天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

ピンキーリング

2012-05-30 06:11:09 | 小説
翔太ははっとする。とてつもなく後ろめたく、恥ずかしい。まだ何も起こっていないのに、思い込みの妄想にとらわれてしまった。自分が傷つくのを恐れるあまりに、勝手に話を作り上げ、勝手にその話を信じ込み、勝手に怒りを暴走させた。そして、彼女に攻撃を加えようとしていたのだ。そこまで思いを巡らした時、翔太はもっと恥ずべきことを自分は無意識のうちに考えていたことに気が付いた。彼は自分の卑しさにぞっとした。自分のずるさにうんざりした。彼女にあきれられても、人間性を疑われても仕方がない。正直に告白しよう。それが彼にできる最大限の償いだった。
「もし俺が逆の立場だったら、俺の知ってる奴が俺みたいに女の服を見てるのを見つけたら、ただじゃおかへんから。黙ってない。めっちゃまわりの奴に言いまくるやろうな。」
翔太は彼女に懺悔をするつもりで言葉を続ける。
「なんでかっていうと、俺じゃないほかの奴が変てことになって、まわりに言っている俺は変じゃないていうか…」
うまく言えない。混乱してきて、とぎれてしまった。彼女は表情を変えない。感情がまったくこもっていない声で彼女は言う。
「田中は自分が女性の服が好きだということが、まわりにばれるのが怖い。もし、他の男子が女性の服を好きだということがわかったら、それをばらしてその男子をからかうことで、自分はその男子と違うということをまわりにアピールするてことやろ。要するに、他の人を自分の身代わりにするてことちゃうん。」
淡々とした口調。怒りも責めも嘲りもない。事実だけを述べているような感じ。それが翔太にはこたえた。
「えっと…はい。」
「それってどうなん。」
「すいません。」
「ちょっとひどくない。」
「えっと…はい。」