さて新吉とお賤はこの下総塚前村の観音堂の庵室に足を留めることになります。この観音堂は藤心村の観音時という真言寺持ちで一切の事は引き受けて致します。ある日の事お賤は台所で働いています、新吉が表の草を刈っているところへ観音寺の小僧宗観が法事で尼さんを迎えに来る、寺男の音助が新吉に話しかけ新吉は宗観の齢を聞くと十二と言う。ご両親も承知で出家なすったのかと聞くと両親は死んだと宗観は泣出す。それから音吉が詳しく話し、「父親が死にこの人の兄が後をとって村の名主役を継ぎ其処へ嫁子が入って、そこに安田一角が嫁子に惚れていたから恋の遺恨でもって兄さんをぶっ斬って逃げた。一角に同類が居て富五郎が共謀して殺した。嫁子は離縁状をとって富五郎を欺いて同類の様子を聞いて敵討ちに行ったが切られて安田一角は逃げた。相撲取りで花車重吉が味方だから年老いたおふくろとこの人が江戸へ行く途中、小金原の観音堂でから塩梅が悪くなってこの人が薬を買いに行ってあと、母様は縊り殺され路銀を盗られ死んだからこの人は泣いていたところへ、おらと旦那が通りかかり敵討ちなどしないで追善供養がよいと坊主になれと言って寺に連れて来てやっと去年頭を剃った。」
新吉は小僧さんは何処の人かと聞くと音吉は岡田郡羽生村と答え、お父さんの名前を聞くと羽生村の名主役をした惣右衛門という人の子の惣吉様だと言う。新吉はそれを聞いてお賤と密通して病中の惣右衛門を縊り殺し湯灌場で甚蔵に脅され実の兄をお賤は鉄砲で撃ち殺すとは、敵同士の寄合これも因縁、惣吉殿のことを思えば背筋に白刃を当てられるよりなお辛い悪いことは出来ないものだと、暫らくは草刈鎌を手に持ったなり黙然としています。音吉は鎌が錆びているのを見て、惣吉の村の三蔵という質屋が死に絶えてしまい家も取り壊され貰った鎌だがよく切れるから使ってみろと言う。新吉は手に取って草刈鎌を握り詰め、累ケ淵でお久をこの鎌で殺し、お累はこの鎌で自殺し、廻って今また我手へこの鎌が来るとは神仏がわしのような悪人をなに助けておこうぞ、この鎌で自殺しろといわぬばかりの懲らしめか、恐ろしいことだだと思い詰めます。そしてお賤を呼び小僧さんの顔をよく見ろと言いますが思い出さないので新吉が惣右衛門の子で惣吉さんだ、と言ってお賤を引き倒し咽喉へ鎌を当てプツリと刺しましたから悲鳴を上げ七転八倒、宗観と音助はびっくりし人を呼ぶと其処へ比丘尼が入ってきて何故お賤をこの鎌で殺すという了見になったかと問います。
新吉は門番の勘蔵から聞いた己の身の上、それからしてきた悪事をすべて話します。そして惣吉には二人は父親の敵でこの鎌で斬って下さい、お詫びのため申し上げるが惣次郎さんとお隅さんの敵安田一角は五助街道藤ケ谷の明神山に隠れていますと、お賤に命の納め時だ宗観様にお詫びを申し上げなと新吉、賤は「惣吉さん誠に済まない事をしました、堪忍して下さいまし・・・」と苦しいから早く死のうと鎌の柄に取りすがるを、新吉は鎌を取り我左の腹へグッと突き立て柄を引いて腹を掻き切ります。
宗観は父・兄・姉の敵は知れたがおっかさんの敵はいまだに解らないが・・・というのを聞いて比丘尼が「忘れもしない三年前小金原の観音堂でお前のお母さんを縊り殺し、百二十両という金を取ったのはこのお熊比丘尼でございますよ」。と新吉が持っていた鎌を取って咽喉を切って相果てました・・・・