探墓巡礼顕彰会-墓碑調査・研究プロジェクト-

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撤去危機になっている江戸幕府最後の大老酒井忠績の墓

2019-03-03 01:15:01 | 会員の調査報告
会員のカネコです。
先日、このような記事を見ました。

江戸幕府最後の大老、姫路城主・酒井忠績の墓が撤去危機 理由は…墓地の管理料滞納

酒井忠績のお墓は当会で平成22年(2010)に開催した「染井霊園巡墓会」で案内し、私がレジュメと解説を担当しました。
平成28年(2016)に訪れた時点で無縁の立札が建っていましたが、その後も血縁者は現れず、さらに期限付きの立札が建ったようです。



(※平成28年(2016)訪問時の立札。現在は違う立札が建てられています。)

酒井忠績は姫路藩主酒井(雅楽頭)家の分家旗本5000石の酒井家より養子に入り、京都所司代臨時代行を務めた後、老中首座となり、元治2年2月1日(1865・2・26) 大老となり、第2次長州征伐の事後処理、幕府軍の西洋式軍制の導入など、幕政改革に尽力しています。
三宅康直の三男忠敬を養子としていましたが、元治元年に早世していたため、
慶応3年(1867)2月に実弟の忠惇に家督を譲り、隠居しています。
しかし、老中であった忠惇が慶応4年(1868)鳥羽伏見の戦い江戸に戻り、責任を問われ蟄居すると、忠績も謹慎しましたが、江戸開城後の徳川家処遇に不満持ち、徳川家との主従関係を断ち切ることはできないとして、所領返上を願い出ました。
この一件で、忠惇は強制的に隠居されられ、支藩の伊勢崎藩より忠邦が養子として迎えられ、忠績・忠惇系の家臣が処断されました。
忠績・忠惇兄弟は実家の旗本酒井家に預けられた後、赦免され、明治13年(1880)11月共に別家を興し、終身華族となり、さらに明治22年(1889)5月特旨をもって男爵を授けられました。
つまり、本家は伊勢崎藩より養子に入った忠邦の系統が伯爵家となり、その分家として忠績・忠惇の2家の男爵家が成立しています。

そのため、本家の忠邦以降の墓所は谷中霊園乙8号14側にあり、忠績家は染井霊園一種イ4号6側、忠惇家は同じく染井霊園一種イ8号9側と墓所も3ヶ所に分かれています。

忠績の墓は正面[正四位男爵酒井忠績之墓]、裏面[明治二十八年十一月三十日 生方裕敬書]と刻まれ、左面には2代目忠弘他2霊が刻まれています。
また、左隣には[正四位男爵酒井公碑]と題された顕彰碑が建立されており、裏面には[石燈籠及碑石献納人名]と題し、石燈籠や顕彰碑の建立に寄付金を納めた人物の名が刻まれています。







『昭和新修華族家系大成 上巻』によると忠績には前述の早世した養子忠敬の他に、本庄宗義夫人玉子、平野長祥夫人鈴子、男爵家2代目忠弘、光徳、徳行の5人の実子がいたことが確認できます。
2代忠弘は大正9年(1920)に爵位を返上しており、夫人板倉益子とは明治35年(1902)に離縁しています。
忠弘の子の記述はなく、墓碑側面には昭和13年(1938)没の女性が最後となっています。

ネット記事には「10年ほど前から墓地の管理料を払っていた親族と連絡が取れなくなり、新たに引き継ぐ人も現れない状態が続いた。」とありますので、少なくとも10年ほど前までは忠績の子のうちの誰かの子孫が健在であったようです。
記事によると「墓の継承者は故人の6親等以内の親族であることが原則。それ以外の人が継ぐ場合は裁判所の審判が必要。」とありますが、子孫が続いている本家の忠邦系統、弟の忠惇系統の方とは既に6親等以上離れていると思われますので、大変難しい状況ではないかと思います。

尚、染井霊園では箱館戦争に参戦し、後に初代八幡製鉄所長官となった山内六三郎父山内豊城の墓所(おそらく六三郎も同墓)、水戸徳川家分家徳川圀禎家の墓所が無縁状態となっており、立札が建っています。

近年、墓地を取り巻く環境は厳しい状態となっており、数々の著名人の墓が無縁で改葬、もしくはご子孫の手で墓じまいなどが行われている状況です。
これは著名人の墓といえど、基本的にはご子孫の祭祀の場である以上、やむを得ないことでもあります。
酒井忠績のご縁者が現れることを願うしかありませんが、個人としてできることとして、現状の撮影や、碑文の筆記など記録を残すことはできると思います。
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