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自縄自縛日記

『科学』の有明海特集

2011-05-19 00:21:48 | 環境・自然

『科学』2011年5月号(岩波書店)が、有明海の特集を組んでいる。1997年に「ギロチン」により仕切られた諫早湾だが、2010年12月に福岡高裁により長期開門調査を命じられ、確定した。当初想定された以上の悪影響が有明海全体に見られたからだ。諫早湾は有明海の一部に過ぎないが、影響は有明海全体に及んでいるのである。

○有明海の干満差5mは東京湾の2mを遥かに上回る(韓国インチョンは8m)。これは、湾内での共鳴現象(!)による。そのために泥がフクフクしており、貧酸素化しない。(佐藤正典)
記録映画『有明海の干潟漁』では6mと紹介されていた。
○有明海の奥部(諫早湾とは異なる)で水質が悪化して赤潮発生や貧酸素化を起こしたのは、諫早湾の堤防により共鳴が弱められた(!)ことによる。(佐藤正典)
○諫早湾干拓に関する「一次アセス」の報告書には事業者(九州農政局、長崎県)にとって都合の悪い内容が入っており、長いこと秘密にされた。(田北徹)
○「二次アセス」には、肝心の諫早湾に関する評価が入っていなかった。そのために評価結果が弱められた。また、山下弘文氏らによる運動の拡大を危惧して調査が矮小化された。(田北徹)
○生態系影響は本来極めて複雑だが、そのために、ひどい評価を生物学的根拠で覆すことをせず、黙認の形になってしまった。(田北徹)
○開門調査に対し、長崎県は調整池の水質が悪化して使えなくなると反論しているが、実はいまになっても水質がひどく、まだ全く使われていない。干拓地が理想的な形で農業の売り上げを得た場合の47億円/年に対し、農水省は水質改善のために30億円/年を投じている。(高橋徹)
○調整池の水は潮位維持のために定期的に排水されている。その際に排水された富栄養化した汽水が海水の上層を覆い、赤潮を引き起こし、さらに死滅・沈殿したバクテリアが分解するために酸素を消費し、貧酸素化を引き起こしている。(高橋徹)
○アオコには毒性の高いミクロシスチンという物質が含まれており、海域の牡蠣やボラからも検出されている。(高橋徹)
○有明海の稀少な「特産魚種」(ムツゴロウやワラスボなど)は、対馬附近で最終氷期に大陸と日本とが地続きだった頃からの遺存種である。(山口敦子・久米元)
○有明海の赤潮増加は、筑後川などから流入する栄養塩と直接関係がない。むしろ、塩分濃度の低い表層をもつ「塩分成層」ができ、表層の富栄養化した水が赤潮を引き起こすことによる。普通なら塩分成層は縦に混じり合うが、堤防の存在がそれを妨げ、また、大雨のあとに貯水池から淡水化した水が流出して塩分成層を強化するため、そうはならない。(山口敦子・久米元)
○2004年以降、赤潮面積のデータが佐賀県・福岡県により、なぜか公表されなくなった。(山口敦子・久米元)
○現状のままでは、特定の種のみ急激に増加・減少を繰り返す不安定な底生動物相が続くと予想される。(佐藤慎一・東幹夫)
○筑後川からもたらされる有機懸濁物質(デトリタス)が、有明海の特定魚種にとって重要となっていた。ところが、筑後川の河川敷からの大量の砂利採取、筑後大堰からの大量取水によって干潟を疲弊させ、森と海を断絶させてしまっている。(田中克)

ここまでの悪影響は、山下弘文『諫早湾ムツゴロウ騒動記』(南方新社、1998年)でも予想されていない。しかし、調整池の用水需要が実はないこと、水質悪化は避けられないであろうことは、はっきりと指摘されている。そして、現在でも予想通りまったく使うことができないでいる。

それにしても、内湾の共鳴現象ということには驚かされた。自然の不思議である。

●参照
下村兼史『或日の干潟』(有明海や三番瀬の映像)
『有明海の干潟漁』(有明海の驚異的な漁法)


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