TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「涼と誠治」40

2019年12月27日 | T.B.2019年


「ああ、そうか」

 誠治が呟く。
 涼を見る。

「そろそろ、なのか」

 涼は顔を上げる。

「おい、その、……」

「何?」
「…………」
「…………?」
「何とか、帰って来いよ」
「帰る?」

 彼は首を傾げる。

「どこに?」
「ここにだよ!」

 彼は再度首を傾げる。

「お前、行くんだろう」
 誠治が云う。
「その、東に……」

「ああ」

 彼が云う。

「そうだね」
「行くのか……」
「雨の時期も終わった。狩りはまた、通常通り行える」

 西一族の村は雨が続き、食糧が不足していた。
 それが解決されるまで、狩りの要員がいる。
 涼は、それまで、東一族へ向かうと云う件が延期されていたのだ。
 いわゆる、涼に対する西一族内の罰。

「帰って来られるかな」
「村外追放じゃないんだ。当たり前だろう」
「上の者たちが、……」
「帰ってくればいいさ」
「どうかな」
「お前が黒髪で、いくら嫌われていようとな!」

 涼は笑う。

「ずいぶんといろいろ重ねたから」
「重ねた?」
「狩りで誠治たちに矢を放って、仲間を怪我させたとか」

 そもそもの、こと。

 それから

 黒髪でありながら結婚した、とか
 屋内待機中に村を出た、とか
 さらに、今回の一件も

「おかしいだろ、村長!」
「云っているのは村長じゃない、他の者たちだ」
「涼っ!」
「何?」
「ちょっとは反論しろよ!」
「一応したけど」
「何て!」
「結婚相手は悪くないんじゃないかって」
「そこか!!」

 誠治は頭を抱える。

「ちょっと東に行って、さっと帰って来い」
「そんな簡単な話? 誰かも云っていたけど」

 涼は、誠治を見る。
 けれども、その視線は合わない。

「誠治」
「何だよ」
「頼みたいことがあるんだけど」
「云えよ」

 彼は、彼の家族の名を云う。

「で?」
「誠治」
「面倒を見ろとか云うのか」
「次の相手が決まるまで、様子を見ていてほしい」
「……次の相手って」

 誠治が云う。

「何を云う。西に帰って来て、自分で面倒を見ろ」
 涼は繰り返す。
「次の相手が決まるまで、だ。追いかけてこないように」
「追いかけ?」
「そう」
「あの足の悪い女がそんなことするかよ!」
「意外と、北に行ったりするから」
「えっ!?」
「こっちの話」

 誠治は立ち上がる。

 云う。

「帰って来いって」
「…………」
「な?」

 誠治は手を差し出す。

 涼はその手を見る。

「待ってるよ、たぶん……。うちの班は、」

 涼は再度笑う。

 その手を握り返す。







2019年 西一族の青年の話



「涼と誠治」39

2019年12月20日 | T.B.2019年


「ずっと昔にだな」

 山一族が云う。

「黒髪の女性を助けたことがある」
 云う。
「今思えば、顔立ちがお前に似ていたな」
「…………」
「素性は知らないが、」
「…………」
「もしや、お前の母親だったか?」

 彼は首を振る。

 あり得ない話だ、と。

「気を付けて帰れ」

 彼は手を合わせる。
 山一族は頷く。

「お前に、山の神の加護があるように」


 彼が山を下り

 西一族の村へと戻ってきてから


 数日後。


 手当てをしてもらい
 いろいろと村長に話を聞かれ、今に至る。

 ここ最近の雨が嘘のように。
 空は晴れ渡っている。

 誠治が、彼の元へとやって来る。
 彼は、家の前で道具を手入れしていた。

 誠治は、彼の前に立つ。

「もう、いいのか」

 涼は頷く。
 同じことを訊く。

「誠治は」
「俺も平気だ」
「なら、よかった」

 涼が訊く。

「今回のことは、村長が何と?」
「ああ、……それはだな」

 誠治は、涼の前に坐る。
 話し出す。

 簡単に云うと、誠治が西一族の情報を他一族へと売ろうとしたこと。
 しかも、山一族かと思っていた相手が、裏一族だった。

 けれども、それは、誰も知るはずがない。
 その場にいたのは、涼と誠治だけだったのだから。

 涼が云う。

「村長には裏一族のことを伝えたけど」
「……だよな」

 もし、何かあって、裏一族が西にやって来るかもしれない。
 そう思うと、隠すことではない。
 報告すべきことだったと。

「村長が、そこから、誰にその話を伝えたかは知らない」
「ああ」
「上のどこまでが、裏一族の件を知っているのか」
「本当にやべぇ……」
「誠治は何と云われた?」

「うん、まあ、」

 誠治は息を吐く。

「なかったことにしてやる、と」

 そう、村長が云った。

 これをいい経験に、西のよき村長候補になれるよう、励め、と。

「たぶん、裏一族の件は、誰も知らないみたいだ」
「そうか」
「村長と、補佐役ぐらいか?」

 誠治の言葉に、涼は頷く。

「俺たちの狩りが手間取っただけ、と云う話にしてくれた」
「妥当だ」

 涼は、手入れを再開する。

「当分謹慎だけどな!」

 つまらない、と、誠治は身体を伸ばす。

「まあ、俺の謹慎が終わったら、狩りに行こうぜ」
「そうだな」
「…………」
「…………」

「涼?」





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「琴葉と紅葉」40

2019年12月13日 | T.B.2019年



「そう決めた?」
「黒髪との約束」

「約束?」

 紅葉は首を傾げる。

「ああ、もう! それで帰ってくるかどうかとか向こうは約束してないし!」
「んん?」
「おかしくない!?」
「んんん?」
「こっちの話!」
「全然判らないんだけど」
「だから、こっちの話!」
「琴葉」
「あんたはそうよ、前村長の孫と結婚すればいいのよ!」

「急に、どう云うこと!!?」

「紅葉はもてるからいいわよね、て、話!」
「ええ、そうかなー?」
「否定しなさいよ!」
 琴葉は、水をばしゃばしゃさせる。
「うちらは本当に西一族から棄てられた人間!」
「琴葉。だから、狩りにおいでって」
「行かない!」
「矛盾!」
「やりたい、かつ、出来ることしかやらないから!」
「全部やりなさいよ!」
「決めるのは私!」

 琴葉は立ち上がる。
 息を吐く。

 紅葉はもういない。

 横を見る。

 黒髪の彼が立っている。

「…………」
「…………」
「お帰り」

「誰かいた?」

「いたよ」

「そう」

「紅葉がね。何か、怒りながら帰った」

「そう」

 彼は、琴葉が広げた植物を見る。
 いずれ、薬になるもの。

「やってるの?」
「やってるよ。どうこれ?」
「いいと思うよ」
「云われた通りにやったし」
「喜ぶね、医師様」
「今更だけど。あんた何で、医者を医師様って云うの?」

 琴葉は云う。

「お腹がすいたな。何か食べよう」
「うん」
「何かおいしいものを作るわ」
「うん」

「肉をたくさん使ってね!」

「それは無理」

「あんたね。私にばかり約束させないで、ちょっとは私の云うことも聞きなさいよ」
「もっともだ」

 涼が云う。

「それで?」
「うん?」
「どうするの? これから」

「だからそれは」

「続けるの?」
「続けるわよ!」

 琴葉は云う。

「ちょっとでも薬を覚える! そうすれば一族の役に立てるでしょ!」
「うん」
「あんたの功績がなくたって、私は立場を取るからね!」
「うん」
「いつか、私があんたの功績まで取ってやるわ!」
「そうすれば、俺は狩りに行かなくてよくなるね」
「いや。そこは、獲物を獲ってきてよ」

 琴葉は、家に入ろうとする。

 彼もそれに続く。
 が
 琴葉は振り返る。

「…………?」

 涼は首を傾げる。

「涼」

「何?」

「えーっと、」

 琴葉は涼を見て、空を見る。

 再度、涼を見る。

 彼は、西一族ではあり得ない、黒い髪。

「私は、さ」
「うん」

「……あなたと、生きたい」





2019年 西一族の少女の話



「琴葉と紅葉」39

2019年12月06日 | T.B.2019年

 彼女が山を下り

 西一族の村へと戻ってから


 数日後。


 ここ最近の雨が嘘のように。
 空は晴れ渡っている。

「…………」
「…………」

「……何よ」

 琴葉は手を止め、顔を上げる。

「何か用?」
「あ、えっと」

 紅葉がいる。

「えー、っと」
「黒髪ならいないけど」
「あ。うん」

 紅葉はあたりを見る。

 彼を、探しているのか。

 琴葉は云う。

「村長のところか、狩りじゃない?」
「それ、ずいぶんと違わない?」

 琴葉は息を吐く。

「うちら、適当だから」
「何それ」
「干渉しない程度に」
「ふーん」
「生きていて、たまに帰ればいっかなって」

 紅葉は首を傾げる。

 琴葉は、ちらりと紅葉を見る。
 が
 やがて、自分の作業を再開する。

「…………」
「…………」
「まだ、何かある?」

 琴葉の言葉に、紅葉は、再度あたりを見回す。

「あの、」
「何?」
「……大丈夫だったの?」
「大丈夫? 何が?」
「この前の……」
「山に行ったときのこと?」
「あのときは……、ごめんなさい」
「ああ」

 琴葉は頷く。

「別に、気にしてないと思うよ」
「…………」
「平気じゃない?」
「……そっか」
「本当に謝る気があるんなら、あいつに云ってよ」
「……うん」

 それでも、紅葉は落ち着かない。

 琴葉は構わず、作業を続ける。

「それは?」

 琴葉は紅葉の手元を見る。

「…………」
「ねえ、琴葉」
「何?」
「面倒くさがらないでよ」

 琴葉は、水に沈めていた手を出す。
 その手には、何かの植物。

「葉っぱ?」
「洗ってるの」
「何で?」
「何でって、……薬になるから」
「へえ」

 紅葉が云う。

「先生の手伝い?」

 琴葉は答えない。

「何だ」
「……何だって、何よ」
「琴葉もちゃんとやってるんじゃない」
「どう云う意味?」

 琴葉は、植物を洗う。
 それが終わると、葉を広げる。
 乾かす。

「それで終わり?」
「乾くのを待つのよ」

 作業はまだ続く。

 琴葉は立ち上がる。

「私はそう決めたの」

 琴葉は云う。

「狩りは出来ないし、勉強は出来ないし」
「琴葉、」

 それでも、

 ちょっとだけ、出来ることをやる、と





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「琴葉と紅葉」38

2019年11月29日 | T.B.2019年

 ふたりは、山を下りる。

 山一族の村を出て、西一族の村へ。

 山一族の村は、その名の通り、山の奥深くにある。
 西一族の村までは、遠い道のり。

 彼が前を歩き、琴葉は後ろに続く。

 ただ、歩く。

 かろうじて、道のようなものがある。

「何か、……」
「何か?」
「獣とか、いそう……」
「獣?」
「獣」

 彼はあたりを見渡す。
 音を聞く。

「…………」
「…………?」

 風の音。
 葉が揺れる音。
 鳥の鳴き声。

「大丈夫だよ」

 彼が云う。

「何事もなく、山を下りられるよ」
「本当に!?」
「そう」
「根拠は?」
「根拠?」

 彼は琴葉を見る。

「何となく」
「当てにならない!」
「大きな声はやめて」
「何となくって何よ!」
「山で、大声は駄目だって」

 彼は、弓を握り直す。

「山一族にもらった矢もあるから」

 いざと云うときは大丈夫。

 琴葉は息を吐く。
 先を見る。

 まだ、歩かなければ、ならない。

「行こう」

 彼が歩き出す。

 琴葉も続く、が、

「あの、さ」
「何?」

 すぐに、立ち止まる。

「あの……」
「…………?」
「足が、限界なんだけど」
「足?」

 必死で登ってきた。
 少し安心して、足が、非道く痛むのに気付く。

「痛むの?」
「そう、なんだけど!」
「つらい?」
「…………」

 痛い。

「えーっと、」
「…………」
「馬を借りる?」

 山一族の村に戻ろうと、彼は方向を変える。

 琴葉は慌てる。

「馬はやだ!」

「じゃあ、どうする?」

 彼は、首を傾げる。

 このままでは、日が暮れてしまう。
 夜の山は危険だ。

「飛ばす、のは……」
「飛ば??」
「何でもない」

 彼の呟きに、琴葉は目を細める。

「平気。行こう」

 彼は手を出す。

「何?」
「おぶるよ」





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