TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「タイラとアヤコ」8

2017年07月04日 | T.B.1961年

「なんだか、人が少なくない?」

狩りの班を見回しながら誰かが言う。

「少ないというか
 全体的に、若くなった?」
「だよね」

主力である20代の者達が
狩りに参加しないことが多くなった。
指示を出しているのも、また、若い者だ。

「村境に行っている、とか」
「なんで?」
「さぁ?」

一族の伝統である狩りよりも
大切な任務という事になる。

そんな会話を横目に
タイラは目を伏せる。

東一族との争いが始まる。

アマネの言葉を思い出す。
実力のあるもの達は
そちらに引っ張られている。
村境なら見張りだろうか、そう考えれば筋が通る。

「どうしたの、タイラ?」

アヤコが声をかける。

「ん?うーん、なんにも」
「なんにも無いようには見えないけど」

怪しいなぁ、と言うアヤコに
違うよ、と答える。

「なんにも出来ないんだなって」

北一族の村であったことも
誰かの璃族も、誰かの恋路も、
もしかしたらそれ以外の事も、
なにか大事な事がすぐ近くで起こっても

多分、タイラは
ただの通りすがりで
それに関わる事は無いのだろう。

言ってる事が分からない、と
アヤコは頭を捻る。

「んんん?
 よく分からないけど、何かしたかったの?」
「そうかもしれない」
「関わったら
 案外大変だったりするのよ」
「だろうね」

「でも、 自分だって少しぐらいはって
 思うんだよな」
「男の子ね~」

「おい、静かに、
 班分けをするからな」

そう言いながら今日の指示役であるノゾミが
二人の横を通っていく。

「タイラとアヤコと
 そうだな、あぁ、カナデに、テイコ」

すらすらと、
指さしながら行くノゾミに
えぇえ、とタイラとアヤコが声をあげる。

「ちょっと」
「また俺達同じ班かよ」

二人は誰が班を組んでも
同じになる事が多い。

ちょっとした呟きのつもりだったが
ノゾミは立ち止まって振り返る。

「……そういえばそうだな、
 考えたこと無かったけど」
「無かったのか」
「無意識というか何というか」
「無意識」

悪い次から気をつけるよと答えながら
ノゾミは言う。

「セットというか、そうだな
 お前ら二人で1つみたいな感じだからな」


NEXT

「タイラとアヤコ」7

2017年06月27日 | T.B.1961年
「失礼しました」

その日、タイラは村長に呼び出されていた。

何をしでかしたんだ、と
散々家族に問い詰められたが
それはタイラ自身が一番知りたい。

部屋を退室しても
その謎が解けずに首を捻る。

尋ねられたのは
以前、北一族の村に行った時の事。

変わったことが無かったかと訊かれ
思い当たることは話したが
もういい、と帰された。

「売上金が、減っていた、とか?」

疑われているのなら嫌だなぁ、と
モヤモヤした気持ちで歩く。

「おい、タイラ」

そんな時に声がかかる。

「……アマネ」

一緒に、北一族の市場に行ったメンバーだ。
アマネはタイラより先に呼ばれていた。
その事について話したくて
出てくる人を待っていたのだろう。

「お前何か訊かれたか?」
「それが、さっぱりで」

訳分からん、と
タイラは自分が訊かれたこと
答えたことを話す。

「まぁ。
 タイラは違うって思われたんだろう。
 安心しろ」
「違う?」

アマネは辺りを見回しながら言う。
彼は、タイラ以上に
何かを聴いている。

北一族の市場に行ったあの時。

「東一族が死んだと」

「……死んだ?」

北一族の村には各地から人が集う。
東一族も沢山居たはずだ。

少しだけ会話を交わした東一族。

違うと良いけど、と思い
その事は村長には話していないと気づく。

「まずかったか?」
「何が?」
「あ、いや」

なんでもない、と
タイラは話を戻す。
多分、関係の無い事だ。

「東一族のやつらは
 犯人が西一族だ、と
 そう言っているらしい」
「そんな、言いがかりだ」
「でも」

タイミングが悪かった。

「よりにもよって
 俺達が北一族の村に居た日に」
「疑われているのか?」
「そうかもしれない。
 村長も何を知っていて
 何を聞き出したいのか分からないが」

売上金に手を付けた、どころの話ではない。

どちらにせよ、とアマネが言う。

「ますます
 東一族との関係が悪化するだろうな」

「争いが、起きるのか」

「今回の件が落ち着いても
 別の何かがきっかけでいずれ起きるさ。
 早いか遅いか、それだけだ」

西一族と東一族は
そんなものだ、と。



NEXT

「タイラとアヤコ」6

2017年06月20日 | T.B.1961年


狩りの帰り道、
水辺の路をアヤコとタイラは歩く。

「暑いな」

雨の多い季節が過ぎて、
木陰でも動く毎に暑さが伝わってくる。

「早く帰って、
 体を洗いたいわ」

アヤコは鼻をひくつかせながら言う。
ただでさえ、狩りで汗をかいていて我慢ならない。

が。

「俺、ちょっと休憩」

タイラはそう言うと
靴を脱いでズボンをめくり、
水際に走る。

座るとちょうど足が浸かる。
そんな良い場所がある。

「もう、先に帰っとくわよ」
「へいへい」
「………」

「あぁあ、もう!!」

大きな水音をたててアヤコも続く。

「えいやっ!!!」
「こらこら、
 女子が簡単に生足を出すものじゃない」
「お母さんか」
「弟だよ」

ふ~、と
暫く二人は息をつく。

「………今日、言い過ぎたよね」

アヤコがぽつりと言う。

「ん?」
「ほら、サエコと、狩りの時」
「んん?」
「狩りの方法でもめたじゃない」
「そうだっけ?」

狩り。今日の。
タイラは記憶を巡らせる。

「そうよ。
 だって、なんか、さぁ」

ああ、と
やっとアヤコが言うことに思い当たる。

「もめたって言うか、
 アヤコ、ちょっとムキになってたよね」

「それよそれ!!
 取り消したい、やり直したい!!」
「いや、狩りの方法で言い合っただけで、
 別に喧嘩した訳じゃないし」
「それでも。
 もう、私すぐかっとなるの直したい」

あうあう、と
アヤコはもだえる。

「サエコみたいに、落ち着いて
 ちゃんと筋の通った話が出来たらいいのに」

こんな私、もうやだ。

そう嘆く隣でタイラは思う。

狩りも無事に終わったし、
多分サエコは気にも止めてない、
むしろ忘れている。
アヤコ一人が気にしているだけだ。

というか、
そんな気遣いを
少しは自分に回して欲しい、と。

「アヤコは色々考えて大変だね」
「大変なのよ!!」

アヤコはこちらが何を言っても
自分で納得がいくまで
考え込むタイプなので放っておこう、と
長年の経験から結論を出す。

「海ってさぁ」

「話変えようとしてる」

バレバレだがばれたか、と
恨めしそうなアヤコの視線を感じながら
タイラは続ける。

「アヤコ、海、見たことある?」
「無いわよ、知ってるでしょう」
「見渡す限り水平線が続くんだと」
「湖とどう違うのかしら?」

「塩辛い水なんだって」

「……むぅ」

あきらめて、アヤコが言う。

「しょっぱい水かぁ。
 そこは泳げるのかしら」
「泳ぐ前提なのか」
「泳ぎは得意よ!!」

この世界では
海一族のみが海に面した土地で暮らしている。

「湖とは全然違うのだって、
 砂浜っていう所があって、
 泳いでいる魚も、色とりどりの物があって」

「そういう話は聞くわね」

なにせ、海一族の土地は遠い。
実際に訪れた事があるという者も
そう多くはない。

行ってみたいわね、と
話すアヤコを見て
少しは気分を切り替えただろうか、と
タイラは一息つく。

いつか叶えばいいけど、
叶わなくても全然構わない、
そう思いながら呟く。

「一生に一度で良いから
 見てみたいよな、海」


NEXT

「タイラとアヤコ」5

2017年06月13日 | T.B.1961年

雨の日。

一人、西一族を離族した、と
そんな噂が村に広がる。

「離族かぁ」

詳しい事はタイラ達には分からないが、
一族の皆が名前と顔を知っているくらい
腕の立つ者だった。

どこにも属せず、一人で生き抜かなくてはいけない。
どれだけの苦労が待っているだろう。

「あんなに成功している人でも
 嫌になる事があるのだろうか」

上に立つ者には
また違った悩みもあるのかも知れない。

「才能は無くても困るが
 ありすぎても困るのかな?」

むむむ、と首を捻る。

「………なぁ、アヤコどう思う」

さっきから、この部屋には二人なのに
タイラばかりが話しているので
独り言が大きな人の様になって居る。

「おい、アヤコってば」

アヤコはソファに座り
雨粒が流れる窓を
じっと見つめている。

「……寝てんのか?」

覗き込もうとしたタイラを避けるように
アヤコが顔を逸らす。

「???」

ぐずっと
小さく鼻をすする音が
部屋に響く。

「!!!!??」

「え、おま、アヤコ。
 泣いてんの??」

「うるさい、だまれ」

そのままばっと顔を伏せる。

「タイラ、こっちおいで」

様子に気付いた母親が、台所から
小声でタイラを呼ぶ。

「母さんあいつどうしたの?」
「女には色々あるのよ。
 そっとしておきなさい」

「え?
 今、そういう時期?」

タイラにはアヤコと母親から同時に物が投げられる。
デリカシー大事。

「えぇ、じゃあ
 俺が何かしたっけ?」

あのねぇ、と
母親がそっと教える。

「璃族した人」
「うん」
「好きだったんだって」

「………そっか」

そうか、あの人だったのか。
意外とワイルド系が好みだったのかアヤコ。
そして、ちょっと年上だぞ。

母親は食事の準備をしている。
アヤコの好物だ。

さらに、香草を刻んだ物を
好みで乗せるが
アヤコはこれを多めにかけるのを好む。

「ちょっと、庭で香草とってくる」
「あら、雨降ってるわよ」
「いいよ、兄妹のためだからな」

これで少しは元気になれば良い。

「あの人かぁ」

手の届かない人と言えば、そうかもしれない。
人気のある人だ、恋人だって居たのかも知れない。

あの時アヤコが相手の名前を言わなかったのは
そういう事もあってだろう。

ひとり部屋に残されたアヤコは言う。

「次は、物静かな、
 落ち着きのある人を好きになる」


NEXT


「タイラとアヤコ」4

2017年06月06日 | T.B.1961年

タイラは村人数人と、
北一族の村へ繰り出している。

村の特産である干し肉を卸すためだが、
それは早々に済ませて
通りを練り歩く。

北一族の村は市場の街。
各地から色々な品が集まってくる。

屋台を巡り、
めったに口にしない他一族の料理をほおばり、
珍しい特産品を眺めて回る。

「それじゃあ、しばらく散策して
 夕刻に同じ場所で」

まとめ役がそう言うと
じゃあ、あとで、と互いに手を振る。

タイラは、砂一族のスパイスを自宅用に。
今日は村に残った友人には
珍妙な飾りを土産に選ぶ。

後は、アヤコの分。
北一族の村に来るならば、と
タイラは品を決めていた。

「確か、露店街の端の店」

以前の狩りの時に
良いなと欲しがっていた菓子。

「………どんな、だっけ?」

辿り着いてみれば、同じ様な店が並ぶ。

包装紙が可愛いのだと言っていたが
中身が美味しければ外装には興味が無いタイラとしては
なにがなにやら、だ。

あと、女性が多くて
長時間滞在できる気がしない。

「直感で選ぶしかない」

そして、この場を早く立ち去ろう。

「っつと」

考え事をしていたせいで、
人にぶつかりそうになり
慌てて避ける。

「ごめんなさ」

謝りかけて、言葉が裏返る。

「ひがっつ」

黒髪に黒い瞳。
そして、黒い衣装。
タイラ達と正反対のその一族。

東一族。

彼らは湖を挟んで反対の岸部で暮らしている。
生活習慣や考え方の違いから
西一族とは何かと反りが合わない。

忘れていた。

この市場には
各地から人が集まる。

他一族との接触には
細心の注意をはらわなくてはいけなかった。

「あの、えっと」

相手の男と背格好は大きく変わらない。
が、男の方が一回りほど年上。
武術を嗜んでいるのが見て取れる。

「いや、こちらも余所見していた」

男が静かに返すが
睨み付けられているようで
タイラは返事が出来ずに固まってしまう。

あまりにも慌てているその様子に
東一族は呆れたように言う。

「落ち着け、商品を握りつぶして居るぞ」
「……あ」

袋を思いっきり握ってしまっていた。

「すみません、
 これちゃんと買い取りますんで」

振り返って店主に謝るタイラに
東一族は表情を緩める。

「恋人に土産か?」
「姉、あの、双子の片割れで」

ああーっ、
正直に答えずに「はい恋人です」って言っとけば良かった。

混乱しすぎて
タイラはよく分からないことに頭が回る。

「この店の人気はあちらの、桃味だ。
 妻の好物でな」

それだけ言うと、タイラを避けて
店で買い物をして、東一族の男は立ち去る。

「怖がらせて悪かった」

その場に1人残されたタイラは
ゆっくりと息を吐く。

「びっくりしたあ」

東一族をあんな間近で見たのは初めてだ。
魔法を使い、動物を操るという。

もしかして、いつか
西一族と大きな諍いが起きるのでは、と
危惧されている。

でも、悪い人には見えなかった。
狩りを行う西一族とは
反りは合わないかもしれないが。

「付き合い方次第だろうか」

誰かがこの様子を見ていたら
情けないと叱られるかも知れないが
ある意味貴重な体験だった。

「あ、そうそう、お代」

土産と潰してしまった分。
払おうとすると、店主が言う。

「さっきの人が全部払っていったよ」

「………かっこよさすぎるだろ」

これ、どっちか女だったら
恋とか始まってたわ、と
タイラは誰にともなく頷く。

ちなみに、集合時間には遅刻した。




NEXT