TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「ヨーナとソウシ」10

2016年11月29日 | T.B.1998年

ヨシヤはマルタの元に急ぐ。
待ちに待った子どもが生まれたと。
そう聞いて。

そして、その子の目についても。

部屋に駆けつけると、
そこにはマルタと子ども。

他には誰も居ない。

「ヨシヤ」

マルタは我が子を抱えたまま言う。

「ごめんなさい。
 私に似てしまったみたい」

その子の額には、
三番目の目は無い。

「難しいのかしらね、三つ目同士以外の子供は」

「そうじゃない例だってある」

この子は母親に似た。それだけ。
それでも、両親が三つ目であれば
三つ目が生まれる可能性が高いのは確か。

「ねぇ、聞いてよ。
 お義父様がね、この子を手放せって言うのよ」
「マルタ」
「養子に出せって。
 三つ目じゃないからだって」

ねぇ、と
生まれたばかりのその子は
今は眠っている。

「大丈夫よ。
 次はきちんと三つ目の子を産むわ。
 そうしたら良いのでしょう」

「……そうじゃない。
 マルタ、その子を手放そう」

「ヨシヤまで。
 何を言っているの」

「その方がその子のためだ。
 三つ目の跡取りは三つ目と決まっている。
 いずれ、三つ目の弟や妹に頭を下げる事になる」

それに、とヨシヤは
マルタを諭すように言う。

「要らぬ家督争いを生むことにもなる。
 何も知らずに、
 ただの村人として育った方が幸せだ」

「いやよ」

「マルタ」

「この子を誰かに渡して。
 いつか私は、母親と名乗ることは出来る?」

「出来ない」

「みんなが、この子の誕生を待っていたのよ。
 楽しみだねって言ってくれて、
 無事に生まれたのよ。
 三つ目じゃないってそれだけよ」

「子供は死産だったと公表される」

「………」

「マルタ、諦めるんだ」

「もし、私に
 これからも三つ目が生まれなかったら、
 もう一人に期待するしかないと言っていたわ」

「貴方の異母弟の子供に」

それは、と
ヨシヤは動きを止める。

「なんでだろう」

マルタは我が子をしっかりと
抱きしめたまま言う。

「異母弟の母親は二つ目だったのに。
 私と同じなのに」

マルタの声に
驚いた子どもが泣き出すが
マルタは言葉を止められない。

「どうして、異母弟は
 三つ目で生まれて、
 この子は二つ目で生まれたのかしら」

「なんで、なんでよ。」

マルタは、繰り返し呟く。

「異母弟は、ソウシは!!
 三つ目で生まれたのに!!」


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「辰樹と天樹」25

2016年11月25日 | T.B.2017年

 辰樹は、東一族の少女に駆け寄る。

「大丈夫か!?」

 少女がうめく。
 辰樹を見る。

 いや、

 見えてはいない。

「しっかりしろ」

 少女が何かを云う。

「何だ?」
「天い、さ、」

「…………?」

 少女は意識を失う。
 が、
 まだ息はある。

 辰樹は、少女の腕に気付く。
 東一族の装飾品。

 これは

「天樹の装飾品」

 辰樹は少女の顔を見る。

 そうか。
 ――この子が、天樹の。

 辰樹は、迷う。

 この少女を、病院に連れて行かなければ。
 けれども、砂一族も追わなければならない。

 ふと、

 辰樹は顔を上げる。

 近くに、天樹の気配がする。

「大丈夫だ」

 意識のない少女に、辰樹は声をかける。

「すぐに、天樹が来るからな」

 辰樹は、少女を横たえたまま、立ち上がる。
 走り出す。

「天樹!」

 辰樹は叫ぶ。

「天樹、どこだ!」

「辰樹!」

 天樹の声。

 辰樹は走る。
 天樹の姿を見つける。

「天樹いた!」

 天樹は息を切らしている。

 辰樹が訊く。

「砂を見たか?」
「いや」
 天樹は首を振る。
 云う。
「お前は見たのか」
 辰樹は頷く。
「さっき、砂がいたんだ」
「どこに?」
「今追ってる!」

「辰樹、」

 天樹が、云う。

「砂は、……砂は、ひとりだったか」
「ああ。砂は、ひとりで逃げてる」
「ほかには誰か、」

 天樹の言葉が終わる前に、辰樹は指を差す。
 天樹の彼女が、倒れている方向。

 辰樹は顔を曇らせる。

「悪い、間に合わなかった」

 辰樹の云いたいことを、理解したのか、天樹の表情が凍る。

「早く、行ってやってくれ!」

 その言葉と同時に、天樹は走り出す。

 辰樹はその背中を見る。

 そして

 反対方向に走り出す。

 今、自分は、砂を追わなければならない。
 天樹の代わりに。

 天樹が、天樹の好きな人を、救えるように。


 けれども


 このとき、辰樹は知らなかった。

 これが、天樹との別れだったと。



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「ヨーナとソウシ」9

2016年11月22日 | T.B.1998年

「マルタ?」

ヨシヤが呼ぶその名前が
谷一族の誰かだというのなら、
それは一人しか居ない。

彼の妻。

「マルタ様?」

彼女は紛れもなく谷一族。
でも、彼女は砂一族と一緒に
ソウシを狙っている。

「どういう、こと?」

ヨーナには全く話が繋がらない。

「止めよう、もう。
 こんな事をしても、
 あの子は喜ばない」

「………」

布をかぶった女性はそのまま沈黙を保つ。
けれども、

「ヨシヤ、お前も彼らの仲間か?」

ケンが放った言葉に、とっさに反応する。

「違うわ、ヨシヤは関係ない、
 私たちが勝手にした事よ!!」

それから、ソウシに振り向くと
彼を睨み付けて言う。

「あなたが居なければ!!」

ソウシを取り押さえている
男達は、
まずいとばかりに
舌打ちを打つ。

「おい!!」

「でも!!」

マルタの声はだんだんと小さくなり
座り込みながら彼女は言う。

「あなたさえ居なければ、
 ……あの子は」

「あの子?」

訳が分からない、と
ケンは眉間にしわを寄せる。

「子どもの弔いに、
 こんな事しているって言うのか?」

「ソウシは関係ないだろう。
 なぜ、」

「止そう、マルタ。
 彼を恨むなら筋違いだよ」

「だって、」

マルタは言う。

「あの子は、二つ目だったのよ」

その言葉にソウシは
顔をゆがめる。

「マルタ様。
 僕はもう、そちら側に
 関わるつもりは無いよ」

「あなたの意志は
 それは関係ないのよ」

ねぇ、とマルタは
恨めしそうにソウシの額を見つめる。

「だって貴方は、三つ目じゃない」

「三つ目?」

ヨーナは首を捻る。
ソウシが三つ目?

彼がこちらを見ているのが分かる。
申し訳ないというような表情は
その話を肯定している事になる。

ヨーナだけが
話について行けないまま、
会話は続く。

「その子が死んだのは
 僕のせい?」

「違う!!」

マルタは首を振る。

「あの子は死んでない」

そう、とヨシヤが言う。


「僕達の子は生きているよ」



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「辰樹と天樹」24

2016年11月18日 | T.B.2017年

 東一族が、走り回っている。

 市場もすべて閉め、
 家の扉を、固く閉ざす。

 辰樹はあたりを警戒しながら、走る。

 相手は、東一族の村に入り込んだ砂一族。
 相当の実力者のはずだ。

「どこにいるんだ」

 辰樹は耳を澄ます。

 耳を澄ましながら、

 先ほどの、補佐の話を思い出す。

 補佐は、目に病がある使用人、と云っていた。

 目の病。

 それだけで、どの東一族の者かはずいぶんと絞られる。

 しかも、女。
 屋敷の使用人。

「…………」

 一番に思い付くのは、未央子の友人。

「いやいや。まさか」

 立ち止まり、辰樹は首を振る。

 未央子の元に行って、その友人の所在を確認するべきだろうか。
 確認出来れば、その友人の疑いは晴れる。

「名まえは、何と云ってたかな……」

 辰樹は、口元に手をやる。

「えーっと。……小夜子(さよこ)、だったか?」

 と。

 何かの音。
 話し声。

「誰だ?」

 ……とりあえず証拠隠滅。

「これは、」

 ……君を、殺す。

「もしや」

 辰樹の額に汗が流れる。
 武器を握り、走り出す。

「どこだ!」

 辰樹の頭の中で状況が浮かぶ。
 このままでは、東一族が危ない。

 辰樹は声の元を追う。

「東一族に殺されたように、傷を入れてあげるし」

 砂一族の声。

「宗主付きの蛇に近い毒も入れてあげるからねー」
「や、」
「そうすれば、少しは俺の時間が稼げるだろー」
「いや……」
「ん? 誰か来るな」
「いや、」
「急ぐわ」
「助け、」

「やめろ!」

 辰樹は叫ぶ。

「あーあ。来ちゃったか」
「下がれ、砂一族!」
「何でだよ」

 薄笑い。

 そして、

「だめだ、やめろ!」

 辰樹は、紋章術を作動しようとする。

 が

 間に合わない。

 東一族の少女が何かを云う。

 砂一族は
 容赦なく手を振り下ろす。

 東一族の少女が倒れる。

 血が、流れる。

「おい、待て!」

 瞬間、

 砂一族は、走り去る。



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「ヨーナとソウシ」8

2016年11月15日 | T.B.1998年

谷一族の村で三つ目は
神の使いとされ、大切にされている。

何か緊急の事態が起こったとき
優先して守らないといけないのは三つ目の者。
ヨーナもそれは充分承知している。

今この場で、
ヨシヤを砂一族に渡してはいけない。
彼が無事に返される事は無いだろう。

「でも」

砂一族は、ヨシヤが来なければ
ソウシを殺すと言っている。
おそらくそれは、冗談ではない。

「ソウシを離して!!」

ヨーナが必死に叫ぶが、
砂一族はソウシを踏みつける。

「乱暴しないで、彼は目が見えないのよ!!」

「ヨーナ、大丈夫だから、
 心配しないで」

気遣うように声を出すソウシに
ヨーナは泣きそうになる。

どうしたら良い。

「ヨーナ、俺が何とかするから
 人を呼んでこい」

ケンが、小さく呟く。

「でも」

ヨーナにだって分かる。
この状況では
せいぜい時間稼ぎしかできない。

「いいから、早く!!
 どうしたって、この人数じゃ勝ち目がない」

砂一族は三人。
この中ではまともに戦えるのはケンだけ。
ヨーナも力になりたいが
このままでは足手まといになりかねない。

「分かった」

ヨーナは走り出す。

が、うめき声が聞こえて
足を止める。

振り返ると、ソウシの手の甲に
刃物が刺さっている。

「やめて!!やめてよ!!!」
「ヨーナ、落ち着け!!」

駆け寄ろうとするヨーナを
ケンが羽交い締めにして止める。

「もう一つ言っておく、
 怪しい動きを見せても、
 こいつを殺すぞ」

「ソウシは人質だろう。
 もっと大切に扱えよ」

ケンが舌打ちを打つ。

「……僕が、行くよ」

それまで事態を呆然と見ていたヨシヤが言う。

「でも、ヨシヤ様!!」
「話に乗るな、
 あいつら、お前が行っても
 ソウシを無事に返すとは限らないんだぞ」

犠牲になるのは二人かもしれない。
彼らが言葉の通り動くとは限らないのだから。

「大丈夫。
 彼らは、僕を、殺さない。
 捕らえもしない、絶対に」

「どういう」

言葉の意味がくみ取れずに
ヨーナはヨシヤを見る。

「あいつらの目的は、
 ソウシ、だから。
 ……ヨーナ、巻き込んですまない」

ヨシヤはそう言って、
砂一族に近寄っていく。

「そういう、事か」

怒りを含ませたケンの声が近くから聞こえる。
見ると、
ソウシも納得がいったように、
うんざりとした表情を浮かべている。

状況が読めないのはヨーナだけだ。

ヨシヤが、一番背の低い砂一族に近づく。
体全体を布で覆っているが
おそらく、女性であろうその人に

ヨシヤが、言う。

「もう、こんな事は止めよう、
 マルタ」


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