まろの陽だまりブログ

顔が強面だから
せめて心だけでもやさしい
陽だまりのような人間でありたいと思います。

夢千代日記

2017年12月19日 | 日記

覚えておられますか「夢千代日記」を?
もう30年以上も前にNHKで放送されたテレビドラマです。
主演の吉永小百合さんが輝くばかりに美しく
心にしみるような演技でした。

主人公の夢千代は山陰のうらぶれた温泉町で
小さな芸者置屋を営んでいます。
母親のお腹の中にいた時に広島で被爆した「胎内被曝者」で
原爆症を発症し余命二年と宣告されています。
物語はそんな夢千代を取り巻く人々のさまざまな人間模様が
山陰の冬景色とともに物悲しく描かれています。
決して明るいドラマとは言えませんが
脚本家・早坂暁さんの代表作として鮮烈に心に残っています。
倉本聰、山田太一、市川森一、中島丈晴・・・
好きなドラマ作家は多くいますが
他の誰よりも人間を深く見つめ続けた尊敬する作家でした。

その早坂さんが亡くなったと言います。

4年ほど前に新聞に載ったインタビュー記事です。
確か終戦特集の企画だったと記憶します。
1945年4月、早坂さんは海軍兵学校に入学。
戦艦・大和に憧れる15歳の「軍国少年」だったと言います。
しかし、出陣の機会はないまま8月15日の終戦。
早坂さんたち4000名の学徒は貨物列車に乗せられて故郷へ帰還しますが
その帰路に「ヒロシマ」の惨状を目撃したのでした。

8月21日でした。
山陽線の宮島口からカーブして広島市内に入るのですが
すぐにすごい臭気が入って来ました。
原爆で亡くなった人の死体のにおいです。
たまらず吐く仲間もいました。
僕たちは広島駅で降りて一夜を明かしました。
真っ暗な中で見たのが何百、何千という青い火です。
10万人以上が原爆で命を落とし、がれきの下には死体が埋もれている。
雨がしとしと降っていました。
見渡す限りの焼け野原に死体から出るリンが燃えている。
悪い夢のように美しく怖ろしかった。
膝ががくがくして立っていられなかった。

このヒロシマ体験が
脚本家・早坂暁の戦後の原点になったと言います。

胎内被曝という過酷な運命を精一杯生きる夢千代。
早坂さんは彼女の姿に15歳の時に見た
強烈な体験を投影させています。
戦争はいけない、ヒロシマを二度と繰り返してはいけない。
戦死した300万人をこえる兵士や市民の涙を
決して忘れてはいけない。
早坂さんはさまざまな作品を通じて訴えつつけました。

早坂さんの訃報を聞いて
吉永小百合さんは「夢千代日記は私の宝物です」と
心からの謝辞を送っています。
享年88歳。
数々の名作ドラマをありがとうございました。