TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「辰樹と天樹」3

2015年05月29日 | T.B.2016年

「よっ! 天樹(あまき)!」

 今日も、にこやかにやってきた辰樹に、天樹は目を細める。

「辰樹、時間」
「おお! 今日も遊べちゃう日和だな!」
「だから、遊べちゃわない」
「ちょっと、お花見でも行ってみるか!」
「行かないよ……」
「今は、花が咲く時期だから、裏道も満開だろうなー!」

 辰樹は歩き出す。

「辰樹どこへ!」
「お、花、見ぃー」
「本当に?」
「市場で、だんごを準備済みだ!」
「だんごって」

 天樹は、辰樹を追いかける。

 東一族の畑が広がる地帯。
 今は、黄色の花が一面に咲いている。

 空には、花びらが舞っている。

「満開、満開!」
 辰樹が云う。
「この時期は、花見に限るな!」

 畑地帯の横に、いろんな花の木が並ぶ。

 黄色と桜色、そして、白色。

 先を行く辰樹は、ふと、振り返る。
 見ると、天樹は、ずいぶんと後ろで立ち止まっている。

「何だ」

 辰樹は、天樹の元へ引き返す。

 天樹の視線の先を見る。
 天樹は、木を見上げている。

「何見てる? 辛夷? 白木蓮?」
「あれは白木蓮だよ」
 辰樹が訊く。
「お前、花が好きなのか?」

 辰樹は、首を傾げる。

「俺じゃなくて、」
「あ。ひょっとして、母親?」

 天樹が何か云う前に、辰樹が云っている。

「うちの母親も、花が好きだからな!」
「うん、まあ。……そう」
「よかれと思って花なんか持っていったら、あんた何をしでかしたの! となる」

 謝罪扱い。

「それは、判るような気がする」
「そう云うなよー」
 うんうん、と、辰樹が頷く。
「天樹の母ちゃんはどうだ?」
「うちの話はいいよ」
「何だ、内緒か、兄さん!」
「やめろって」
「でも、花が好きなんだろ」

 辰樹が手を叩く。

「そうだ! 俺が、あの白い花をとってやるよ!」
「え?」
「天樹の母ちゃんに、持って行きな!」
「いや、」
「任せとけって!」
「自分でとるから、いいよ」
「なら、一緒に登るか!」
「……うん」

 辰樹と天樹は、木を登る。

 旧株で、かなりの高木。

「触れると花が落ちるから気を付けろ、辰樹」
「はいよ」
「あと、お前は背が高いから、あまり登るな」
 辰樹は、天樹を見て、にやりとする。
 どんどん、木を登る。
 ある程度登ると、上手いこと腰掛ける。

「絶景かなー!」

 辰樹は声を上げる。

 畑一帯と、市場や居住区もわずかに見える。

「うーん。この季節ならではの、景色!」
「そうだね」
「あ。俺ん家が見える」
「目がいいな、お前」
「お前の家はどこだ?」
「うちの話はいいよ」

 しばらく、辰樹と天樹は景色を眺める。
 風が吹き、花びらが舞う。

 と

 何かの音とにおいがして、天樹は辰樹を見る。

 辰樹が、だんごをほおばっている。

「……辰樹」
「うまいー!」

 辰樹は、仕合わせそうな顔をする。
 自分で用意しただんごを、辰樹は全部、平らげていた。



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「タロウとマジダ」湖編 3

2015年05月26日 | T.B.2001年

2人は舟上でお茶を飲む。
おやつは南一族特産の
小豆で餅米を包んだ物だ。

「うん、楽しかった。また来よう」

楽しかったのならば何より。
それにマジダの新しい遊び場が出来たようだ。

「マジダ、舟は1人で使っちゃダメだよ」
「分かっている。
 次もちゃんとタロウに声かけるから!!」

そうか、次回も巻き込まれるのか、と
タロウは苦笑する。

彼は水筒のお茶を差し出しながら問いかける。

「ねぇマジダ、
 もしかしたら、化け物はまた暴れるかも知れないよ」

なぜなら、まだ
一族間の争いは終わった訳じゃない。
化け物はまた全ての敵になるのかもしれない。

「それは寝起きに化け物も大変ね」

また、みんなのために頑張らないといけない。

「それならもう少し眠っていた方が
 幸せなんじゃないかな」

静かに1人。
誰にも会わない場所で。

「そうかな?
 絶対に起きていた方が楽しいのに」

うーん、とマジダは考える。

「じゃあ、
 かわいく暴れたらいいじゃない。」

諍いなんて一族間だけじゃなくて
同じ村の中でも起こったりするものだから。

だったら。

「ちょっとだけ、違うことに目を向けて。
 少しだけ考え直す時間を作るぐらいの
 小さないたずらをしたらいいのよ」

「ふーん」

「それでもどうしようもないときは
 私の手下達でどうにかするわ!!」

「手下ぁ?」

「1号、2号はウチの弟たちね!!
 あとは、戦隊物としては女の子と
 マスコットキャラクターも欲しいところだわ」

おねぇちゃん怖い。

「私が司令官で、
 タロウは参謀として雇って上げるわ!!」

「光栄です」

「まだまだ、長期戦になりそうね
 ―――キナリ」

「おや」

タロウは少し間を開けて答える。

「初めて呼んだね、俺の名前」
「どう、新鮮な感じ?」

うーん、と言いながらも、
タロウはあっさりと答える。

「不思議な感じだ。
 マジダにはキナリじゃなくて
 タロウと呼ばれたいんだな、俺は」

もう、キナリはタロウになってしまっている。

「最初に君が俺に言っただろう。
 似合わない仕事をしている、と」

すでに職人が居るのに、その仕事を選んだのも
訪れる人が少ない様に。
なるべく人と関わらない様に。

でも全部変わってしまった。
マジダが新しい名前をくれた
その名前は村中に広まった。
仕事の依頼で尋ねてくる人も増えた。

「なんだ、もう
 知らないうちに居なくなることも出来ないな」
「なぁに、何か言った?」
「いいや」

タロウは狭い舟の上で、片膝を立てて
掌を顔の前で合わせる。
彼なりの最敬礼だ。

「マジダ司令官の、仰せのままに」

今日は帰りにお店に寄ろう。
これからも通って来るであろう彼女と
また増えていく来客達の為に
新しいお茶の葉を買って帰るのもいいかもしれない。

タロウは舟を漕ぎ出す。
目指すは南一族の岸辺。

南一族のいつもと少し違う
でもいつも通りの1日。



いつもの南一族の村にて

「辰樹と天樹」2

2015年05月22日 | T.B.2016年

「親を呼んでるんだな」

 相方が云う。

「どこだ?」
 辰樹は、鳴き声を辿る。
「どこにいるんだー」
 あたりを見る。

 鳴き声が止む。

 辰樹は、草をかき分ける。

「鳴かなくなったな」
「こっちに、驚いたんだよ」
 相方が云う。
「ほら、そっちの草むらだ」

 辰樹は、相方が指差す方を見る。

 草をかき分ける。

 そこに、雛がいる。

「いた!」

 小さな雛。
 けれども、いずれ、大きな鳥となる。

 雛は、再度鳴き出す。

「やっぱりすごいな、お前!」
「それは、ありがとう」

 辰樹は、雛を見る。

「親鳥はどこだろう?」
「近くにいるさ」
「探してやるか」
「そうだね」
「…………」
「…………」
「すごいよな」
「何が?」
「食べちゃうんだぜ、西は」
「……ああ。急にその話」
「よく、食えるよな」

 東一族には、肉を食べる習慣がない。
 敵対する西一族は、狩りを行い、肉を食べるらしい。

 雛が鳴く。

 辰樹は、雛を抱える。

「…………」
「……辰樹?」
「…………」
「辰樹、どうした?」
「……かわいい」

 辰樹は、雛を見つめる。

 相方は、何だそりゃ、と、辰樹を見る。

「そりゃよかった」
「俺、飼い慣らそうかな」
「親鳥がいなかったら、ね」
「判ってるって」

 相方は、耳を澄ます。

「いるかな」
「どこか、木に巣があるんじゃないか」
「この時期は、どの巣にも雛がいっぱいだからな」

 そう云う時期。
 巣を間違えないようにしなければ。

「あ、ほら。あそこに巣がある」
 辰樹は、指を差す。
 相方は頷く。
「訊いてみるか」

 相方は枝を掴み、木を登る。
 巣の近くまで行く。

 辰樹はその様子を見る。
 しばらく待つ。

「違うって」
 相方が降りてくる。
「そうか」
「でも、向こうの巣の雛だろうって」
「向こうの巣か」

 相方は、辰樹から雛を受け取る。

 そのまま、別の木に登り、雛を巣に帰す。

「やっぱり、そうだって?」
「うん」

 東一族は、動物を供とする、が
 相方のように、動物と話せる力を持つのは、ごくわずか。

「お前がいてくれてよかったよ……」
「うん。親鳥が見つかってよかった」
「…………」

 相方は、辰樹をのぞき込む。

「……辰樹」
「なんだよ」
「泣くなよ?」
「泣かないし!」



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「タロウとマジダ」湖編 2

2015年05月19日 | T.B.2001年

「あぁ、本当だ」

タロウは舟上から声をあげる。

南一族の岸辺から、慣れない舟でどれくらい来ただろうか
大人が10歩も歩けば端から端にたどり着いてしまうような
小さな島がそこにある。

「ね、ちゃんとあったでしょう。
 おばあちゃんが言う事は本当なんだから」

マジダは嬉しそうに言う。
彼女自身も島を見たのは初めてなのだろう。

タロウにはこの島が本当に湖の中心にあるのかは分からない。
長く漕いだ気もするが、
まだ、南一族の岸辺からはそれほど離れていないのかもしれない。

「釣りをする時に、
 こういう所あるといいよね」

タロウは魚を食べないので釣りもしない。
言ってみただけだ。

「そういう呑気な所じゃないのよ、ここは!!」

マジダは言う。

「え?そういえば、なんなのここ?
 神聖な土地だったりするの?」

よくよく考えれば、タロウはそこの所詳しく聞いていない。

ただ、ここは少し夢があるな、と思う。
小さな子供にとってはこういう島があるというだけで
秘密の無人島の様に感じるだろうし、

もし、各一族間の諍いがなければ
ここは程よい貿易の要にもなるだろう。

「昔、昔にこの湖に大きな化け物が居たらしいのよ」
「あぁ、御伽話だね。俺も小さい頃、聞いたことがある」
「その化け物がいた頃は
 みんな、その敵と戦うために協力していたんだって」

北も、南も、
今は対立している西と東の一族も。

でもタロウは知っている。
そんなのは結局作り話だし。
本当だとしても、その物語の結末は一族によって違う。

止めを刺した英雄こそ
わが一族の者だった。

結局はどこも、優秀な一族は自分たちである。
そう言いたいだけの話だ。

「それが、ここに、
 封印されている、と!!」
「そんな壮大な話が!!」

この、小さな島に。

「我こそ封印を解く者なりー!!」

どーん、と
凄い台詞を放ちながら、
マジダがその島に降り立つ。

「えぇえ。封印解いちゃうの?」

その、伝説の化け物出しちゃう気だ。
さすがマジダ。

「きっとね、その化け物は
 みんなが協力をするためにあえて悪者になった
本当はいいやつなのよ」

「俺、マジダのそういう考え方嫌いじゃないよ」
「なによ、好きって言いなさいよ」

「いや、よく考えてマジダ。
 君は九歳。俺は二十歳。
 発言に気をつけねば俺はしょっぴかれる!!」

タロウは大事なところを念押しした。

「で、封印はどう解くつもり?」

そこには、ただ、何も無いただの島だ。
祠があったり、封印の石碑とかあれば話は別だが。

「じゃーん」

マジダは自分の小刀を取り出す。
以前タロウが磨いだものだ。

と同時にタロウは思い出す。
日頃のお礼として、模様を刻んで上げたのだ。
その時にマジダは言っていた。

【ふむふむ。いいわね、使い込むと封印とか解けそう】

「これのことかーーーー!!!」

慌てるタロウの横で
マジダはなにやら不思議な口上を唱えている。

封印されしうんぬんかんぬん。
その真の姿をほにゃらら。

あぁ、子ども向けの本にでも書いてある呪文かな。

普段のタロウならばそこで
温かく見守るのだが、今日は少し違う。

これ、封印とか解ける代物じゃないけどどうしよう、だ。
そもそも、おとぎ話はあくまでおとぎ話だし、
マジダは信じちゃうと本当に行動に移す子だから
マジダのおばあちゃんそこら辺考えて話してあげてーー!!

「はぁーーーーー!!」

そんなタロウをよそに、
マジダは小刀を地面に突きつける。

刃こぼれしちゃう!!!

「…………」
「…………」

ぽちゃんと、湖で魚が跳ねる。

「…………」
「…………」

まぁ、封印とか解けませんよこれ。

マジダはゆっくりと後ろを振り向く。
なにか盛大な事が起きるのだろうと信じてきた訳で
恐らくここは、封印が解けなかったのは、

「タロウ」

そうなりますよね。

「あーーー、うん」

タロウはゴホンと咳き込む。
おとぎ話だよ。ありもしない話だよ。
マジダは聡い子だから、それぐらい分かってくれるだろう。

でも、聡い子だからこそ、
分かっていても信じたいのかもしれない。

「あー、おほん」

タロウは声を1トーン低く響かせる。

「まだまだ、おぬしの修行が足りぬのじゃ。
 経験を積んで、また出直すが良い!!!}

老師っぽく言ってみた。

ぎゃーずん!!!!



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「辰樹と天樹」1

2015年05月15日 | T.B.2016年

「おお。いい天気!」

 辰樹(たつき)は、窓から空を見る。

 天気はいい。

 そして、

 いい感じで、お天道様も高い。

「遅刻だ!」

 うんうん、と、辰樹は頷いて、支度をする。
 家族にあいさつをし、いつもの集合場所へと向かう。

 市場などが集中する場所とは、反対方向。
 人は、ほとんどいない。
 草むらを抜け、畦道を歩く。

 東一族の辰樹は、

 毎日、課業や鍛錬をこなす。
 彼は能力を見込まれているので、特殊な務め、も、行う。
 時々、上の目を盗んでは、同じ年頃の子と遊びへ逃げ出す。
 時々、家の手伝い。

 さあ。
 今日は逃げ出す機会があるのか。

 確か、今日は務めがない。

 務めは、東一族に関わる、重要な仕事だ。
 それは、辰樹も判っている。
 さすがに、ふざけるわけにはいかない。

 その、務めがない。
 つまり、今日は何をやってもいい日、と云うことだ。

 うんうん、と、辰樹は頷く。

「おーい!」

 相方の姿を見つけ、辰樹は手を上げる。

「すまん、遅れた!」
「うん。いつものことだから」

 判ってます。

 相方も手を上げ、あいさつを返す。

「えーっと、今日の務めは」
「ないんだよな!」
「そうだね」
「なら、」
「解散してもいい?」
「何で!?」

 相方の言葉に驚いて、辰樹は、手が出る。

 別に、堅いやつ、とは、思わないけれど
 ちょっと付き合いが悪い相方。

 務めを果たすために、辰樹がはじめて組んだ相方だ。

 普通
 務めを果たすのに組む人数は、三人。
 けれども
 この相方と組むときは、ふたりだけ。
 ひとり、足りない状態。

 辰樹は、務めによって、組む相方も変わるが、
 この相方は、どうも、辰樹としか組んだことがないらしい。

 ちなみに、辰樹のいっこ上。

「そうかそうか。そんなだから、俺としか」
 辰樹は、ひとりで納得する。
「何の話?」
「だから俺としか、て、話」
「……単語が足りなすぎて、よく判らないや」

 でも、能力は間違いない相方。
 務めでは、何度も、辰樹は助けられている。

「今日のお天道様日和を見ろ!」
 辰樹は、空を指差す。
「お天道様日和……」
「ほら、北とかに遊びに行けちゃう日和だろ!」
「行けちゃわない」

 相方は、手を上げる。
 さようなら、の意。

「じゃあ、次の務め日に」
「えっ、ちょっと!」

 と、そこで、辰樹ははっとする。

「ちょっと待て!」
「何?」

 辰樹は耳を澄ます。

「何か鳴いてる」
「鳴いている?」

 相方も耳を澄ます。

 何かの鳴き声。

 まだ、幼いであろう、生き物の鳴き声。



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