TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「西一族と巧」9

2020年01月31日 | T.B.1996年

「おお!」

「これが、北一族の村!!」

 久しく訪れていなかった北一族の村を、3人は見渡す。

 並ぶ、たくさんのいろいろな店。
 通りを歩くのは、多くの他一族。

「すごいわ!」
「すごいな!」
「北一族の村は、違うな」
「私、あの店見たい!」
「女は買い物が好きだよな~」
「いいじゃない」
「夕方の馬車に間に合えばいいよ」

「なら」

 向が云う。

「お昼までは各自行動。昼食で合流で、いいか?」

「判った」
「了解!」

 華は軽く飛び跳ねながら、進み出す。

「お小遣い、いっぱい持ってきたし……、じゃ、あとでね!」
「俺は、狩りで使えそうな道具がないか見てくる」

「向、華。気を付けてな」

 人混みの中、
 ふたりは、それぞれの方向へと消えていく。

 巧はそれを見送って、歩き出す。

 北一族の通りには、多くの食材が並ぶ。
 肉、魚、野菜。
 香辛料。
 それぞれの一族の特産品。
 織物、陶器、装飾品。
 どれが本物で、どれが紛い品か、判らないが。

 通りは賑わっている。

 ふたりは、目的の場所にたどり着けただろうか。

 巧は歩く。

 片手には、手書きの地図。
 北一族の村をよく知る、西一族の者に書いてもらった。

 通りを逸れ、人が少なくなる。
 巧はその地図の場所にたどり着く。
 普通の一軒家のような、……店。

 巧は、扉に触れる。
 ためらう。

「…………」

 と、

 巧は扉を見る。

「開いてますよ」

 中から声。

「どうぞ」

 ゆっくりと、扉が開く。

「お入りください」

 現れたのは、

 頭から下まで、すっぽりと布を被った者。
 目だけが、巧を覗いている。

 けれども、にこりと笑ったのが、判る。

「西一族の方ですね」
「…………」
「何かご自身で、気になることが?」

 巧は答えない。

 占い師は、再度笑う。

「まあ、ここは占いを営む場所ですもの、そう云う方が来ます」

 占い師は、席に案内する。
 巧は部屋の中を見回す。

 少し、薄暗い部屋。
 何か、不思議な飾り。
 小さな明かり。

 巧の前には、……占いの道具。

「占いとは云いますが」

 占い師が云う。

「私の場合は、魔法に近いものです」





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「『成院』と『戒院』」3

2020年01月28日 | T.B.2010年
「よーう裕樹、元気!!?」

どーん、と水樹が診察室に入ってくる。

「兄さん、声大きい!!」

病院なんだからさ、と
裕樹が慌てる。
実の兄弟ではなく、年上の者をそう呼ぶ習慣で
裕樹は水樹を兄さんと呼ぶ。

「大丈夫、ここまでの道のりは
 俺静かにしていた」

が、ハッと水樹は閃く。

「裕樹元気、って
 なんか響き良くない!!?」
「いや、それ言うと
 東一族の男ほとんど当てはまるし」

大体みんな名前に樹が入っている。

「成先生は残念だったな」

樹、付かないメンバー。

「いや、『院』付く方が
 残念って兄さん」

何言ってるのこの人、と
裕樹が呆れる。
『院』は宗主に連なる者しか名乗れない名。

『成院』の祖父は
先代の宗主の兄弟。
宗主ではないが、その血筋の家柄。

「先生」

ちらりと、裕樹は『成院』を見る。

「うん、水樹」

『成院』は笑顔で言う。

「とりあえず、怪我した腕を出せ!!」

「ああ、本当だ
 兄さん怪我してるんじゃんか」

言われて見てみると、
出血は少ないが、左腕が紫になっている。
打ち身と言うよりは、

「毒針、か」

『成院』は毒抜きの準備をする。

「兄さん毒を受けたら
 あまり動き回らないでよ」

その補佐をしながら裕樹が言う。

あと、もっと怪我したーって感じを
出しながら来て欲しい。

「最近、
 砂一族の様子はどうだ?」

『成院』が問いかける。

「うーん、いつも通りっちゃ
 いつも通りだな」

長く敵対している、
砂漠を挟んだ向こうの一族。

「何か、大きな事を企んでいるって
 訳でも無いと思うけれど」
「けれど?」
「………うーん、何というか」
「言ってみろ」

「お前が砂一族だったら、どうする?」

「んー、
 そもそも根本的な考え方が違うから
 なんとも、だけど」

水樹は『成院』を見て答える。

「次代の大師は潰す」

医術大師の次代と言われている『成院』
占術大師、戦術大師、各々の次代。

「まず現大師より守りも薄いだろ、
 それに次代を潰しておけば
 今は大変でも、後が楽になる」
「そうだな」
「足元が崩れたら、
 残すは宗主だ」

「うん」

そうだ、と『成院』は頷く。

「そう簡単には崩させないけれどな」
「まあね」

「兄さん、それ、人前で言わない方が」
「やっぱり!?」
「ああ、だが佳院――っと
 大将には言っておけ」

分かってはいるだろうが、と
『成院』は言う。

水樹は直感的に動く所があるので
大勢に指揮を出すのは難しいだろうが、
何より勘が良い。

今は難しいかもしれないが
いずれはもしや、と
『成院』は思う。

「あ!!」

水樹が何か思い出した様に言う。

「他に何か思い当たることがあるのか?」
「いや」

水樹は言う。
凄いことを、閃いた、とばかりに。

「成院病院って響き良いなって!!!」

「「………」」

「兄さん、そんなんだから、
 いつまで経っても、さぁ」
「なんだよ、
 お前の所のちびっ子、
 大きくなったか?何歳だ?」

誕生日祝いの品を届けるぞ、と
声の大きな水樹に、
うーん、と『成院』はため息をつく。

いずれは
結構なかなか先かもしれない。

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「辰樹と媛さん」11

2020年01月24日 | T.B.2020年

 彼女と父親は、水辺の近くへとやって来る。
 途中まであった道がなくなり、木々が生い茂っている。

 この前、彼女が来たときと同じ。

 もちろん、誰もいない。

「寒いっ」

 父親はあたりを見渡す。

「父様、ここ?」

 父親は、紙を取り出す。

「ここに何かあるの?」

 父親は屈む。
 地面をなぞり、陣を描く。

 東一族式の紋章術。

「形代ね」
「そう」

 紋章術の上に、その形代を置く。

 瞬間。

 ふわりと、形代は燃え上がる。

 その痕は、ゆっくりと風に乗る。

 それを見て、父親は祈る。
 彼女も真似る。

 冷たい風。

 彼女は、顔を上げる。

 父親は、まだ祈っている。

「誰に祈っているの?」
「…………」
「ねえ、父様」
「無事を、」
「無事?」
「…………」
「いったい誰の?」

 彼女が云う。

「母様?」
「違う」
「…………?」

 彼女は首を傾げる。

「父様?」

 父親は目を開く。
 空を見る。
 彼女も見る。

 形代の痕は、もはや、ない。

 風が吹く。

 父親は口を開く。

「この祈りは」
「うん?」
「東一族の宗主を殺しに来る者へ、だ」
「ころ……?」

 彼女は息をのむ。

「そんな、……無理な話、」
「どうなるのか……」
「無理だよ、絶対無理!」

 彼女が首を振る。

「誰? 西一族? 絶対、父様には勝てない」
「…………」
「父様」
「…………」
「やめて」

 父親は立ち上がる。

「父様が死んだら、……私、困る」
「そんなことはない」
「…………」
「先の話ではないはずだ」
「父様!」

 彼女は父親を掴む。

「なぜ、その人に祈るのよ!」
「…………」
「やめて!」
「…………」
「父様ってば!」

「残念ながら」

 父親は、再度空を見る。

「勝つことは出来ない」
「どっちが!?」
「その相手、だ」
「はっ!」
 彼女は云う。
「だよね! 父様が負けるはずないもんね!」

 東一族の現宗主は、歴代一の力を持つと、云う。

「よかった父様! よかった!」

 彼女は微笑む。
 父親は、彼女を見る。

「だから、どうしたらいいのか、悩んでいる」
「何でよ! 父様が勝てば、それでいいの!」

 父親は歩き出す。
 彼女も続く。

 屋敷へと戻る道。

 彼女は、父親の背中を見る。

 彼女が

 父親の真意を知ることになるのは

 もう少し、先。






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「『成院』と『戒院』」2

2020年01月21日 | T.B.2010年
「成院」

『成院』は大樹に呼び止められる。

「なんだ、義兄さん」

「少し良いか?
 というか、その呼び方は止めてくれ」
「だが、大樹は晴子の兄だし」

妻の夫で、義兄さん。

「聞こえは同じなのだから、
 兄さんと呼ばれていると思えば」

村では実際の兄妹姉妹に関係無く
年上の者を『兄さん』『姉さん』と呼ぶ。

「お前の場合、
 それがしっくり来ないから言っているんだ」

「ははは、
 それならば、なんだ、大樹」

「病院の人では足りているか?」
「なんとか、な」
「裕樹はどうだ」
「裕樹?
 あぁ、飲み込みも早いし、やる気もある。
 よい医師になるんじゃないか」

医師見習いの青年。
教え甲斐がある、と
『成院』は答える。

それに、

「元々戦術師だから、
 現場で動けるタイプの医術師になるだろうな」
「………」
「心強いだろう」

「確かに」

大樹は言う。

「お前と同じだな、成院」

その言葉に、
二人は歩みを止める。

「何が言いたい。
 ………何を言いに来たんだ大樹」

「先日、
 次代大師の話が出た」

自分が先に退室したあの時か、と
『成院』はため息をつく。

「次代と言っても、
 明日明後日の話しではないのだろう」

焦るなよ、と。

「だが、急ごしらえで据える訳にはいかない。
 跡を継ぐべき者は、
 学ぶべき事、知るべき事が多くある」
「うん、俺もそのつもりで居るよ」

お互い大変だな、と
大樹の肩を叩く。

大樹は占術の腕が高い、
次代は彼で間違い無いだろう。

「まあ、大医師からはしてみれば
 俺はまだまだだ、
 代替わりの道は長いだろうが」
「戻る気は無いのか?」
「戻る?」

「次代の戦術大師は、
 お前と言われていたじゃないか」

ああ、そうだ、と
『成院』は頷く。

「でも、それは昔の話しだ」

「いつまでも佳院に
 大将をさせるわけにも行かない」
「次代宗主様だからな」

けれど、と『成院』は断る。

「体裁が付かないのは分かるが、
 こればかりは、すまない」

成院、と大樹の声が大きくなる。

「戒院の意志を継ぎたいのは分かる。
 お前は充分やっている、けれど!!」

「………その話は止めてくれ」

『成院』は大樹の話しを遮る。

「なあ、大樹。
 お前の占術で俺が大将になると出ているのか」

違うだろう、と。

「………ああ」

大樹は頷く。
候補の者は居ない。
そう出ているから焦っている。

「気を害することを言ったな、
 悪かった」

「いや、大樹が村の将来を心配しているのは分かっている。
 ………俺達の代で居ないのならば
 次の代を早めに育てるしかないだろう」
「そうだな」
「急にどうしたんだ」
「いや、俺も焦ってしまったんだ」
「冷静な大樹が珍しい」

「………」

大樹はじっと、遠くを見る。

「ちょっと、案として、な」
「ああ」
「水樹はどうかって」

『成院』は大樹の弟を思い浮かべ、
あ~、と大樹と同じく遠くを見つめる。

「俺も、それはちょっとどうかな、って思う」
「だろ!!!!!」


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「辰樹と媛さん」10

2020年01月17日 | T.B.2020年

「はあぁあ。お芋焼きたいなぁ」
「…………」
「お芋、焼きたい、なぁあ」

 ごろんと寝っ転がったまま、彼女はちらりと横を見る。
 父親がいる。

「お芋……」
「…………」
「焼きたい……」
「…………」
「ねえ、父様聞いてる!?」
「聞いている」
「やろうよー、お庭で焼き芋~」
「次の年にしなさい」
「えぇえええ」

 父親は、何かを読んでいる。
 仕事、だろうか。

 彼女は起き上がり、外を見る。
 薄暗い。

 寒い。

 今にでも、雪が舞いそうだ。

「退屈だなー」
 彼女が呟く。
「兄様のとこにでも、行こうかなぁ」
「駄目だ」
「え?」

 彼女は父親を見る。

「今日は務めに出ているはずだ」
「務め?」
「そのはずだ」
「えー、つまんない」

 彼女は再度、寝転がる。

「父様、私も務めしよっかなー」
「無理だ」
「じゃあ、今日は父様に付いて回ろっかなー」
「…………」
「回ろっかなー」
「…………」

 父親が立ち上がる。

 彼女も慌てて、立ち上がる。
 部屋を出たのに、続く。

 父親は何も云わない。
 付いてきても構わない、と云うことだ。

「ねえねえ、父様。どこに行く?」
「こっちだ」

 外に出て、父親は屋敷の裏口へと向かう。
 誰にも会わないように。

 その先も、人気のない道。

 誰もいない。

「誰もいないねぇ」
 後ろを歩く彼女が云う。
「父様、鬼ごっこ逃げるの上手だ」
「そうか」
「それとも、かくれんぼ、かな?」

 父親が云う。

「人と接触しない方が、何かと好都合だ」
「そう?」
「もともと、うちの家系はそう定められたはずだった」
「うち?」
「我が家、だ」

 つまり、父親のこれまでの家系ではなく、
 父親自身、と云うことなのだろう。

「どう云うこと?」
「兄がいた」
「父様に?」
「そう」
「それで?」
「兄を立てなければならないから、」
「うん」
「出来る限り、目立たぬようにと」
「誰が云ったの、それ?」
「お前の、曾祖父だ」
「はあ、……昔の人」
「だから、兄がいれば、高位を外れるつもりだったんだが」
「しなかったの?」
「…………」
「出来なかったのね」
「…………」
「父様のお兄様はどこ?」
「今はいない」
「死んだの?」
「そうだ」

「それで、父様は今の在位なのね」

 父親は頷く。

「でも、高位の方がよかったんじゃない?」
 彼女が首を傾げる。
「何かね、うん。よさそう」
 彼女が訊く。
「高位を下りて、父様はどうするつもりだったの?」
「……そうだな」

 父親は歩きながら、呟く。

「どうしたかったのか……」
「今からでも、叶うかもよ」
「…………」
「……父様?」
「…………」
「内緒?」

 冷たい風が吹く。

 彼女は手のひらをさする。
 暖める。





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