語る、シェフ

小さなレストランのオーナーが、日々の出来事を語ります。

  冒険11 最終回 

2008-07-07 01:46:14 | 冒険
僕は、薄目を開けると左、右そして下を見た。
その時だった。頭上ですごい音がした。
「ダダッタタン、ダダッタタン。」
僕は思わず目を見開き上を向いた。
「あっ、武蔵野線だ!!」
彼はとっくに目を開けて、鉄橋の下から電車を指差していた。
あれほど、いいって言うまで目を開けちゃいけないと言ったのに・・・。



      



僕はというと、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
彼はというと、早速ドアから出て江戸川の土手を登っていった。
そして上から、「パパ早く早く、信号が青だよ。」



鉄橋の下では、車で来ているたふた組の家族が、バーベキューを楽しんでいる。
武蔵野線と並行して走る県道にも、ひっきりなしに車が走っている。
「やれやれ。」僕は、村上春樹の小説に良く出てきたセリフをつぶやいてみた。
そうすればすべての事が、しっくりくる様な気がしたのだ。
僕もドアを出た。そして振り返ると、武蔵野線の鉄橋の橋げたにあったドアは、
もちろん、跡形もなく消えていた。



僕も、土手を登っていった。
そして彼を見ると、こっちを向いて、「早くこっちへ来て!!」と言うように、手を、ヒラヒラさせている。
そしてその横には、ポンプ室の近くに置いてきた、そう、あのホームレス仕様の自転車が・・。
でももう僕は驚かなかった。考えてみれば、ここに自転車があっても何の不思議もない。
むしろ、当然なくらいだ。
彼にしてみても、今までの事は、何てことないのかもしれない。



「今行くよー、あっ、来た来た。」
僕は彼の所に走って行くと、肩車をした。
そして、「府中本町」行きの電車に手を振ると、運転士さんが「プア~ン」と警笛を鳴らしてくれた。
もちろん、白い手袋で手も振ってくれた。
僕らも、ちぎれんばかりに手を振った。



    



何本か電車を見て、僕らは帰ることにした。
江戸川の土手を、今度は流山北高のさきまで、そしてビバの横を通って江戸川台へ・・・・。
途中で、例のポンプ室に寄って見たけど、僕たちの入っていったドアは・・・もちろん無かった。



とにかくお腹が空いた。彼は相変わらず、自転車の後ろではしゃいでいる。
「ねえ、パパ森には入らなかったけど、おもしろかったね、冒険。」
「そうだな、また来ような。」
「おもしろかった。」か・・・確かにこの歳であんな冒険が出来るなんて.
でも、あのポンプ室に入る時のワクワク感は、もう無かった。
それよりも「あんな事が現実なはずが無い。」と言う気持の方が強かった。

でも彼は違った。全てを受け入れ信じていた。
何が本当で、何がウソ、何てことは関係なく体験をすべて受け入れていた。
僕ら大人が、いつの間にか忘れてしまった事かもしれない。

さすがに今日は、すぐ寝るだろう。
今度は夏休みだな。何処に行こうか?

でも、もうドアは・・・開けないつもりだ。



            

         






コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

  冒険9

2008-07-03 02:52:51 | 冒険
      あるべき時に、ないものは・・・?



「パパ疲れたね。」

「もう少し頑張ろう。」

「しんくんちょっとお休みしたいんだよね。」

考えてみれば、5歳の彼には少しハードな冒険だ。かえってよく頑張っている方だ。

考えてみれば、僕だって疲れた。いったい家に帰れるんだろうか?

こんな気持になるのは、小学校6年生の時、館山の岩場の海岸で、

兄弟3人で迷子になった時以来だ。

それに、いったい今何時なんだ?あんまり遅くなると、妻に怒られる。

こんなに汚してしまったので、「風呂場直行」は、まぬがれまい。

あー、それはそうと、本当に帰れるのだろうか?

「そうだな、少し休むか?なんかリュックに食べる物はなかったかな?」

僕は腰を下ろし、リュックをひざの上にのせると中を調べた。

あーだめだ。やっぱりお茶しか入ってない。仕方がないので2人でお茶を飲み、2人で並んで壁にもたれた。

「静かだねー。」思わず「あーっ!!」と叫びたくなる。

「しんくんお腹空いちゃったなー」

「パパだって空いてるさ。」

「ママご飯作ってるかな?」

「そりゃ作ってくれてるさ。早く帰って一緒にご飯食べよう。」

「でもさあ、どうやって帰るの?パパ道知ってる?」

「そ、そりゃあ知ってるさ。パパが道をいっぱい知っているのを、しんくんだって知ってるだろう?」

さ~って、どうしたものか。



    



僕はリュックを背負い、彼をひざの上に乗せた。

そして、「ほ~ら、くすぐられると元気が出るぞ!!」と、彼をくすぐった。

かれは、妻と同じでくすぐられるのが非常に嫌いだ。

まあ、「好きな人」っていうのもあまりいないと思けど・・・。

子供をくすぐるっていうのも、まあ定番といえば定番の遊び。

くすぐり続けると、「まいった、あはは、まいった!!」でだいたい終わり。

僕も小さい時良くやられたな、いろんな大人に・・・。



  



ところが、彼が嫌がって思いっきりのけぞった時だった。

頭が僕のあごに当たりそうになったので、とっさに、よけようとして僕ものけぞり、後ろの壁に背中ごとぶつかった。

その時だった。何の変哲もない壁だったのに、

ぶつかった途端後ろに倒れた。というより「開いた」と言ったほうが正確かもしれない。

僕らは、何の選択権もないまま、足を上に向けてすべりだいをすべる様に、お腹に彼を乗せたまま

どんどん滑り落ちていった。

僕らは無言のままだった。あまりの驚きで声がでないっていうのは、本当にあると、その時知った。

ただ心の中で、「インディジョーンズの冒険なら、絶対1回は、出てくるシーンだ。」と、

ぼんやり思いながらも、どんどん滑り落ちていった。


コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

  冒険8  (その3)  パッカーン

2008-06-25 00:57:24 | 冒険
今日は、爽やかでいい日でしたね。

僕は、平熱が高いせいで(36度5分)暑さには強いが、クーラーには弱い。

平熱が高いのは、長年やっている仕事のせいだと思う。

夏になると、40度近い室温の中での仕事なので、、そうなったんだと思う。

だから夏は好きです。(だから、って言うのも変な話ですね。笑)



   



    奇跡のパッカーン!



そろそろ次の攻撃が来る頃だ。

僕は立ち上がると、さっきの棒を再び正眼に構え、目を閉じた。

もちろん彼は、言われなくても、今度は僕の右足にしっかりとしがみついている。

敵の気配がものすごいスピードで近づいてくる。

僕は左足を前に出すと、今度は構えを上段に変えた。

「今だーっ」僕は気合と共に棒を振り下ろした。

かすかな手ごたえと共に、右肩に軽い衝撃を受け、右によろめいた。



僕は、棒を左手に持ち、右手で彼を抱き上げると、壁づたいに走った。

地面が平らな事と、棒を持ったほうの手で壁を感じながら走れるので、結構早く走る事ができた。

次の瞬間、僕らは何かにつまづき倒れそうになるのを、ようやく持ちこたえると、振り返り、

しゃがみ込んでみると、なんと、僕らのリュックらしい。

中に手を入れてみると、バットとボール、ペットボトルなどが入っている。ラッキーだ!!



         



僕はリュックからバットを取り出すと、

「しんくん、ホラこれもってろ。」と、バットを渡した。

あまり意味はないかもしれないが、奇跡は起こるかもしれない。

「よ~し、しんくんこれでヤミクロをやっつけてやる!!」

と言って、バットをぶんぶん振りだした。

しまった、油断していた。彼はバットを振るために僕から少し離れていた。

「バットを振るときは人から離れて振るんだよ。当たったら危ないからね。」と、いつも、言い聞かせている。

強烈な気配と共に、黒い影が彼に近づいて行った。

僕は慌ててリュックをまさぐると、ボールをつかみ出しヤミクロの気配に向かって投げつけた。



           



「パッカーン」とプラスチックのバットとボールが当たる時のちょっと間抜けな音と同時に、

何とも邪悪で恐ろしい叫び声が、この広間中に響き、こだました。

すぐ側の彼の所に走り寄ると、きつく抱きしめた。

その声が小さくなり、やがて消えると、広間はまた静寂に包まれた。

僕らは、リュックからペットボトルを一本取り出すと(彼のは、なくしてしまった)蓋をはずし

まず彼に渡した。その代わり彼からバットを渡された。そして、飲み終わると僕にペットボトルを渡しながら、

「ヤミクロやっつけた?」と、彼が聞いた。

僕はひと口お茶を飲むと、

「そうだ、2人で力を合わせてやっつけたんだよ。」と、言った。

「もう来ないかな?」

ぼくは、ペットボトルの蓋を閉めながら、

「いや、わからない。とにかく長居は無用だ。早く脱出口を見つけよう。」

そう言うと、ペットボトルをリュックにしまうと、それを背負い、

左手で彼と手をつなぎ、右手に例の棒を持ち、僕らは、壁づたいに歩き出した。




コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

  冒険8 (その2)  パッコーン  

2008-06-16 23:55:28 | 冒険






今日は、メトロに買い出しに行った。何もかもが値上がりしてから、食材を買うのが計画的になったし

使う時もロスを無くそうと、すごく努力するようになった。

前から駅前の銀行や近場の買物などは、環境を考え自転車にしていたが、ガソリンが高くなったせいで

ますます気をつけるようになった。値上がりするのも、悪い事ばかりではないかもしれない。

さて、そんな訳で、冒険だが・・・






   
目鯛  煮てよし焼いてよし値段よしで、僕はお薦めです。



再び背中に衝撃を受けると僕は前に転がった。

「あ、パパ!」彼の叫び声。

その時、右手に何か触れた。僕はそれを手で確かめるように触り、掴んだ。

どうやら木で出来た棒らしい。まるで、映画の都合のいいワンシーンのようだ。

ちょうど剣道の竹刀の柄(つか)ぐらいの太さで持ちやすい。

僕は「しんくん!!」と呼び、走り寄ってきた彼に

「いいか、しっかりパパの足を掴んでいるんだ。決して離すなよ。」



僕は小学校3年生から高校卒業まで剣道をしていた。一応、三段の免状を持っている。

だからといってもちろん、今はその実力はない。

でも、間合いとか、打撃のコツみたいなのは、今でも、分かる。



僕は思った。暗闇の中で、目で見ようとするから見えないのだ。そう、心で見るのだ。

相手は幸いな事に、一人らしい。一人なら何とかなる。

僕は立ち上がり、木の棒を正眼に構えると、目を閉じた。

左足には彼がしっかりつかまっている。それをかすかに感じながら、僕は心を研ぎ澄ませていった。



どれ位そうしていただろう。僕には見えた。ヤミクロがみたび攻撃を仕掛けてくるのが・・・。

僕は、間合いをはかった。

「今だーっ!!」

僕はすばやく振りかぶると、渾身の気合を込め、棒を振り下ろした。



    僕の作った、だんご剣と刀赤鬼と共に



「ダメだ・・・はずした。」

「しんくん、逃げるぞ!!」

僕は足元にいる彼を抱き上げると、とりあえず走った。

もちろん、足元がはっきり見えないので、本当に「とりあえず走った」程度だ。

僕らは壁まで行き着くと、壁を背に息を殺し、しゃがみこんだ。

僕は、小さい声で

「しんくん、怖いか?恐くても頑張るんだ。いつもウチで怪獣をやっつけるみたいに

2人で力を合わせて、やっつけよう。」

しんくんも小さい声で

「よし、やっつけよう。」というと僕の手を握り締めた。



僕らは、壁を背にして左に少しずつ移動して行った。

とにかく目の前の敵を倒す事に集中するんだ。

相手は僕らが見えているはず。ただ、敵も僕らの事を警戒していることは、確かだ。

なぜなら、一気に攻めてこない。

それは、僕らにとってプラス材料だ。ただ、仲間が来るまでに決着をつけなければならない。

もちろん、逃げるのも一つの方法だが、それを選択すると気持も逃げてしまう。

とにかく、ここは攻めるんだ。





さて、果たして2人は見事ヤミクロを倒し、脱出する事が出来るのだろうか??

次回へ続く。


コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

  冒険8 (その1)  ポッカ~ン

2008-06-16 02:47:37 | 冒険
どれくらいたっただろう?

僕らは、地下広間に出た。なぜ広間か分かったかと言うと、

そこだけ薄明るかったからだ。

どこから光が入ってくるのか?明るいと言っても寝室ぐらい、

暗さになれると、何となく、どこに何があるか分かる程度。

もちろん色など識別できない。

今までの真っ暗闇に比べれば、薄明るいってことだ。



僕らは、しばらく立ち止まって中を見回していたけど

「よし入ってみよう」と僕が言うと、

「しんくん、待ってる。」と、彼。

「ひとりで、ここに・・・?」と聞くと、

「行く。」と、彼。そして僕らは歩き出した。








地下広間の中央には、結構大きなイスとテーブルがあった。

さわってみると、どうやら、石でできているらしい。机の上は、ちゃんと平らになっていて、意外にきれいだ。

僕は、彼の手を離し、背負っていたリュックを机の上に下ろした。

そして、僕らはイスに腰掛け、周りを見回した。

暗闇の濃淡の加減で、4号公園の半分ぐらいの広さじゃあないかと推察した。

「パパ、ここ何処?」と、彼。

「地下広場だよ。お茶でも飲もうか?」って、僕だって、ここが何処かはわからない。

「あー、しんくん、のどからからだよー。」

そうだろう。ポンプ室の扉を入ってからここまで、一滴の水も飲んでない。

それほど夢中だった。

彼には、お茶のペットボトルを渡し、僕は、少し考えた末、保温ポットの珈琲にした。

いつもはカップも持参するのだが、今日に限って忘れてしまった。

何処にでも、持っていくので妻にも笑われる。

でも今日はない。仕方がないので、ポットのふたで飲む。やっぱりイマイチだ。



「あっ、なんか動いた!!」と、彼。

「えっ、何処?」と、驚く僕。

僕らは、飲み物を持ったまま、暗闇に目を凝らした。




    



その時だった。

目の前のリュックが消えた。そして何とも不気味で、不吉なうめき声。

たぶん「ヤミクロ」だろう。

僕は彼の手をつかみ、引き寄せ、しっかりと抱きしめた。

彼は、ペットボトルをつかんだまま僕にしがみついた。

僕は彼にささやいた、「大丈夫、パパがついてる。」

僕は、五感を研ぎ澄ますと、目だけを動かし、注意深くあたりを見回した。

しかし何も見えなかった。

次の瞬間、体を何かに強く押され、僕らはイスから転げ落ちた。

何がどうなったかは、わからないが、僕は彼を抱いたまま、落ちた勢いで地面を2~3回転した。

そしてすぐ起き上がると彼を隣にしゃがませ、「大丈夫か?」と声をかけると

左ひざを地面につき、右ひざを立てて、次の敵からの攻撃に備えた。





   冒険8  (その2)につづく



コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

  冒険7 しばしの安らぎ

2008-06-10 00:13:52 | 冒険
最後の一段を下りると、確かにそこは地下ホームだった。
えーっと、駅名は・・・どこにもない。
僕らはホームに歩いて行った。
「単線だね。」彼が言った。
天井はけっこう高い。ホームの端まで行って、左右を見ると線路はトンネルの闇に消えている。
トンネルの天井は銀座線の様に低い。ホームから下をのぞくと、確かに、線路の脇に電気を取るためのレールが一本ある。
まったく、変なところが現実的だ。
「あっ、電車が来た。パパ、黄色い線の後ろに下がって。」
と彼は、手をヒラヒラさせた。
そして僕の横に来ると、手をつないだ。特にアナウンスは無いようだ。

本当に運転できるのだろうか?そうだとしたら、楽しみだ。僕は少しワクワクした。
まもなく、電車がホームに滑り込んできた。






まいった。「しゅっぱつしんこう」の電車と全く同じだ。

でも、電車がとまってドアが開いても、運転士さんは、どこからも現れない。
どうやらら運転は無理みたいだ。僕は、けっこうがっかりした。
「わー!しゅっぱつしんこうだ!!パパ、乗るよ!早く」
「えっ?乗るのか??」
「だって、電車だよ!発車しちゃうよ!!」
僕は彼に引っ張られるままに電車に乗った。
まったく、恐くはないのか?
まあ、古今東西、冒険とは引き返す事は許されないのだ。
前に進むしかない。






車内は絵本と全く同じだった。もちろん、動物は乗っていなかったけれど。
でも、一体これはどういうことなんだ。とても現実とは思えない。
息子はとっくにクツを脱ぎ、窓の外を見ている。
何も見えないはずだが・・・なんか楽しそうだ。
僕もリュックを下ろし、試しにクツを脱いで座席に上り、窓の外を見てみたけれど
暗闇以外何も見えない。横を見ると、彼は相変わらず楽しそうに、外?を見ている。

まあ、大人の僕には何も見えなくて、子供の彼には何かが見えたとしても、別にもう驚く事も無い。



その時、電車は減速を始めた。駅に停まるのか?
僕らは顔を見合わせ、急いでクツを履いた。

そしてリュックを背負うと、さらに減速した車内をゆっくりとドアの方へ向かった。
電車が停まり、ドアが開き、僕らはホームに降り立った。
そして2人で、いつものように電車を見送った。

車掌さんはにこやかに手を振ってくれた。

そうか、車掌さんがいたんだ。僕らは電車の赤いランプが見えなくなるまで見送った。



    



さて、これからどうする?僕らが後ろを振り返ると、乗った駅と同じように階段が、ひとつあった。
予想通りだ。
選択の余地はなさそうだ。
今度は上る。







一瞬、目の前を、黒い影がよぎったような気がした。
「しんくん、今何か通った?」
「ううん、何も通んなかったよ」
そうかな・・・確かに階段の前を何かが通ったような・・・
僕らはポンプ室から階段を下り始めた時と同じように、しっかりと手をつなぎ、

彼と目を合わせると、少し大人っぽくなったような気がした。

「よし、行くぞ。」

僕らは、階段を上り始めた。
上るにしたがって、だんだんと駅の明かりは届かなくなり、周りは次第に暗くなっていった。
でも、下りるより上る方が楽だ。
「あっ!」
僕の右肩をかすめるように何か通り過ぎていった。う~ん・・・やな予感がする。
そして、僕はいい予感より悪い予感の方が、当たる確率が高い。
僕は、リュックを背負い左手で彼の手をしっかりと握り、彼と2人、「足さぐり」で暗闇の中を
どこまで続くかわからない階段を上り続けた。イヤな予感を抱きながら。

   今夜は、妻にパチパチしてもらって、僕はななめ後ろから、語っただけでした。楽でした。
      さて、また次回の冒険で、会いましょう。

 
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

  冒険6  闇の中へ

2008-06-09 01:59:22 | 冒険
   2~3分も下っただろうか?

   階段が終わり、平らな所へ出た。

   僕は手探りで、前や、横へ手を伸ばして、少しずつ前進した。

   そして、前も右側も壁である事がわかった。

   ただその壁の表面は湿っぽく、僕をいやぁ~な気分にさせた。



   彼は、相変わらずしっかりと手を握りながら、

   「まだ下りる?」と聞いた。

   「左に、まだ下りる階段が続いてるはずだ。もちろん行くぞ。」

   僕は右手で壁を確かめながら、左手で彼の手を握り、左へと向きを変えた。

   そしてまた、例によって「足さぐり」しながら再び階段を下りはじめた。



   僕は突然「ワァー!!」と大声を出した。

   「どうしたの?」と聞く彼。再び、

   「ワァー!!」と叫ぶ僕。

   「なに?」

   「ほぅ~ら、トンネルの中にこだまして面白いだろう?しんくんもやってみろよ。」

   なんか、単調だったので、こんな事でもすればおもしろいかな?なんて思っただけなんだが・・・。

   「そんな事をして、もし、ヤミクロに聞こえたらどうするの?やられちゃうよ!」

   確かにその通りだ。もし、ヤミクロに聞かれたらアウトだ。

   彼には家で「暗いところには、ヤミクロがいて、人を襲うんだ。」と言ってある。

   でも、ヤミクロは村上春樹の小説(世界の終わりとハードボイルドワンダーランド)の中に出てくる空想の生き物だ。

   「そうだね、ゴメン。これから気をつけるよ。」僕は、彼に謝った。

       

   

        ヤミクロ?            ヤミクロの儀式?



   しかし、もし、仮に「ヤミクロ」がいたとしたら・・・もう手遅れだ。

   彼らは決して、僕らを逃(のが)さない。



<RP>   そんな事を思いながらも、僕らは階段を下り続けた。</RP>

<RP>   すると突然彼が、</RP>

   <RP>「あっ、でんきだ!!」と言って、たぶん、下を指差した。</RP>

   <RP>僕は顔を上げると、目を細めた。(もともと細いが・・・)う~んたしかに明かりが見える。</RP>

   <RP>「よし、とにかくあそこまで行こう。」</RP>



   <RP>それか、らどれくらいたっただろう。</RP>

<RP>   電車のホームらしきものが見えてきた。</RP>

<RP>   遠くて良くわからないけれど、それは古い地下鉄のホームのように見えた。</RP>

<RP>   もう少しだ。</RP>



    

<RP>       </RP>



<RP>   急に明るくなったら、目をやられるかも・・・と思っていたのが、</RP>

<RP>   だんだんと明るくなってきたおかげで、光に目をやられる事も無かった。</RP>

<RP>   僕らは、どんどん下り、ホームに近づくころには足元も明るくなり、動作も軽快になっていった。</RP>





<RP>        たぶん、明日へ続く</RP>


コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

冒険5-未知なる世界へ

2008-06-05 01:41:56 | 冒険
   すぐには江戸川の土手には登らずに、手前を土手沿いに東葛病院の横まで歩き、

   そこにある水門みたいな建物の横を回って土手に登ろうとした。



   するとその水門らしき建物の横に、

   「ポンプ室」と書かれたプレートののついたがあった。

   その扉のすみの方は、ペンキがはげ、少し錆びていた。

   ただ「ポンプ室」と書かれたプレートは妙に新しく、

   まるで、大人が幼稚園の制服を着ているような、違和感があった。



   そのが、少し、開いている。

   僕は彼に、

   「ちょっと、偵察して来るんだ。」と言うと、

   「よし、わかった」と、まじめな顔をして言うと、駆けて行った。

   彼は、顔が入るくらいを開け、そして覗きこんだ。

   「パパ、電車の音が聞こえる。」振り返って言う

   「そんな訳無いだろう!!今行く。」

   まったくいくら電車好きとはいえ、そんなはずは無い。僕は3mぐらい歩き、の前に立つと、

   彼の頭の上から、のぞき込んだ。



   もちろん彼の言うとおり、電車の音がした。

   そしてだんだんと遠ざかり、やがて消えた。

   そしてすぐに、音の消えたほうから、また電車の音が近づいてきた。

   「ね、するでしょう?」と、彼は得意げに言った。

   「うん、する。」と僕は答えた。



   僕らの覗いているの中は、真っ暗だった。  

   は少し開いているし、中が見えないはずは無いのに、本当に真っ暗だった。

   唯一、足元に階段があるのがわかる。

   もちろん下に向かってだ。

   ちょっと状況は違うけど、これじゃあ、家にある「しゅっぱつしんこう!」っていう絵本と同じじゃないか。

   でも、もしそうなら階段を下っていけば、絵本と同じで、運転士になれるのだろうか?

   悪くない!

   僕だって、小学生の頃は「電車の運転士」か「プロ野球の選手」になりたかったんだ。



   僕は急いで自転車まで戻ると、リュックを自転車からはずし、

   中にお茶入りのペットボトルが入っている事を確かめ、

   役に立つかどうかわからなかったが、自転車のかごから、プラスチック製のバットとボールを入れた。

   ちょと悩んだけど、網も持っていくことにした。

   それから自転車を、目立たない所に移動し、鍵をかけ、ズボンのポケットに入れた。

   これでよし。



   「じゃ、行くぞ。冒険だ。」

   「どこに行くの?」

   「あのの中だよ、電車の音のする・・・。」

   「しんくん、行かない。」と、不安そうな顔。

   「じゃあ、ここでひとりで待っててくれ。」と言うと、

   彼はあっさりと、でも、仕方なさそうに、

   「行く。」と、言った。



   僕らは、をそーっと開けると、中に入っていった。

   何で冒険に懐中電灯を持ってこなかったのか?

   しかし、もちろん後悔とはそういうものだ。

   いっそうの事、ブログの「息子と冒険!?」の持ち物の欄を書き変えてしまおうかと思ったけど、

   それは、反則なのでやめた。



   もちろん、どんな小説でも、映画でもお決まりの通り、僕らが中に入ったとたん、

   は、「バターン」と閉まり、予想通り、扉を開けようとしてもびくともしなかった。

   驚いたことに、僕はとても冷静で、わくわくしていた。

   そして彼も、なぜか泣いていない。

   そのかわり、彼にとっては大きな僕の手を、痛いほど握り締めていた。



   僕らは意を決し、真っ暗闇の中を、しっかりと手をつなぎ一歩一歩「足さぐり?」で階段を降りて行った。

   彼がどんな顔をしているかは、見えなかったが、笑っていない事だけは確かだろう。

   「しんくん、大丈夫か?」

   「うん、大丈夫。」

   声を掛け合いながら、ぼくらは、下へ下へ降りていった。



         完全に、冒険っぽくなってきたぞ。   次回へ続く








コメント (1)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

   冒険4      

2008-06-02 01:45:35 | 冒険
   まず、このブログにコメントをくださった方々、ありがとうございます。

   コツコツは、大好きなのでホームページ共々、少しずつ頑張っていきますので、

   これからもよろしくお願いします。



   僕らは、「お魚ホイホイ」

   を仕掛けると、近くの探索に出かけた。

   両手を広げバランスをとりながら(雨が続いたのでしたが柔らかい)あぜ道を進んだ。

   まだ植えたばかりの稲を見たり(稲の苗かな?)

   タニシがゆっくり、本当にゆっくりと田んぼの底に絵を描いていく様子を、

   ふたりでしゃがんで、じっと観察したりした。

  

   風は相変わらず、けっこう強くて、冷たい。 

   僕はもう一枚上に羽織ってこなかった事を後悔した。

   息子に「寒くない?」と聞くと、「寒くない」との返事。

   でもいつも妻がやってるように、ほっぺたを触ってみるとけっこう冷たい。



   僕らはリュックの置いてあるところまで戻ると、サンドウィッチが包んであった布を

   大きい方を彼に、小さい方は自分に・・・

   首に巻いてスカーフにした。う~ん、暖かい。まあ、僕はちょっと小さいけど・・・。

  

   さて、武蔵野線の鉄橋まで行く予定なので、そろそろ出発しなければ。

   僕らは、釣竿を上げてみたけれど、ミミズが付いたままで何の変化もない。

   竿を持ってしばらく「つり」をしてみたけれど、やっぱり「浮き」はピクリともうごかな。

   やっぱりえさが悪いのか?

   まあ、今日は形だけと言う事で、かんべんしてもらおう。

   今度は、ちゃんと釣りだけのために来よう。

  

   さて、「お魚ホイホイ」も上げてみよう。

   「そーっとひもを引いてあげてごらん」と息子に言うと、

   小さい声で「そーっと、そーっと」と言いながら、引き上げ始めた。

   それなりに、一応ドキドキしていたんだが・・・。

   入っているのは、金魚のエサと石だけだった。

   家の池でためした時は、飼っている金魚が全部かかったのに・・・。トホホ

   でも僕らは特にがっかりする事もなく、次の目的地に向かった。           

   冒険において、いちいちがっかりしたり、後悔していたら、先に進めないのだ。

   大切なのは、教訓として自分が学び、次に生かすことだ。



   僕たちふたりは、次の目的地に向かって、ホームレス仕様の自転車を押しながら、

   200m先に見える江戸川の土手に向かって歩いて行った。

   さて、江戸川の土手には、どんな危険が待ち受けているのか・・・?



                      また次回




コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

   冒険3

2008-05-28 03:10:50 | 冒険
  彼に金魚のえさを、リュックから取ってこさせる。
  金魚のえさが、果たしてこの川の魚に有効かどうかは、まったくわからない。
  でも彼は鼻うたまじりに、とても嬉しそうに、お魚ホイホイにえさを入れている。
  「あ~そんなに入れるなよー」
  彼は驚いて手を止め、僕を見た。
  「まあ、入れちゃったものはしょうがないな~、出せないもんな」

  「出せないよね~」と嬉しそうに彼もうなずく。

  

  

  

  そう、僕にもこんな年だった時があったんだな、すべてが新鮮で                    、  

  何もかもが、輝いていて、知っている世界はすごーく狭いのに、感じている世界はすごーく広い。     
  もちろん、「そうだった」って、今だからわかる。
  ザリガニ取りや、虫取り、魚釣り・・・
  父が、まだそんなに偉くなくて、貧乏なくらいだった頃、
  近所の子供たちと一緒に、よく連れて行ってもらったような気がする。
  もしかしたら、「よく」じゃあ、なかったのかもしれないけど・・・。

  彼にも、今しか体験できない事を、いや、今しか感じられない事を、させてあげたい。





  僕らは、橋のたもとの川に、ひもを付けたお魚ホイホイを投げ入れた。
  ダメだ沈まない。
  「どうしたらいい?」彼に聞く。
  「石を入れれば?」なるほどいい考えだ。
  「じゃあ、石を探してきてくれ。」と彼に言うと、
  「どこにあるの?」ほ~らきた。
  「自分で考えて、探してみろ!石はどこにあるんだ?」
  彼はさっきミミズを掘ったシャベルで、土を掘り出した。
  そうすると、OK!と人差し指と、親指で作る、丸ぐらいの石が何個か出てきた。
  僕らは、その石をホイホイに入れ、再び川に投げ入れた。
  今度は沈んだ。僕らはそれを確かめると、いつものように親指を立てて、
  僕は軽くウインクしながら、彼は軽く両目をつぶりながら・・・顔の前に突き出した。

                                        次回へ続く
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする