TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「海一族と山一族」22

2017年08月29日 | T.B.1998年

「皆、集まったか?」

長の補佐を務めるミツグが辺りを見回す。
緊急事態である今、
長に使える者、司祭、各地区の主、
いずれその役職に就くべき者、
村を回す軸となるべき者達が
すべて集められる。

これからどうするべきか
長の考えを伝え
村人の末端まで被害を出すことなく
この事態を終わらせるために。

集まった面子の顔ぶれを確認するが
数人足りない。

「……トーマはどうした?」

次代の長候補の1人が居ない。

「カンナ!!」

ミツグは妹を呼ぶ。

「兄さん」
「トーマはどうした?
 お前は補佐だろう」
「ミナトが呼びに行ったわ」
「そういうのは2人で行け」

ミナトとカンナ。

2人は同じ漁の班というだけではない。

こういう緊急事態の時
長候補であるトーマを
護るためにいる。

「すぐに来るわよ」

「おうい、カンナ」

遅れていた1人、
ミツナがカンナに走り寄る。

彼も少し変わっていて
長と司祭のどちらの候補でもある。

彼もまた、補佐が側に居ない。

「ミツナだって
 補佐を連れて無いじゃない」
「お前らなぁ」

彼らはまだ年若い。
互いに幼なじみと言う事もあり
その意識が低いのは考え物だ、
と、ミツグは頭を抱える。

「で、なに、ミツナ。
 トーマを見なかった?」

それだよ、とミツナは言う。

「途中まで一緒だったんだが
 戻ってった」

「「戻った!?」」

ミツグとカンナの兄妹が
声を揃える。

「何か、気になる事があるって」
「この騒ぎより
 気になる事があるか!!
 トーマ、あいつ」

「ん~、ミナトがどうとか!?」

「ミナト、
 合流しに戻ったのか?」

あぁ、違う違う、と
ミツナが言い直す。

「港に行くって。
 カンナ達に
 そこに来いって言ってたぞ」

どういう事だ?と
ミツグに視線を向けられたカンナは
何のことだか、と
首を捻る。

「港って、トーマ。
 どこの港よ」

漁を生業とする海一族。
港は大小あちこちに点在する。


NEXT

「山一族と海一族」25

2017年08月25日 | T.B.1998年

「兄様」

 カオリはアキラを見る。

「どうしよう、このままじゃ」
「大丈夫」

 アキラは、山から上がる煙を見たまま云う。

「ハラ家が何とかしているはずだ」

 あの煙の上がり方なら、
 一族の村の火は、相当燃え上がっているはずだ。

 アキラひとりが急いで戻ったところで
 出来ることは、何もない。

「みんな大丈夫かしら」

 カオリは呟く。

 アキラは、海一族の村の喧噪に気付く。
 おそらく
 山一族の火に、驚いているのだろう。

 アキラは窓を閉める。

 山一族の様子を見に、山へ戻りたい。
 カオリも連れて帰らねばならない。

 けれども
 この様子では、しばらく海一族の村を出ることは難しそうだ。

 扉が開く。

 トーマが姿を現す。

「知っているか」

 アキラは頷く。

「火事だぞ」
「判っている」
「いったい何が……」

 アキラは首を傾げる。

「どうした?」
「判らない」
「何が」
「ここまで、火が大きくなることだ」

 アキラとトーマは目を合わせる。

 確かに、つい先日も雨が降っていた、と、
 トーマは頷く。

「何かがおかしい」
「ここまで、いろんなことが偶然に?」

 カオリも不安げな表情をする。

「とりあえず、ここにいろ」

 トーマは、扉に手を掛ける。

「俺は、一族の長から招集がかかっているから行ってくる」
「招集?」
「あれだけの火だ。うちの一族も見過ごせない」
「招集とは、海一族みんなか」
「まあ、上の方の者、と云うか」

「いや、待て」

 アキラははっとする。

「気を付けろ」
「気を付ける? 何を?」

「海一族の中に、外部者がいるかもしれない」

「外部……?」

「諜報員か、もしくは……」

 その言葉に、トーマも息をのむ。

 何か

 今回の災いの、大本。

 アキラは窓を開け、空を見る。
 鳥に合図する。

「何をした?」
「よくは思わないかもしれないが、うちの鳥に上空で見張らせる」

 外へ行こうとするトーマに
 アキラは再度、云う。

「気を付けろ」

 トーマは頷く。



NEXT

「海一族と山一族」21

2017年08月22日 | T.B.1998年

「トーマ、遅い」

長の家へと駆けていく途中で
同じ一族のミツナと合流する。

「まずいことになったな」

トーマは走るペースをミツナに合わせながら言う。
長の家に辿り着くまでに
少しでも状況をまとめておきたい。

「山火事、なのかあれは?」
「分からないが
 雨でも降ってくれたら」

空を見上げるが
それを期待するのは難しそうだ。

「山一族の村へ
 行く事になるのか?」

どうだろうか、と
ミツナが言う。

「緊急事態とは言え
 不可侵の定めがある。
 救助の求めがなければ動きにくい」

それに

「まずはうちの村の事からだ。
 こちらに火の手が及ぶのを防いだ上での
 援助じゃないのか?」
「そうは言ってもあんな火事だ
 助けに行った方が」

彼の言うことは正しい。
まずは、自分の村を守ってからの事。

どうしたんだ?と
ミツナが首を傾げる。

「トーマは気にしすぎだ。
 今の時点ではあくまで他の一族の事だ。
 その都度、我が事のように受け取っていたら大変だぞ」

割り切れ、とミツナが言っている。
まさか、
トーマに山一族の知り合いが居るとは
思ってもいないのだろう。

「まぁ、まずは、長の考えを聞かないと」

まったく、と
ミツナは言う。


「今日は漁どころじゃないな」


ふ、と
その言葉にトーマは足を止める。

「おい、トーマどうした?」

「先に行っててくれ」
「……俺、言い過ぎたか?」
「違う、気になることがある」

ミツナの言葉通り。
今日はこの騒ぎで漁は行わないだろう。
皆が山を見上げている。
気がそちらにとられている。

ならば。

今日のこの出来事が
誰かが意図した悪意なら。

「もし、ミナトかカンナを見かけたら
 港に来るように言ってくれ」

気のせいであってくれ、と
今来た道とは逆に
トーマは駆け下りる。


NEXT

「山一族と海一族」24

2017年08月18日 | T.B.1998年

 鐘の音が、鳴り響く。

「火だ!」
「火が上がっているぞ!!」

 叫び声。

 山一族は散り散りに走る。

「落ち着いて移動しろ!」

 山一族の村内で、火が燃え上がる。

「落ち着いて!」

 メグミは、一族の者を村外へ誘導する。
 村外に、避難場所が備えられているのだ。

 火は、収まる気配がない。
 燃え続ける。

 このままでは、村すべてが焼けてしまいかねない。

「どうしてこんな時期に火が!?」

 メグミは村内に残る者がいないか探す。
 同時に、火元を探る。

 けれども、燃えさかる火が行く手を阻む。

 熱い。

 メグミは空を飛ぶ鳥たちに合図をする。
 山一族の上空にいた鳥たちは、火の気のない方へ飛び去る。

「メグミ!」

 ヒロノとハラ家の者がやって来る。

「結界を張って火を抑えるぞ!」
「逃げ遅れた者は?」
「もういないはずだ」

 ハラ家の者が、呪文を唱える。

「お前も避難しろ」

 メグミがヒロノを見る。

「おかしいわ」
「何が」
「火よ」
「どう云う」
「広がり方」

 メグミは空を見る。

 曇り空。

 そう

 ずっと、雨が降り続いていたのだ。
 一族の村は、常に家屋も草木も濡れていた。

 なのに

「こんなにも上手いこと、火が広がる?」

「つまり?」

「これは何者かが、」

 と

 突然、大きな音を立てて、近くの建物が崩れる。

「後回しだ!」

 ヒロノも呪文を唱える。

 メグミは反対方向へ、走り出す。
 村外の避難場所へ。

 そこには、一族の者が集まっている。
 女、子ども、年配の者。

 男たちは、消火に当たっている。

 メグミはその者たちを見る。

 見て、

 再度、歩き出す。

 一族の村から離れ、人気のない山中。

 メグミは立ち止まる。
 前を見る。

「誰!」

 声を出す。

「そこにいるあなたは、誰!」

 何者かがちらりとメグミを見る。

「なぜ、山一族の格好をしている!」

 山一族の格好をした何者かは、走り去る。



NEXT

「海一族と山一族」20

2017年08月15日 | T.B.1998年

「アキラ!!」

扉を開き、声をかける。

「大変だ」

肩で息をするトーマを
アキラが見やる。

「判っている」

その問いかけに、アキラが頷く。
この騒ぎだ、
気付かない方がおかしい。

「いったい何が……」

アキラは首を傾げている。

「どうした?」

「判らない」
「何が」
「ここまで、火が大きくなることだ」

確かに、と
トーマは頷く。
先日雨が降ったばかりだ。

木々も湿っているはずなのに
油を撒いているかのような火の広がり方。

「何かが、おかしい」
「ここまで、
 いろんな事が偶然に?」

まるで、何かが仕組んだように。

不安そうな表情を浮かべているカオリを見ながら
トーマは言う。

「村のことは気になるだろうが
 今は動くのは難しい。
 とりあえず、ここにいてくれ」

アキラにしても黙って見ているのは
もどかしいだろうが
混乱に乗じて動くには
外に人が多すぎる。

「俺は長の招集がかかっているから
 そこへ行ってくる」
「招集?」
「あれだけの火だ。
 うちの一族も見過ごせない」
「皆が集まるのか?」
「いや、上の方の者、というか」

アキラはトーマが
長候補という事を知らない。

「それについては、
後から説明するから」

「待て」

アキラは出て行こうとするトーマを止める。

「気をつけろ」
「気をつける、何に?」

「今、この騒ぎで
 海一族も浮き足立っているはずだ」
「そう、だな」

「見慣れない顔には気をつけろ。
 部外者か、諜報員、もしくは」

もしくは。

それ以外の何か。
災いの大元となっている
何か。

アキラは窓を開け
空に合図を送る。

「今のは何だ?」

良くは思わないかも知れないが、と
アキラは言う。

「うちの、山一族の鳥に
 上空を見晴らせる」

山一族は狩りで鳥を自在に操るという。

「いや、助かる」

トーマの背にアキラの声がかかる。

「気をつけろ」

振り向かず頷いて
トーマは外に駆け出す。



NEXT