29日夜明けに、自由シリア軍200人がムルシトピナルの入口からコバニに入った。その際ISISのスナイパーに撃たれ、3名が負傷した。
29日の夜、ISISは越境地点を奪おうと6度目の試みをしたが失敗した。この日、米国はコバニを8回空爆した。標的はISISの少人数の部隊と命令系統の結節点、そして戦闘地域である。
30日の正午ごろ、イラクのクルド部隊(ペシュメルガ)の10人が2台の車でコバニに入った。
残り140名は、越境地点の安全が確認されてから、コバニに入る予定である。彼らは、大型の武器、重砲、その他の装備を運んできた。これらの武器の威力と米軍の空爆が戦いの流れを逆転させる決め手となる。
ペシュメルガはハサカ県北部のクルド地域を経由して、コバニに入ることはできない。テル・アビヤドを通らなければならないが、テル・アビヤドはISISの支配地である。
イラクのペシュメルガがコバニに入ることは、トルコが通過を許可することによって可能になった。トルコはクルド軍の支援に強く反対していたが、欧米諸国の圧力により、またトルコとイラクのクルド人の要望が強く、ペシュメルガの通過を許可せざるをえなくなった。しかしトルコはPKKの志願兵がコバニに入ることをいぜんとして許可していない。
トルコはイラクのクルド自治政府とは良好な関係にある。トルコは、石油関連事業を中心に同地域に巨額の投資をし、エルビルの繁栄と強く結びついている。
ワシントン中東研究所のジェフ・ホワイトは、ペシュメルガの到着について次のように分析する。
「ISISにも援軍が来ており、戦局を大きく変えることはないだろう。長期戦になりそうだ。ISISの戦力がコバニにくぎ付けになるのは、よいことだ。コバニが陥落しないことは、米国の戦略にとって都合がよい。ISISがコバニで戦っている間、他の地域で戦うISIS兵の数が少なくなるからだ」。
米国はISISの勢力拡大を恐れているようだ。また現在ISISが最も脅威となっているのはシリアではなく、イラクにおいてであり、特にキルクークの石油地帯とベイジの製油所を脅かしていることが気がかりのようだ。
< ペシュメルガ本隊、コバニに入る>
10月31日の夜、100名以上のペシュメルガ兵と大型の装甲車を中心とする20台の車列が国境を越え、コバニに入った。検問所がある正式の越境地点からではなく、西方のシャイル丘付近で越境した。ここには非公式な検問所がある。国境までトルコ軍が警護した。2日前、正式の入り口から入った自由シリアがスナイパーに撃たれたので、用心したようだ。
ペシュメルガの砲兵はシャイル丘に陣を構えるつもりで、最も近い場所で国境を超えたのかもいれない。重砲の位置は見晴しの良い丘の上が適している。
西方のシャイル丘付近は市外にあり、2次的な戦場にすぎない。主戦場はクルドの本部周辺である。ISISは市内の越境地点の奪取を作戦の要とし、機会を見ては、越境地点の攻略を試みた。ここを失えば、クルド軍は完全に包囲される。クルド軍は必至で死守してきた。
<必要なのは武器であり、援軍ではない>
2日前、トルコのクルド人はペシュメルガの到着を熱烈に歓迎した.PYDの広報官は「ペシュメルガが到着した瞬間を、クルドは決して忘れないだろう」と述べた。コバニの軍・政の代表が、ペシュメルガの到着に正式に歓迎の意を表した。同時に、彼はさらなる武器の支援が必要なことを強調した。一方コバニのクルド軍の中核部隊であるYPGの内心は複雑だ。
シリアの人民防衛隊(YPG)は、コバニが必要としているのは、戦闘員ではなく武器だ、と繰り返し述べている。
コバニの外務副大臣のイドリス・ナッサンは次のように述べた。「ペシュメルガが来てくれたことはよいことだ。しかし最初から強調しているように、我々が要望しているのは重火器と弾薬だ」。
YPGの中には、トルコの意図を疑っている者がいる。トルコはYPGの影響力を弱めるために、トルコの友人のペシュメルガとトルコが支援する自由シリア軍を送り込んだ、と彼らは疑っている。
かといってYPGは重装備を持っておらず、ペシュメルガに頼らざるを得ない。YPGはそもそもISIS相手に戦う戦力を持っていない。
<指揮権の問題が浮上>
11月1日の朝、ペシュメルガはクルドのメディアに語った。「YPGは我々を前線に行かせてくれない。
民主統一党(PYD)のコバニ支部長がトルコのメディアに語った。「自由シリア軍とペシュメルガはYPGの指揮下で戦ってもらう」。
イラクのクルド自治政府関係者は、この方針に異を唱えた。「ペシュメルガはアービルのペシュメルガ管轄省の指揮下にある」。
ペシュメルガの将校が匿名でクルドのメディア(Rudaw)に語った。「我々は戦う準備ができている。それなのにYPGは、まあ、ひとまず落ち着いて、あれこれ準備をしろ、と言う」。
コバニの外務副大臣のナッサンは言った。「イラクの自治政府は、YPGが準備した軍事作戦について何も知らない」。 YPGとペシュメルガは指揮権について対立し、協力関係が壊れるかと思われたが、ペシュメルガは歩兵から独立した砲兵部隊として、その自立性を認めることで決着したようである。
<自由シリア軍も独立性を主張>
コバニの自由シリア軍もYPGの指揮下に入ることを嫌い、YPGとペシュメルガ3者の合同司令部の設立を勝手に発表した。現在400人の自由シリア軍がコバニで戦っている。
一方アレッポの自由シリア軍は、アレッポの戦闘員を引き抜かれて怒っており、コバニを優先を批判している。彼らは同時に2つの敵(政府軍とISIS)から攻撃されており、「兵を割く余裕はなない」。
トルコのエルドアン大統領は、30日パリでの記者会見で、欧米諸国がコバニを重視することを非難した。
「なぜコバニなのだ。イドリブはどうなんだ?ハマはどうなんだ?ISISによって40%近く占領されているイラクはどうなんだ?」
エルドアンの疑問を、多くのシリア人が共有している。 コバニは小さな街であり、コバニより大きな他のいくつもの都市がISISに支配されている。またアサドの空爆を受けている都市の住民を、米国は放置している。
とはいうものの、 コバニに関心が集まったのも自然な流れである。モスルが3日で陥落したことは衝撃であり、それに比較して、コバニは1か月以上持ちこたえているので、世界の評価が高まった。
11月2日、自由シリア軍のエカダ司令官が述べた。「現在我々の戦闘員320名がコバニで戦っている。ISISは市の60%を支配している」。
<イラクのクルド自治政府、再び武器援助>
11月5日、弾薬を積んだ数台のトラックが、イラクのアービルから到着した。トルコの許可を得ず、秘密にトルコを通って、コバニにはいった。ペシュメルガは10月31日にコバニに入ったが、到着早々指揮権と作戦をめぐってYPGともめた。しかしイラクのクルド自治政府のYPG支援は揺るがず、YPGが必要とするものを届けた。
コバニを追われたクルド人が語った。{イラクのクルドは我々の兄弟だ。クルドはひとつだ。一部が傷つけば、全員が痛みを感じるのだ」。
ペシュメルガ到着後の5日間の戦闘で、ISIS兵数百名が戦死し、ISISの攻勢は打ち砕かれた。
11月16日、クルド軍はミスタヌール丘を奪回した。
イラクのクルド自治区のペシュメルガ
1か月半の戦闘で、コバニの村民800人が死亡した。
(参考)
- CNN Peshmerga begin arriving in besieged Kobani
- CBS Peshmerga troops enter Syrian town besieged by ISIS
- Kurdish peshmerga forces arrive in Kobani to bolster fight against Isis
- The Siege of Kobanî