TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「涼と誠治」37

2019年08月30日 | T.B.2019年


「族長」

 山一族の族長が現れる。

「どうだ」
 族長が云う。
「気付いたのか」
「まあ、この通り」
「ふむ」

 族長は、涼をのぞき込む。

「無事のようだな」
「今は、まだ、身体が動かないようだけど」
「占師家系を呼べ。手当をさせろ」
「ええ? 治すの?」

 山一族は慌てる。

「この西一族は危険よ?」
「ふん」

 族長は笑う。

「お前もまだまだだな」
「父さんは甘すぎるんじゃない?」

 云いながらも、山一族は、部屋を出て行く。

 涼は目を開く。

 族長を見る。
 先ほどの者と、この族長は親子なのか。
 ならば、先ほどの女性は山一族次期族長候補なのだろう。

「さあさ」

 族長は、涼の横に坐る。

「あのときの状況を教えてもらおうか」
「あのとき……?」
「山で、いったい何があった?」

 族長が云う。

「裏一族は以前にも我が一族内に入り込み、問題を起こしている」
 だから
「我々山一族は、裏に対しては非常に警戒している」
「それは、どの一族も、だろう」
「はは! そうだな!」

 族長は笑う。

「裏一族は、山一族に対して何かを起こしたかったわけではない」
 涼が云う。
「山と偽って、西の情報を聞き出そうとしただけだ」
「そうか」
「今回、山には何も問題はないはず」
「うむ」
「…………」
「…………」
「…………」
「終わり、か」
「これ以上は、何もない」

 族長は涼を見る。

 涼は何も云わない。

 そこへ、族長の娘が戻ってくる。

「あとで、来るらしいよ」
「占師家系か」
「上の者たちは、渋っていたけど」
「治療に来るなら、それでいい」

 涼は首を振る。

「治療なら、……必要ない」

「あら!」

 族長の娘は驚く。

「失礼ね。借りを作りたくないのかしら」
「…………」
「また、何も云わない!」
「…………」
「変な西一族」
「見られたら困るんだろう」
「見られたら?」

 族長の娘は、族長を見る。

「困るって、何が?」
「身体だ」
「どう云うこと……?」
「だろ?」
「…………」

「ちょっと、ねぇ!」

 族長の娘が動こうとして、族長は手を上げる。
 それを静止する。

「本当に、これから訊問だからね!」
「…………」
「訊いてる、西一族!?」
「それは私が決める」
「父さんっ!」

 と、族長の娘は、はっとする。

 族長の目が、冷たい。

「……うぅ」

 族長の娘は判りましたと云わんばかりに、坐り直す。

 族長は改めて、涼を見る。

 云う。

「お前、本当に西一族なのか?」






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「水樹と嗣子」12

2019年08月27日 | T.B.2003年

「10点満点中、3点だな」

東一族の医師が水樹に言う。

「薬を奪うためとは言え、
 あえて相手に刺されて近寄ったこと」
「う」
「それを届けるためとは言え、
 毒を受けた身で動き回ったこと」
「すんません」

水樹は布団に潜り、
顔を隠す。

「ええっと、ちなみに3点ってのは」

「鞘で受ける事で毒を少しでも払った事」
「おお」
「三点じゃ不満か」
「いや」

ちょっとびっくり、と水樹は言う。

「成先生なら、それでも0点って言うかな……なんて」

ゴホンと咳払いして、医師は言う。

「もう、お前の武術の先生じゃ無いからな」

それぐらいはおまけしてやる。と。

「それで、嗣子の様子はどうかな」
「痺れ薬の一種だろうな。
 解毒も早かったから、
 そう影響はないだろう」
「裕樹が走った甲斐があったな」
「………盛られた薬に関しては、だ」

「嗣子、どうなるのかな」

そうだな、と医師は指を折りながら言う。

1つ。

「砂一族と接触をしていた」

1つ。

「意図的で無いとは言え
 村の情報を流していた」

1つ。

「その情報で、砂一族が
 かなり近い位置までこの村に迫っていた」

「お咎め無し、では済まないだろうな」
「わざとじゃない、のは
 宗主様は分かってくれるよな」
「それは、俺達が判断する事じゃない」

よく考えろ、と水樹に言う。

「無実の罪ならともかく、
 嗣子はやらかしてしまった。
 罰を受けなければならない」 

それが決まりだ、と医師は言う。

「宗主はそうしなくてはいけないし、
 嗣子のためにもそうあるべきだ」
「そんな事言ったって、
 罰には色々あるだろ」

「今まで、情報を漏らした者が、
 処刑された事もある」

「………そんな!!」
「大丈夫だ、それはない。
 嗣子は生かされる。それは確かだ」

何か知っているように、医師は言う。

「後は、必要以上に罰が重くならないように
 誰かが直談判に行ってみるしかないな」

な、と水樹に言う。

「………そうか、そうだな!!」

がばっと水樹はベッドから飛び起きる。

「合点承知だぜ、成先生!!」
「いや、お前もまだ寝ておけ」
「こういうのは早いほうが良いのでは」
「言うたって、
 まだ、夜中だから。
 明日裕樹と2人で行ってこい」
「だな、裕樹も今日は気を張っただろうからなあ」

仕方あるまい、と
布団に潜り込む水樹を見届け、
そうそう、と医師は部屋を後にする。

「そうだ、水樹」

扉を閉める前に医師は問いかける。

「お前、砂一族はどうした」

水樹が戻ってきている以上、
相手も追っては来れない所まで
勝負は決めてきたのだろうから。

「ああ、あいつ、ね」

うんうん。と水樹は言う。

「色々挑発して来るし、
 我慢するのも大変だったんだぜ」

俺単純だし、怒りやすい方だし、と
頬を膨らませながら答える。

で、

「置いてきたよ」
「置いてきた、か」
「そうそう、止めはさしてないよ。
 俺が手を下すまでも無いって言うか」

ねえ、と。
答える水樹の髪留めが揺れる。
戦術大師だった祖父から貰った物。

確かに彼も、祖父の血を引いている。

「砂一族の誰かが、
 見つけてくれるといいよな」

「水樹、お前、
 砂一族からどこまで聞いた」
「えー、どこまでって、
 分かんないけど、多分、全部」

「………そうか」

分かった。早く寝ろよ。と言って
医師は扉を閉める。

「おやすみ。成先生」

医師を見送り、
水樹も目を瞑る。

きっと同じ病院のどこかで
彼女も今は眠っていると良いなと思いながら。

「おやすみ、嗣子」

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「涼と誠治」36

2019年08月23日 | T.B.2019年


「…………!?」

 涼は、はっとする。

 ……ここは?

 目を開く。
 周りを見ようとする。

 けれども、よく見えない。

 山の中ではない。
 崖の下ではない。

 どこか人の住む場所。
 そこに、横たわっている。
 身体は、……動かない。

「気付いたのね、西一族」

 ……西一族?

 誰かがいる。
 彼に、云っている。

「あの雷雨の中、崖から落ちて助かるなんて奇跡よ」

 その声は、涼のすぐ横から聞こえる。

「しかも、雷も落ちたんだって?」

 横になったまま、涼は声のする方向を見る。

「すごいわ、普通は助からない」
「……お前は」
「いったいどうやって助かったの?」
「山一族?」

「そうよ」

 山一族は笑う。

「ここは、」
「山一族の村に決まっているじゃない」
 山一族が云う。
「西一族が、そうそう入れるところじゃない」
「……ああ」

 涼は呟く。

「……助かった、のか」

「そうだと云っているでしょう」

 山一族は息を吐く。

「よかったわね」

 横になったままの涼を、山一族はのぞき込む。

「涼、とか云ったかしら」
 訊く。
「いったい、何をしたの?」
「……何って?」
「どうやって助かったかと、訊いているの」

 涼は、山一族を見る。
 けれども、視線が上手く合わない。

「あの状況で助かるとはとても思えない」
「…………」
「でしょう?」
「…………」
「何をしたの?」

 涼は首を振る。

「なら、当ててあげましょうか」

 山一族が云う。

「……魔法、ね?」

「……魔法?」

 涼の返しに、山一族は目を細める。

「見慣れない魔法の痕跡があったと」
 その場にいた山一族が云っていた。
「裏一族がいたからではなく?」
「まあ、裏の可能性もあるだろうけど」
 山一族は云う。
「あなたが使った魔法でしょ?」

「…………」

「普通、西一族は魔法を使わない」
「…………」
「でも、あなたは魔法を使える」
「…………」
「しかも、相当、慣れているとみた」

 涼は答えない。

 目を閉じる。

「ちょっと。黙りはやめて」

 山一族は云うが、涼は目を開かない。

「あなた、下手したら、訊問がはじまるわよ」

 涼は何も云わない。

「何よ……」

 山一族は息を吐く。

 と

 誰かの足音。





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「水樹と嗣子」11

2019年08月20日 | T.B.2003年

スガがナイフを振り下ろし、
水樹は鞘を抜かないまま、短刀で受け止め、
そのまま刃筋を返す。

鈍い音がして
2人は互いに距離を取る。

新月の夜。

水樹の髪留めが、
星の僅かな明かりを跳ね返す。

「その髪留め、東の戦術大師か?」

へえ、と水樹は感心する。

「物知りだな、
これな意外と動く度、顔に当たって
ペチペチするんだぜ」
「いや、」

そういう事は聞いてない。

「んん~、でも残念。
 戦術大師ってのは俺の爺ちゃんの事だろ。
 情報が古いぞ」
「だろうな、
 戦術大師がお前みたいなのでも困る」

スガはナイフを振り
距離を詰める。

「東一族って相手を殺さない主義とかあるのか?
 その短刀も早く鞘を抜いたらどうだ?」
「………そういう訳じゃないさ」

ナイフの刃先が鞘をかする鈍い音が響く。

「剣術は得意じゃない、か?
 体術だけでどうにかなるわけ無いだろう。
 ほら!!」

「ぐっ!!」

ナイフが水樹の腕に刺さる。
スガは顔を近づける。

「今のが避けきれないようじゃ、
 たかが知れてるぞ、東一族!!」
「………いや、予定通りだし」

水樹は腕を伸ばす。
はあ?とスガは首を捻る。

「強がりは止めておけよ。
 大丈夫。
 逃げた2人もすぐ後を追わせてやるから」


裕樹は嗣子を抱えて走る。

「ご、……はっ」
「しっかりしろよ」

こういう時はあまり動かさない方が
良いのだろうが、
解毒剤があるのかどうかも分からない状況。

それならば村に戻った方が良い。

幸いにも、
村からは遠く離れてはいない。

「嗣子が1人で行ける距離
 だったから、なのだろうけれど」

くそ、と悪態をつく。

深く考えずに砂一族と会っていた嗣子にも、
そんな嗣子を利用していた砂一族にも、
水樹を1人残して
こうしなければならなかった自分にも。

「め………ご」
「え?」

足を止め、
嗣子の口元に耳を寄せる。

「なんだ?どうした?」

「ご………な……い」

ごめんなさい、と。

「やめろよ」

裕樹は叫ぶように言い、
嗣子を抱え直す。

「謝るなよ。大丈夫だから。
 もうすぐ村に着くから」

なんだよ、と。

「いつもみたいに、
 強がって無茶言っとけよ」

「そうだよなぁ」

そう、肩を叩かれる。
裕樹でも嗣子でもない声。

とっさに後ろに振り返る。

「…………あ」

心臓が止まりかける。

「………水樹兄さん!!」

腕の血を押さえながら、
水樹が息を切らしている。

「はー、間に合った。
 足早いな裕樹」
「兄さん、砂一族は」
「なんとか追い払ったよ。
 その前にこれだけは手に入れたかったから、
 うーんと」

よいしょ、と
懐から麻袋を取り出す。

「あいつが持っていた薬。
 どれが使った毒で、どれが解毒薬か分からないけど
 そこは先生に見てもらおう」
「兄さん、それどうやって」

「近寄って取ってきたよ」

「近寄って、て。
 兄さん刺されてんじゃないか」

砂一族の武器には
毒薬が塗り込んである。
血を止めればよいと言う訳じゃない。

「うーん。まあ、ちょっとは入ってるかも。
 びりびりしてきた」
「毒回ってんじゃんか」

「だから、
 回りきる前に早く行くぞ」

な、と水樹は嗣子に言う。

「帰るぞ、嗣子」


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「琴葉と紅葉」34

2019年08月16日 | T.B.2019年


 日が落ちる。

 琴葉は、山を登る。

 西一族なら、当たり前の山道。
 けれども、
 琴葉には、慣れない道。
 険しい道。

 こんなに、山道を歩いたことがない。
 いや、山に入ったことが、ない。

 雨が降っている。

 泥だらけの彼女は、

 ただ、進む。

 道なのか、判らない場所を、琴葉は進む。

 生まれつき悪い足が、痛む。

 いつも
 いつも

 それを理由にして

 何も出来ないと、

 周りから逃げてきた。

 その報いなのか。

 雨に濡れながら、琴葉は進む。
 よろめく。

「……涼」
 呟く。
「あんたって、本当にばかよね」
 ここにいない、彼に。
「あんなやつらを置いて、帰って来ちゃえばよかったのよ」

 どこを、どう、探していいのかも判らない。
 もし、
 獣に出くわしたら?

 どう、する?

 どうしたらよいのか、判らない。

 けれども

 そんなことより、

「生きていて……」

 遠のく意識で、琴葉は前を見る。
 近くの木に、手をかける。

 息を吐く。
 どれぐらい歩いたか。

 雨の降る、視界が悪い中。

「…………」

 小さな、明かり。

「……え?」

 琴葉は目を疑う。
 けれども、その明かりは、そこにある。

「あれは、……」

「誰だ!」

 琴葉の前に、突然誰かが現れる。

「誰だ、お前は!」

 琴葉は、目を見開く。

 まさか

「山、一族……」

「もしや、西一族の女?」

 山一族は人を呼ぶ。

「おい! 西一族だ!」

 琴葉は肩で息をする。

 山一族が集まる。

「まさか?」
「本当に?」

 琴葉は目を細める。

 云う。

「私は、……人を探しに来ただけ」




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