TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「規子と希と燕」1

2014年09月30日 | T.B.1961年

規子は広場への道を進む。
今日は西一族の狩りの日だ。

手に持つボウガンはいつも使う規子の武器。
そろそろ新しく買い換えたいと思っている。

「規子(きこ)、早いな!!」

後ろから声がかかる。
同じく、西一族の希(のぞみ)だ。

「これぐらい普通よ。
 希は今日のまとめ役なのに、
 こんな時間で大丈夫なの?」
「からかうなよ」

二人は並んで広場に向かう。
そこが狩りの前の集合場所だ。

「あら、燕(つばめ)は?」

規子は希の弟の事を聞く。
燕は規子と同い年で仲も良い。

「俺が出てくるときはまだ寝ていたけど」
「大丈夫なの」
「まぁ、あいつだし、間に合うとは思うけれど」

規子は呆れて頭を抱える。

「こんな時にのんきに寝ていられるなんて
 燕ぐらいよね」
「だよな」

今、西一族は大きな湖を挟んで対岸の一族と争っている。
狩りを行う彼らと違い、動物を従える一族だ。
白色系の髪と瞳を持つ西一族、
黒髪と瞳の―――東一族。
湖を挟んでにらみ合う二つの一族は何から何まで正反対だ。

昔からなにかと対立することが多かったが
ここ数年は小競り合いが続いている。
近々本格的な争いに発展するのではないか、という事もあり
西一族の主力になる若者は、
水辺の見張りに着き、戦いに備えている。

規子も希も、そして燕も
本来ならば狩りの中心となるには少し早い年齢だ。

年上の者たちと一緒になって狩りに出て
経験を積むのが習わしだが
この情勢だから仕方がない。

「あれで狩りの腕前は凄いからねぇ」

規子は燕の事を言う。

「それだけが取り柄だからな」
希はひょうひょうと弟の事を言う。
「………」
「……どうしたの?」
希は規子を見つめる。

「なぁ、規子、
 うちの弟ってどうだ」
「……どうって」
「規子、あいつと同じ年だし。
 昔から顔なじみだから性格もよく知っているだろう。
 ちょっとあんな瞳だけど
 銀髪だし、狩りの腕も飛びぬけているしさ」

「えぇ、ちょっと希!!」

「悪くないと思うんだけど」

いやいや、と規子は持っていたボウガンで
希を軽く叩く。

「どうしたのよ急にそんな話。
 だいたい、燕がどう思っているかも分からないじゃない」
「えぇ、ダメか?」
「ダメっていうかそんな風に考えたことないというか」

昔から弟の事を気に掛ける兄だとは思っていたが
規子は呆れて言う。

「それに、弟のことより自分の心配をしなさいよ」

希は顔をしかめて言う。


「うん、それは、まぁ……痛い所を突くなよ」


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「悟と行子」4

2014年09月26日 | T.B.2002年

 次の日。
 彼女のもとへ、再度、彼は赴く。

 彼女の部屋に、ほかの誰も、立ち入らない時間に。
 見計らったように。

 けれども

 彼女は、そんなこと、気にも留めない。
 おかしなことだと、気付かない。

 彼は、部屋の中の、彼女の前に坐る。
 彼女は、彼を見る。

「昨日さ」

 彼が、話し出す。
「俺のこと、誰かに話した?」
「いいえ」
 彼女が云う。
「話す人が、誰もいないので」

 思った通りだと、彼は頷く。

 彼女が訊く。
「誰か来たら、話したほうがいいですか?」
「そこは、ふたりの秘密だろ」
「秘密?」
 彼女は、首を傾げる。

「まあ、いいや」

 わざと、彼は軽く云う。

 こうしたほうが、彼女も、きっと、流す。
 深く考えず、ただ、流してくれればよい。

 彼は、昨日と同じように、部屋を見渡す。

 彼女を見る。

「それ」

 彼女は、彼の視線を追う。
「これですか?」

 彼女は、片手を少し上げ、袖をまくって見せる。
 彼女の手首に、東一族特有の装飾品が、つけられている。

「うちの一族に、その飾りはないな」
「めずらしいですか?」
 云うと、彼女は、装飾品のひとつをはずす。
 彼に、差し出す。
「……よかったら」
 彼は、彼女を見る。
「くれるのか?」

 彼女は頷く。

 少し考えて、彼が云う。
「それ、次期宗主から、もらったものだろ?」
「いいえ」

 彼は、首を傾げる。
 そういう関係ではない、ということだろうか。

「……でも。俺は、何も持ってないけど」

 彼は、自分の服を探ってみる。
 何もない。

 彼女は、首を振る。
「いいんです」
 云って、再度、東一族の装飾品を差し出す。
「じゃあ、もらうよ」
 彼は、それを受け取る。
 見る。

「女物なんです」
 彼女が云う。
「たぶん、あなたの腕には入らない」
 さらに
「……なので、あなたの、彼女様のおみやげにでもなれば」

 その言葉に、彼は目を見開く。
 彼女は、彼を見ている。

 知っている?
 自分のことを、何か、気付いている?

 それとも、ただ云っただけ、の、偶然?

 焦るのを押えて、彼は、息を吐く。

「せっかくもらうのに」
 彼が云う。
「おみやげになってもいいのか」
 彼女が頷く。

 微笑む。

「だって、もらえたら、うれしいじゃないですか」

 ……ああ

 同じ一族に閉じ込められて、可哀相なやつ、と、思っていたけれど
 そうやって、笑うんじゃないか。

 彼は、ふと、部屋の天井を見る。

「あいつ、何してんのかな」

「あなたの帰りを、待っていると思います」

「まさか」
「待っていると思います」
「帰りを?」

「待っています」

 彼女が笑う。

「そうか」
「仕合せですね」
「変なやつだな」
「え?」

「あんたが、だよ」



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規子

2014年09月23日 | イラスト


規子(きこ)

西一族
T.B.1944年生まれ
156cm・B型


西一族の女性ならではの気質で
男性とも対等に渡り合う。

希・燕兄弟とは幼なじみ。

狩りでは飛び道具を使う。


西一族と東一族の争いが激しい頃の世代。
(※水辺本編の祖父母世代)

2014年09月23日 | イラスト


燕(つばめ)

西一族
T.B.1944年生まれ
174cm・B型


希の弟。

生粋の西一族の証である銀髪と
敵である東一族と同じ黒の瞳を持っている。

狩りの腕前はかなりの物だが
黒目のせいで村での立場は良くない。

目を隠すために前髪が長い。
狩りの時は上げている。



西一族と東一族の争いが激しい頃の世代。
(※水辺本編の祖父母世代)

2014年09月23日 | イラスト


希(のぞみ)

西一族
T.B.1942年生まれ
180cm・0型


生粋の西一族の証である銀髪。

若者のまとめ役となっていて
将来は村の役職に就くのではと
期待されている。


西一族と東一族の争いが激しい頃の世代。
(※水辺本編の祖父母世代)