思考の部屋

日々、思考の世界を追求して思うところを綴る小部屋

人の心を知るということ(2)

2014年06月14日 | ことば

 昨年の5月中ごろに日本語学者の金田一秀穂先生の講演を聴く機会に恵まれました。その時のことは、

心地よい日本語と信濃の国[2013年05月19日]
http://blog.goo.ne.jp/sinanodaimon/e/96b8cdf3378da7e51a89b48583345fd0

に書きましたが、昨夜金田一先生が出演されていたEテレの“課外授業ようこそ先輩・選「日本語学者金田一秀穂」”を観ました。金田一先生の国語授業いい番組でした。

 その中から一つ書きたいと思います。

 「自分たちの気持ちを表わす新しい日本語を作ってみる。」

 気持ちを表わす言葉には、喜怒哀楽、悔しい、残念、心配などのいろんな日本語がありますが、子どもたちに新しい気持ちを表わす言葉を作ってもらうというテーマに注目したいと思います。他にも、

筆箱のように実際には筆が入っていないような言葉を別な言葉に作り替える。

実際に家庭で使われている、自分家でしか通じない言葉を調べる。

などのテーマがありましたが、くり返しになりますが、「自分の気持ちを新しい言葉にする」には感動しました。

 既成の言葉では表現しきれていない言葉を内にそれぞれに持っているはず。自分の心にピッタリ合う言葉づくりに挑戦。

つくるにはまず、

シチュエーションを思い出す。

どのような出来事があったか、いろいろな言葉をまず書き出す。

 ある少女は「他人に無視された時の言いようのない気持ち」を言葉にしようと、その時のことを思い出しながら言葉づくりに挑戦します。

「気持ちが悪くもやもやして」いるような・・・。

「お腹のあたりが気持ちが悪い」

そこで金田一先生が、相談にのり、昔から使われる、

腹が立つ

胸から火が出るようだ。

と言う表現を語りながらその少女の発想を後押し。

無視された時の体の感覚。

「心の中を正直に見つめ直し、自分の気持ちにある自分だけの言葉を生みだしていきます。」

とのナレーションの言葉。「見つめ直す」たしかにそうだなぁと思います。

結果はどうだったか。

この子の作りだした言葉は、


(Eテレ・課外授業・ようこそ先輩・選「日本語学者金田一秀穂」から)

「心の熱冷」

でした。この子は、

「無視された時に、心はイヤで熱くなるけど、同時にさびしくなるので心が冷めると感じたので合せて・・・」

と説明します。

「説明されるととてもよくわかる」

と金田一先生は解説されていました。

 この言葉を作る過程も番組では上記のように紹介されていたので、私は説明する前にこの子がどんな言葉を作りだしたか、その背景を知っていたので「心の熱冷」という言葉が書かれた台紙を見た時に「すごいと」感動したました。

 さいかい、金田一先生の「説明されるととてもよくわかる」には、やはり日本語学者としての専門家の凄さを感じました。

「心の熱冷」=「無視された時にイヤな気持ち」

説明されないと、確かにこの言葉からは、右辺の意味は解せません。

「心の熱冷」という言葉に無視された時の「いや~な気持ちが」伝わるということはどういうことなのか。

 確かに私は台紙の文字に説明前にその気持ちが伝わってきました。

 そこには、作りの過程を知っているからです。喜怒哀楽等の気持ちを表わす既成の言葉は、その過程を知らないのに意味理解ができます。

 その言葉は、そういう時に使うものとその言語圏に住む人々は体得していきます。

「熱冷」「冷熱」

 心の状態を温感で説明する。何とも言えないやるせなさ、やるせない気持ち、どうしようもない嫌な気持ちを女の子は表現しました。

 「人の心を知るということ」

は、逆に「自分の心を知る」ということでもあることに気づきます。


人の心を知るということ

2014年06月14日 | 古代精神史

 小学生が不審者に襲われ殺害されるという傷ましい事件の事実を知ると、自分の娘がそのようなものにそういう出来事に遭遇したならばと思いを重ねると、御両親の悲しみや犯人に対する怒りの心情が私にも伝わってきます。

 不審者とはどういう人?

 見た目から、言葉から、その居場所から

 寂しい道を一人歩く子に「気をつけて帰るんだよ」とやさしく言葉をかけて立ち去る大人。

 怪しい人?

 怖い人?

 危険な人?

 立ち去る大人に害はないのでしょうが、今は、一人歩く子に声をかける大人に不審者を感じなければどうしようもありません。

 防犯ブザーを鳴らし。

 大声で叫び、逃げる。

 そしてあったことを知らせる。

子どもたちは、

「イカ」ない。(ついて行かない)

「の」らない。(乗らない)

「お」(大きな声で叫ぶ)

「す」(すぐ逃げる)

「し」(知らせる)

を熟知しています。「」内の言葉をつなげると「イカのお寿司」になりことあるごとに確認します。

 「お」がどうしても時間の経過とともに他の言葉よりも薄れます。

なぜなんだろう。その場に遭遇したことを想像するだけで、恐怖のあまり委縮する姿が見えて、「声を出す」の音量の「大きな」に直結しないのではないかと思う。しかし身に沁み込ませるためには、「イカのお寿司」はよく考えたと思う。

 さて、相手が不審者、怪しい人、危険な人とまず見た眼から私たちは考えます。

 相手の心持ちを察する、推測、想像するのですが、他者の全体の様子から見るのです。

 身体全体を見ています。服装や装身具を除けば、肉そのものからの醸しだされる雰囲気です。

 そこに相手の心を見ます。

 心を魂と言う言葉に置き換えれば、誤り無く魂はその身全体が持っています。

万葉集に、

村肝(むらきも)の 情(こころ)くだけて
かくばかり
わが恋ふらくを 知らずかあるらむ


体の中のたくさんの心も砕け、これほど私が恋していることを、あなたは知らずにいるのだろうか。

子供さんの殺害事件から突然恋語頃を語るのは不謹慎と思われそうですが、人の心という、人間の心という存在に「心」を見る時これほど体、身体、躰に在ることを示す詞的な表現はないであろうと思います。

「むらぎも」は「たくさんの内蔵」という意味。

 この万葉歌の存在は万葉学者の中西進先生の『ひらがなでよめばわかる日本語』(新潮文庫・p93)で知りました。

 万葉の人々は、そう感じていた、ということが解ります。

『内臓が生みだす心』(西村克成著・NHKブックス)

 この著書名に驚きますが、万葉人は「むらぎも」と思っていたことに、この方が逆に驚きます。

 流行語にもなった「おもてなし」原点の古語は「持て成し」にあります。岩波古語辞典には次のように解説されています。

もてな・し【持て成し】
1〔四段〕《モテは接頭語。相手の状態をそのまま大切に保ちながら、それに対して意図的に働きかけて処置する意》
(1)物に手を加えず、あるがままに生かして使う。相手をいためないように大事に扱う。
(2)相手にしていろいろ面倒を見る。
(3)物事に対処する。物事を処置する。
(4)身を処する。ふるまう。
(5)接待する。馳走する。
(6)特に取りあげて問題にする。もてはやす。
(7)扱う。見せかける。
2〔名〕
(1)しむけ。取扱い。
(2)物事に対する取りはからい。
(3)取り扱い方。
(3)人に対する態度。相手を重んじている場合にいうことが多い。
(4)よく待遇すること。馳走。饗応。

人々の身体の動静がそこにあります。そこにもてなしの心が浮かんできます。

もてなしの心は、歴史的身体の醸しだす。

陰から陽に転ずるような話を今朝は書いてしまいましたが、腹黒い人間になってはだめだということです。

時代は色々なことを教えてくれます。人間は期待される。意味理解を期待されている。知るという世界はそういう「こと」なのかも知れませんし、そういう「もの」なのかも知れません。