大槻雅章税理士事務所

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№163 土地・建物を一括譲渡した場合の価額区分

2022-09-10 | ブログ
2022.09.10

売買契約書で土地と建物の価額を区分しないで一括譲渡した場合は、譲渡代金を土地と建物の適正時価に区分する必要があります。

そうすると、売手側は消費税の納付額を少なくしたいので建物価額を少なくしたいと考え、買手側は減価償却費の計上を多くしたいので建物価額を多くしたいと考えます。
また、課税庁側は売手側と買手側の双方に対して、恣意的な区分により税負担が減少することを是正する更正措置を講じます。

合理的な区分方法としては、
1.取得時に課された消費税額から建物の取得価額を割り戻す方法
2.相続税評価額で土地の価額を算定し、差額を建物の価額とする方法
3.固定資産税評価額の比率で土地と建物を按分する方法
4.国税庁がHPで公表している「建物の標準的な建築価額表」を基に建物の取得価額を算定し、差額を土地の価額とする方法(ただし、この方法は所得税で譲渡所得の金額を算定する場合にのみ採用すべきで、法人税や消費税では採用すべきでないと思います。)
5.不動産鑑定士による鑑定評価額により土地と建物を按分する方法
等が考えられます。

そこで今回は、一括譲渡された土地・建物の価額の区分が争われた3つの裁判例から適正時価の算定方法を考察したいと思います。

1.福岡地裁平成13年12月14日判決
「売主の帳簿などから土地及び建物の販売価額が判明する場合は、その価額が不合理でない限り、代金総額を土地及び建物の販売価額比で按分して、建物取得価額を算出すべきであるが、土地及び建物の販売価額が明らかでない場合は、同一の公的機関が同一時期に合理的な評価基準で評価した固定資産税評価額による土地及び建物の価額比で代金総額を按分する方法が最も合理的であるというべきである。」
また、鑑定評価による価額比で按分する方法については、「算出に多大な費用を要するものであり、納税者間の公平、納税者の便宜及び徴税費用の節減の観点から合理的であるとはいえず、租税平等主義に反するというべきである。」と判示しています。

2.東京地裁令和2年9月1日判決
裁判所鑑定が行われた結果、「固定資産税評価額と異なる評価がされた場合には、もはや、固定資産税評価額による価額比を用いて按分する合理性を肯定する根拠は失われ、適正な鑑定に基づく評価額による価額比を用いて按分するのが合理的となる。」とし、
納税者側が依頼した不動産鑑定士による鑑定評価額については、「適正な鑑定に基づくものといえず、按分計算に用いることはできない。」と判示しています。

3.東京地裁令和4年6月7日判決
土地と建物の固定資産税評価額比率が55.51対44.49だったのに対し、不動産鑑定評価額比率は77.30対22.70で、両者の建物の価額が占める割合に相当な乖離が生じており、「消費税の課税標準を算出するに当たって実質的な差異が生じている」と指摘し、「固定資産税評価額の比率による按分法を用いる合理性を肯定する根拠は失われており、鑑定評価額比率による按分法を用いることが相当である。」「適正な鑑定に基づく評価額による価額比を用いて按分するのが合理的となる。」と判示しました。

4.まとめ
福岡地裁平成13年12月14日判決は「固定資産税評価額の比率で土地と建物を按分するのが最も合理的」とし、東京地裁令和2年9月1日判決および東京地裁令和4年6月7日判決は「適正な鑑定に基づく評価額による価額比を用いて按分するのが合理的」としています。
いずれも下級審の判断のため上級審の判断を確認したいところですが、現時点では「固定資産税評価額」よりも「適正な鑑定評価額」の比率で土地と建物を按分する方法が合理的といえるようです。

私見としては、売買の時点で売主と買主が協議し、合理的と考えられる複数の方法を加重平均して土地と建物を按分し、契約書に明記すべきと考えます。

(完)

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