(イギリスの天才数学者アラン・チューリングの言葉 EテレサイエンスZEROから)
人間は60兆個の細胞でできているそうです。
小さな細胞の振舞いを知ることはまだ見たことのない生命の神秘を知ることだ。
ということで、EテレサイエンスZEROで「シリーズ細胞の世界」が放送されていました。
その第一回が多様な姿へと進化を遂げた生命の秘密を細胞にさぐるという内容でした。
体はどう作られるのか、結論的には細胞が起こす波がもとで作りだされるということで「体をつくる不思議な波」だといいます。複雑怪奇の世の中も実は単純明快なものかもと思わせる内容で、示唆に富む興味深い番組でした。
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動物や魚にある模様これはどのようにつくられているのか、という話です。
模様とは異なる色素をもった細胞の集まりで、いろいろな色つきの細胞を集めたいわゆるモザイク画です。
このモザイク画がどのように描かれるのか、これまでは動物の体には決められた設計図がありそれにしたがって模様は描かれるということになっていました。
一般的には、色素細胞が設計図に従って配置され模様ができるということです。
その考えを覆し世界の注目を集めた研究者がおられます。大阪大学大学院生命機能研究科の近藤滋教授です。
何かを発見する人は、疑問に特別なひらめきを感じるようです。模様のある魚を見て「どう見ても設計図に従って描かれているようには思えない。」単純明快な疑問ですが、凡人は「きれいな模様!」で通り過ぎてしまいます。でも近藤教授は違っていました。
ゼブラフィッシュという東南アジアの河口域に生息する魚ですが、泥水の中で棲息し、模様のある必要性が感じられない。
模様にはそれぞれ個体差があり、シマウマを見ると間違いなく個体差があります。人間の指紋と同じで一つとして同じものがありません。
これ等のことから近藤教授は、動物の模様は設計図の基づくものではなくその場その場で模様をつくり上げるからではないかと推察したわけです。
自然界には設計図がなくとも秩序立った模様が生まれる現象があります(風紋)。
そのような模様ができる原因を追究するために選んだ魚がタテジマキンチャクダイです。
もともとは大学で免疫学を研究されていた方で、ボーナスをはたいて自宅に熱帯魚を飼う水槽を購入し研究を始めます。
そして熱帯魚屋のおばさんに熱帯魚のタテジマキンチャクダイを勧められその縞模様に注目しました。
タテジマキンチャクダイの模様を見ると一本の模様から日本の模様に枝分かれしている部分があります。ここに注目します。なぜか。
「何か起りそうな気がするではないですか」
という弁、閃きとはそういうものか・・・・。
近藤教授は一つの予想を立てます。
模様はファスナーが両方に開いていくように、
等間隔を保って一本の模様が分かれていくのではないか。
というもので観察から51日に枝分かれした模様が少し右に移動しているように見えたそうです。
そして161日目、縞は完全に二本に分かれていました。こうして五ヶ月の観察で予想した結果が得られました。
ここからが重要です。なぜこのような変化が起きるのか?
細胞が風紋の様な等間隔の縞模様を作るのは、例えば
細胞が二種類の物質を出していると仮定します。
ひとつは組織を活性化させて細胞を活発化させ色を付ける活性化因子。
この活性化因子は自分自身を合成するよう細胞に働きかけます。そうすると細胞はどんどん活性化され活性化因子を放出します。さらに他の物質を放出するように細胞に働きかけます。
この物質は活性化因子が作られるのを抑える抑制因子で、これが増えれば活性化因子は減少していきます。
活性化因子が減少すれば抑制因子も自然に作られなくなり分解して減っていきます。
その時ある条件が満たされると二つの因子の濃度がバランスがとれると教授は言います。
ここで重要なのは、活性化因子が回りに広がっていく速度と抑制因子が広がっていく速度に差があるということです。
抑制因子の方が速いということが大事ということですが、これはどういうことかというと、先回りした抑制因子の場所では活性化因子は増えることができません。すると両方がバランスがとれた状態、このような状態が保たれます。
活性化因子の高い場所で色の色素がつくられ色づくことになります。
その現象が周辺でも行われ縞模様になるというわけです。
活性化因子と抑制因子の量が作りだす波形、この波こそ細胞が自分で模様を作りだすメカニズム。
というわけです。
以上のことからタテジマキンチャクダイが成長すると縞模様が増えるのは
1 成長すると縞模様の間隔が広がる。
2 抑制因子の届かない空白の部分ができる。
3 等間隔を保つため活性化因子が入り込み新たな波ができる。
4 その結果、縞が増えていく。
ということで、ここに至るきっかけになったのには、ひとつの論文との出会いがありました。
それは今から60年前のイギリスの天才数学者アラン・チューリングの次の主張です。
【チューリングの言葉】
二つの物質が、ある条件のもとで反応しながら広がるとき、そこに物質の濃淡の波ができその波が生物の形や模様を作りだす。
そして物質の反応の強さや広がる速さを変えるとどんな波ができるのか、チューリングは次の方程式を残しています。
近藤教授はこの方程式を使って模様を作りだすソフトを作り、これにタテジマキンチャクダイのデーターを入力すると縞がファスナーを広げるように二本に分かれてたのです。
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近藤教授のこの発見は科学雑誌『nature』にも紹介され、天才数学者チューリングの理論を半世紀たって実証したことになるわけです。
シミュレーションと実際ということで実際にかけ合わせることができるイワナとヤマメを使い、かけ合わせた場合にどのような模様ができるかを両方の実験結果が紹介されました。
中間の模様はどのような模様になるか。下の模様グラフは活性化因子と抑制因子の速度を少しずつ変化させたグラフです。
左に白い斑点、右に黒い斑点ができています。
そして中間はご覧のとおりの模様となっています。
そして実際にかけ合わせたもの模様はどうなるかというと、次のように同じ模様になるわけです。
実にすごいというか、不思議というか、単純というか・・・・波の不思議を知ることができました。
番組ではさらに、この方程式による臓器の生成として肺の複雑な組織が同じように単純な出来事によることが紹介されたいました。
疑問を持つ、問いを持つ生き方。
活性化因子と抑制因子のバランスが作りだす自然現象の中にある波、単純な原理。
非情に示唆に富んだものがあります。
形というものは活性と抑制のバランス、細胞にあるこのような原理的なもの、チューリングの言葉、
<二つの物質が、ある条件のもとで反応しながら広がるとき、そこに物質の濃淡の波ができその波が生物の形や模様を作りだす。>
世の中は相似形の連続です。複雑に見える世の中、ひょっとすると単純明快なのかも知れません。想像力と発想。アンテナを建て、しっかりしたものに出会い、自分の力で考えてみることが大事に思います。
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