 先ほどの場所にたどり着く。

 水辺に延びる血の痕。
 その痕を追う。

 誰もいない。

「天樹」

 辰樹は声を出す。

「天樹、いるのか!」

 辰樹の声だけが響く。
 静かな水辺。

 辰樹は、水辺のぬかるむ土を踏む。

 何かが、水辺へと入った痕跡がある。
 大きさからして、……人?

「……いやいや」

 しばらく辰樹は水辺を見て回る。

 けれども、

 何の気配もない。

 辰樹は息を吐く。
 村へと、戻る。

 宗主のいる屋敷へと行く。

 そこで、補佐に会う。

「どうした辰樹?」
「宗主様に面会を」
「ああ、宗主様なら」

 補佐は、後ろを見る。
 そこに、宗主がいる。

「あの、」

 辰樹は云う。

「天樹は、……いませんでした」
「いない?」

 辰樹は頷く。

 補佐が云う。

「なぜだ? いなくなったのか」
「判らない。とにかく、いなかったんだ」
「……そうか」

 補佐は、宗主を見る。

 と、
 宗主は補佐に向けて手を上げる。
 補佐が何か云おうとするのを、止める。

「宗主様、」
「…………」
「まだ、探してみます」

 宗主が云う。

「これ以上の捜索は不要だ」
「え?」
「無駄なことをするな」
「でも、」
「以後、天樹と云う人物は東にはいない」
「……宗主様」

 辰樹は云う。

「天樹を見棄てる、の、ですか」

 辰樹は宗主を見る。

「宗主様!」
「辰樹!」

 補佐が、辰樹を制止する。

 宗主は辰樹に背を向け、歩き出す。
 補佐も、それに続く。

 辰樹はそれ以上、何も云えない。

 そこに、ひとり取り残される。


 辰樹は、空を見上げる。


 青空。


 そして、

 木の上に白い花。

 いつだったか、天樹と一緒に登った、木だ。
 そう、辰樹は思う。

 けれども、天樹はいない。

 辰樹はひとり、歩き出す。





2017年 東一族の、ある少年の話

「タロウとマジダとジロウ」1

2017年02月14日 | T.B.2001年

南一族の岸辺から、
舟で漕いだ先にある小さな島は
マジダの絶好の遊び場所である。

確かめようのない噂によると
そこは湖の真ん中にある島で、曰く付きの物らしい。

南一族では小さな子も自分の舟を持っているが
距離もあるので監督役として
大人のタロウは必然的にお伴をしているのです。

「ねぇねぇタロウ」
「なんだいマジダ」

「見て、これ」

どーん、と
マジダが何かを取り出す。

それは、古ぼけたブレスレットの様だ。
いや、野ざらしにされていたからで
本当は新しい物なのかもしれない。

「どうしたの、これ」

「拾ったの!!」

「なんでも落ちている物を
 拾っちゃいけません!!!!」

タロウは時にお母さん的ポジションになる。

「あぁあ、これは」

タロウは難しい顔をしながら
マジダからそれを受け取ると。
首をひねりながら裏返したり、
裏面をのぞき込んでみる。

やがて
くるりくるりとひっくり返しているウチに

「!!?」

しばらく動きを止め、

「タロウ?」

「あ、ええっと、これ」

そっと、
そーっと、マジダに返す。

「マジダ、
 それ、元あった場所に戻してきなさい」

「ええ、でもこれステキだから
 磨いて持っておきたいのだけど」
「ダメったらダメ!!」

ぶー、と膨れるマジダに。
仕方ない、とタロウは語り始める。

「そのブレスレットはね、マジダ
 とある一族が
 婚約者に、贈る品なんだよ」
「こちら風に言うと
 プロポーズの指輪って事ね」

つまり、それが
ここにあると言うことは。

「分かるね、マジダ」
「……そういう事なのねタロウ」

マジダはコクリと頷く。

「準備した彼氏の方が
 これを渡せなかった、とか」
「いや、受け取った彼女の方が
 受け取りを拒否した、かも」
「まてまて、マジダ
 案外彼氏が病気で死んでしまい、
 彼女はこれを湖に流したのかもしれない」

「甘いわよタロウ。
 そんなんじゃ、視聴率は取れなくてよ」

良い感じの、切ないオチに持っていこうとするタロウに
マジダのダメ出しが入る。

「それは、
 彼女の新しい男が
 嫉妬のあまり、湖に放り投げたのよ!!」

どーーーーん。

「マジダ、もしかして
 お昼過ぎの2時頃に
 連ドラとか見てる!!????」

2人は小さな島の小さな岸辺に立つ。

「きっと、どこかから
 流れ着いたんだろうね」

そっと、かがんで
タロウはそのブレスレットを湖に流す。

「そうあるべき物ならば
 きっと本来の持ち主の所に帰って行くよ」

さて、とタロウが立ち上がる。

「帰ろう、マジダ」

舟を漕ぐのがタロウである以上
彼が帰ろうと言ったら
マジダは帰らざるをえない。

はーい、とマジダは舟に乗り込む。

「拗ねないでマジダ。
 代わりに何か作ってあげるよ」

なだめる様にタロウが言う。
それほど何かが欲しい訳じゃなかったけれど
貰えるのならば、貰っておこう。

ふと、タロウに手を入れて貰った小刀をマジダは思い出す。

そういえば、
そこに刻まれた印に
よく似た模様が
あのブレスレットにも刻まれていたな、と。


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