語る、シェフ

小さなレストランのオーナーが、日々の出来事を語ります。

  スゥイーとポテトのお話4

2008-11-02 01:30:47 | スウィートポテトのお話
今夜は、すごく忙しかった。
一組断ってしまった。ごめんなさい。

僕と目が合うとニッコリと微笑んだ。僕は不覚にも、自分の顔が赤くなっていくのを感じた。


そんな訳で、僕はその洋菓子店に入る事になった。

店内に入ると外からも見えたように、大きなショーケースが置いてある。ほとんど店いっぱいだ
「いらっしゃいませ。」と、さっきの女の子がニコッと微笑みながら言った。
今度は顔は赤くならなかった。心構えさえあれば、なんとかなるものだ。
ぼくは、間抜けにも「ケーキください。」と言ってしまった。でも彼女は、そんなことには動じることなく
「もちろん、どれでもお好きなものをお選び下さい。」と、やさしく言った。
さて、どれにしようか?こんな事になるなんて思ってもいなかったので、あまり持ち合わせがない。
あ~さっき彼にあげた100円、とっておけばよかった。

そんなことを思い、腰をかがめショーケースに顔を近づけながら、左から右へケーキに目をやっていった。
すると最後から2列目に、なんとスゥイートポテトがあった。ひとつ200円だ。僕はおもわず指差しながら

「これだ、これにしよう。」と、思わず声に出してつぶやくと、彼女は、
「はい、おいくつですか?」と、微笑みながら言った。
「あ~ひとつ、申し訳ないけど・・1個でもいいですか?」と、すまなそうに言うと、
「もちろんです。」と、言って彼女はトングでスゥイートポテトをそーっとやさしくショーケースから取り出した。
「ありがとうございました。」と、言う彼女の声とともに外に出ると、

なぜか、そう、うまくは説明できないけど、店に入る前と空気が変わっているような気がした。



僕は、少し歩くと立ち止まり、たった1個だというのに、それも200円だというのに、
りっぱな箱に入れられたスウィートポテとを、そっと開けてみた。
そしてあの女の子がやったように、そっとやさしくスゥイートポテトをつかむと、
顔の前に持ってきて少し眺めた。だいたい二口ぐらいでいけそうな大きさだと思い、「あぐっ」とパクついた。

「カチッ」
何かが僕の歯に当たった。思わず、半分を口から引き抜いてみると、そこには銀色の百円玉が半分顔をのぞかせていた。
僕は、驚いて左手に持っていたケーキの箱を落としてしまった。
そして、口の中のスゥイートポテトをもぐもぐと食べながら、
その百円玉をスウィートポテトから抜き取ると、まじまじと眺めた。

そして、「あっ」と、いう声とともに後ろを振り返った・・・

もちろん、今出てきたばかりの洋菓子店は、跡形もなく消えていて、
そこには、もう傾きかけた秋の陽が、林に見え隠れしながらキラキラと輝いているだけだった。

                                おわり

  もう11月ですね。あ~クリスマスメニュー!!がんばるぞ!!

  スゥイートポテトのお話3

2008-10-31 23:51:41 | スウィートポテトのお話
天気予報では、暖かくなるような事を言っていたのに・・・。
そう言われると、昨日と同じでも、より寒く感じませんか?


僕は、腕組みをすると軽くため息をつき、一気に言った
「それは傾向なんだ!!時代の傾向なんだ。そして何者もその傾向には逆らえない。」
彼は、やっぱりそうか、という顔をしてうつむいた。僕はなんだかかわいそうになって、
「でも、無くなる事は無いさ。誰だってスゥイートポテトを食べたくなる時はあるし、
実際にとても美味しい。それに減少に関する傾向は、増加する事もありうる傾向だ。」と、言った。
僕は、自分が言っている事が何だかさっぱり分らなかったけど、
彼を励ますには十分な説明だったらしい。

彼は来たときにそろえた靴を履きながら、
「今日は、本当にありがとうございました。帰って仲間に報告して、傾向と対策について
研究を進めたいと思います。」と、言った。
僕はズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、
「まあ、がんばってください。」と、言った。
そのときポケットの奥の方で何かが指に触れたので取り出してみると、なんと100円玉だった。
僕は、「失礼します。」とドアを開け外に出ようとしている彼を呼び止めた。
そして100円玉を差し出すと、
「少ないけど、良かったら傾向と対策のために役立ててください。」
と、言って彼に渡した。彼は、大事そうに100円玉を受け取ると、深々と頭をさげ、
「どうもありがとうございます。大事に使わせていただきます。」と、言うと、
もう一度「失礼します。」と、お辞儀をすると帰って行っった。


僕は、散歩に出ることにした。お気に入りのスニーカーを履き外に出た。
アパートの前の道を右に曲がると、左側にずっと林の続く道だった。10月のさわやかな風が吹き抜ける中、

「あ~明日は月曜日だな。」なんて思いながら歩いていると、100メートルぐらい先の林の中に

なにやら店らしき建物が見える。新しい店かな~と近づいていくと、小さい10坪ぐらいの洋菓子店だった。 
そう、ケーキ屋じゃなく、洋菓子店だ。

こんな所に店があったかな~?まあ確かにここを散歩するのも3ヶ月ぶりぐらいだから・・でもな~。
何となく納得がいかないまま、僕は立ち止まって、その店を眺めた。
洋菓子店は、全面ガラス張りで中が全部見えるようになっている。中央には、自動ドアがついている。
しかも足で踏むと開く、すごーく旧式のだ。なんとなくやぼったい。

中には、白いエプロンをした女の子がポニーテールを揺らしながらショーケースを拭いていた。
僕はポニーテールの全国大会の審査員をしたことがあるくらいポニーテールが好きなので、
その見事なポニーテールに見とれていると・・その女の子が突然振り向いた。僕と目が合うとニッコリと微笑んだ。
僕は不覚にも、自分の顔が赤くなっていくのを感じた。


  今夜は、早いので眠くないけどこの辺で・・・。  では、また。�


  スゥイートポテトのお話2

2008-10-31 00:52:23 | スウィートポテトのお話

僕は、あいかわらず、今自分の直面している事態がうまく呑み込めなかったけど、
何となくスゥイートポテトなら大丈夫だと思って部屋に入れることにした。彼は、
「失礼します。」と、言うと部屋に上がり、脱いだ靴をきちんとそろえた。

僕は、お湯を沸かして珈琲を入れた。
スゥイートポテトが珈琲を飲むかどうかは分らなかったけど、
とりあえず出す事にした。
用意をしながら、いつ僕が傾向についての研究家になったのか、考えてみたけれど、分かるはずも無かった。
しかたなく僕は、珈琲をふたつ部屋へ持って行き、ひとつは彼の前へ「どうぞ。」と、言って置き、
もうひとつは自分の前へ置いた。僕はいつもブラックだけど、彼はどうかな?と思い

「砂糖は使いますか?」と、尋ねると
「いや、結構です。私は甘いものはあまり好きじゃないんです。」と、言った。
スゥイートポテトが甘いものが嫌いというのも変な気がするけど、
そもそも彼が尋ねてきた事すら変なのだから、そんな事はおまけのような事だと思い、気にしない事にした。
そして僕は、
咳払いをひとつすると、彼に言った
「さて、何から話せばいいのかな?」

彼は、延々と話し続けた。時折僕の入れた珈琲を飲み、小さな声で「う~ん美味しい。」と、言いながら・・・。
そして約1時間ほど話し続けると、
「この事について、あなたはどう思われますか?」と、締めくくった。

僕の部屋は、焼きたてのスゥイートポテトの香りでいっぱいになった。

要約すると、今の世の中でスゥイートポテトが減少しつつある。
特に家庭で生産されるスゥイートポテトが減少し続けほとんどが、お店か工場で生産されている。
しかしそれも、減少傾向が著しい。
我々としては、何とか減少をくい止め、あわよくば増やしたい。
と、まあそういうことだ。
そして、それについて僕に意見を聞きにきた訳だ。

僕は、腕組みをすると軽くため息をつき、一気に言った。

  すごく眠くなってきたので、続きはまた明日!!


  スゥイートポテトのお話

2008-10-30 01:35:54 | スウィートポテトのお話
そもそも人生20年も生きていると、だいたいその人の傾向というものがある。たとえば、人の世話をするのが好きな人は、結局のところ一生人のごたごたに巻き込まれて生きていく。異性に縁のない人は、よほどうまくチャンスをつかまないと一生縁のないままに終わる。しかし、人というのは不思議なもので、「僕の人生はそんなもんだ。」と思い込み始めると、たいして腹もたたない。妙に納得してしまうものだ。人とは、つまるところ、どんな傾向を持った人でも、その傾向のもとに、苦しみ、そして楽しみ、それなりに納得して生きていけるものだ。

そんな事を、1K、家賃7万円の部屋で、半分自分への慰めのつもりで煙草をふかしながら考えていると、ドアが2回ノックされた。
僕は新聞か何かの勧誘だと思って答えなかった。
すると、「コン、コン」と、またドアがノックされたので、しかたなくキッチンを通りドアの前に立ち、
「どちらさまですか?」
と、ていねいに尋ねた。すると、しばらく間を置いて・・・
「スゥイートポテトですが・・・。」
と、申し訳なさそうに答える声が聞こえた。

もちろん僕には、スウィートポテトの知り合いはいなかったので、どうしようかなと思ったけど、
悪いスゥイートポテトなんて聞いた事が無かったので、鍵をはずし、ドアを開けた。すると信じられない事だけど、身長130cmぐらいのスゥイートポテトが、もじもじしながらそこに、立っていた。
そして彼は(スゥイートポテトに男女の区別があるかどうかは、わからないが・・・)
やはりもじもじしながら言った。「こんにちは。わさびさんですね。私はこういうものです。」と、名刺を差し出した。そこには、
「スゥイートポテト傾向対策委員会 営業主任 スウィートポテト」
と、記してあった。
僕は名詞と彼を交互に見ながら事態がうまく呑み込めなかった。彼は、相変わらずもじもじしながら、こう言った。

「あなたも傾向について研究なさっていると聞きまして、是非、お話を伺いたいと思いお尋ねしました。よろしいでしょうか?」

  では、また明日。