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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「海一族と山一族」44

2018年04月24日 | T.B.1998年

「あいつめ、しくじったのか!?」

司祭の悔しそうな声が
洞窟に響く。

「術が、解除された?」

アキラの言葉に、トーマも辺りを見回す。

確かに、先程まであった
力を吸われているという感覚が消えている。

「誰かが、外側から術を解いた?」

ミナトが上手く長達を誘導したのだろうか。
紋章術の使い手は
海一族にはいなかったはずだが。

「………まさか」
「山一族の助っ人か?」

アキラが砂浜で
使いの鳥を放った事を思い出す。

「そうだと良いが。
 その話しは後だ」

術は解けた。
多少のケガはあるが、
まだ、動ける。

「司祭様」

再度、トーマは呼びかける。

「もう、貴方に為す術はない。
 ……諦めてくれませんか」

「諦める気はない!!
 今回が無理ならまた次を狙う。
 何度でも、私はやるだろう」
「………司祭様」
「魔方陣は解除されたが
 それだけだ、
 娘はまだ眠っている」

確かに、マユリと呼ばれた少女は
この騒ぎでもぴくりともせず
眠り続けている。

きっと、洞窟の入り口にいるカオリも。

「吸収する命が少ないのはやむを得ないが。
 こうなれば、この娘だけでもやるだけだ」

さあ。と
司祭は言う。

術を止めたいのであれば自分を倒せ、と。

「トーマ」

アキラが言う。

「俺達で、終わらせよう」
「ああ」

二人は駆け出し二手に分かれる。
トーマは司祭。
アキラは司祭の恋人だった者の所へと。

先程、トーマが近づいた時もそうだった。
司祭はこの遺体に手を出されることを
警戒をしている。

大切な人であるから
というのも一つの理由だろうが。

恐らくこの儀式には
蘇らせる本人の体が必要不可欠。

「止めろ!!」

石座に駆け寄るアキラを遮るように
司祭が呪文を唱える。

が。

「ぐっつ!!!」
「………司祭様、すまない」

脇に飛び込んでいたトーマが
司祭の胸に短剣を突き立てる。

その音だけを聞き、
アキラは石座の周辺に紋章術を発動させる。

「どうか、静かに眠ってくれ」

冷え切った石座の上に炎が立ち、
それを包み込む。

司祭は自身も倒れ込みながら
その体に手を伸ばし、
かつての恋人の名を呼ぶ。

「あぁ、チハル」


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