TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「海一族と山一族」42

2018年04月10日 | T.B.1998年

海一族、山一族、
それぞれにざわめきが起こる。

人の命を吸収する。

それは、
禁止されている古い時代の魔法。

「この魔法、誰がやったと思う?」

ミツグが山一族に問いかける。
術に詳しいだろう山一族が
それに訊ね返す。

「………ここは、紋章術を使う我らに
 疑いが掛けられてもおかしくない状況だが」

儀式を出し抜いて行った、と。

「それは、違うのだろう?」

「もちろんだ、
 こんな巨大なもの」

紋章術を使う彼らにとっても
あまりに大きすぎる魔方陣。

「村での異変が無ければ
 我らもそう思っただろうが」

振り返ったミツグの言葉を継ぐように
海一族の長が言う。

「村に裏一族が現れた」
「そちらにも!?」
「やはり、山にも、か」
「確証は無いが、恐らく」

二つの村に、
同時に裏一族が現れた。

「裏一族の目的は分からない。
 ただ、事を急いでいるようだ」

普段は人の目に触れずに動く彼らが
こんなに大きな騒ぎを起こしている。

「おい、どうする?」
「この魔方陣は……」
「しかし」

山一族達がそれぞれに渋い顔を浮かべる。
扱いに困る程の大きさ。

「では、
 この陣の中に入らなければ、安全だろう」

また別の山一族が言う。

「術は陣の中で発動する。
 外側にいれば問題は無い」
「ああ」

術に詳しい山一族が答えるが

「それじゃダメだ、
 トーマが危ない!!」

ミツナが声をあげる。

「トーマ?
 誰か、陣の中に居るというの?」

「連れ去られた者と、
 後を追った者が二人」

いま、分かっているのはそれだけだが。

「もしかしたら、
 他にもいるかもしれない」
「……それは、まずいな」
「連れ去られた者、とは?」

なんと答えたものか、と
それぞれが逡巡するなか、ミツナは続ける。

「俺達の村に、山一族がいたんだ」

「うちの一族が!?」
「なぜ!?」

山一族が驚くのも無理はない。
普段の関係から、
二つの一族は
互いの村に立ち入る事はほとんど無い。

誰かが連れてきていたのか、
知らぬ間に立ち入っていたのか。

「その山一族が、裏一族に連れ去られたんだ
 生け贄だと、裏一族は言っていた」
「まさか、カオリ!?」
「海一族の村にいたのか」

「後を追ったうちの一人も
 また、山一族だ」


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「山一族と海一族」45

2018年04月06日 | T.B.1998年

 ヒロノとメグミは立ち止まる。

 それに合わせ、後ろに続く者も、動きを止める。

 すでに山一族の領域を超え、中間地点である場所。
 通常、不可侵である場所。

 近くから、滝の流れる音が聞こえる。
 うっそうと樹々が生い茂り、光を遮っている。
 薄暗い。
 降り続いた雨で足元はぬかるんでいる。

 ここにはすでに、道はない。

 その目の前に、

「海一族……」

 数名の海一族。
 向こうも同じように、思っているのだろう。

 この場所へ来るときは、
 普通、お互いに顔を隠して訪れる。

 が、

 今、すべての顔が見えている。

「……向こうの族長だ」

 ヒロノがメグミに目配せをする。

「あれが、」

 数人に取り囲まれるようにいる者。
 海一族の長。

「山一族ではないか」
「ここへは何をしに」

 海一族が声を出す。

「…………」
「…………」

 沈黙。

 しかし、

「いや……。このような場合ではないな」

 ヒロノは息を吐く。

「やはり、あなた方もここに何かがあると、来たわけですね」

 ヒロノの言葉に、海一族は顔を見合わせる。
 そして、頷く。

 緊急事態。

 生け贄のこと。
 お互いの一族で起きたこと。

 判ってはいる、が

 簡単に、手を取り合うことが出来ない。
 山一族も海一族も、武器に手をかけた状態。

 そちらが先に動く、か。

「ナオト、待って!」

 動こうとしたミヤを、メグミが制止する。

「ねえ……。これは?」

 メグミは足元を指差す。
 淡い光。

「気付いたか。見ろ」

 若い海一族も、その先を指差す。

「この光が向こうまで伸びている」
「これは、」

 ヒロノが云う。

「かなり巨大な魔法陣……」

「危険だ」
「だな」

 その海一族がひとり、魔法陣に沿うように動く。
 ヒロノも合わせる。

 お互いで確認するように。

「山は紋章術を使うと聞いた」
「ああ」
「判るか」

 ヒロノは、その魔法陣を見たまま答える。

「複数の力を持つものだな、これは」
「複数の力?」
「おそらく、侵入者を警戒するものと、」

「それと?」

 ヒロノは息をのむ。

「人の命を吸収するもの……」

「何?」

 ヒロノの言葉に、両一族がどよめく。



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「海一族と山一族」41

2018年04月03日 | T.B.1998年

海一族の長、その守護を務める者。
一族内で重要な役について居る者。
長、司祭の候補とされる者。

辺りを警戒しながら
彼らは進む。

「これが、立ち入りを許される
 ぎりぎりの範囲だな」

長の警護をしているミツグが呟く。

本来ならば、ここにミツグは入れない。
長と儀式を行う者、
本当に限られた者しか入ることを許されない
儀式の中心地。

中間地帯。

さらに、その奥。

緊急事態。
潜んでいる裏一族と
いつ戦闘になってもおかしくない状況。

だから、今回は同行を許された。

「ねぇ、気付いている?」

同じく長の警護をしているコヅエが言う。

「ああ」

本来ここに居るべき人物が
1人欠けている。

長候補のトーマではない。
もう1人。

先に駆けつけているのか、
それとも、
裏の手の者にやられたのか、

あるいは。

「………!?」

人の気配を感じて
ミツグは長の前に出る。

鬱そうとした森の中、
薄暗いその空間に。

「山一族……」

普段なら相見える事すらない、
隣り合う一族。

「…………なぜ、ここに」
「…………あれはあちらの族長か?」

互いに顔を隠し集っていた時とは違う。
日中に顔を出し、
こうやって会うのはどれ程ぶりだろうか。

「どうやら、
 火の手を逃れてきた訳では無いようだな」

海一族の長が一族の者を
落ち着かせるように言う。

聞こえていたのか、
山一族の青年が一歩踏み出し問いかける。

「あなた方も
 ここに何かあると、来た訳ですね」

彼らも何かを知っている。
あるいは、何かがあって、ここに来た。

もしや、山一族の村で起きた火事にも
関係のある事。

何か恐ろしい事態が起きている。

分かってはいるが、
互いに不可侵を決めている者同士、
急に手を取り合うことは出来ない。

「「………」」

どこまで、相手を信じたものか。
それぞれが武器を手に掛け
相手がどう動くかを見計らい兼ねている。

1人の山一族が、す、と足を踏み出す。

来る、と海一族の面々も構えを取る。

「待って!!」

その山一族を、また別の1人が止める。

「ねぇ、これは?」

指差したのは、足元の淡い光。
広がる魔方陣。

「……気付いたか」

内心、安堵のため息をつきながら
ミツグは光の先を指差す。
今は、一族間で争っている場合ではない。

「この光は向こうまで伸びている」

先程最初に声を掛けてきた山一族が前に出る。

「かなり巨大な魔方陣」

何だこれは、と言わんばかりに
陣を見つめる。
どうやら、その道に詳しい者のようだ。

誘導するミツグに続き
線を辿る。

「危険だ」
「だな」

魔方陣に関しては
海一族は専門外だ。

「山は紋章術を使うと聞いたが」
「ああ」
「分かるか」

「…………」

陣から目を逸らさずに、
山一族が答える。

「複数の力を持つものだな、これは」
「複数の力?」

「おそらく、侵入者を警戒するものと、」

「それと?」

山一族の声が沈む。
これは、と言い淀みながら答える。

「人の命を吸収するもの……」


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