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海外のメディアから得た情報を書こうと思います。

米輸送機、コバニのクルドへ武器を投下 10月19日

2015-12-17 21:09:42 | シリア内戦

 

10月15日、米軍関係者が語った。「コバニへの空爆開始以来、数百人のISISが死亡したが、コバニが陥落する危険は去っていない」。

10月18日、ISISは再び越境地点を猛烈に攻撃したが、クルド軍に阻まれた。ISISに援軍が来たが、クルド軍の守りを崩すことはできなかった。

この日ISISは、2か所で、自動車爆弾による攻撃をした。一つはクルドの本部がある保安地区に対し、もう一つは新文化センターの近くのハレイ広場に対してである。新文化センターは13日以来ISISが占領している。保安地区は10日以来、ISISが占領している。

    

この日ISISは、クルドの支配地に向けて41発の砲弾を撃った。

18日の夜は、クルド軍への武器投下の前夜であり、米軍はコバニのISISを11回空爆した。

      <C-130、武器・弾薬を投下>

       

 10月19日、米軍のC-130輸送機が武器・弾薬・医薬品をコバニに投下した。これらの補給品は、イラクのクルド自治政府が米国に投下を依頼したものである。3機のC-130が27個の荷を投下した。

このことは、米国がコバニのクルド軍に対する援助を本格化する意図を明らかにした。つい最近、米国務省はシリアのクルド政党PYDと直接の話し合いをした。トルコの反対があり、クルド援助を控えてきた米国だが、ここにきてクルド援助を決断した。

米軍は空爆によってコバニのクルド軍を援護しきたが、武器・弾薬を配布したのは今回が初めてである。米政府はトルコのエルドアン大統領の反対を押し切って、クルド軍に武器を投下した。ISISは優越した武器によってクルド軍を攻撃している。クルド軍は、陥落を目前にして絶望的な戦いをしている。クルド軍が最も必要としているものを、米国は投下した。

      

 ケリー国務長官は、コバニのクルド人を援助しないことは道徳的に許されない、と表明した。

米国がコバニのクルド軍の援助を本格化することは、シリア内戦に深く関与することを意味する。これまで3年間、米国はシリア内戦から距離を置いてきたが、コバニ援助は大きな方針転換の端緒となるかもしれない。

オバマ政権は、イラクのISISに対する積極的な空爆と異なり、シリアに対しては、1か月遅れで、回数も少なく控えめにシリア空爆を開始した。

今は忘れられているが、 2013年夏の化学兵器使用疑惑事件の時は、米国は空爆を思いとどまった。2014年9月15日以後のシリア空爆は、明らかに重要な方針転換であり、シリアに対する直接的軍事干渉の開始である。このことを、アサド政府とイランとロシアは敏感に理解している。米国は、反政府勢力の支援という形で、間接的には最初からシリアに干渉してきた。今やシリアの領空侵犯とラッカとコバニに対する空爆は既成事実化している。

アサド大統領が語っている。「シリア政府は領空の通過と空爆を許可していない。そもそも米国は我が国に許可を求めていない。ヨルダン政府を通じて通知してきただけだ。米政府は、外国の政府に対して命令口調であり、それを受け入れない政府は合衆国の敵とみなされる」。

コバニに対する武器援助は武力干渉のエスカレーションかもしれない。非政府地上軍との緊密な連携である。

     

イラクのクルド自治政府の話によれば、投下されたのは24トンの小火器・弾薬と10トンの医薬品である。

これについて、トルコのクルド人政治家がコメントした。「もう少し早ければなおよかったが、今回の武器援助は大きな意味がある。『小火器』の内容が何なのか知りたい。ISISの戦車・大砲を破壊できるミサイル等が含まれていれば別だが、ISISと対等に戦うには重火器が必要だ」。

トルコのメディアは、C-130はトルコの領空を通らなかったと伝えた。クルド人への武器援助に、トルコは反対していた。

クルドへの武器投下の前日、エルドアン大統領は強い調子でこれに反対した。

「シリアのクルド人が米国から武器を受け取ることは許されない。連中はテロリストである。米国が私の許可を期待することは誤りである」。

トルコはコバニのクルド軍をPKK同様のテロリストとみなしている。トルコのクルド政党PKKの自治要求闘争により、4万人が犠牲となった。20135月、トルコはPKKと和解したが、根本的な解決に至っていない。 シリアのYPGに武器援助をすれば、トルコのPKKに流れる危険がある。

米国もEUも、PKKをテロリストと認定している。

同18日、オバマ大統領は、エルドアン大統領に電話をし、コバニに武器を投下するつもりだと伝え、その必要性を説明した。

米政府関係者は「ISISはトルコと合衆国双方にとって危険な敵である、と我々は信じて疑わない。早急にISISの力を弱めなければ、手遅れになる」と語った。

翌19日、トルコ政府は両首脳の電話会談について声明を出した。

「2国の大統領はシリア問題について話し合った。ISISの拡大を食い止める方法と、コバニが話の中心である。

エルドアン大統領は、トルコが150万人のシリア難民と18万人のコバニ難民を受け容れていることに対する理解を求めた。

両首脳は、ISISとの戦いを強化するために、両国が緊密に協力しあうことに合意した」。

政府発表は両首脳が合意したと語ったが、真相はわからない。物別れだったかもしれない。

クルド民族主義が長年トルコの敵であったという理由に加え、別の事情もあった。エルドアン大統領にとって、ISISは敵ではなく、仲間だった。大切な商売相手である。彼の子息は、ISISの石油販売を一手に引き受けており、莫大な利益を得ているという。エルドアンに向かって「ISISはトルコと合衆国双方にとって危険な敵である」と説得しても無駄だった。 

 空爆の翌日の20日、トルコ政府は「コバニのクルド軍に対する援軍と補給がトルコ領内を通過することを許可する」と発表した。エルドアン大統領の考えが変わったとも思われず、ダウトオル首相が上司である大統領の意向を無視し、米国との合意の路線で決定したのだろう。

       

 C-130がシリアの上空を往復する間、地上からの攻撃はなかった、と米中央軍が発表した。

パラシュートによる投下は、爆弾の投下と違って、どこに落ちるか、わからない。低空飛行で投下すれば、予定した地点に落下する。しかし地上からの対空砲火がある状況では、輸送機が撃ち落される危険が増す。3機の輸送機は地上からの攻撃を受けなかったので、落ち着いて投下できたのだろう。

中央軍は「投下はほぼ成功したようだ。投下後の結果について報告を受けてからでないと断定できないが」と述べた。

20日、YPGは大量の武器と弾薬を受け取ったと語った。

ただし、一個だけISIS側に落下した。米軍はそれを破壊したと発表したが、ISISはそれを獲得したようである。ISISのビデオによれば、荷の中身は弾薬のほかに、手りゅう弾とRPGだった。小銃より有効なものが含まれていた。

    

米中央軍はコバニの戦況を説明した。

「米空軍は10月の初め以来、ISISを135回空爆しており、彼らがコバニ市を制圧するのを遅らせている。空爆は数百人のISIS兵を殺害し、数十の装備を破壊した。

ISISはいぜんとしてクルド軍を圧迫しており、コバニが陥落する危険は去っていない」。

    

2つの円の接点がISISの最前線であり、米空軍がそこを爆撃した。最初の地図は、市内だけの範囲であり、この地図は郊外のミスタヌールの丘を含む広い範囲を表している。

地図中の文が、ISISは市の20%を支配していると述べている。これは10月15日、クルドの外務副大臣が「我々は市の80%を支配している」と語ったことに基づく。13日の空爆が非常に効果があり、ISISは一時的に撤退した。

翌日、クルド軍の司令官が、ISISは市内から撤退したと語った。

米軍はこれらの発表を否定している。そして米軍の判断が正しかった。地図に示された、2つの円の接点が主戦場であり続ける。ISISは市内の3割から4割を占領し続ける。円の接点は、最初の地図では、「クルド本部」と記されているあたりである。多少の変化はあるが、クルドの本部周辺で、延々と攻防が続く。

       

 (参考)

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