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「山一族と海一族」49

2018年05月04日 | T.B.1998年

 司祭の身体も光りだす。

「何だ!?」

 トーマは慌てて、後ろへ下がる。

 その光が、上りだす。

 まるで

 溶けるかのように。

 司祭の姿が消えていく。

「チハル、」


 イサシ


「チハル、……」

 ありがとう、イサシ。
 本当にありがとう。

「君を、……助けることが出来なくて」

 いいのよ、
 もう、いいの。

 私、……そんなに苦しむあなたを、もう、見たくない。
 あのときの、

 優しかったイサシでいて、ほしいの。

「チハル……」

 ありがとう、イサシ。

「そう、だったのか……」

 ええ。 
 これからはずっと、一緒にいられるわね。


 アキラとトーマは、息をのむ。


 涙している、海一族の司祭。

 今までのことが嘘のように、その表情は穏やかになっている。

 そして、

 司祭の姿は、瞬く間に、見えなくなっていく。

 わずかに残された光も

 同じように、その輝きを消していく。


 やがて

 静寂。


「何が、」

 アキラとトーマは顔を見合わせる。

「おそらくだが……」

 アキラが云う。

「あの、恋人の身体に何かが起きたとき、」

 自身の力をすべて注ぐようにしていたのか。
 最後まで、あきらめる気はない、と。

「もしくは」
「もしくは?」

「失敗したときのために、口封じの術をかけられていたのか」

「口封じ……」

 つまり、殺すため、に。

 相手は、裏一族だったのだ。
 確かにそう捉えることも出来る。

 が、

 トーマは首を振る。

「何が本当か、判らないまま、か」

 アキラは頷く。

 アキラは、マユリに近付く。

「大丈夫か?」

 マユリが薄く目を開く。

「……ここは?」

 その様子に、トーマは安堵し、

「はっ! カオリは!?」

 突然、走り出す。



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