研究室で見たNHK静岡のローカルニュースに触発されて。
焼津市にある私立の女子高「焼津高校」の高校生有志が、地元の方々に向けて、
また地元の方々と共に、津波防災についての活動を行っている、とのこと。
NHKのニュースを見た限りだが、地域の家々への個別訪問も行われている模様。
とすれば、最終的には、高知県黒潮町で行われていたような、家族別の避難カルテを作る、
その辺りを目標としているのだろう。
焼津市で津波防災を語ることは、大変難しい。本当に難しい。
まず、ダブルパンチを覚悟しなくてはならない。この場合のダブルパンチとは、もちろん、
「家が倒れるくらいの極めて強い揺れ」の後の「津波」。
東日本大震災の震源域は、いわば、東京=静岡間の距離にも匹敵するような沖合にあった。
しかし、焼津の場合は文字通りの真下が震源域となる。
したがって、耐震性のない家にお住まいの方は、そもそも津波避難の前に勝負がついている、となってしまう。
という訳で、最初に津波避難ありき、とはいかないことが、最初の大きな難しさ、となる。
東日本大震災の津波被害のイメージが強すぎて、そのイメージが刷り込まれてしまっているため、
建物の問題に気付いてすらもらえないのが現状。
焼津高校の女子高生諸君が、しっかり気付いて考えていてくれればよいのだが……。
住宅の耐震性向上を進めることがいかに大変か。
過去、どれほど多くの努力がなされてきても、大した前進が出来ていないという現実、
その現実から、本当は議論を始めなくてはならないのだ。
ついで、焼津の地形。沿岸部から数キロ先まで、平坦な地形が続く、というもの。
沿岸部にそれなりの高さの防潮堤を作る、というならばともかく、その沿岸部は日本有数の漁港。
漁港の内陸側に、その種の灰色の壁を作ることに、社会的な合意がとれればよいのだが。
下手をすると、東日本大震災の被災地で多く見られたように、内陸部まで津波が入り込む、となる。
避難タワーに一時的な避難は可能としても(それすら厳しい方々もおられるが)、
その後、ここに「なりわい」「にぎわい」「子どもたちの遊び声」を取り戻すのは至難の業、となろう。
「避難成功。しかし、故郷消滅、人生崩壊。」
これが目指すべき防災の目標と言うならば、それはいささかレベルが低かろう。
高校生諸君は、ここまで意識して、津波防災活動を展開しているのだろうか。
三番目は、そしてこれが一番の難題かもしれないのだが、
防災には、今のための防災と、将来のための防災とがあるのだが、
ほとんどの場合、この後者がまったく意識されていない現状がある、ということ。
駿河トラフ・南海トラフのレベル1の地震の場合、すなわち、
東海・東南海・南海地震のイメージであり、安政東海・安政南海、宝永地震のイメージなのだが、
海溝型地震ゆえ、90年~150年、ないし100年~150年に一度という、
ある程度の周期性が期待できる。
直近の発生は、1944年12月の昭和東南海地震と1946年12月の昭和南海地震。
両者の間をとって1945年を起点として、今年が70年目。
今日明日に次のレベル1が起こると思っている防災関係者は誰もいない。
京大におられた尾池先生は、2038年説を唱えられておられるとのこと。
昭和東南海・昭和南海が比較的小規模だったから、85年を過ぎたくらいから「お尻がむずがゆく」なるだろうが、
問われるべきは、残りの20年+α、あるいは準備期間として与えられた20年+αを、
どのように活かすか、という話であるべき。
焼津高校生の取り組みは、ここまでのスケール感を持った上のものとは思われなかった。
ただ、これは、NHKが取り上げた尺の問題なのかもしれない。
たとえそうであれ、建物の議論、地形(まちのつくり)の議論、そして時間の議論、
これらを抜きにした避難論議は、本質を見失ったもの、と言わなくてはならない。
高校生諸君が真剣に取り組んでいるだけに、彼女らの努力を無下に否定したくはない。
ただ、間違った議論はして下さるな、とは思う。
君たちが間違った認識に立ち、間違った提案を地域の方々にしてしまうことで、
本質的な問題解決が遠のいてしまう危険性が大変大きい。
その点はしっかり認識した上で、活動に取り組んでもらいたい、そう願っている。
焼津市にある私立の女子高「焼津高校」の高校生有志が、地元の方々に向けて、
また地元の方々と共に、津波防災についての活動を行っている、とのこと。
NHKのニュースを見た限りだが、地域の家々への個別訪問も行われている模様。
とすれば、最終的には、高知県黒潮町で行われていたような、家族別の避難カルテを作る、
その辺りを目標としているのだろう。
焼津市で津波防災を語ることは、大変難しい。本当に難しい。
まず、ダブルパンチを覚悟しなくてはならない。この場合のダブルパンチとは、もちろん、
「家が倒れるくらいの極めて強い揺れ」の後の「津波」。
東日本大震災の震源域は、いわば、東京=静岡間の距離にも匹敵するような沖合にあった。
しかし、焼津の場合は文字通りの真下が震源域となる。
したがって、耐震性のない家にお住まいの方は、そもそも津波避難の前に勝負がついている、となってしまう。
という訳で、最初に津波避難ありき、とはいかないことが、最初の大きな難しさ、となる。
東日本大震災の津波被害のイメージが強すぎて、そのイメージが刷り込まれてしまっているため、
建物の問題に気付いてすらもらえないのが現状。
焼津高校の女子高生諸君が、しっかり気付いて考えていてくれればよいのだが……。
住宅の耐震性向上を進めることがいかに大変か。
過去、どれほど多くの努力がなされてきても、大した前進が出来ていないという現実、
その現実から、本当は議論を始めなくてはならないのだ。
ついで、焼津の地形。沿岸部から数キロ先まで、平坦な地形が続く、というもの。
沿岸部にそれなりの高さの防潮堤を作る、というならばともかく、その沿岸部は日本有数の漁港。
漁港の内陸側に、その種の灰色の壁を作ることに、社会的な合意がとれればよいのだが。
下手をすると、東日本大震災の被災地で多く見られたように、内陸部まで津波が入り込む、となる。
避難タワーに一時的な避難は可能としても(それすら厳しい方々もおられるが)、
その後、ここに「なりわい」「にぎわい」「子どもたちの遊び声」を取り戻すのは至難の業、となろう。
「避難成功。しかし、故郷消滅、人生崩壊。」
これが目指すべき防災の目標と言うならば、それはいささかレベルが低かろう。
高校生諸君は、ここまで意識して、津波防災活動を展開しているのだろうか。
三番目は、そしてこれが一番の難題かもしれないのだが、
防災には、今のための防災と、将来のための防災とがあるのだが、
ほとんどの場合、この後者がまったく意識されていない現状がある、ということ。
駿河トラフ・南海トラフのレベル1の地震の場合、すなわち、
東海・東南海・南海地震のイメージであり、安政東海・安政南海、宝永地震のイメージなのだが、
海溝型地震ゆえ、90年~150年、ないし100年~150年に一度という、
ある程度の周期性が期待できる。
直近の発生は、1944年12月の昭和東南海地震と1946年12月の昭和南海地震。
両者の間をとって1945年を起点として、今年が70年目。
今日明日に次のレベル1が起こると思っている防災関係者は誰もいない。
京大におられた尾池先生は、2038年説を唱えられておられるとのこと。
昭和東南海・昭和南海が比較的小規模だったから、85年を過ぎたくらいから「お尻がむずがゆく」なるだろうが、
問われるべきは、残りの20年+α、あるいは準備期間として与えられた20年+αを、
どのように活かすか、という話であるべき。
焼津高校生の取り組みは、ここまでのスケール感を持った上のものとは思われなかった。
ただ、これは、NHKが取り上げた尺の問題なのかもしれない。
たとえそうであれ、建物の議論、地形(まちのつくり)の議論、そして時間の議論、
これらを抜きにした避難論議は、本質を見失ったもの、と言わなくてはならない。
高校生諸君が真剣に取り組んでいるだけに、彼女らの努力を無下に否定したくはない。
ただ、間違った議論はして下さるな、とは思う。
君たちが間違った認識に立ち、間違った提案を地域の方々にしてしまうことで、
本質的な問題解決が遠のいてしまう危険性が大変大きい。
その点はしっかり認識した上で、活動に取り組んでもらいたい、そう願っている。
当ブログを書きつづっている常葉大学社会環境学部の小村です。
コメント、ありがとうございました。
9月29日付の更新以降、防災教育のあり方について、
近刊予定の共著本の内容を、何回かに分けてお示ししているところです。
それをお読みいただければご理解いただけると思うのですが、
南海トラフ巨大地震の被害が危惧される場所(特に伊豆半島以西の太平洋沿岸地域)で、
もっとも重要な災害対策は、避難カルテづくりではなく、まちづくりであり、
まちづくりの意味を理解している将来の大人を育てること、にあります。
京都大学防災研究所の矢守先生はもちろんよく存じており、様々な議論もする関係ですが、
所属は京大防災研とはいえ、ご専門は心理学です。
避難を躊躇する住民心理を何とかしたい、という思いから、取り組まれたことと思いますが、
避難は、対応の防災ではあっても、予防の防災ではありません。
現在形の防災ではあっても、未来形の防災ではありません。
それゆえ、残された時間の使い方として、私には、正しいものとは思えません。
11月に静岡で開催予定の地域安全学会で、多分、お会いできるものと思います。
コメントもいただいたことゆえ、この件を話題に出して、ご本人と直接議論してみたいと思います。