たまびと日記

『何でも載せちゃうガラクタブログ』

楯女(たておんな)

2011-07-27 | 人間


虫女事件があってから一ヶ月近く経ったある日、私のことを虫女と呼んだ若い女性が、私の前に立ちました。

「ロッカー室に入りたいんですけど、一緒に入って貰えませんか?」

私、心の中で思いました。  「いつも使っているロッカー室じゃん。 意味わかんな~い」

仕事場にいて、毎日様々な人の姿を見ていると、何となくその人の心の明暗が見えてくることがあります。
だんだん笑顔が消えて、無口になっていく人がいます。
数日後に突然会社をやめてしまうことが重なり、そのたびに私は 「もっと話しかけてあげればよかった。 もしかしたら、こんな私でも力になれたかもしれないのに」 と自分の無力を嘆きます。

だからこの時も、私は彼女を問い詰めず、自分なりにこう考えました。
「もしかしたらこの人は、対人恐怖症かもしれない。 中に人がいることを恐れているのかもしれない」 と。

そこで、いそいそと 「いいわよ」 と答え、先に立ってロッカー室に入りました。
人の姿が無かったので 「誰もいないわ」 と後を振り向いた瞬間、彼女の 「ギャ~~~」 という絶叫が響き渡りました。

宙を見ながら叫ぶ姿を見て、私、唖然。  何が起きたのかわからない。

そこで私は考えました。  「きっとこの人は、霊が見えるんだ」

私  「何が見えるの?」

彼女は震えながら床を指差しました。
その先には、死んだ大きなゴキブリの姿が・・・・・

私、心の中で思いました。  「やってらんな~い」

でも口では 「大丈夫よ」 と答え、箒を持ってきてチリトリの中に掃き入れました。
「これ、そこのゴミ箱に捨てるけど」 と言ったら、彼女、大声で 「やだ~~~」

「もうすぐ掃除のおばさんが回収に来るから、すぐいなくなるわよ」 と納得させたら、彼女ようやく落ち着いて話し始めました。

「さっきロッカー室から出て行った人に、ゴキブリが死んでいると言われたんです。 それで最強の人に、一緒に入ってって、お願いしたんです。 私一人だったら、もっと大声出していたと思います。 ありがとうございました」

私の心の中の声  「十分大声だったわよ。 何事が起きたのかと思ったわい」


後日、同僚の若い男性にこの話をしたら 「〇〇さん、楯にされましたね」 と言われたけど、最初に頼まれたとき、私が変な気をまわさずに 「どうして?」 と聞けばよかったんですよね。 反省。