思考の部屋

日々、思考の世界を追求して思うところを綴る小部屋

「沢」の字が付く苗字が全国1位の話

2009年07月23日 | ことば

  けさの写真は、安曇野穂高有明宮城で見る一級河川穂高川です。こういう風景は「谷」なのか「沢」なのかどう呼んだらよいか迷うところです。

 以前ブログに長野県には「沢(澤)」の字のつく名前の人が全国一多いという話を書いたことがあります。実際に私自身が調査した結果ではなく、耳にしたことを書いただけでした。

 その事実を検証してみたいと思って思っていましたので、最近新人物往来社の「日本の苗字 ベスト30000 新人物往来社」で周辺県との比較を見てみました。

 この本は電話帳に基づいて調査しています。現在は個人情報保護意識が高いので電話帳に掲載しない人が多く正確な調査と呼べなくなりつつある状況になのですが、2003年以前の資料に基づき調査したもので、今よりはよいのではないかと思います。

 各都道府県上位250件まで掲載されています。

 長野県は10位宮沢、11位柳沢、18位滝沢、23位西沢、24位中沢、30位北沢、49位松沢、58位吉沢、61藤沢、63位唐沢、64位小沢、99位三沢、113大沢、124位平沢、233位矢沢、142位塩沢、145位福沢、174位高見沢、178位寺沢、214位深沢、221位成沢、234位増沢、239位黒沢の23件となっていました。

周辺の県境を接する県となりますと群馬、新潟、岐阜、山梨、愛知、静岡、富山の7県ですのでここ7県を見てみました。

 群馬県・・・14件
 新潟県・・・11件
 富山県・・・3件
 山梨県・・・14件
 岐阜県・・・2件
 静岡県・・・4件
 愛知県・・・1件
となっていました。

 他県もすべて調べればよいのですがざっと調べてみると九州宮崎県0件、四国徳島県0件、中国島根県0件、東北宮城5件(他は6件から11件で岩手が11件で最も多い)でした。

 長野県が23件あり全国で一番多い結果で、「長野県には全国一『沢(澤)』の付く苗字の人が多い」という話は事実でした。

 これをさらに検証するため氏姓研究家の丹羽基二さんの本を読んでみました。すると次のことが分かりました。

 谷さんは全国で7万、沢さんは2万ずいぶんと開きがある。しかし、○谷、×沢などと複合姓氏になると、沢がかなり多い。日本でもっとも多い県は長野県と岩手県で、×沢さん、△○沢さんは、ザラにある。だから谷系が多いとはいえない。・・・・・地名では、○谷地区は西日本が多く、△沢は東日本に多い。

ということです。(名字でここまでわかる先祖史 青春出版社P213から)

 ここで地名の「谷」が出てきましたので、谷という字ですがこれは、「タニ、ヤツ、ヤト、ヤ」などと読みます。地名研究家の松尾俊郎さんの「日本の地名 新人物往来社」に次のように書かれていました。

 房総半島もヤツ・ヤトのつく地名の多い地域であるが、これに武蔵・相模を含めた南関東より北の関東諸県では、ヤト・ヤツはおもに谷戸・谷津であり、その分布もずっと疎となると共に、ヤツ・ヤトにかわって、谷をヤとよむ例が多くなる。ただし、群馬県には谷戸・谷津がかなり多い。谷戸・谷津は関東周辺の諸県では、静岡県にまばらに散在する以外は、疎の分布が非常に少なくなる。東北地方ではこのヤツ・ヤトに対応するのは、サワ(沢)であろう。サワ(沢)は東北地方に限らないが、特に東北は密だからであろう。(上記書P77から)

 地名と苗字は密接に関係するらしいのですが、東北、長野県周辺に「沢」の付き苗字が多いとうことと地形的な関係があるように思います。

 「沢」「谷」、山国であることが根源にあるようです。「谷」の付く苗字も調査すればよいのですが、さほど多くないのでやめます。

 この苗字の関係、地名の関係は歴史の中での人の流れで大きく変わってきます。

 大和政権下の東北討伐に伴う東国人の移住、戦国期の武田軍の進入、越後上杉軍の侵入、海野氏・真田軍の上州との関係等々。限がなくなりますのでこのくらいにしておきます。