TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「律葉と秋葉と潤と響」24

2019年02月26日 | T.B.2024年

山を下り、広場に戻ったところで
やっと帰って来た、と
律葉は実感する。

「律葉と響はまず病院だな」

セナが言うが、
響は首を振る。

「俺は一回、家に帰ってから」
「無理はするな。
 大丈夫そうに見えても分からんぞ」
「後から、きちんと行くよ。
 まず、父さんに報告しなきゃ」

村長にならば、と
セナも頷く。

「俺も、律葉を送ったら
 すぐに向かおう」
「よろしく、です」

一番酷いのは響なのに、と
律葉は様子を伺う。

「響、無理しないでね」
「ありがと、律葉」

そうだ、と響は律葉に向き直る。

「律葉があいつを引きつけてくれたんだろ。
 ごめんね、
 あちこち痛かったよね」

しゅん、と
本当に申し訳無さそうに言うので
律葉はおかしくなる。

「私は大丈夫。
 あんなの相手にして
 この程度で済んで幸いだったわ」

「それじゃあ」
「気をつけて」

律葉は広場で皆への説明に追われている
潤と秋葉にも手を振る。

「病院行ってくる」

「ああ」
「後から私達も行くからね」

くふ、と
病院に向かいながら
セナが笑う。

「潤は随分青い顔をしていたな」
「班長だし」

責任の重みが違う。
なんやかんやで
班のメンバーがケガを負うのは二度目。

狩りの最中にケガを負うのは
腕が無い、もしくは引き際を間違えた、
不名誉な証とされている。

「班が解散しちゃったらどうしよう」

あまりに出来が悪い班は
メンバーを分けて組み直される。

今回は相手が悪かった。
それだけなのに、と律葉は思う。

「お前達の班に限ってそれはない。
 それに、潤の青い顔は別の件だろ」
「……??そうかな?」
「おおかた、
 女の子にケガさせちゃったどうしよう、かな」
「そうかな!?」
「うーん、みんな若いよねえ」

「からかわないで、セナさん!!」

うん、と。
冗談はここまで、とセナは笑顔を引っ込める。

「魔法を使ったな、律葉」

「………」

笑顔が絶えない人だが
真顔になると目つきが鋭い。

「………はい」
「うん。仕方無いよ。
 状況が状況だからな。
 ただ、人前では気をつけないと」
「ええ」
「親父さんもそこは念押ししていたはずだ」

「でも、セナさん。
 この前、響と3人の狩りの時
 使ってましたよね」

そうでなければ
獲物を見ずに適当に放った矢が
当たる訳もない。

「そこは、いかに自然に使うかだよ」

セナは律葉を見る。

「お前に魔法を教えたのは俺だ。
 表だっては使えないが、その力は今後必ず役に立つ」
「……今回がそうだったんじゃあ」
「いや、もっと先の話だ」
「………?」

もしかして、
先程の様な、怪異の襲撃が
これから頻発するのだろうか。

律葉が首を捻っていると、
怒った訳じゃないからな、と
セナがいつもの飄々とした様子で言う。

「この前も、ちゃんと
 初対面のフリも上手だった」

良くできました、とセナがからかう。
響が、俺の先生、と
セナを連れてきた時。

「あれはちょっと緊張、しました」

セナが魔法を使えることは
ほんの一握りの人しか知らない。

さらにその魔法を律葉が教わっている事は
それ以下。

「あ」

そうだ、と律葉は問いかける。

「セナさんは響の狩りの先生なんでしょう。
 もしかして、魔法も?」
「いや」

セナは首を振る。

「響には教えていない。
 村長からの指定は『狩りの訓練』それだけだ」

「そっか」

ちょっと期待していた律葉は肩を落とす。

自分のように、
西一族でも魔法が使える人が
仲間に居たら良かったのに。

それにしても、と律葉は言う。

「しばらく狩りはお休みかな」

「だろうな。
 俺達で見回りを続けて、
 異常がなければ、少しずつ回数と範囲を戻していく」
「狩りが明けたばかりだったのに」
「すぐに落ち着くさ。
 ―――さぁ、着いたぞ」

話しが回っていたのか、
律葉の父親が病院の裏口で出迎える。

「お父さん。
 今日は遅番って」
「連絡が来たからな。
 痛むところはあるか?」
「打ち身はあるけど、大丈夫」

「よく診てあげてください。
 後から響も来ると思います。
 よろしくお願いしますよ、稔先生」

セナは律葉の父親に言うと、
最初の言葉通り
村長の家に向かう。

「………」
「………」

急に父親と二人っきりになり、
なんだか気まずい空気になる。

「心配させてごめんなさい」

律葉が言うと父親はため息を付く。

怒っているようだが
心配していたのか、複雑な表情を浮かべて
気にするなと肩を叩く。

「高子先生が来ているから
 早く診てもらいなさい」

はーい、と答えながら
律葉は後ろを振り返る。

先程まで狩りを行っていた山。
入る前も後も
律葉にはいつもと同じ狩り場に見える。

あれは一体なんだったのだろう。

もしかしてだけど、
セナだったのでは無いだろうか。

そう、律葉は思う。

なんだかんだで、大きなケガ人は出ていない。
魔法をどのタイミングで使うか、
押さえがきくか、律葉を試すためだったのでは、と。

「………」

それなら、合格をもらえただろうか?

どちらにしろ、
とりあえずは終わった。
肩の荷が下りたのを感じながら
律葉は病院に入る。

T.B.2024年
西一族の村にて



「琴葉と紅葉」30

2019年02月22日 | T.B.2019年


「ああ、もう!」

 琴葉は濡れた服を払う。

「雨になっちゃったわ!」

 次の日、琴葉は再度病院を訪れる。
 母親の部屋へと入る。

 母親はいない。

 適当な布で、身体を拭く。
 部屋の隅を見る。

 昨日、置いていった芋がある。

 仕方ない。
 雨が上がったときに持ち帰ろう。

 琴葉はひとりで部屋の中をうろうろする。
 窓の外で降る雨を見る。

 次に、母親の机も見る。

 そこには診療簿が並んでいる。

 あまり見てはいけないな、と思いながらも
 ひとつの診療簿に目がとまる。

 黒髪の彼のものだ。

 担当医は母親ではない。

 琴葉は触らないよう、表書きだけを見る。

 彼の名まえが記されている。

 けれども、
 生年も親の記録も、書かれていない。
 書かれているのは義父の、村長の名だけ。
 並ぶ病名を見ても、琴葉には判らない。

 琴葉は首を振る。

 長椅子に坐る。

 母親を待つ。

 やがて

 琴葉は耳を傾ける。
 病院内が騒がしいことに気付く。

「何だろ」

 琴葉はそのまま待つ。

「あ、琴葉!」

 母親が入ってくる。
 息を切らしている。

「来てたの」
「うん。忙しい?」
「ええ、今ね」

 母親は、机の書類を持つ。

「先生早く!」
「今行く!」

 母親を呼ぶ声。
 廊下で何人もの人が走っている。

「じゃあね」
「判った」

 と、母親が立ち止まり、琴葉を見る。

「あの子、戻ってきた?」

「え?」

「あの子、昨日は家に?」
「あの子って、……黒髪の?」
「そう」

 琴葉の母親は、琴葉の様子に青ざめる。

「まさか、戻って、……来てない?」

「昨日から出てるけど」

 坐ったまま、琴葉は首を傾げる。

「まだ狩りなんじゃない?」
「…………」
「何?」
「今、運ばれてきたの……」
「誰よ?」
「前村長のお孫さん」

「……は?」

 琴葉は目を細める。

「運ばれてきたって、……怪我ってこと?」
「そうよ」
「まさか、」
「黒髪の子と同じ班よね?」
「…………」
「……狩りに出た人が、云ってたわ」

 琴葉の母親は息をのむ。

「崖から、落ちたって」

「え?」

 琴葉は目を見開く。



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「律葉と秋葉と潤と響」23

2019年02月19日 | T.B.2024年
律葉達は辺りを警戒しながらその場に腰を下ろす。

「律葉、無理しないでね」
「ええ」
「お水飲む?横にならなくて大丈夫?」
「平気よ、ありがと」

秋葉は心配して
律葉にあれやこれやと声をかけてくれる。

「本当は早く、
 診てもらった方が良いんだろうが」

潤も渋い顔で言う。

今日の出来事は
今までに無いこと。

もし何かの強襲の前触れであるのなら
その痕跡を少しでも探さなくてはいけない。

先程潤が放った救援の狼煙を頼りに
人が駆けつけるまで
その場で待機することになる。

それにしても、と
響が言う。

「俺達、色々当たるねぇ」

ケガだったり、
解散危機だったり。
なにより今回の事。

「引き寄せる何か、が、あるのかもなぁ」
「誰にだよ」
「うーん」

ぐるりと響が皆を見回す。

「………全員?」
「えー!!?」
「まさか響、
 自分以外の、じゃないでしょうね」
「それこそ、響が、じゃないのか!?」

「お!!
 皆、無事の様だな」

一番乗りにセナが駆けつける。

「セナさん」
「ありがとうございます」

「もうすぐみんな来るからな。
 ケガ人はいるか?」

荷物を下ろしながら
皆の様子を見る。

「響と律葉か?
 こっちこい、診てやるから」

手招きしながら、
セナは落ち着き払った声で
問いかける。

「―――で、何があった?」

潤は簡潔に話しを伝える。

「………」
「………」
「………うーん」

セナは頭を抱える。

「信じがたい、ですよね」

何せその魔物の跡形すらない。
作り話だと言われても仕方の無い状態。

「いや、話は信じるよ。
 ただ問題が大きすぎる」

そう。

あんな物が山にいて、突然襲って来るのであれば
安心して狩りも出来ない。

「村長には俺から伝えよう。
 だが、集まってくる皆には
 狩りに手こずったと言っておけ」
「そんな」
「むやみやたらに
 皆が知って良い問題じゃない」

知らない方が良いこともある、と
セナは言う。

「分かったな?」
「はい」

で、と
皆が集まる前に、最後の問いかけをする。

「お前達、どうやってそれを倒した?」

「弱っていた所を
 狩りを行う時の様に」
「弱っていた?」

潤は頷く。

「俺が合流したときには。
 そうだろ、秋葉、律葉」
「………ええ」

セナが、律葉をじっと見る。

「なぜ、弱っていたんだ、律葉?」

「そ、れは」

律葉は言い淀む。
西一族は、本来、
魔術は使えない。

だから、父親が言うのだ。

人前では使うなよ、と。

狩りの一族であるからこそ、
団結は強く、
異質には厳しい。

使えるはずのない物を使う。
律葉は今、そう言う立ち位置。

「あの」

「わからないの」

暫く黙って居た秋葉が言う。

「律葉が私を庇ってくれて、
 それで、その瞬間、何かが起きたんだと思う」

見ていない。
確かに、秋葉にはちょうど律葉が壁になっていた。

秋葉は、見ていない。

律葉は息を吐く。

まだ、大丈夫。
まだ、
いつも通りに皆と過ごせる。

「ええ。
 私も、目を瞑ってしまったから、
 なにがどうなったのか」

元々、弱っていたのかも、
そう言って、律葉はセナを見つめる。

「ふーん」

そうか、と答えると
セナは口元を緩める。

「なんであれ酷いケガじゃなくて良かった。
 人が集まった所で
 山を下りるとしよう」


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「涼と誠治」32

2019年02月15日 | T.B.2019年


「誠治!」

 涼は焦る。

 音を聞く。
 裏一族が迫っている。

「涼っ」

 けれども、

 涼は、誠治を引き上げることが出来ない。

 誠治の足下はない。

 ただ、涼の腕が捕らえているだけ。

 涼は、もう片方で樹を掴んでいる。
 その手に力を込める。

「駄目だ、落ちる!」
「手を放すな!」
「このままじゃ、俺たち!」
「大丈夫」
「大丈夫って!」
「もう少し待て」
「何をっ!?」

さらに、雨が強くなる。

 誠治を掴む手も、支える手も
 雨が濡らしていく。

 雷の音。

「よく訊け」

 涼が云う。

「お前は西に帰って、このことを村長に伝えろ」
「帰って、て」

 この状況では、想像も付かない。

「一瞬だ」

 涼が云う。

「誠治には、はじめてのことだろうから、多少影響が出るけれど」
「…………?」
「何も心配するな」
「何の話だよ!」
「この俺でもずいぶん力を使うから、ふたりは飛ばせない」
「……っ」

「目が覚めたら、村長に」

 涼は、はっとする。
 瞬間、支える手を離す。

 真後ろに、裏一族。

「西がいたぞ!」
「崖から落ちた!」

 涼と誠治は、落ちる。

「わああぁああ! 落ち!!」
「誠治!」

 涼が叫ぶ。

「行くぞ! 転送紋章術!」

「涼っ!?」

「西一族村内へ!!」

 強い光。

 雷。

 あたりがその光で、照らし出される。

「雷だ!」
「気を付けろ!」
「下へ回れ、逃がすな!」

 雨が降り続ける。

 崖の下は、見えない。

「いや待て!」

 ひとりの裏一族が静止する。

 音。

 馬の足音。
 鳥の鳴き声。

「本物の山一族か!?」
「何?」
「やむを得ん!」
「この件は失敗だ!」

「散れ!」

 その言葉と同時に、裏一族は動く。
 すばやく姿をくらませる。

「誰だ!」
「山の領土を荒らしているのは誰だ!?」

 馬が、現れる。

「裏一族め!」

 崖の上に集まってきたのは、山一族。

「駄目だ」
「もういない」

 山一族は、馬を止める。

「ここには何も」
「いや、裏は落ちたと云っていたぞ」
「何が?」
「崖の下に仲間が?」

「違う」

「西一族だと聞こえた」

「西?」

 山一族はあたりを警戒する。

 けれども、

 もはや裏一族の気配はない。

 崖の下を覗く。

「あたりを警戒する者と、下に行く者に分かれろ」




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「律葉と秋葉と潤と響」22

2019年02月12日 | T.B.2024年

「人前では使うなよ」

父親の言葉が頭を横切る。

分かっている。

以前の狩りで秋葉がケガをしたとき、
この言葉が引っかかって

使えなかった。

でも、それをずっと後悔していた。

「秋葉!!」

律葉は秋葉を庇うように抱きしめる。

背中は彼と化け物に向けているものの、
首を捻り
視線をそちらに向ける。

化け物の足元が
淡く光り始める。

「おや?」

意外だったのだろう、
今まで無言を貫き通してきた彼が
思わず、言葉を発する。

律葉に目を向けると
彼女の足元も同じ様に光っている。

魔術。

へぇ。なるほど。

口元だけでそう呟くと
この先が分かっていたかのように、
あっさりと、化け物の元を離れる。

「倒れて!!!」

律葉が叫ぶと、
化け物の足元から無数の杭が現れ
その体を貫く。

「――――!!」

化け物の叫び声。

「………効いてる」

律葉は思わず呟く。

所詮、本場ではない魔術。
どこまで効果があるのか。

効いている、だけど、
それで倒れた訳では無い。

それに、化け物の主人である彼も控えている。

彼は苦しむ化け物など目にもくれず
ふむふむ、と
律葉達を見て、なにか考えている。

「あなた、一体、どこの誰なの!?」

相変わらず、
口元には余裕の表情。

ふ、と背後の何かに気付くと
残念、と言わんばかりに
森の中に姿を消す。

「待ちなさい!!」

追いかけようとして、
先程の打ち身の痛みが
更に痛み出し身をかがめる。

「っつ」
「律葉!!」

魔術で現れた杭が消える。

化け物が再びこちらを見る。
弱ってはいるが
今の律葉に二回目の術は使えない。

「律葉、借りるね」

秋葉が律葉の弓を構える。

綺麗な構えだ、と
律葉は目を奪われる。

「っ!!」
「当たった!!」

効いている。
武器での攻撃が効いている。
それならば。

「2人とも、すまん、待たせた」

潤が2人に駆け寄り、
すぐさま武器を構える。

「潤!!」
「遅いよ、早く!!」
「悪かった。………なんだ、こいつ」

異常な事態。
潤も一瞬でそれを察知する。

「多分、使い魔、だと」
「使い魔?魔術か?
 なんだって、そんなもんが」

言いながら潤は
上空に向けて爆竹を鳴らす。

救援要請の証。

武器を構えながら潤が言う。

「飛び道具を多く持ってくれば良かったな」
「なんだか、触りたくないよね」
「2人とも、俺の前に出るなよ」

律葉はその会話を聞きながら
かがめていた身を起こす。

あんなに不安だったのに。
なんだか、安心する。

化け物が突然、身を震わせ
叫び声を上げる。

くる。

そう、皆が構える。

「………」

が、その場に倒れ込む。
蠢いていたが、
黒いモヤのようになって、少しずつ消えていく。

「なにが、どうなっている?」

警戒しながら潤が近づく。

消えていく化け物の背に刺さっているのは矢。
先程秋葉が射たものとは違う。

「この矢」

化け物の背後の草から
響が草をかき分けて出てくる。

「なんとか間に合った、かな」

あちこち、傷を負っているが
足を引きずりながらも
自分で、歩いて来ている。

「響、大丈夫!?」
「うーん、頭痛い。
 こいつなに?
 ……俺どうなってた?」
「無理はするなよ。
 多分、最初にお前が連れて行かれた」
「げぇ」

「律葉も、あまり無理に動くな。
 って、律葉!?」

「あ、ええ」

思わず座り込んでいた。

「大丈夫、って、あれ?え?」

ふん、と立ち上がろうとして
力が入らない。

よかった。
響を最初に見た時は
最悪の事態すら考えた。

秋葉も、潤も、皆無事だ。

「なんか、安心して、
 腰が抜けたみたい」

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