僕は、薄目を開けると左、右そして下を見た。
その時だった。頭上ですごい音がした。
「ダダッタタン、ダダッタタン。」
僕は思わず目を見開き上を向いた。
「あっ、武蔵野線だ!!」
彼はとっくに目を開けて、鉄橋の下から電車を指差していた。
あれほど、いいって言うまで目を開けちゃいけないと言ったのに・・・。
僕はというと、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
彼はというと、早速ドアから出て江戸川の土手を登っていった。
そして上から、「パパ早く早く、信号が青だよ。」
鉄橋の下では、車で来ているたふた組の家族が、バーベキューを楽しんでいる。
武蔵野線と並行して走る県道にも、ひっきりなしに車が走っている。
「やれやれ。」僕は、村上春樹の小説に良く出てきたセリフをつぶやいてみた。
そうすればすべての事が、しっくりくる様な気がしたのだ。
僕もドアを出た。そして振り返ると、武蔵野線の鉄橋の橋げたにあったドアは、
もちろん、跡形もなく消えていた。
僕も、土手を登っていった。
そして彼を見ると、こっちを向いて、「早くこっちへ来て!!」と言うように、手を、ヒラヒラさせている。
そしてその横には、ポンプ室の近くに置いてきた、そう、あのホームレス仕様の自転車が・・。
でももう僕は驚かなかった。考えてみれば、ここに自転車があっても何の不思議もない。
むしろ、当然なくらいだ。
彼にしてみても、今までの事は、何てことないのかもしれない。
「今行くよー、あっ、来た来た。」
僕は彼の所に走って行くと、肩車をした。
そして、「府中本町」行きの電車に手を振ると、運転士さんが「プア~ン」と警笛を鳴らしてくれた。
もちろん、白い手袋で手も振ってくれた。
僕らも、ちぎれんばかりに手を振った。
何本か電車を見て、僕らは帰ることにした。
江戸川の土手を、今度は流山北高のさきまで、そしてビバの横を通って江戸川台へ・・・・。
途中で、例のポンプ室に寄って見たけど、僕たちの入っていったドアは・・・もちろん無かった。
とにかくお腹が空いた。彼は相変わらず、自転車の後ろではしゃいでいる。
「ねえ、パパ森には入らなかったけど、おもしろかったね、冒険。」
「そうだな、また来ような。」
「おもしろかった。」か・・・確かにこの歳であんな冒険が出来るなんて.
でも、あのポンプ室に入る時のワクワク感は、もう無かった。
それよりも「あんな事が現実なはずが無い。」と言う気持の方が強かった。
でも彼は違った。全てを受け入れ信じていた。
何が本当で、何がウソ、何てことは関係なく体験をすべて受け入れていた。
僕ら大人が、いつの間にか忘れてしまった事かもしれない。
さすがに今日は、すぐ寝るだろう。
今度は夏休みだな。何処に行こうか?
でも、もうドアは・・・開けないつもりだ。
完
その時だった。頭上ですごい音がした。
「ダダッタタン、ダダッタタン。」
僕は思わず目を見開き上を向いた。
「あっ、武蔵野線だ!!」
彼はとっくに目を開けて、鉄橋の下から電車を指差していた。
あれほど、いいって言うまで目を開けちゃいけないと言ったのに・・・。
僕はというと、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
彼はというと、早速ドアから出て江戸川の土手を登っていった。
そして上から、「パパ早く早く、信号が青だよ。」
鉄橋の下では、車で来ているたふた組の家族が、バーベキューを楽しんでいる。
武蔵野線と並行して走る県道にも、ひっきりなしに車が走っている。
「やれやれ。」僕は、村上春樹の小説に良く出てきたセリフをつぶやいてみた。
そうすればすべての事が、しっくりくる様な気がしたのだ。
僕もドアを出た。そして振り返ると、武蔵野線の鉄橋の橋げたにあったドアは、
もちろん、跡形もなく消えていた。
僕も、土手を登っていった。
そして彼を見ると、こっちを向いて、「早くこっちへ来て!!」と言うように、手を、ヒラヒラさせている。
そしてその横には、ポンプ室の近くに置いてきた、そう、あのホームレス仕様の自転車が・・。
でももう僕は驚かなかった。考えてみれば、ここに自転車があっても何の不思議もない。
むしろ、当然なくらいだ。
彼にしてみても、今までの事は、何てことないのかもしれない。
「今行くよー、あっ、来た来た。」
僕は彼の所に走って行くと、肩車をした。
そして、「府中本町」行きの電車に手を振ると、運転士さんが「プア~ン」と警笛を鳴らしてくれた。
もちろん、白い手袋で手も振ってくれた。
僕らも、ちぎれんばかりに手を振った。
何本か電車を見て、僕らは帰ることにした。
江戸川の土手を、今度は流山北高のさきまで、そしてビバの横を通って江戸川台へ・・・・。
途中で、例のポンプ室に寄って見たけど、僕たちの入っていったドアは・・・もちろん無かった。
とにかくお腹が空いた。彼は相変わらず、自転車の後ろではしゃいでいる。
「ねえ、パパ森には入らなかったけど、おもしろかったね、冒険。」
「そうだな、また来ような。」
「おもしろかった。」か・・・確かにこの歳であんな冒険が出来るなんて.
でも、あのポンプ室に入る時のワクワク感は、もう無かった。
それよりも「あんな事が現実なはずが無い。」と言う気持の方が強かった。
でも彼は違った。全てを受け入れ信じていた。
何が本当で、何がウソ、何てことは関係なく体験をすべて受け入れていた。
僕ら大人が、いつの間にか忘れてしまった事かもしれない。
さすがに今日は、すぐ寝るだろう。
今度は夏休みだな。何処に行こうか?
でも、もうドアは・・・開けないつもりだ。
完