語る、シェフ

小さなレストランのオーナーが、日々の出来事を語ります。

  カニーNo3

2009-05-08 00:50:13 | さよならカニー!!
ある晩僕は、例によって営業後の厨房で、「カニー」を肩に乗せ、仕込みをしていた。

その日は久し振りに、いい鰯が入ったので、半分はマリネ、半分はエスカベッシュにする事にした。
マリネ用に三枚下ろしにした身に、塩をしている間にマリネ液を作り、
残りの半分は、二枚下ろしにして粉をつけサラダオイルで揚げる。
僕は、鰯に粉を付け油で揚げていった。
「カニー」は、僕の肩から腕づたいに下りてきて、手首の周りを回ったり指の先まで行ったりした。
その度に僕は、
「危ないよ、カニー、落っこちたらどうするんだよ!!」
と、注意した。
でも彼はやめなかったし、僕も、「まったく、しょうがないな~」ぐらいの気持ちだった。

でも、それはその時、起こった。
僕の手の甲で、バランスを崩したカニーは、「あっ!!」と言う僕の叫び声より先に、手の甲から落ちていった・・・。

  

彼には、本当に悪い事をした。もっと強く止めていれば、今日も一緒に仕込が出来たのに・・・。

僕は、息子と一緒に「カニー」のお墓を作った。
カニー・・・安らかに眠ってくれ。

    それでは、また。

  カニーNo2

2009-05-07 00:40:55 | さよならカニー!!
帰りの車の中で、彼とはいろいろ話したんだけど、
かいつまんで話すと・・・

良くありがちな、宇宙船が故障して地球に不時着。
直そうにも、材料が無い。何とかしようとあたりを探検するも、道に迷って万事休す。
 
 
 
ま、そんなところだ。
といっても僕に、何をしてあげられる訳も無く、
出来る事といったら、彼を「サワガニ」として飼ってあげる事だけ・・・。
そんな話をすると、彼もとりあえず腹をくくったらしく「しばらくは[サワガニ]としてやっていく」と言った。

僕は、家に着くと息子を呼び
「ほら、サワガニだぞ!!名前は[カーニ]だ。」
と、言った。すると息子は、
「カニなのに[カーニ]なんてヘンだよ。[カニー]にしよう。」と言う。
僕たちは、あーでもないこーでもないと話し合ったが、埒が明かないので、
ここは大人の僕が、彼に譲って、「カニー」と言う名前になった。

2人で、プラスチックの水槽を持ち出して、中に石や植物を入れて「カニー」の家を作った。
「カニー」は、僕の手のひらから嬉しそうに(たぶん)水槽の中に入っていった。
もちろん、僕と「カニー」が会話できる事は、2人の秘密だ。
 
 

僕たち2人は、結構うまくやっていた。
夜営業が終わって、水槽からそっと彼を連れ出し、
僕の肩の上に乗せて、仕込みをしたりした。
そして、彼の星の話を聞いたり、僕が、地球の話をしたりもした。
そして、月日は過ぎていった。

    それでは、また。
   

  カニーNo1

2009-05-06 01:11:24 | さよならカニー!!
カニーは宇宙人なんだけど、地球上ではサワガニの姿をしていた。
僕がカニーにあったのは、確か4月の終わりごろだった。
魚屋に行くと、サワガニが売られていた。そう、とてもたくさん。
値段が書いてある木の札には、「ペット、唐揚げに・・・」と書いてある。
ペットと唐揚げが同列に書かれているのもヘンな話だ。ペットショップで「ペット、唐揚げに・・・」と書くだろうか?

そんな事を思いながら、カニたちを見ていると、
「ここから連れ出してくれ!!」という声が聞こえた。いや、そんな気がした。
僕は思わず周りを見回したが、誰も僕なんて見て無い。するとまた・・・
「早くしてくれ!!」という声?が聞こえた。
僕は思わず、カニたちを見ると、何と一匹と目が合ったではないか!?
僕は腕組みをすると、首をかしげながら彼を見つめた。
彼は、僕の方を見たまま2本のはさみを上下させ、必死に何か訴えている。
 
  

僕は、お店のおねえさんに、
「このカニ、1匹でも買えるの?息子に買っていってやりたくてさ・・・。」
と、聞いた。
「うん、いいですよ~。1匹15円。うちの店長も飼ってるんだよ。」
すると、奥から店長が出てきて、
「いや~飼ってると情が移っちゃってさ、もう唐揚げでは食べられないね~アハハ」
と、言いながら小さいトレイを持ってきてくれて、
「これに入れて、ラップして穴を開けて持っていくといいよ。」
と、僕に渡した。「ありがとう!!」と言うと、僕は、まださっきの所でじっとしているカニにそっと手を伸ばした。
すると、驚いたことに彼は手のひらに乗ってきた。
僕と彼は、うなずき合うと、もらったトレイの上に彼を乗せた。

まあ、50年近くも生きていると、いろんな事があるもんだ。
とにかく、僕は買物を済ませ、彼と一緒に家に帰ることにした。

    それでは、また。