語る、シェフ

小さなレストランのオーナーが、日々の出来事を語ります。

  冒険9

2008-07-03 02:52:51 | 冒険
      あるべき時に、ないものは・・・?



「パパ疲れたね。」

「もう少し頑張ろう。」

「しんくんちょっとお休みしたいんだよね。」

考えてみれば、5歳の彼には少しハードな冒険だ。かえってよく頑張っている方だ。

考えてみれば、僕だって疲れた。いったい家に帰れるんだろうか?

こんな気持になるのは、小学校6年生の時、館山の岩場の海岸で、

兄弟3人で迷子になった時以来だ。

それに、いったい今何時なんだ?あんまり遅くなると、妻に怒られる。

こんなに汚してしまったので、「風呂場直行」は、まぬがれまい。

あー、それはそうと、本当に帰れるのだろうか?

「そうだな、少し休むか?なんかリュックに食べる物はなかったかな?」

僕は腰を下ろし、リュックをひざの上にのせると中を調べた。

あーだめだ。やっぱりお茶しか入ってない。仕方がないので2人でお茶を飲み、2人で並んで壁にもたれた。

「静かだねー。」思わず「あーっ!!」と叫びたくなる。

「しんくんお腹空いちゃったなー」

「パパだって空いてるさ。」

「ママご飯作ってるかな?」

「そりゃ作ってくれてるさ。早く帰って一緒にご飯食べよう。」

「でもさあ、どうやって帰るの?パパ道知ってる?」

「そ、そりゃあ知ってるさ。パパが道をいっぱい知っているのを、しんくんだって知ってるだろう?」

さ~って、どうしたものか。



    



僕はリュックを背負い、彼をひざの上に乗せた。

そして、「ほ~ら、くすぐられると元気が出るぞ!!」と、彼をくすぐった。

かれは、妻と同じでくすぐられるのが非常に嫌いだ。

まあ、「好きな人」っていうのもあまりいないと思けど・・・。

子供をくすぐるっていうのも、まあ定番といえば定番の遊び。

くすぐり続けると、「まいった、あはは、まいった!!」でだいたい終わり。

僕も小さい時良くやられたな、いろんな大人に・・・。



  



ところが、彼が嫌がって思いっきりのけぞった時だった。

頭が僕のあごに当たりそうになったので、とっさに、よけようとして僕ものけぞり、後ろの壁に背中ごとぶつかった。

その時だった。何の変哲もない壁だったのに、

ぶつかった途端後ろに倒れた。というより「開いた」と言ったほうが正確かもしれない。

僕らは、何の選択権もないまま、足を上に向けてすべりだいをすべる様に、お腹に彼を乗せたまま

どんどん滑り落ちていった。

僕らは無言のままだった。あまりの驚きで声がでないっていうのは、本当にあると、その時知った。

ただ心の中で、「インディジョーンズの冒険なら、絶対1回は、出てくるシーンだ。」と、

ぼんやり思いながらも、どんどん滑り落ちていった。