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自縄自縛日記

畠山重篤『日本<汽水>紀行』

2015-11-08 15:32:22 | 環境・自然

畠山重篤『日本<汽水>紀行』(文春文庫、原著2003年)を読む。

著者は気仙沼の漁師さんである。環境問題に少しでも関わっている者であれば、沿岸の漁場の豊かさには、陸域の環境が大きく影響していることを聞いたことがあるはずだ。汚染物質や富栄養化物質だけではない。森林の落葉が腐る段階でできるフルボ酸という物質が鉄と結びつき、簡単には酸化しないフルボ酸鉄となり、それが植物プランクトンの成長に欠かせないのだという。また、森林から流れ出るある種のカビが、稚魚など動物プランクトンにとってちょうどいい餌になっているケースもある。

そういった現象を、著者は、<森は海の恋人>という言葉で表現した。まさに、漁業を通じた経験を、環境保全や開発のあり方にも深く関係する知見として広く知らしめたということになる。陸水の環境は河川流域でとらえなければならないものだが、さらには、海水と淡水とが混じり合う汽水域、その海域への影響、また流動のタイムスケールが非常に長い地下水が河川水に混じり合っていくことの影響など、あまり認知されているとは言い難いことが少なくない。本書はそういったことについての恰好の読み物である。

それにしても、著者の貪欲な好奇心には驚かされる。気仙沼だけではなく、四万十川、宍道湖、有明海、富山湾、東京湾、果ては長江の河口域まで足を運んでいっては、目と舌とで実態をとらえんとしているのである。話はなんと上海の上海の魯迅紀念館や内山書店跡にも及ぶ。読んでいると、牡蠣、ウナギ、シジミ、鯨、鮭、鰹、その他あまり縁のない魚介類などが食べたくて仕方がなくなる。

「あとがき」には、東日本大震災により多くの漁場が大打撃を受けたことが書かれている。その復活には、森から河川を通じて流出するマテリアルが欠かせないものだということが、本書を読むことで実感できる。ただその一方で、原子力発電所からの放射性物質の流出・蓄積について一言も触れていないのはなぜだろう。

●参照
栗原康『干潟は生きている』 震災で壊滅した蒲生干潟は・・・
旨い富山
豊かな東京湾
東京湾は人間が関与した豊かな世界
船橋側の三番瀬 ラムサール条約推進からの方針転換
『みんなの力で守ろう三番瀬!集い』 船橋側のラムサール条約部分登録の意味とは
浦安市郷土博物館『三角州上にできた2つの漁師町』
市川塩浜の三番瀬と『潮だまりの生物』
三番瀬を巡る混沌と不安 『地域環境の再生と円卓会議』
三番瀬の海苔
三番瀬は新知事のもとどうなるか、塩浜の護岸はどうなるか
三番瀬(5) 『海辺再生』
三番瀬(3) 何だか不公平なブックレット
三番瀬にはいろいろな生き物がいる(2)
三番瀬にはいろいろな生き物がいる
船橋の居酒屋「三番瀬」
『青べか物語』は面白い
谷津干潟
井出孫六・小中陽太郎・高史明・田原総一郎『変貌する風土』 かつての木更津を描いた貴重なルポ
平野耕作『キサラヅ―共生限界:1998-2002』
盤洲干潟
新浜湖干潟(行徳・野鳥保護区)
江戸川放水路の泥干潟
曽根干潟と田んぼの中の蕎麦屋
佐藤正典『海をよみがえらせる 諫早湾の再生から考える』
『科学』の有明海特集
『有明海の干潟漁』
漫湖干潟
泡瀬干潟
泡瀬干潟の埋立に関する報道
小屋敷琢己『という可能性』
救え沖縄・泡瀬干潟とサンゴ礁の海 小橋川共男写真展
屋嘉田潟原
糸満のイノー、大度海岸
下村兼史『或日の干潟』
日韓NGO湿地フォーラム
加藤真『日本の渚』
『海辺の環境学』 海辺の人為
魯迅の家(3) 上海の晩年の家、魯迅紀念館、内山書店跡


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