§ Lecture2-2「拉致被害者の命と北朝鮮スパイの人権」
昨夜の続きになります。線路工夫のの人の命と個人の権利という道徳的ジレンマの論議から今朝は主題の北朝鮮拉致問題を話題に人の命と個人の権利、個人の権利として人権という言葉が出てきます。
【サンデル教授】
北朝鮮のスパイを捕まえたとします。このスパイは北朝鮮に拉致された被害者が方々がどこにいるのか知っているのです。
ただしその情報を引き出すには、・・・拷問をするしかありません。
もし5人の被害者が助かるとしたらあなたはそのスパイを・・・拷問しますか?
拷問するのは仕方がないと思う人、手を挙げてください。
どうですか?(難しいとの声) あくまでも仮定の話ですよ!
なるほど。
では拷問はすべきではない、と思う方? それが5人を救うためでもです。
ちょうど半分にわかれましたね。それでは理由を聞きましょう。
【丸岡いずみ】
拷問するということは北朝鮮と同じことをしていることになりますよね。それは日本人として恥だと思います。
【サンデル教授】
わかりました。ほかの方はどうですか?
【勝谷誠彦】
恥とかという情緒的な問題ではなくて、人間の尊厳や基本的な人権は最も重んじられるものだからだと僕は思います。
【サンデル教授】
つまり5人の拉致被害者を助けるよりも人間の尊厳や人権の方が大事であると、そう考えるのですね?
では今の意見に反論のある方は?
【山本モナ】
私がもし、その5人の北朝鮮に拉致されていた人たちを守らなければいけない日本という国の責任ある立場の人間であれば、私はおそらく拷問してでもその人を助けようとすると思います。
【サンデル教授】
先ほどの意見にどう反論しますか? たとえスパイであっても人間の尊厳や人権を守らなくてはいけないという意見にです。
【原口一博】
人間の尊厳や人権についてスタンダードが2つあることはあってはならないと思います。そういう意味では勝谷さんの言っていることは正しい。しかし法律にも国際法にもそういったものを自由に作り変えることが出来るという前提の中で、拉致被害者5人の命を拷問によって救うことが出来るんであれば、その方法を排除する理由はどこにもない。
【サンデル教授】
あなたはどうですか、同じですか?(石破茂氏に向けて)
【石破茂】
今の日本は、公務員は拷問を絶対に行ってはならない。こう憲法にも書いてある。だけれどもその憲法がなかったと仮定で話します。
民主的にそれが(拷問)認められているとする。そしてその拷問によって5人が助かる可能性が高い、5人の生命の危険というものが本当に時間的に迫っている。
※注:石破さんは、言葉を飲み込んで話すので(拷問)の文字を入れました。
そして拷問を与えたことによって、それから回復できる。そういうような可能性が担保されている。これが満たされた場合に、拷問はやってはならないということにはなりません。
【サンデル教授】
ではここで、これまでの授業を振り返ってまとめてみたいと思います。
私は電車の例と拷問の例を出し、みなさんに意見を伺いました。そしてその結果、非常に興味深い価値観の対立が生まれました。
異なる2つの考え方が出ましたよね。
一つはより多くの人の幸せが大事だという考え方。
そのためには少数が犠牲になっても、仕方がないという考え方です。助かる命の数が多い方が良い、なるべく多くの人が裕福に暮らせる方が良い。それが何よりも正しい、優先されるのだという思想です。
そしてもう一つは、個人の尊厳や人権が最も大切であるという考え方です。
たとえ多くの命を救うためであっても、たとえ大勢の人が幸せになるためであっても、個人の権利を奪うのは正しくない。安全や財産といった個人に与えられた権利は、絶対に守られるべきだという思想です。
実は、この二つの考え方は、哲学的に言ってどちらも正しいんです。間違っていないんです。
※注:二つの考え方
・ 多くの人の幸せ
・ 個人の尊厳や人権
<サンデル教授から日本を救うメッセージ>(前回Lecture1にも掲載した部分)
【サンデル教授】
今回この授業で明らかになったとおり、哲学的な議論や思想は、我々の普段の生活にも深くかかわっているんです。
日常起りうる様々な問題に対して、我々は常に考えますよね。
何が正しいのかを?
家族のこと仕事のこと政治のこと、それこそが哲学なんです。つまりみなさん全員が哲学者だということなんです。
とても重要なことが明らかになりました、みなさんのおかげです。
ありがとうございました。
<番組以上>
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番組の中でビートたけしさんが、「選別条件として年齢」に言及しています。クレームが出るとのテリー伊藤さんの声が後ろの方で聞こえました。
冗談半分かと思ってしまいますがよく考えてみると、究極の選択において、自分の年齢を考えるとビートたけしさんと同じように「若い人を活(い)かそう」という発想をしています。これは批判に価しないように思います。
北朝鮮のスパイの拷問に関して、勝谷誠彦さんが、
「恥とかという情緒的な問題ではなくて、人間の尊厳や基本的な人権は最も重んじられるものだからだと僕は思います。」
と答えられていました。勝谷が事前にサンデル教授の教科書を読んできたことを窺わせる模範解答のような答え方でした。必ず人命の救助のためのジレンマで1人の命の犠牲を考えると「犠牲になる人」の人権が問題にされます。
Lecture2-1の線路工夫の問題では個人の権利まで取り上げられていましたので、ここで人権がいた言葉として提起することになりました。事前打ち合わせはないと思いますが、講義としては順当な流れと思います。
「命と人権」は難しいと思われがちですが、今の学校教育である程度真面目に学習した人は、発想の中で必ずこれを想起することが出来ると思います。
講義でサンデル教授から改めて細かく説明されると、哲学に感動してしまいますが、それは命という言葉でも人権という言葉でも、意味がわかるからで学問的な体系の中において語られるから新鮮な感動を受けるのだと思います。
学校教育の中で教えてはもらっているのですが、体系として理論づけることが出来ない。私もそうですがこの歳になってようやくそのことに気づかされました。
今回の講義は、すべての対話が放送されていないように思いますが、全体的にサンデル教授の講義であったと思います。
なお、選挙になるかどうかは不透明ですが自民党を応援するわけではありませんが、再度石破氏のテロップは、ご本人は問題視するかどうかは知りませんが誤りであることを指摘し適しておきます。
「意思」という言葉についてですが以前にもブログに解説しますが、一般的に哲学用語には99%と「意志」の文字を使用します。100%でないのは専門書に近い本で「意思」を使用されていた方がおられましたので、一般的に解いうことで注を付しました。
個人的に総括すると短時間ですが、娯楽番組の中でこのような問題に対し哲学することの面白さと同時に、最後にサンデル教授が日常生活における哲学をメッセージとして我々に残されましたが、他人の意見に流されるのではなく、自ら考えて行くという力強い意志をもってもらいたいと思います。
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