TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「成院と戒院と」2

2017年10月31日 | T.B.1997年

「家族旅行ですか」
「そうなのよ、
 下の子が生まれて
 初の家族旅行なの」

南一族の夫婦に、
幼い子どもが二人の四人家族。

「へぇ、東一族の村を
 旅行先に選んでくれるなんて嬉しいな」

「ご飯が美味しいって
 有名だからね」

先を誘導するのが
話し上手な戒院。

成院は荷物を持ちながら
家族の後ろを歩く。

「おすすめのお店を紹介しますよ。
 野菜料理中心ですが」

戒院は話術が上手い。
が、肝心の話したい相手を前にすると
上手くいかないのが不思議だな、と
成院は少しおかしくなる。

「ねぇ」

「ん?」

夫婦の幼い娘が成院に話しかける。
五才ぐらいだろうか。
成院に手を伸ばす。

「お手々繋いで」

「あら、この子ったら。
 お兄ちゃん格好いいもんね」
「父さんじゃダメか」
「ダメ!!
 お兄ちゃんと手繋ぐの」

「ごめんなさい、
 良いかしら?」

母親が申し訳なさそうに尋ねるので
もちろん、と
成院は手を取る。

横に並ぶと
その子の頬の印がよく見える。

その子だけではない。
父親も母親も、もう一人の子も。

数多くある一族の中で
黒髪を持つのは東一族と
南一族の一部の者。

この親子は父親と息子は白色系の髪色だが
母親と娘が黒髪で
服装以外は
東一族によく似ている。

違うのがその、頬のマーク
南一族の証だ。

「うん、分かった。
 その青年は父さんに似ている。
 そういう事にしておこう」

娘に振られた父親の方は
ショックでそんな事を言っている。

「今日はお泊まりで?」
「あぁ、この村には温泉があるんだろう。
 折角だから
 のんびりしていこうと思っている」
「子ども達には退屈かしら?」
「そうですね。
 動物とふれあえる所や
 あと、東一族の伝統服着付け体験とか」

わぁ、と
女の子が歓声を上げる。

「どっちもしたい!!」

その声に、男の子の方が頷く。

「たい!!」

女の子がお姉さんで
男の子が弟のようだ。

「東一族の服着て。
 蛇と遊ぶ~」
「ぶ~」

思わず、成院も吹き出してしまう。

東一族は一部の者が
動物をお伴に連れている。
鳥や狼等その種類は様々だが。

「蛇に目を付けるとはなかなか」

逞しい子だ。


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「彼と彼女の墓」2

2017年10月27日 | T.B.2020年

 日が昇ると、彼は、一軒の店に向かう。

 北一族の村では
 どの店も早々と支度を済ませ、客を呼んでいる。

 花屋の前で、彼は立ち止まる。

「いらっしゃい」

 彼の姿に気付いた花売りが、声をかける。

「また来たのね、南一族さん」

 花売りは、年は彼とそう変わらない。
 幼いときから店に出るのが、北一族なのか。
 いや

 花売りの髪色は、彼と同じ黒色。

 つまり

 北以外の出身、のはず。
 もしくは、混血。

 花売りは、店に並ぶ花に水を与えている。

「何か、花を買ってもらえる?」

 彼は答えない。
 花売りを見る。

「花はね」

 花売りが云う。

「女性なら、誰でももらって喜ぶものなの」
「そう」
「そのために花が咲くんだわ!」
「…………」
「あなたも、誰かに花を贈ればいい」

 彼は首を傾げる。

「君はいつから花売りを?」
「昔から」

 花売りは答える。

「幼いときに両親が亡くなってしまってね」
「…………」
「何とか生きていかなくちゃならなくなって」

 彼は頷く。

「あなたも、きっと両親がいないのね」
「…………」
「そうでしょ?」
「なぜ、そう思う?」
「うーん。なぜかしら? そう思った」
 花売りが訊く。
「どうして、あなたは両親がいないの?」
 彼が答える。
「判らない」
 花売りは続ける。
「どうやって生きてきたの?」
「自分の一族通りに」
「淋しくない?」
「考えたこともない」

 花売りが云う。

「私の両親は火事で亡くなったの」
「え?」
「火事で」
「火事……」

 その言葉に、彼は手で胸を押さえる。

「今でも、火事の原因は判らない」
 だから火が怖いの、と。
「ねえ。私のこと、不憫だと思う?」

 彼は答えない。

 花売りは彼を見つめる。
 黒い瞳。

 黒い髪。

 東一族の顔立ちが、彼を覗く。

「もし、そう思うなら、花を買ってくれない?」

 彼と花売りの視線は合わない。

 花売りが手を伸ばそうとして、
 彼は首を振る。

「ここの花でよければ、近いうちに」
 云う。
「雨が上がったら」

 花売りは笑う。

「そうね」

 苦笑い。

「よろしく」

 花売りは空を見上げる。
 仕方ない、と、店先の花をしまう。

 雨が降り出す。



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「成院と戒院と」1

2017年10月24日 | T.B.1997年

「なんで、
 今日はお前と当番なんだろう」

ほわっと呟いた戒院(かいいん)の言葉に
成院(せいいん)は、ふむ、と考える。

東一族の村の入り口。
門番のように
左右に並び立つ2人の顔は同じ。

正面を向いたまま
視線を向けることなく成院は答える。

「……双子だから、じゃないか?」
「安易過ぎるだろ、それ!!」

八つ当たり気味に
戒院は持っていた棒を
地面に投げつける。

「どうせなら、
 女の子と組みたいっ」

東一族では村の警備や
戦うのは男の仕事。
無理な話である

「組んでどうする。
 女性を警備に付かせるつもりか」

何を言っているんだ、という
成院の言葉に
出ました、あぁ、出ましたよ、と
悪態をつく。

「そういう所!!
 成院のそう言う所!!
 女性って紳士かよお前!!」

別に、女の子を戦わせたい訳じゃない。
あえて言うならば
つまらない任務における潤い成分。

知っているか、と
戒院は言う。

「西一族は女の子も戦うらしい。
 でも、一緒に戦いながらも
 いざという時は守って格好いいって言われたい。
 西一族羨ましい」

そろそろ本気泣きしそうな戒院に
成院はどん引きする。

「そんな理由で羨ましがられるなんて
 長年敵対している
 西一族もびっくりだろうよ」

成院と戒院。
東一族の双子。

同じ顔立ち、同じ身長。
声も全く同じ。
でも、性格は同じにならなかったようだ。

「あ、ほら誰か来たぞ
 しっかりしろ!!」

その言葉に
へいへい、と
戒院は立ち上がる。

「うーん、あれは南一族かな」
「そのようだな。
 親子連れ、か」

任務はその時で色々と違うが
今日は比較的手軽な任務。

他の村から来る旅人を
誘導する係。

「こんにちは、
 東一族の村へようこそ」
「今日は観光でお越しですか?」
「俺達、村の案内をしています。
 成院です」
「戒院です」

「お困りのことがありましたら
 どうぞお声かけ下さいね」


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「彼と彼女の墓」1

2017年10月20日 | T.B.2020年

 東一族の村を出ると、彼は大きめの外套を羽織る。
 彼が着ている東一族の衣装が、見えなくなる。

 彼は耳に触れ、飾りを外す。
 左頬に触れ、持っていた染料を塗る。

 黒髪の彼は、まるで南一族のような身なりになる。
 いや、そうかもしれない、が。

 彼は歩く。

 東から北へと延びる、道。

 途中、人々とすれ違う。
 東一族。
 北一族。
 それ以外の一族も。

 馬車が、彼の横を走り去る。

 彼は歩き続ける。

 日が暮れ、夜になり

 やがて、北一族の村が見える。

 商いが盛んな北一族の村は、夜が更けても灯りは絶えない。
 夜は、主に食事や酒を提供する店が目立つ。

 彼は、北一族の村へと入る。

 適当な店に入り、坐る。

 声がする。
 彼は顔を上げ、その方向を見る。
 近くの席の者たちが手を上げる。

 北一族、なのか。
 彼らは飲んでいる。

「おい。どこから来たんだ?」
「南から」
「西回りか? 東回りか?」
「東回りだ」
「そうか、東か」

 飲むか? と、彼らは杯を見せる。
 彼は首を振り、断る。

 彼らはさらに、質問を投げる。

「東はどうだった?」
「東の女には会えたのか?」

 この北で、東の女性に会えることは稀だからと、彼らは云う。

「いや、通っただけだ」

「何だ。見物はしなかったのか」
「店周りは?」

「していない」

 つまらない、と、彼らは惜しむ。

「せっかくだから様子を見て来いよ」
「東も、次の村長さんが大変らしいからな」
「今の、息子さんか」
「何でも、髪色が東の色ではないらしい」

 彼は、彼らを見る。
 けれども、その視線は合わない。

「今もその話が?」

「まあ、昔からよく知られている話だからな」
「東の息子さんの、髪色違いは」
「それで、そのまま次の村長に?」
「それが最近の話だと」

「話だと?」

「髪色違いの息子さんが村長になるか」
「甥御さんが村長になるか」
「もうひとり、誰かしら候補がいるんだ、とかも」
「へえ!」

「…………」

「誰かしらって、誰だよ!」
「判らねぇよ」
「また、近いうちに新しい情報が入るかもな!」
「どの一族も、次の村長が誰になるか、話題だから」

 彼らは、新しい酒を頼む。
 飲む。

「それで、」
「南一族の次の村長候補は誰なんだ?」
「女ってのは、本当なのか?」
「……あれ?」

 彼らは辺りを見回す。

 先ほどまでそこにいた南一族の

 姿はない。



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ミツナ

2017年10月17日 | イラスト



ミツナ

海一族。

トーマ達と同世代で
次世代の長と司祭候補。

司祭候補とあって
他の海一族と少し衣装の雰囲気が違う。



こんな。

ミツナは本名ではなく「三つ名」から。
名前が三つあるらしい。