日常的にメディアを通して私たちが耳にするのは、日本の借金は900兆円を超えており、このままいけば政府は早晩破綻するというものです。感覚的に、借金が膨張すれば、財政が破綻するというのは理解できます。こうしたテーマについては、このブログでも度々触れてきました(「国家信用と貨幣システム」等参照)。
ただ一方で、日本の財政は絶対に破綻しないという議論もあります。これは、日本の国債は、90%以上が国内で買われているものであり、政府が借金をするというのは、即ち国民の資産が増えるということを意味しており、国債を発行するという行為自体、基本的にお金が日本国内をぐるぐる回っているだけであるという考え方からくるものです。これはこれで分からなくもありません。しかし、それが延々と回り続けてくれるのか、借金が際限なく膨らむということが本当に許されるのか、いま少しはっきりしません。
先日、このテーマについて、仲間内で議論をしました。結果、たしかに日本国内で国債が買われ続け、国民の資産が、政府が発行するだけの国債を引き受けるだけの規模、きちんと残っていれば、すぐに財政が破綻するということはなさそうだという結論に達しました。そういう意味では、メディアが煽り立てるほど、深刻な状況ではないと言えるのかもしれません。ただし、それが永続的な安定を意味するのかというと、けっしてそうでもないように思います。
例えば仮に、「こんな借金だらけで、政府の財政は本当に大丈夫なのだろうか?」と疑念を抱いた人々が、自分たちの持つ資産を海外の口座に移したり、貴金属に替えるような行動を起こしていくようになると、このループは成り立たなくなります。お金をぐるぐる回すゲームから外れる人々が出始めると、それが一気に全体の流れになるようなことも否定できません。
また、外国政府における財政破綻の影響等も気になります。現在、考えられるシナリオとしては、こちらの方が現実味があるのかもしれません。つまり、日本のように国内でぐるぐる回しているだけの国債ではなく、他国に国債を引き受けさせている国は、破綻する可能性が高いということです。
米国では2011年、債務が法定上限である14.3兆ドルを越えるということで、大きなニュースになりました。この時点における米国債の海外保有高は、4.5兆ドルでした。この数字から明らかなとおり、米国の場合、とても日本のように、「お金を国内でぐるぐる回している」ような状況ではないのです。こうした国では、為替相場などによって、大いに運命を左右されてしまうわけです。問題は、そうした世界経済の事象が、日本経済を直撃するであろうことであり、そのことが日本の国家財政においてどのように作用するのかということでしょう。
明確な根拠があるわけではありませんが、私はこうしたことを想定してみるとき、どうしても「金」を意識してしまいます。今の経済システムは、金本位制ではありませんし、金本位制への移行というのは、時代に逆行するものであるという指摘も分かります。私自身、「金」にそれほどの価値があると思っていませんので、むしろ金本位制に対する違和感すらあります。しかしそれでも、ある大国の財政が破綻するような事態が起こった場合、それを立て直す手段として、金本位制への移行を否定しきれるのかどうか、ちょっとした不気味さは感じています。このあたりの問題は、もう少し時間をかけて、注視していきたいところです。
さらにもうひとつ。日本の国債が本当に国内をぐるぐる回るだけだとして、「膨らむ借金」は国家財政の破綻を意味するのではなく、乱発される国債や日本円の価値暴落を招くだけかもしれないということです。借金は国内だけの問題であり、政府が膨大な量の国債を発行したとしても、それを(民間の銀行を通じて)日銀が刷った紙幣で買い取れば、問題ありません。そうなると、「借金によって破綻する」ということはない代わりに、国債や日本円の価値が著しく下がることになるわけです。そのことによって困るのは、多くのお金を銀行に預けている富裕層でしょう。むしろ、ローン等の借金で悩んでいる庶民たちには、ありがたいことになる可能性すらあります。そう考えると、財政が破綻するかもしれないという危機感を煽り、それを避けるために庶民たちからの税収を増やそうとする行為は、ただ富裕層を守るための方便という言い方もできます。
国家の財政が、今の経済システムのなかで、どのような道を辿っていくのか、これから先も一人の国民として、注意深く観察し、検証していきたいと思います。