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自縄自縛日記

小川眞『キノコの教え』

2018-06-02 07:23:48 | 環境・自然

小川眞『キノコの教え』(岩波新書、2012年)を読む。

よく勘違いされるがキノコは植物ではなく菌類である。もっとも18世紀のリンネも20世紀の牧野富太郎も困った挙句か植物に分類している。また菌類のひとつである粘菌についてなどは、南方熊楠は「植物ではなく動物」だと考えていたりもする(ちなみに、中沢新一がそれを受けて牽強付会的にマンダラ論などに結び付けており、じつにみっともない)。本書の内容もあちこちに飛ぶが、それは菌類の分類や生態があまりにも多岐に渡るからである。

ここに整理されている菌類の分類体系によると、原生生物界(ミドリムシ、ケイ藻類)から植物界、動物界とまた異なる形で真菌類が進化し、なかでもキノコ(大型の子実体)を作るものがもっとも進化したグループである(それ以外がカビ)。菌糸にためた栄養物を使って地上にキノコが作られ、そのキノコは膨大な数の胞子をつくって飛ばす。

キノコの種類は本当に多く、毒性の有無の判断は素人にはとても難しいらしい。わたしはやらないが、生半可な知識で取ってきて貪り喰うと死ぬということである。毒性は置いておいても、味については、動物の死骸や排泄物がたまったところに育った場合においしいという法則はあるようだ。

著者は、キノコの生態の形が、歴史的に、寄生から腐生、さらに共生へとはっきりと進化していることを指摘し、そこに、今後の人類のあり方を見出している。確かにこんなに(主に)植物との共生の姿、またどこかに問題があれば支え合ったりお互いに滅びたりするような現象を示してくれると、その論には説得力があると思えてくる。

それにしても興味深い話が多い。

たとえば石炭について。石炭は湿地の植物が地下に埋もれて高音高圧下で変性したものだが、第四紀(250万年前以降)からは亜炭や泥炭などあまりいいものがない。というのは、それまでのキノコはせいぜいセルロースを溶かすだけだったが、それ以降、リグニンを分解するキノコが出てきたことが大きな原因らしい。キノコが石炭の埋蔵を左右していたなんて。

それからマツ林の衰退について。只木良也『新版・森と人間の文化史』にも言及されているように、マツはやせた土地で育つ指標的な樹木である。化石燃料の消費が増え、また生活形態やコストの面もあって、人びとが森林にあまり立ち入らなくなり、その結果土壌が富栄養化したことが、マツ枯れの原因だという。著者はさらに、富栄養化だけでなく、大陸からの大気汚染物質、選択的にキノコが重化学物質や放射性物質(セシウムなど)を吸収すること、その結果としての共生の狂いをも挙げている。

●参照
『南方熊楠 100年早かった智の人』@国立科学博物館

南方熊楠『森の思想』
斎藤修『環境の経済史 森林・市場・国家』
上田信『森と緑の中国史』
只木良也『新版・森と人間の文化史』
そこにいるべき樹木
園池公毅『光合成とはなにか』
館野正樹『日本の樹木』
荒俣宏・安井仁『木精狩り』
東京の樹木
佐々木高明『照葉樹林文化とは何か』
湯本貴和『熱帯雨林』
宮崎の照葉樹林
オオタニワタリ
科学映像館の熱帯林の映像
森林=炭素の蓄積、伐採=?


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