TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「律葉と秋葉と潤と響」20

2019年01月29日 | T.B.2024年

「………」

律葉は身を起こす。

なにがおきたのだろう。

後ろを歩いていた響が
突然姿を消した。

それから、
律葉の視界は一瞬真っ黒になり、
気がついたら今の状態。

目眩がするが
回復を待っていられない。

一度、まぶたを閉じて
ゆっくりと目を開く。

暗かった視界がだんだんと開けていく。

見覚えはある。
先程歩いて居た道ではないが
同じ狩り場の中。

「移動、した?」

どうやってここまで来たのだろう。

みんなは、どこに。

辺りを見回していると

パキ、と
枯れ枝を踏みわった音が耳に届く。

「………っつ」

思わず、声が出そうになり
言葉を飲み込む。

視線の先に、なにか黒い生き物が居る。
人ではない、多分、何かの生き物。

あれは、なんだろう。

律葉が知るどの動物とも違う。

ただ、
昔読んだ絵本に出てくる
化け物のようだと思った。

手を出してはいけない。
そういう物。

その、化け物の足元。

「響!!」

響がそこに倒れている。

「起きて、響!!
 響!!!ねえ!!!!」

律葉が声をかけるが
響は動かない。

すでに、化け物にやられたのだろうか。
響は狩りの腕はある。
もちろん、律葉よりもずっと。

それなのに。

「うぅ」

微かな、うめき声。

先程の物音は
響が身じろぎして起こした物。

状態は分からないが、
息はある。

その声に化け物が頭をそちらに向ける。
ぐぐっと、
響の顔を覗き込むように動く。

「駄目っ」

ああ、と律葉は悲鳴のような声を上げる。

「止めて!!
 そっちは駄目!!」

律葉は立ち上がり、
パンパンと手を鳴らす。

「響は、駄目。
 こっち、こっちよ!!」

ぐんっと、
恐ろしいスピードで化け物が律葉の方を向く。

「………っ」

思わず、律葉は恐怖に飲まれそうになる。
が、
化け物の注意が響からこちらに逸れる。

「そう」

獲物に背中を向けてはいけない。
確かに、教わってきたが。

「こっちよ!!」

律葉は背を向けて駆け出す。
すぐに、追いつかれるかもしれない。

それでも、

あの化け物を響から引き離すことが出来たら。
はなれて、
目の届かない所に連れて行けたら。

「はっ、はっ!!」

なんで、あんな物が山にいるのだろう。
いつも通り
仲間と狩りをしていただけなのに。

「どうして、こんなことに!!」

秋葉の言葉が蘇る。

今日の山はなんか変。
嫌な感じがする、と。

きっと、あれのことだった。

響は大丈夫だっただろうか。
潤と秋葉は異変に気付いているだろうか。

「はっ!!はっ!!」

肩で息をしながら、
律葉は立ち止まり、振り返る。

化け物はすぐ後ろ。
律葉が立ち止まるのを見て、
一定の距離と保ち左右に体を動かしている。

律葉の様子を伺うように。

「遊んでいる」

この化け物が本気を出せば
律葉など一瞬。

その前に、獲物をいたぶるように。

どうなるのだろう。
足がガタガタと震える。
恐怖からも、だけど、

もう、走る体力が残っていない。

地面に蹲りそうになって
それだけはいけない、と
律葉は踏ん張る。

ここで、ならば。

「………?」


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「涼と誠治」29

2019年01月25日 | T.B.2019年


 ふたりは、そこに茂る草で、身を隠す。

 涼は顔を上げる。
 誠治に静かに、と、示す。

 声がする。

 裏一族は、ふたりを見つけられない。
 が、
 それも時間の問題。

「誠治、」
「涼……」
「どうした?」
「…………」
「…………」
「……すまない」
「誠治」
「俺は何てことを……」
「…………」
「西一族の情報を、裏に……」

 涼は首を振る。

 云う。

「そう、彼らは裏一族だ」
「……ああ」
 誠治はうなだれる。
「まさか裏一族だったとは……」

「戦術は山一族とは比にならないだろう」

 涼が云う。

「使える者は利用し、邪魔な者は簡単に殺す」
「…………」
「走れるか?」

「ああ……」

「山を下りて、西へ逃げろ」
「お前もだ」
「…………」
「涼?」

「俺は、目と神経が悪い」
「?」
「足場の悪い場所は苦手なんだ」
「俺が腕を引いてやる!」

 涼は首を振る。

「ひとりで行け」
「何を云う」
「俺は、大丈夫」
「ばかな!」
 誠治が云う。
「一緒に帰るんだよ!」

 誠治は涼を掴む。

 立ち上がる。

「誠治」
「行くぞ!」
「逃げ切れない」

 矢が飛んでくる。

 誠治はそれを避ける。

「いたぞ!」
「ここにいる!」
「集まれ!!」
「殺せ!!」

 誠治は走り出す。

 涼も走る。

 雨が降り続ける。
 先ほどよりも、強い雨。

 飛びかう矢。

「気を付けろ!」

 涼は誠治に引かれながら、走る。

 その足下を見る。
 いや、よくは見えない。

 手をかざす。

 誠治は走り続ける。

「待て!」
「っっ!?」

 伸びる草に、裏一族は足を取られる。

「おいっ」
「そんなものに、足を取られるな!」
「何かがおかしいぞ!?」

 ふたりの姿は遠のく。

「やむを得ん。魔法だ」

 ひとりの裏一族が云う。

「本物の山一族に見つかったら面倒だと思ったが」
 息を吐く。
「やつらを殺すことを優先する」
 他の裏一族も頷く。
「もはや山一族に気付かれている」

 雨の降る中。

 裏一族は、うっそうと伸びる樹々を見上げる。

 何羽もの鳥。

 が、そこにいる。

 明らかに彼らを窺っている。

 ――山一族の、鳥。

「ちっ」

 ひとりの裏一族が杖を取り出す。

 呪文。




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「律葉と秋葉と潤と響」19

2019年01月22日 | T.B.2024年

山道を進んでいた足を止め、
律葉は辺りを見回す。

「暖かくなったと思ったら、
 また急に寒くなったね」

ぶるっと、腕をさする。

服に付いたオナモミを取りながら
響が振り向く。

「こういう時に
 風邪とかひきやすいんだよね?
 気をつけなきゃ」

そうだよね、と問いかけられて
潤が頷く。

「そうだけど。
 俺は医者の息子であって、医者ではない」
「ネギを首に巻き付けたり」
「そういう事はしない。
 響、お前背中にもひっつき虫ついてるぞ」

あー、もう、
どこを歩いて来たんだお前は、と言いながら
潤が響の背中にオナモミをくっつけている。

取っていると見せかけて
くっつけている。

律葉は先日の
女子会を思い出す。

「……かっこいい、とは」

ふふ、と笑いながら
秋葉の方を見ると、
どこか顔色が悪い。

「秋葉、どうしたの?」

具合でも悪いのだろうか、と
律葉は顔を覗き込む。

「大丈夫、よ」

秋葉は首を振り、笑顔を浮かべるが、
すぐに浮かない表情を浮かべる。

「あれ、秋葉元気ない?」
「無理はするな。
 一度山を下りるか?」

潤と響も足を止める。

「……具合が悪い訳じゃ無いの」

「「「………」」」

気持ちの問題だろうか、と
3人は顔を見合わせる。

「あ、のね」

どう言ったものか、と
躊躇いながら秋葉が言う。

「今日の山は、なんか、変」
「変?」
「気味が悪いの、いつもと違う」

「………どういう事だ?」

問いかける潤も困っているが
聞かれた秋葉も更に困っている。

「上手く説明出来ないの。
 なんて言ったらいいのか」

「嫌な予感がするって事?」

響の言葉に、
しばらく考えて秋葉は頷く。

少し違う、でも。
言葉を当てはめるとしたらそれなのだろう。

そう、と律葉は答えるが
特段いつも通りの狩り場に見える。

今日は曇りの天気で少し薄暗い、
けれど、
この時期はいつもこんな天気。

「秋葉、
 先に帰っておく?」
「嫌、帰るならみんな一緒が良い!!」
「………秋葉」

「ごめん。変な事言って。
 私の事は気にしないで」

秋葉も分かっている。
気が乗らないから、
狩りをしてきませんでしたというのは通じない。

「じゃあ、今日は早めに切り上げるか。
 ぱぱっと数を仕留めてしまおう」

潤が言う。
確かに、大物狙いでなければ
時間いっぱい狩る必要もない。

「俺、子鹿とか子ウサギとか
 お肉柔らかいから好きだな」

獲れたらシチューかパイにしようよ、と
響が言う。楽しみだな、と。

「ありがと。
 なんだか、安心した」

ほっと、秋葉が息をつく。

「どうしよう。
 本当に気のせいかも」
「何も無いなら無いで
 それが一番だよ」

さぁ、行こう、と良いながらも
安心させるように
潤は秋葉の隣を歩く。

後ろから見ても、
秋葉が肩の力を抜いたのが分かる。

班のメンバーでは一番幼く、
不安が溜まることもあるだろう。

「響、ありがとう。
 秋葉いつもの調子に戻ったみたい」

律葉は振り返り、
最後尾を歩く響に言う。

「やっぱり、潤と響は律葉のことよく分かっているわね」
「そうかな?
 俺にしてみれば、
 同じ班に律葉が居て、秋葉も安心していると思うよ。
 2人は姉妹みたいだもんね」
「そう、かしら」

と、響の言葉が少しむず痒い。

律葉は一人っ子。
兄弟が居たら良いな、と
思った事もある。

「秋葉、なにかあったのかしら?」
「どうだろうねえ。
 でも、ああいう感覚は大事にした方が良いよ」

嫌な予感。という感覚。

「慣れてしまっているかも知れないけど
 俺達の狩りは命の取り合いなのだから」

「……そう、ね」

律葉は秋葉を見る。

そうやって、
命を落とした人達も居る。

彼らの腕が悪かったとは思わない。
ただ、
タイミングが、運が、
その時の何気ない行動が、狩りの結果を左右させる。

「今日は、帰ってからおれ」
「…………」
「…………」

「…………?」

会話が途中で途切れたな、と
続きを待つも、響からの言葉はない。

獲物でも居た?と振り返る。

「えっと?」

響が居ない。

さっきまですぐ後ろを
歩いて居たはずなのに。

「響?」

響が、ふざけているのだろうか。

「ひ」

一瞬、視界が真っ黒に変わる。


「あれ?」

秋葉と潤が後ろを振り返る。

「響と律葉、
 どこに行ったんだ?」

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「涼と誠治」28

2019年01月18日 | T.B.2019年


「黒髪のお前に何を出来る!」
「西の厄介者が!」

「やめておけ、涼!」

「いや、たいしたことじゃない」

 その言葉に、山一族の表情が一気に怖ろしくなる。

「何を、」
「何を、……」

 涼が云う。

「試して、みるか?」

 それでも、涼は武器を取らない。
 ただ、手を差し出しているだけ。

「村長さえ許せば、全員殺してやる」
「お、おい!」
「今は自分の身を守れ、誠治」

 涼は耳を澄ます。

 人数と位置を確認する。

「誠治が云う、山一族……」
 涼が首を傾げる。
「では、ないな」

「何」

「元、山一族……?」
 涼はさらに呟く。
「山一族の格好をした、別の一族も、いる」

「何を云うんだ、涼!」

「本当の山一族はひとりもいない」

「え?」

「最初に会ったときから違和感があった」
「それは、どう云う、」

「……裏一族、だよ」

 涼と誠治は、山一族、
 いや、裏一族の方を見る。

「そうだろう、裏一族?」

「…………」

「何だ」
「勘がいいな」

「そう」

「俺たちは」

「……裏一族、だ」

 誠治は息をのむ。

「裏、一族……」

 瞬間

「誠治っ!」

 涼は誠治を弾く。

 その力で、誠治は倒れる。

 頭上を、矢がかすめる。

「さあ、そこまで知ったんだからもういいだろう」
「終わりにしよう」

 山一族のひとりが走り、剣を振りかざす。

 涼は、その山一族を避ける。
 そのまま、剣を取る。

 続けて来た山一族を、その剣が切る。

「誠治走れ!」

「生かして返すな!」
「殺せ!」

 涼は、誠治を掴む。

「涼っ」
「立て、誠治!」

 涼は地面を蹴る。

「わぁあああっ!!」

 涼と誠治は、下り坂の斜面を一気に転がる。

「どこへ行った!」
「追いかけろ!」

 雨が降っている。

 視界は悪い。

 斜面のくぼみで、涼と誠治は止まる。



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「律葉と秋葉と潤と響」18

2019年01月15日 | T.B.2024年

「ウチも結構うるさいよ~」
「色々口出ししてくるよね」
「そうそう。
 私なんてこの前お母さんがね」

「ふーむ」

どこもそうなのかな、と
律葉はため息を付く。

今日は狩りもなく、
同い年の子達と出掛けて
買い物を済ませた所。

父親がうるさいんだよね、と言うと
先程の返事。

「でも羨ましいな。
 律葉、響と同じ班でしょう」
「……ええ」
「狩りではどんな感じ?」
「どうって、普通だよ。
 他の班と同じだと思う」
「私は潤がいいなぁ。
 かっこいいじゃない」

はは、と律葉は
彼女たちの言葉を笑って受け流す。

「そういって、
 そっちこそ修が居るじゃない」
「ううん。修はねぇ」

ちょうど、律葉達の年代にとって
2つ上の響達は
憧れの人、という立ち位置にちょうど良い。

こうやって集まって話す時に
話題になるのはそういうことばかり。

「潤と響の2人が居るんだもの。
 律葉のお父さんは心配しているのよ」
「年上2人に囲まれて~」

「からかわないでよ」

自分達の班は仲が良いとは思う、
でも、それは
あくまで同じ班のメンバーとして。

「でも律葉の班って
 不思議な組み合わせだよね」

ふと、1人が呟く。

「響と潤なら、
 班を分けても良さそうなのに」
「上手な人だけ組み合わせた訳でも
 無さそうだよね」

そう言って、
あ、ごめんね、とその子は律葉を見る。

いいの、と
律葉は首を振る。

飛び抜けて狩りが上手い訳では無いと
自覚している。

「それなら、
 あの子が居るからじゃない?」
「あの子?」
「秋葉」
「あぁ、そうか」

「律葉達は聞き分けが良いから
 問題のある子と
 一緒の班にしたって事」

大変だね、と言われて
そんな事無いと律葉は言う。

「秋葉は、いい子だよ」

「うん、悪い子じゃないよね」
「大人しい子だし」
「同じ班になったら、
 そりゃあ狩りはきちんとするよ」
「けど」
「それだけ、だよね」
「あの子の家の問題だもの。
 私達にはどうも出来ないわ」
「律葉が気にすること無いよ」

「………うん」

結局はそういう事。

父親が普段の付き合いを控えろと言うのも。
秋葉の家の事を言っているのだろう。


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