TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「辰樹と天樹」7

2015年08月28日 | T.B.2016年

「おお、未央子(みおこ)!」

 従姉を見つけて、辰樹は手を上げる。

「辰樹、何ふらふらしてるの」
「俺が、いつふらふらしてるって?」
「あ、ごめん。いつものことでした」

 そう云うと、未央子は汗を拭う。

 見ると、未央子は、豆を大量に抱えている。

「何それ」
「豆」
「見りゃ判るけど。そんなにたくさん?」
「お屋敷に運ぶのよ」
「ああ。なるほど」

 未央子の言葉に、辰樹は頷く。
 東一族宗主の屋敷用と云うことだ。

「手伝うよ」

 辰樹は手を出す。

「大丈夫」
「大変だろ」
「いいの、いいの」

 未央子は歩き出す。
 辰樹も続く。

「今度、宗主様のお屋敷の使用人になった子がいてね」
 未央子が話し出す。
「その子が、この豆をむいてくれるのよ」
「へえ」
「前は、病院で下働きをしていた子。知ってる?」
「えーっと」
 辰樹は考える。
「あの、目がちょっと悪い子か?」
「そうそう」
「にこっとすると、かわいいんだよな!」
「……辰樹」
「でも、従姉さんもにこっと笑えば!」
「どう云う意味」

 未央子は、冷たい視線を送る。

「……その子、目の病気が進んでるみたいで」
「うん」
「ご子息様にいじめられないか、心配よね」
「おお!」
 辰樹が、うんうんと頷く。
「あの、わがまま太郎か」
「あんた、言葉に気を付けなさいよ」
「ありえるな!」

 辰樹が云う。

「だって、あいつ。たまに肉食いてぇ、とか云うんだぜ!」
「ええ!?」

 東一族は菜食主義。

 けれども、肉を食べること自体は、禁止されていない。

 つまり、食べてもいい、のだが。

「そんなこと云うの、ご子息様」
「すごいだろ。そこは尊敬する」
「……そうね」
 未央子は、辰樹を見る。
「それで、……食べたことあるの?」
「さあ?」
「食べたのかしら?」
「かもね。だから、ちょっと変なのかも」
「あんた、言葉に気を付けなさいよ」
「未央子だったら、何の肉食べる!?」
「私!?」
「俺だったら、えーっと、にくだんご、からだな!」
「にくだんご!」

 にくだんご、は、何の肉なのか。

「やめてよ、辰樹!」
「冗談だよ、未央子」
「だんだん、何の話? になってるわ!」

 辰樹は、笑う。

 未央子は、豆を抱えなおす。

「それにしても、強い日差しねー」

 未央子は、空を見上げる。
 辰樹も同じように、空を見る。

 強く輝く、お天道様。

 そして

 雲ひとつない、青空。

「暑い!」
「本当ね」

「川に泳ぎに行こうかな!」

「あんた、遊んでばっかり!」



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「山一族と規子」2

2015年08月25日 | T.B.1962年

「ここが集会所です」
「ええ」
「こちらが族長―――フタミ様のお家」
「知っているわ」

村の大通りを通るのだから
もちろん村人の視線も感じる。

お孫様に嫁いだ西一族、
それにあまり姿を見せないというだけで
村人の視線は自然と集まる。

集まるが
立場や他一族な事もあって
皆遠巻きに見ている。

それに加えて

「村唯一の病院はあちらになります」

「そう」

立場上青年も敬語になるが
彼女のこの態度も無いだろう、と
思う。

大体、村の目立つ所を歩け、というのも
少し失礼じゃないか
自分は何か彼女にしようという訳でもないのに。

「ねぇ」

飽きたとばかりに彼女が声をかける。

「もういいでしょう
 私帰るわ」

「……はぁ?」

そこで青年のふつふつとしていた物が
沸き上がってきて、思わず敬語を忘れてしまう。

「おい、確か規子、だったな」

青年は彼女―――規子の腕を引く。

「ちょっと、ねぇ」

「もう一つ、ある、
 こっちだ!!!」

青年は村の大通りを抜けて細い小道に入る。

「ねぇ、まずいわ、ねぇ。
 それに名前、いつ知ったのよ」
「名前は呼ばれていたのを聞いていたから知っている
 何もしないから、とりあえずついて来い」
「だから、そうじゃなくて」

村のはずれまで来て
青年はやっと規子の手を離す。
そこには沢山の鳥が居る。

「お前が嫁いだフタミの家は
 族長を務める以外にも
 鳥を操る家系だと聞いただろう?」

それが、この鳥たちだ、と
青年は言う。

「ウチの一族は狩りを行う。
 と、同時に動物を操る事にも長けている」

「へぇ」

規子はその沢山の鳥たちに少し驚いている様だ。

「凄い数。これがそうなのね」

と、言うことは
彼女はここには来たことが無い。
知らないということだ。

誰か鳥を飛ばすところでも見せられたら良かったのに
生憎、見張りが1人も居ない。
ちょうど席を外している様だ。

「そういえば、あなた馬に乗っていたものね。
 あなたもフタミの者なの?」
「俺は違う。
 馬は得意だけど鳥は操れない。
 狩りは自信があるけどな」

そう言えば、と
青年は言う。

「狩りなんて久しく出ていないのじゃないのか?
 ウチは西一族ほど女性が狩りには出ないからな」

「そうね、あちこちを走り回ることもなくなっちゃって。
 狩りなんて、今は前ほど動けないかもしれない」

西一族は男女問わず狩りに出る。

「私は狩りの腕だけが自慢だったのに」

ぽつりと規子が言う。

青年は
それならば、今度狩りに行こう、と
気安く誘える立場ではなかった。

だから黙って彼女の言葉を聞いていた。


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「辰樹と天樹」6

2015年08月21日 | T.B.2016年

「あっついなー」

 雨の時期も終わり、気温が上がる時期に入る。
 日差しも強い。

「とりあえず、風呂行くか!」
「何で!?」

 天樹は、あまりの予想外に驚く。

「何で! 辰樹、何で!?」
「急に、お風呂の気分だからー」
「この前も、云っていたよね!?」

 東一族は、公衆浴場。
 ほとんどの家に、風呂はない。

「行かないし!」
「天樹と風呂で会ったことがないじゃん」
「行かないし!」
「入りに行こうぜー!」
「行、か、ないし!!」
「何恥ずかしがってんだ。お前は女子か!」
「女子でも何でも、とにかく行かない!」
「お風呂で、天樹といろいろお話ししたい!」
「女子はお前だ!」

 辰樹が手を伸ばしたので、天樹は身を引く。

「おいおい。動揺しすぎだろ」
「待ってるから、行ってこいよ」
「兄さんー、付き合い悪いよー」
「いいよ、悪くて」

「その付き合いの悪さで、お前、同じ一族でも知らない人扱いだぞ」

「何が?」
「他のやつらに云っても、みんな、お前のこと知らないんだから」
 辰樹が云う。
「あぁ、顔は見たことあるけど、名まえ何? どこの家の子? みたいな!」
「それで、結構」
「俺が紹介するよ。きっと仲良くなれる!」
 天樹は首を振る。
「いいって」
「宗主の息子にいじめられても、仲間がいれば、対抗出来る!」
「平気だし。てか、いじめられてないし」
「仲間を作ろう!」

 辰樹は、天樹の腕を掴む。

「あ、ちょっ!」
「行こう!」
「行かないから!」
「なら、入り口まで来てくれよー」

 辰樹は、天樹のいっこ下だが、背が高く体格もいい。
 反面、天樹は、小柄でやせ形だ。

 辰樹は、ずるずると天樹を引きずる。

「辰樹!」

 人通りの多い市場に差しかかるところで、天樹は身体をねじる。
 辰樹を振り払う。

「ここまででいいだろ」
「天樹ぃ」
「ここで、待ってるから」
「えー」

 ふと呼ばれて、辰樹は振り返る。

 同世代の子たちがいる。
 彼らも、公衆浴場に行くのだろう。

「あー。待って」
 辰樹は、天樹を見る。
「こいつも一緒に」

 が

 そこに、天樹はいない。

「……あれ?」

 辰樹は慌てて、天樹を探す。

「あれ? あれあれ?」

 同世代の子たちは、辰樹を見て、首を傾げる。
 辰樹の肩を叩き、公衆浴場へと歩きを促す。

「天樹ぃー! 天樹ぃい!」

 騒がしくも、辰樹は公衆浴場へと入っていく。

 しばらくして。

 辰樹は、天樹と別れた場所へと戻ってくる。
 天樹を探す。

 人通りのないところに、天樹がいた。

「天樹!」

 辰樹は、天樹に駆け寄る。

「嘘ついたな!」
「ついてないよ」
「待ってると云ったのに、いなくなったじゃないか」
「いたよ」

 天樹は、空を指差す。

「木の上にね」



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「山一族と規子」1

2015年08月18日 | T.B.1962年

「ウチの嫁に
 村を案内して欲しい」

「………はぁ」

青年は頷きながら首をひねる。

「村を、ですか」

「そうだ、僕は忙しいから
 そういう時間が取れなくて」

「でも、お孫様」
「その呼び方は止めろ」
「すみません
 あの、……やっぱりいいです」
「そうか、じゃあ、後は頼んだぞ」

そう言って部屋を出たのは
族長の―――フタミの者。
しかも現在の族長の3番目の孫になるのだから
当然、一族の中では地位が高い。

彼からの命令とあらば
よほどの事が無ければ頷いて従う物だ。

青年が頼まれた事は
何も難しい事では無い。
簡単に済むことだろうが
だからこそ、なぜ自分になのか、と

青年はそれが分からない。

だが引き受けたからには
やり遂げなければ終わらない。
意味を考えるのはそれからでも良いだろう。

青年は屋敷の中を進む。

「お孫様の嫁さんねぇ」

最期に見たのは
この村に嫁いできた時だろうか。
協定の証として来た彼女のために
村ではささやかな祝いの席が設けられた。

その時
お披露目として姿を現した彼女を
青年は遠くの席から見ていた。

彼は目的の部屋の前で止まり
扉の前で声を掛ける。

「奥様、お迎えに来ました」

しばらくして、扉が開く。

「何ですか?」

彼女が直接出てきたのを見て
青年は少し驚く。
1人ぐらいは仕える者が居るかと思っていたからだ。
彼女が1人、と知って彼は少し口調を崩す。

「よう、西一族」

青年の一族―――山一族と
狩り場を巡って対立する西一族。

一定の領土を線引きをして
そこからはお互いに立ち入らない。
その協定の証としてやって来たのが彼女だ。

「あなた、なんで」

「村の案内に、聞いてないのか?」
「案内?」
「お孫様、っと、お前の旦那から」
「そう」

さぁ、行こう、と
彼は入り口の方を指し示す。

だが、

「行かない」

彼女は部屋を出ようとしない。

「村は最初に来た時
 案内して貰ったもの
 今さら見て回っても仕方ないわ」
「……だよなぁ」

青年の疑問はそれだった。
なぜ、今なのか。
彼女がこの村に嫁いでからもう半年になる。
案内も何も無いだろう。

「私は行かない。
 そう言ったと彼に伝えれば良いわ」
「そりゃそうだけど」
「……言えないの?」
「立場的にちょっと難しいかな」

彼女はため息をつく。

「分かった。
 でも、少しだけ。
 村の一番目立つところを歩いて」

「……いいけど」

彼女は羽織を手に取る。
山一族の衣装の一つだ。
以前見かけた彼女は西一族の衣装を着ていた。

こうしてみれば、すっかり山一族のようだ、と
青年は思う。

元々隣り合う狩りの一族、
生活習慣も似た所が多い。
外見もそう大きくは変わらない。同じ白色系の髪。

唯一違うのは瞳の色。
山一族は基本的に金色の瞳を持つ。

彼女の瞳は薄い茶色だ。
光の具合によっては赤い色にも見える。

「準備できたわ。
 ―――何?」


「いや、何でもない。
 行こうか」


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