戦後初の総選挙

2020年01月30日 | 歴史を尋ねる

 4月10日、戦後初めての総選挙・第22回衆議院議員選挙が行われた。「けふだ! さあ行こう投票所へ 世界の眼、結果を見守る」とは朝日新聞朝刊の見出し。世界の眼も注がれていたが、とりわけマッカーサー元帥以下総司令部は格別の関心を寄せていた、これまでに実施した日本改造政策が、憲法改正と共に日本国民に受け入れられるかどうか、占領政策の成功が保証されるかどうか、選挙結果が告示する筈だから。選挙は、大選挙区制限連記制により全国53選挙区で466議席が争われたが、名乗りをあげた政党は363、立候補者は2,770人を数えた。文字通り乱戦かつ混戦状態で、圧倒的多数を獲得する政党はないと見込まれた。前年12月、選挙法が改正され、新たに婦人と25歳以下の有権者名簿が作られ、復員軍人と引揚者の名簿が加えられた。有権者数3,615万人、うち2,025万人が女性であり、男性よりも大分多い。総司令部も、この有権者事情に危惧を持った。「『民主革命』の出発点、生かせ、この一票」 新聞がしきりに唱える「民主主義」は、たぶんソ連型民主主義すなわち共産主義と同意語に思える。現に「革命」とも言っている、と。

 平均投票率は72.75%。棄権率は男性21.48%、女性は33.07%。結果として定まった政党の獲得議席数は、自由党140、進歩党94、社会党92、協同党14、共産党5、諸派38、無所属81、計466(未定2)。予想通り安定多数を獲得した政党はなかったが、共産党は惨敗した。マスコミの熱狂的支援と豊富な資金にも拘らず、天皇制廃止を主張する共産党は、日本国民に顔を背けられた、と政治顧問部員エマーソン。アイケルバーガー司令官は日誌に「選挙は健全な結果をもたらした。日本にはまだ民主的政党が成長する時間がない。日本人がその点を理解して、党より人物に注目して投票したのは賢明である」と。

 元帥は4月13日、統合参謀本部を通じて、SWNCCの指令文書を受け取った。表題は「日本天皇制の処理」。共和国である米国としては、日本国民が望むのであれば、日本に共和政体が誕生するのを歓迎する。しかし、日本国民は天皇制の全面廃止を欲していない、としてマッカーサー元帥に方針を指示した。最高司令官は、米国の対日政策にかない日本人大部も賛成する平和な立憲君主制への移行を支援すべきである、日本国民に対して天皇制の役割に関する早期決定を強制すべきではない、天皇が普通人と変わらぬことを日本国民に示し、大御心などが表明されないようになることが望ましい、と。マッカーサー元帥は喜んだ。内容は目新しいものではなく、これまでの対日方針の指示の反復であったし、選挙結果は元帥による日本占領の成功とみなす表意と理解できた。続いて統合参謀本部は極東委員会からの電報を伝えて来た。委員会は、憲法改正問題について協議するため、総司令部の担当将校の派遣を要求した。いかなる憲法も日本国民の自由に表明された意志に基づいて採用されねばならぬとの原則にしたがい、①改正憲法採択の手続き、日本国民の参画の程度について、元帥が応えてくれることを委員会は期待する、と。マッカーサー元帥は、怒った。まるで待っていたかのように干渉と介入を企図しているとしか思えない。議長マコイ少将は何をしているのか、この動きを統制するのが仕事ではないか、と。結局少将は、バーンズ国務長官の承認を受け、委員会の不必要な介入を回避するためには、委員会を突然憲法案が議会を通過して天皇の裁可を得るという事態に直面させないこと、それには日本国民側の万全の討議と審議を行い、時間をかけて憲法を成立させてほしい、憲法が総司令部製だと思わせないことが重要だ、本職は貴下の側背を防御すると、元帥をなだめた。

 4月22日、幣原内閣が総辞職した。内閣の退陣は、本来なら総選挙直後に行われる筈だが、予想外に手間取った。4月11日、自由党総裁鳩山一郎は、自由党内閣の成立を予期して、厚相芦田均に内相または内閣書記官長のいずれかの就任を求める意向を固めていた。だが政権担当といっても、小党分立の中で自由党も過半数を獲得していない。不足分93議席をどうするか。進歩、社会一党だけとの連立では、不安定。他の一党を中立ないし友党的野党として政局を乗り切る方策を、構想せざるを得ない。しかし、総選挙の翌日、内閣書記官長楢崎渡が、幣原内閣は総辞職せずに新議会に臨むと、発表した。その理由は、政界のキャスティング・ボートを握るのは進歩党で、社会党と自由党とうまくやれる、更に自由党総裁鳩山一郎の追放問題であった。その間の経緯は詳細に亙るのでここでは割愛するが、22日、午後7時首相は参内して天皇に閣僚の辞表を奉呈した。「後はどういう事になるのか」天皇は下問し、首相は、三党首会談で政局安定の方策が纏まり次第報告する、と応え退出した。

 

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